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テレポーター  作者: SoLa
第2章 魔法選抜試験編〈下〉
60/432

第17話 グループ試験④

年末年始連続投稿第4弾!!





 あれだけ騒がしかった廊下は一変し、静寂を取り戻していた。

 棒立ちとなっている舞と可憐を見て満足そうな笑みを浮かべた紫は、愛に向かって言う。


「さっすがは愛ちゃんね。完全に独壇場だったじゃない」


「そ、そんな事はないです」


 その謙虚さは本心からなのだろう。愛はぷるぷると頭を振りながらそう答えた。


「ゴメンネ、私、全然役に立てなくてさ」


「そ、そんな事はないですっ!」


 同じセリフでありながら、今度のものは少し力が篭っている。


「ふ、副会長が前衛でお二人を牽制して下さっていたからです。私1人の力では絶対にできなかったです」


 愛の相変わらずな自虐の言葉に、紫は苦笑した。

 ただ、愛の指摘もあながち間違ってはいない。

 紫の能力は、出番こそ少なかったものの舞と可憐を牽制するだけの活躍はみせていた。

 自分の魔法が消されるという不可解な能力。正体不明のそれが、舞と可憐の行動を制限していたのは間違いない。


 しかし。

 兄・縁のものとは違い、紫のそれは言うなれば“欠陥品”だった。


 制約も多く、使い勝手は非常に悪い。しかも、その能力のせいで他の魔法は満足に発現すらできない。それでも紫はこの能力を嫌ってはいなかった。


(……これが、これこそが。私の存在意義なんだから)


 紫が普段では滅多に見せない憂いた笑みを覗かせた。それを見て、愛は自分の発言が過ちであった事に気付く。


 すぐに声を掛けようとして。

 異変に気付いた。







 ――――ちょっとだけ、俺の本気を見せてやる。


 後退は条件反射だった。

 現状、どう捉えてみても沙耶が圧倒的に有利。浅草流の奥義を何度もその身に受け、既に立っているのもやっとな状態であるはずの聖夜。


 それでも。

 ほんの僅か威圧されただけで、自分がいとも簡単に後退させられた。

 何が変わったわけでもないのに、優劣を逆転させられた。

 勝てないと、思わされた。

 その事実に沙耶は愕然としていた。


 ――――目の前の男子生徒の、底が見えない。


 ちょっとだけ本気を見せる? それでは今までは何だったのか。自分がどれだけ全力を出して、今の状況を作り上げたと思っている。

 今、この瞬間にそう考えている事すら、目の前の男子生徒の思惑に含まれているのだとすれば――――。


 そこまで考えが至ったところで、沙耶は頭を振り強引に思考を断ち切った。握る木刀に必要以上の力を込める。

 それを見た聖夜は、頭を掻きながら呟いた。


「手、抜くんじゃねーぞ」


 その手をそのまま沙耶の方へと突き出す。


「ガッカリさせてくれるなよ」


「――――っ、『陽炎(カゲロウ)』!!」


 聖夜の発現した“魔法の一撃(マジック・バーン)”が、その力を解放するより先に斬り捨てられる。同時に沙耶が踏み込んだ。一気に距離を詰めてくる沙耶に対し、聖夜は今一度不可視の一撃を解き放った。


「何度やろうが同じ事ですっ!! 『(カゲ)ロ――うっ!?」


 聖夜の元へと一直線に走り込んでいた沙耶の上半身が、ブレる。握る木刀から強引に引っ張られるかのように、やや左側に傾いた。

 聖夜が笑う。


「今のは追わなくて良かったんじゃないか? いや、コントロール(、、、、、、)できないのか(、、、、、、)


「っ、ちぃっ!!」


 聖夜の言葉から、沙耶は『陽炎(カゲロウ)』の原理が見破られている事を悟り舌打ちした。バランスを瞬時に整え、廊下を蹴り上げる。聖夜の頭上へ跳び木刀を振りかぶった。


「『風車(カザグルマ)』!!」


「遅ぇ!!」


 誰もいない廊下に風の刃が突き刺さる。沙耶が声の発信源に目を向けた時には、もう聖夜は空中で拳を振り抜いていた。

 が。


「――『大地(ダイチ)』!!」


 防戦の構えを見せた沙耶へ、その拳は当たらなかった。たまたま外したわけではない。まるで、最初から当てる気が無かったかのような軌道を辿り、聖夜の拳が空を切る。


(……まさか、嵌められた!?)


 お互いの身体が空中で交差する。

 聖夜は綺麗に着地を決め、沙耶はやや倒れ込むように廊下へと足を着けた。


「『風車(カザグルマ)』!!」


 振り向き際に、不意打ちのように放つ一打。やはりと言うべきか、聖夜はそれを余裕のある動きで回避する。その一瞬の隙を突いて沙耶が聖夜との距離を詰めた。


「『(スイ)シ――」


 浅草流・水の奥義を繰り出そうとした沙耶に、戦慄が走る。

 目の前の標的は回避する素振りなど見せず、あろうことか左腕を差し出してこう言った。


「くれてやるよ」


「――――ぁぁぁぁあああああああああああああっ!!!!」


 一瞬の躊躇い。

 しかし、その不安を押しのけて沙耶は奥義を発現した。


「『水衝(スイショウ)』!!!!」


 木刀が、聖夜の左腕に触れる。

 鈍い音と共に聖夜の身体に衝撃が走った。

 内と外、その両側から。

 耐え難い痛みを腕から感じながらも聖夜は言う。


「……なるほど、読めた」


「何です――がっ!?」


 蹴り飛ばされた沙耶が、廊下を2回3回と転がり起き上がる。

 聖夜はその後を追わなかった。

 内と外、その両側からの衝撃を受けて麻痺し、力無く垂れ下がっている左腕をぶらぶらとさせたまま聖夜は笑う。


「特殊属性が使えないならお終いだ。もう俺に浅草の奥義は効かない」







「え」


 漏れ出たのは、それだけでは到底意味を成さない呆けた声。しかし、それは確かに愛の心情を的確に表現していた。


「どしたの?」


 愛の強張った表情に気付いた紫が首を傾げる。


「そ、そんな……、うそ、です……。そんな、はず」


「……愛ちゃん?」


 自分の問いにまったく反応を示さぬ愛に違和感を覚えた紫は、その視線の先をそっと追ってみようとして。


「……あら? なんか寒い?」


 ぶるっと身体を震わせた。肌寒さを感じる……だけではない。


「……え?」


 吐く息まで白かった。


「うそぉっ!? なんで!? さむっ!? く、空気が痛い!?」


 飛び上がらんばかりの勢いで紫が叫ぶ。


「……うそ、うそ、……完全にかけたはずなのに」


 愛は呆然とその元凶(、、、、)を見つめている。


「空間掌握魔法同士が同じフィールドで展開された場合、掌握力の高い方がそのフィールドを制します」


 紫が発した質問の答えは、この状況を作り上げた本人から告げられた。


「光の障壁で私と舞さんを分断し、四方を囲うように展開。幻術により方向感覚・聴覚を奪い、障壁に擬似的なフィールドを映し出す事であたかも別世界に迷い込んだように見せかけた……」


「……っ」


 可憐の言葉に、愛が息を呑む。


「感服致しました。いつ幻術をかけたのです? まったく気付けませんでした」


 可憐の質問に愛は答えない。可憐自身も答えないであろう事は分かっていた。おそらく、この幻術こそが愛の切り札。それを自らが種明かしするはずもない。


 そして。

 理解する必要も無い。


「貴方の誤算はただ1つ」


 無言で自分を見据える2人に対して、可憐は言う。


「空間掌握力が上である私に、その魔法を使った事です」







「ああああああああああっ!!!!」


 首筋を狙ったその一閃を躱す。無防備に開いた脇腹を蹴り飛ばした。


「がっ……あっ!?」


 跳ね上がった身体に追撃を仕掛けようとしたが、見事に避けられる。


「身軽だな」


「くっ、『水衝(スイショウ)』!!」


「無駄だ!! もうソイツにゃ当たんねぇよ!!」


 さっき左腕で試してみて、分かった。この技はいくら魔力で外側を固めようがその防御をすり抜けてくる。片桐曰くこの表現は間違っているらしいが、実際のところそう外れてはいないだろう。防御不可ならば、回避するしかない。

 これは『雷花(ライカ)』と同じく、条件起動型魔法。対象が得物に触れるという条件さえ満たさなければ、その猛威を振るわれる事は無い。


「くっ!?」


 空振りに終わった必殺の一手に、片桐が後退する。

 が。


「逃がすか!!」


 今度は俺の方から踏み込んだ。同時に右手を片桐へと掲げる。


「―――浅草流・火の型」


 そう。お前はそれを出すしかない。

 “魔法の一撃(マジック・バーン)”の利点はその詠唱を必要としない速さと、解放するまで探知されにくいという隠密性にある。


 この至近距離。

 これを目で追えぬ片桐は、対象の魔力(もしくは魔法)に反応し自動で追尾・撃破するそれを出すしかない。


「『陽炎(カゲロウ)』――ぐっ!?」


 完全に見当違いの場所へと放った“魔法の一撃(マジック・バーン)”を、律儀に追う木刀。強引にその場所へと引き寄せられる片桐は、俺に対して両腕を広げて待ち構える形となった。


「……やはり、囮でしたかっ!!」


「終わりだ、片桐!!」


 拳を握り込む。圧縮させる強化魔法に、属性を付加する。

 その属性とは――――。


「『(ダイ)ぢっ、ふぐぅっ!?」


 土属性は雷属性に弱い。

 俺の掌底は、片桐の堅牢な防御を突き壊した。







「『白銀の世界(フリ-ジア)』」


 旧館2階は可憐の独壇場と化していた。

 可憐の空間掌握能力は、青藍魔法学園屈指の力を持つ。現段階では知る由も無い事ではあるが、それはあの“青藍の1番手(ファースト)”・御堂縁に対しても例外では無い。

 “氷の女王”と称される姫百合美麗(ひめゆりみれい)の才能を惜しげも無く引き継いだ可憐は、空間掌握という才能それ1つだけに着目すれば、他に類を見ぬ才能を秘めていた。


 それは、もはや掌握という言葉だけでは生ぬるい。

 それは、もはや支配だった。


 対抗魔法回路が機能しているが故、周囲が氷結してしまう事は無い。しかし、可憐の力がこの空間を支配している事は明らかだった。


「『浄化の乱障壁(プリシアミナス)』っ!! 『浄化の乱障壁(プリシアミナス)』っ!!」


 舞、可憐が苦しめられた呪文。それを何度愛が口にしようがもう周囲に影響を及ぼすことは無い。

 本来ならば魔法が発現できなくなるほど掌握されるのも珍しい。それは、可憐の発現量・発現濃度が愛のそれを遥かに上回っている証明に他ならない。


 愛の『浄化の乱障壁(プリシアミナス)』が起動しない。

 ここら一帯が可憐に支配された明確な証拠だった。


「ふーっ、まったく。これ使われちゃうと、私も魔法使い辛いのよねぇ」


 人差し指に火を灯しながら舞が苦笑する。舞にとっては呼吸をするに等しい程度で発現できるはずのそれも、今や消えそうなほどに頼り無く揺らめいている。

 舞がこの可憐の魔法を知ったのは、彼女の誘拐未遂で現行犯を追い詰めたあの廃工場。

 舞の屋敷での特訓で、この状況下でも自由に魔法を使えるようにと何度も練習を重ねたが、やはり無理だった。魔法が使えないわけではない。舞の空間掌握能力も決して低いわけでは無い。それでも阻害されてしまう。

 可憐の能力が高過ぎて。


「舞さん」


 可憐が舞の方を向く。何が言いたいのかを瞬時に悟った舞は、何かを諦めたようにひらひらと手を振った。


「気にしないで。久しぶりに思いっ切り魔法使って楽しめたし。心残りと言えばあの女(かたぎり)だけどあれは聖夜の獲物だし。もう十分、後はお好きに」


 その言葉の意味を、紫と愛は正確に理解した。







「あ、……う、ぐ」


「凄いな。緩衝魔法が作動しないのか」


 俺の一撃は完全に片桐の防御を貫いていたはずだ。それでも耐えられた。多少の手加減はしたとはいえ驚きを隠せない。


「お前、凄いよ。少なくとも、学園生のレベルじゃねーな」


 思わずもう一度口にしてしまう。


「……そ、れは、こほっ!! ……あ、貴方にも言える、こ、とでしょう」


 廊下を這いながら転がる木刀に手を伸ばす片桐。掴まれるより先に、更に遠くへと蹴飛ばした。


「くっ!?」


「睨むんじゃねぇよ。言ったろ、三度目は無いってな」


「……っ、はぁ、はぁ……ごほっ!」


「まだやるか?」


 片桐は答えない。悔しそうに歯を喰いしばったままだ。


「お前の身体強化魔法、中々だったぞ。それを活かす体術も予想以上だった。格闘技でまだやるって言うなら、相手になるが」


「……それで、私がっ」


 片桐が歯噛みする。


「貴方に勝てるわけがないでしょうっ!!!!」


 そして、吠えた。


「ああ、そうだな」


 片桐の心情を理解したうえで、俺は淡々と答える。


「俺の方が強い。それは事実だ」


「っ」


 俺の断言に片桐が息を呑む。


「それを踏まえて聞いてるんだ。まだやるか、ってな」


「……こほっ」


 片桐は。

 ゆっくりと。

 ふらつきながらも。

 立ち上がった。


「やるんだな? まだ」


 俯いたまま顔を上げぬ片桐に問う。


「言っておくが、手心で一発貰ってやるような男ではないぞ、俺は」


「……私、は」


 一瞬の静寂。

 がばっという音が聞こえそうなほど勢いよく、片桐が顔を上げる。


「私はまだ、諦めたくないっ!!!!」


 赤裸々な感情の発露。

 結果なんて見るまでも無い。ふらついて制御すらままならぬ身体強化魔法になど、遅れを取るはずも無い。いつもなら、真っ先に面倒臭いと匙を投げてしまうような、そんなシチュエーション。


 それでも。

 真っ直ぐに俺を見据えて離さないその双眸を、俺は素直に綺麗だと思った。

 肩で息をする片桐へニヤリと笑う。


「ならかかってこい。満足するまで相手してやるよ」







「先生、棄権します」


「え」


「はぁっ!?」


 天井に設置されている監視カメラに向かって突如告げた紫の進言に、可憐と舞が意表を突かれる。


「ちょ、ちょっとそれどういう事よ!?」


「どういう事も何も……」


 詰め寄ってくる舞を相手に、紫は気圧される事無く答えた。


「ごめん。もう私たちじゃ相手にならないから」


「なっ!?」


 その回答に舞が絶句する。


「そ、そんな簡単にっ! 第一、貴方のその何でも魔法消せる能力が残ってるでしょうが!!」


「何でも消せる、ねぇ」


 舞の過大評価に紫が苦笑した。

 本当にそうだったら良かったのにね、という呟きは誰の耳にも届かない。


「あのね」


 代わりに。

 なおも食い下がってくる舞に対し、紫はため息を付きながら振り返った。


「私だって最後までやりたい、それは本当。でも、もう打つ手が無いのも事実。これ以上魔力を消費してクタクタになっちゃったら、試験の補佐できなくなっちゃうから」


「あ」


 可憐が2人の役割を今思い出したかのように口を開ける。そう、紫と愛の本来の役割は、ここで舞や可憐の相手をする事では無い。彼女たちは、本来自分がいるべき席を空けてここに来ているのだ。2人の消耗で非を被るのは本人だけでは無い。


「だから、本当にごめん」


 紫が頭を下げる。それに続くように愛もペコリと頭を下げた。


「……舞さん」


「~っ」


 言葉を失った舞が苛立ちを隠せず頭を掻きむしる。

 そして。


「分かったわよ」


 口を尖らせながらもそう呟いた。可憐が笑う。


「それで、どうされますか?」


「どうって何が」


「中条さんの方、ですよ」


「あー」


 可憐からの問いに、舞は顔を上げ天井へと目を向けた。


「止めときましょう。もう十分試験の得点は稼げてるだろうし、何よりあいつの獲物だからね」


「……ふふ。そうですね」


 可憐が頷く。舞は視線を紫へと移した。


「貴方たちはみんな『余り枠』なんだから、これ以上はやらなくてもいいわよね?」


「ええ、もちろん。2人とも十分過ぎる能力を発揮してくれたわ」


「なら、さっさと上へ行くことね」


「え?」


 可憐と一緒に階下へと足を向けながら、舞は言う。


「早く試験終わらせないと、片桐沙耶はこの後使い物にならなくなるわよ」







「ど、どうされますか?」


「ん? 行かない」


 愛からの質問に、紫は躊躇いなく答えた。

 舞と可憐は言うだけ言って既にこの場からいなくなっている。おそらく次の試験に備えて昇降口で待機しているのだろう。試験中に旧館の外へ出る事は許されない。そうすると聖夜と沙耶の勝負もお流れになってしまう。

 試験を中断させる事無く、且つ試験に影響を及ぼさない場所。そして試験終了と同時に素早く次の会場へと向かえる場所。それは旧館の出入り口である昇降口しかない。

 彼女たちは正規受験生。2人にとってこのグループ試験は選抜試験最後の試験では無い。聖夜と沙耶の戦いへ無理に首を突っ込まず、余力を残して次へと向かう2人の行動はベストであると言える。

 立場は違えど、余力を残しておく必要があるのはどちらも同じだった。


「……もっとも」


 紫は苦笑しながら歩き出す。愛がそれに続いた。


「沙耶ちゃんは最後まで出し切っちゃうんでしょうけど」







「ああああああああっ!!!!」


 咆哮と共に片桐が襲いかかってくる。

 身体強化魔法を纏っているとはいえ、決してスマートとは言えぬ突貫。


「らぁっ!!」


「ふっ!!」


 突き出された拳を避け、勢いをそのままに腕を掴んで一本背負いへと持ち込む。


「うらぁぁぁぁぁっ!!」


「つ、ぁぁぁぁぁああああああっ!?」


「おおっ!?」


 片桐は床へと叩き付けられる事無く、そのまま綺麗に着地した。同じ要領で勢いを利用され背負い投げへと転化される。

 が。


「甘いな、片桐!!」


「えっ!? うそっ!?」


 途中で強引に身体を捻って束縛を解き、勢いを殺す。たららを踏む片桐へと肘をぶち込んだ。


「ぎっ、あっ!?」


 深追いはしない。後方へと転がりながら回避する片桐をそのまま逃がす。


「けほけほっ!!」


「良い動きだ、悪くない」


 その言葉に片桐が笑った。


「貴方を倒せなきゃ、意味が無いでしょう」


「そうか、じゃあ駄目だな。良い動きじゃない」


「戯言を!!」


 再び片桐が突っ込んでくる。それを俺が払う。もう何度目かも分からぬこのやり取り。

 こいつと遊び続けるのも悪くは無いが、そろそろ潮時だろう。もう片桐の魔力は限界ぎりぎりのはずだ。片桐にはまだ試験補佐という仕事が残っている。これ以上続けると、本当に使い物にならなくなる。


 そろそろ、決めるか。

 距離を詰めてくる片桐に対し、わざと隙を作る事で動きを誘導してやる。案の定、片桐はそれに乗った。


 しなやかに伸ばされた腕が、俺の襟元を捉える。

 そのまま足払いをされて転がされそうになるが、逆に足を返して転がしてやった。


 そう、あの時と同じように。


「――――あ」


 片桐も思い出したのだろう。

 抵抗する事無く、俺の成されるがまま床へと転がった。


「……けほっ。はぁ、はぁ……」


「……ふぅーっ」


 廊下に倒れ込んだままようやく動かなくなった片桐から離れ、息を吐く。

 流石にきつい。今までどれだけ無系統魔法に頼りっぱなしだったのかが、よく分かる戦いだった。……無系統が封じられた場合も考えて、こういった特訓もしておくべきかもな。良い勉強になったぞ。

 片桐と目が合う。荒い息を吐きながらも挑戦的な目を向けてくる。


「貴方、いったい……」


 意図してか。

 片桐があの時と同じセリフを口にする。

 それに対して、俺の答えは。


「俺は“2番のエンブレムを(、、、、、、、、)受け取っちまった(、、、、、、、、)か弱い一般生徒(、、、、、、、)”だ。それ以上でも以下でもねぇよ」


「ふ、ふふふ」


 倒れたまま、片桐が声に出して笑う。


「随分と、実力を隠すのが上手い一般生徒さんのようですね」


 直後、試験終了のアナウンスが旧館一帯に響き渡った。







「……で、いつまで転がってるわけ?」


 廊下に伏したまま一向に起き上がらない片桐にそう聞いてみる。


「……笑いたければ、笑えばいいでしょう」


「は?」


 言っている意味が分からない。笑う?


「無様に敗れ緩衝魔法に守られておきながらも、起き上がる事すらできないのです。おかしいでしょう? 笑えばいいです」


「ああ、お前起き上がらないんじゃ無く起き上がれないのか」


「言い直さなくて結構です!!」


 納得した。

 俺の読みは随分と甘かったらしい。片桐はとうに限界を超えてしまっていたという事だ。少し振り回し過ぎたのかもしれない。

 顔を赤くしそっぽを向く片桐に微笑ましさを感じ、思わず笑みが零れる。


「あっ!? わ、わ、笑いましたねっ!? 何たる屈辱!!」


「笑っていいって言ったのお前だからね!!」


「こ、この恥辱。絶対に忘れませんよ中条聖夜……」


「お前もう少し自分の発言に責任を持ってみようぜおい」


 ぎりぎりと歯軋りする片桐にため息を付き、屈み込む。腕を取った。


「ちょ、何をするんですかっ!?」


「暴れるなよ。別に襲おうっていうんじゃない。動けないんだろうが」


 抵抗にあまり力は無い。そりゃそうか、使い果たしたのだから。

 強引だとは思ったが片桐を背負ってやる。


「な、な、な、なっ!? 何を何を、お、下ろしなさいっ!!」


 耳元で何やら叫んでいるようだが無視。

 いつまでもここでモタモタしているわけにはいかない。俺たちの決着と同時に試験終了のアナウンスが鳴ったという事は、舞と可憐が勝ったという事。あの2人が負けていたら、この試験の正規受験者はゼロになる。そうなると俺たちの戦いは中断されていたはずだ。

 俺たちの戦いが中断される事無く終了し、且つ舞と可憐がこっちへ来なかったという事は。


「……余計な気を遣わせちまったかな」


 出口を目指して歩きながら、思う。

 舞と可憐は副会長たちを撃破し、早々に試験を切り上げたという事。本来ならばあいつらの試験。まさかそこまで俺を優遇するとは。今度飯でも奢ってやらなければなるまい。……庶民の俺がお嬢様を満足させられるほどの金を出せるはずも無いのだが。


「……何が余計な、ですか。急に優しくされたからって、私が貴方を許す事はありませんからね」


 ……こっちはこっちで何か勘違いをしていた。さっきのセリフ、別にお前に言ったわけじゃないんだけどな。


「良いのですか、もう笑わなくて」


「お前、俺に馬鹿にされたいのされたくないのどっちなの?」


 いい加減強情過ぎだぞ、お前。


「……貴方からは、今の私はさぞかし滑稽に映っているのでしょうね」


「あ?」


「勝てないと分かっているくせに、策も無くただただ玉砕を繰り返していたのですから」


「……何言ってんだ、お前」


 微妙に拗ねた口調で話す片桐に、言ってやる。


「お前は死力尽くして最後まで戦ったんだろ。滑稽ってのは無様に逃げ出したりヘラヘラ笑って棄権したりする奴を言うんだ。そんな奴らより、お前は万倍マシだよ」


「……」


 反論は来なかった。

 いや、黙り込まれるとそれはそれで気まずいものがあるんだけど。

 しばらく無言が続く。3階から昇降口までの距離が嫌に長く感じられた。片桐を落とさぬよう気を付けながら、階段を一段一段丁寧に下りていく。

 何か会話、会話と考えてみても思いつかなかったので、今の話でフォローの1つでも加えてやる事にした。


「少なくとも、俺は嫌いじゃないけどな、お前みたいな奴」


「え」


「ん?」


 ビシリと硬直した感覚が背中越しに伝わってくる。


「どうした、片ぎ――」


「~っ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」


「うおおっ!? 危ない危ない危ない!! ここ階段だっておいっ!?」


 どうやら俺のフォローはお気に召さなかったらしかった。

4日間に渡る連続投稿にお付き合い頂き、ありがとうございました。

第2章<下>はあと2話で完結予定です。


今後ともSoLaと『テレポーター』をよろしくお願い申し上げます。

m(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 思ったよりあっさりな感じではある。なんかワンチャン遠距離技無くても苦戦ぐらいで勝てるんじゃないかって思ってしまうぐらい。 [一言] それはそれとしてナイスファイト-_-b
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