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テレポーター  作者: SoLa
第2章 魔法選抜試験編〈下〉
58/432

第15話 グループ試験②

年末年始連続投稿第2弾!!




「はあああああああっ!!」


「しっ!!」


 舞の拳を掻い潜り、沙耶が木刀を横に一閃する。が、それが舞の身体に当たる事は無かった。避ける為に跳躍した舞の足が、そのまま沙耶の顔を狙う。後ろへ倒れ込むように回避した沙耶だったが、そのまま倒れ込むようなミスはしない。魔法によって強化された左手は、それほど力を入れているような素振りは見せずとも、沙耶の身体を軽々と宙へと跳ね上げた。


「逃がすかっ!!」


 舞の背後に、次々と火球が発現される。無詠唱の為、それほどの威力は無い。それでも戦力にはなる。


「くっ」


 空中で身体を捻り、放たれた火球をやり過ごす。避けきれないものは木刀で斬り捨てた。後を追うように振り抜かれた舞の拳を踵で受け止め、そのまま蹴り飛ばす事で両者間の距離を空ける。

 舞と沙耶は、ほぼ同時に廊下へと着地した。

 舞が不敵に笑う。


「剣術だけかと思ってたんだけど、やるじゃない」


「そちらこそ。身体強化が使える事は知っていましたが、ここまでとは思っていませんでした」


「私を接近されたら終わりの典型的な後衛型だと思わないことね」


「肝に銘じておきましょう」


 沙耶が僅かに木刀を揺らす。その些細な動きが、両者を同時に動かした。







「レイ・パースン・ライ・アミリカ・『光の球(フラスライト)』っ!!」


 愛の詠唱と共に発現される4発の光の魔法球。それは聖夜を狙い撃ちにすべく、光速で射出される。

 しかし。


「っ、ふっ!!」


 3発を紙一重で躱し、残る1発は拳で叩き壊された。


「ど、どうしてっ」

 優勢であるはずの愛に焦りが生まれていた。

 聖夜の身体は、先手を打った愛の幻術によって平衡感覚が失われている状態にある。永続的なものでは無い為徐々に感覚は戻っていくはずだが、それにしても早すぎた。


(……無効化された? いえ、そ、そんな素振りは見せていなかった、はずっ)


 続けて発現し、聖夜に向けて放った魔法球も呆気なく避けられる。着地と同時に若干だがふらつく身体。それはつまり、愛の使用した幻術が未だ聖夜の身体を蝕んでいるからに他ならない。

 だからこそ、愛は分からない。


「あー……」


 聖夜の口から、気怠そうな声が漏れる。それだけにも拘わらず、愛は身体をビクリと震わせた。


「やっと、慣れてきた(、、、、、)


 聖夜の言っている意味が、愛には分からない。

 2人の間には、教室2つ分ほどの間がある。平衡感覚を失い正常な動作ができないはず(、、)の聖夜。その聖夜が相手でも、これだけの間合いを空けているのは純粋に愛の性格故か。もっとも、この程度の間合い、身体強化魔法を扱う魔法使いならば一歩で潰してしまえるのだが。


「『光の球(フラスライト)』!!」


 もう何度目か分からぬ、攻撃魔法の詠唱。愛の一度の最大発現数、6発の魔法球が同時に聖夜を襲う。それを聖夜は最小限の動きで無効化した。2発を避け、両手足で1発ずつ確実に粉砕する。


「……う、うそ」


 多少動きにぎこちなさはあるものの、平衡感覚を失っているとは思えぬ動きだった。それに愛は驚愕した。普通の学園生ならば、こんな芸当ができるはずがない。幻術にかかっていない正常の状態だったとしても、これほど鮮やかに無力化ができる学園生はそういないだろう。


 異端。

 この先自分がどれだけの攻撃魔法を放とうが、決して届く事は無いと思ってしまうほどの、異質な存在感。愛はその脅威を肌で感じ取っていた。


「最初の……」


 聖夜が口を開く。同時に、愛と聖夜の目が合った。しかし愛が逸らすよりも先に、聖夜の視線が逸れる。ゆらゆらと不規則に彷徨った後、もう一度愛と目が合った。また逸れる。

 聖夜の身体が幻術から抜け出せていない証明だった。それが安心感よりも危機感を愛にもたらす。愛の目の前にいる男子生徒は幻術にかかっている状態で、愛の攻撃を全て受け流しているのだから。


「俺が、……拳を止めた時の、お前は、本物だった……。反応が、リアル、だったからな」


 聖夜は額の汗を拭いながら続ける。


「ただ、俺と出会った……、時点で、1つめの魔法は、発現、……していた。そうだな? 俺の後ろ、に作り出、した、幻影のお前だ。そして、厄、介だった、のは、それを作り、上げていた、魔力……」


 愛の手に、不自然に力が篭った。


「恐らく、この幻術に、……仕込んでいたんだろう。俺の、五感に干渉する、光の魔法」


 そう、俺の平衡感覚を奪う幻術を、な。聖夜が呟くようにそう告げる。愛は無意識の内に唾を飲み込んでいた。


「まさか幻術の破壊が、更なる幻術発現の、トリガーになっているとは、……思わなかった」


 聖夜が苦笑いを浮かべる。気怠い身体に鞭を打つように手足をぶらぶらさせていた。


「ふーっ」


 大きく息を吐く。そこで、愛は気付いた。


「相手の五感に作用する光子。それを破壊される事で散布する幻影、か。初見じゃ見抜けないな……。凶悪な一手だ」


 話辛そうに口を動かしていた聖夜の口調が、元に戻っている事に。


「さて、と」


 首を鳴らしながら聖夜は言う。


「今、俺が見えている目の前のお前は、本物か?」







 階段を駆け上がりながら、可憐は断続的に響き渡る衝撃音を聞いていた。

 発信源は3階。無論、この段階では可憐が知る由も無い事だが、舞と沙耶が発している音である。


「はっ……はっ。3、階っ!!」


 一度だけ後方を振り返る。紫は追ってきてはいない。

 それを確認したうえで、可憐は2階には目もくれる事無く3階への段差に足を掛けた。







 走っていなかっただけで、実際のところ紫は可憐の後を追っていた。短いとは言えぬタイムラグを空けた後、ゆっくりと紫が階段を上ってくる。


「沙耶ちゃんは随分と派手にやってるみたいねぇ。お相手は……誰だろ」


 愛の使う魔法を知っている紫からすれば、これだけの轟音を響かせている以上、発信源は沙耶である事は容易に想像が付く。が、あの沙耶がこれだけ暴れても失格にならぬ相手が想像できなかった。


「確率で言えば、中条君なんだろうけど……」


 舞が身体強化魔法を使える事は紫も知っている。だが、その実力の程は把握していなかった。魔法実習の時間でも、舞はつまらなそうに外野で見ている事が多かったからだ。

 後からゆっくりと追って来た紫が、可憐の行先を知るはずも無い。2階と3階を繋ぐ踊り場まで来たところで、紫はそれとなく静かな2階の廊下へと顔を出してみた。

 そこには。







 振り下ろせば完全に舞を捉えると確信したはずの切っ先を、沙耶はやむを得ず振り上げた。ギリギリのところを通過していく火球。おそらく、あのまま振り下ろしていたら腕に直撃していただろう。


 隙が突けない。

 舞の近接術に隙が無いわけではない。身体強化魔法の完成度、そして近接術の心得。そのどちらを取ってみても沙耶が圧勝している。それでも、攻めきれていない。要所要所で沙耶の行動を的確に邪魔するそれは、いかに舞が魔法のコントロールを精密にできているかを物語っていた。

 舞は呪文を組み上げる作業が苦手だ。聖夜は、舞のそれを力任せと称した。沙耶も舞の呪文詠唱を見てそう結論付けていた。


 それでもこの精密さ。

 才能。名家の血筋故の。

 一筋縄ではいかない。沙耶は痛感していた。

 しかし。


「はぁっ、はぁっ!!」


 息切れをしているのは、舞だけ。そう、攻撃の為に発現されていたはずの火球は、いつの間にか沙耶の行動を牽制するだけの代物に成り下がっている。

 少しずつ、少しずつだが、舞が押されていた。


「くっ、うっ!?」


 徐々に徐々にスピードを上げてくる沙耶に、舞は今やついていくので精一杯だった。

 一度距離が空く。


「はっ、はっ……はぁっ!!」


 荒い呼吸。髪は乱れ、額には汗が滲んでいた。


「お見事です」


 木刀で空を切りながら、沙耶が称賛の意を示す。


「ここまで近接術に秀でているとは。才能というものに、嫉妬を覚えざるを得ませんね」


「呼吸っ、1つ、乱さず、良く言う!!」


 舞は汗を拭いながら、吐き捨てるようにそう言った。

 指摘通り疲労した様子を見せぬ沙耶は、木刀を改めて構え直す。


「ここまでとしましょうか」


 目を瞑りながら沙耶は言う。


「浅草流・水の型」


「何をっ!! “ファイ――」


「『水衝(スイショウ)』!!」


 沙耶の身体は、舞が詠唱を終える前に舞の隣をすり抜けた。

 沙耶がゆっくりと振り返る。


「かっ……あっ!!」


 舞が膝から崩れ落ちる。そのまま倒れ込んだ。


「ふぅ……」


 沙耶が息を吐く。全て終わったとでも言うように。


「っ、はっ、あ……う」


「まだそんな目ができるのですか。末恐ろしいですね。これを受けてなお、戦意が衰えないというのは」


 蹲り、それでも睨み付けてくる舞に対し、沙耶は率直な感想を述べた。


「身体強化魔法として展開していた魔力を、腹部へと集約させていましたね。あの一瞬でそれを成してしまうとは。素晴らしい技術です」


「けほっ、こほっ!! くっ、はぁっ……」


 舞は答えない。いや、答えられないと言った方が正しいのか。苦しそうに咳き込んだ。


「無理して身体を動かさない事をお勧めします。私が斬ったのは貴方の皮膚ではない」


「ごほっ!!」


 震える掌を、廊下に付ける。しかし、起き上がる事無く転倒した。


「『水衝(スイショウ)』は、触れたものの水分に衝撃を与える浅草流の奥義。花園舞さん。貴方の身体は今、内側からの衝撃に痛みを感じている」


 沙耶は淡々とした声で話す。


「ご安心を。出力は当然抑えてありますので、後遺症を心配しなくてもいいですよ。もっとも、それほどまでの威力を持った攻撃ならば、旧館に作用されている緩衝魔法が働き貴方を失格にしてしまうでしょうが」


「はぁっ、はぁっ……」


「ふむ」


 立ち上がろうとする舞を見て、沙耶は決意を固めた。木刀を軽く一振りしてから、ゆっくりと舞へと歩み寄る。


「申し訳ございませんが、ここで貴方には退場して頂きましょうか。これだけ動けているのです。試験は満点でしょう」


 そう言いながら、伏す舞に木刀を振り上げる。


「私は、彼と戦わねばならない。これで、終わりです」


「――――っ」


 木刀が舞を狙って振り下ろされる。


 が。

 突如飛来した氷の矢によって沙耶の手から弾き飛ばされた。


「むっ!?」


「スィー・サイレン・ウィー・クライアーク・『氷の球(アイシス)』!!」


 追撃の氷塊を手で弾きながら、沙耶は伏す舞から飛び退くように後退した。


「舞さんっ!!」


「か、可憐、ごほっけほっ!!」


 駆け寄ってきた可憐の手を借りて、舞はふらふらと立ち上がった。


「……もう立ち上がれるのですか」


 呆れたような声を出しながら、沙耶は転がった木刀を拾い上げた。


「卑怯で申し訳ございませんが、ここからは2対1でやらせて頂きます」


 腕に装着されたMCに手をかざしながら可憐が言う。対して沙耶は焦りの様子など微塵も見せずに首を振った。


「3対3という平等な状況下で合流できたのは、貴方がたの運と実力です。卑怯ではありません」


 切っ先を可憐へと向けながら一言。


「もっとも、それで私を倒せるかは別問題ですけれど」







「それ以上近付いてくるのなら、先にお前から潰す」


 響いてくる足音の持ち主・副会長に対してそう告げる。後ろから、若干戸惑った気配が漂ってきた。


「あらら。こっち振り向いても無いのに良く分かったわね」


 気配を隠そうともせず、平然と歩いて来ていたくせによく言う。


「後ろ、取ってるんだけど。こっち向かなくていいの?」


「実力不明なお前も相当危険だが、それ以上にこいつから目を離すべきではないと判断した結果だ」


 花宮も、俺からは目を離さず微動だにしない。肩が遠目から見ても震えているのが分かる事から、間違いなく本体だろう。このまま睨み続けていれば、精神的にダウンするんじゃないだろうか。

 今の状態に慣れてきたとはいえ、まだふらつきはある。一撃で沈めるにしては距離があり過ぎだ。不用意に近寄った事で、嫌な一撃を貰うのは避けたい。お互いに牽制し合っている状態だった。


「『目を離すべきではない』、ね。じゃあ……」


「面倒な幻術だ。あの曲者揃いの生徒会が囲うにしては微妙な存在だとは思っていたが、やっぱりこいつも牙を持っていたな。特殊属性とは……。予想してなかった」


「……凄いわね」


「何がだ」


 脈絡がおかしい気がするのは俺だけか。想像できなかったと言っているんだが。


「だって、想像できなかったってことは受けたんでしょ? その幻術。面倒って言ってるし」


「……」


「なのにまだリタイヤしていないっていうのは、つまりそういう事なんでしょ?」


 具体性は無いが、何が言いたいのかはよく分かった。

 そして、副会長も沈黙を肯定と受け取ったようだ。


「流石は『番号持ち(ナンバー)』、と言ったところかしら」


「まだ候補だ。それに内容と声色が一致してないぞ」


 嫌に楽しそうな声色だ。


「それで? 今、貴方に掛かっている幻術は何?」


「あ? そんなモン、教えるわけ――」


「へ、平衡感覚です」


「おい」


 隠そうと思ったが花宮にバラされた。いや、それが当たり前なわけだが。


「凄い。それでもちゃんと立てるんだ」


「さ、さっきまでは飛び跳ねてました」


「お前がやたらめったらに魔法ぶっ放してくるからだろうが!!」


「ひっ!?」


 酷い言われように文句を付けたら、一層強く花宮の身体が跳ねた。

 あれ、これって単純に脅しておけば、こいつ硬直して身動き取れないんじゃないの? 牽制なんて必要無くない?


「へぇ……」


 紫が似つかわしくない艶のある声色を漏らす。


「獰猛な牙を隠していたのは……貴方の方じゃない?」


 一歩を、踏み出した。


「警告はした」


 瞬時に距離を詰める。

 しかし。


「『遅延術式解放(オープン)』、『浄化の乱障壁(プリシアミナス)』!!」


「うっおっ!?」


 頭上から幾多の障壁が降り注いできた。避けきれない数枚を拳で叩き割り、廊下を転がる。捌き切れなかった障壁は、副会長を囲う堅牢な壁となった。


「……花宮、か。遅延呪文も使えたのかよ」


 遅延術式解放オープンとは、開錠の呪文。

 詠唱しつつも発現せず、魔法を掌握。好きなタイミングで解放するのが遅延魔法だ。溜めておける時間も己の実力に左右される難度の高い技法である。


 まさかそれを簡単に操ってみせるとは……。

 副会長を仕留める事はできなかったが、2人の間に挟まれていた状況からうまく抜け出せた。丁度、副会長の背後に回る形となる。


「うまいわね」


 ゆっくりとこちらへ振り返りながら、称賛する副会長。その後ろでは、花宮がMCに手を掲げ次の詠唱体勢に入っている。


「……」


 さて、どうするか。

 身体の感覚は徐々にだが確実に戻ってきている。厄介な魔法である事には変わりないが、効果が続く時間が短いのが救いだった。ここで2人を相手にするのも面白いが……。

 再び頭上で爆音が響いた。どうやら、かなり派手にやっているらしい。


「来ないの?」


 紫が首を傾げながら問う。

 対して、俺は――――。







 舞が沙耶の木刀を躱す。その翻した身の一瞬の死角から、可憐の魔法球が飛び出してきた。


「っ」


 沙耶が短く息を呑む。しかし、身体は冷静に反応した。眼前に迫った脅威を木刀で振り払う。追撃を仕掛けようと踏み込んできた舞の足を払い、転倒させる。握る木刀を振り下ろすより先に、背後から迫った舞の火球を蹴り飛ばした。沙耶が纏っていた身体強化の発現濃度が、無詠唱で発現されていた舞の火球の発現濃度を上回っていたということ。ジュワッという音と共に火球が霧散する。


「スィー・サイレン・ウィー・クライアーク」


 火球に気を取られていた一瞬の隙を、舞は逃さない。床に手を付き、足を振り上げ沙耶の顎を打ち抜いた。


「うっ!?」


 沙耶の身体が、宙に浮く。


「可憐、今っ!!」


「『氷の球(アイシス)』!!」


 舞の鼻先を掠めるような軌道を描き、巨大な氷塊は沙耶に直撃した。勢いよく後方へと弾き飛ばされる。


「っつ、くっ!?」


 粉々に砕け散った氷の破片を手で弾き、舞は転がりながらその場を回避した。


「スィー・サイレン・ウィー・クライアーク」


「ふっ!!」


 後方で詠唱している可憐には目もくれず、体勢を整えた舞は沙耶の下へと一直線に突っ込む。そして、可憐も舞の行動パターンはしっかりと理解していた。


「『薄氷の弾丸(クリミネア)』!!」


 それは、先ほど放ったものよりも、1段階上の魔法球。瞬時に発現された3発の氷塊は、駆ける舞の頭上、左右をすり抜け真っ先に沙耶を狙う。

 舞の拳に魔力が集中する。

 貰った。

 2人がそう確信した瞬間だった。


「見事な連携です。どこかで練習でもされていたのですか?」


 可憐の魔法が着弾し、舞の拳が沙耶を捉えるまでの僅かな間。

 その刹那に、2人は確かに沙耶の言葉を聞いた。


「浅草流・火の型」


 確信を以って問われたわけではない、ただの質問。しかしそれは、決してバレてはならない3人の秘密。舞と可憐の身体が硬直した。


「『陽炎(カゲロウ)』!!」


 ゆらり、と。沙耶の持つ木刀の刀身がぶれた(、、、)

 3発の氷の矢は揺らめく炎によって瞬く間に斬り捨てられる。着地と同時に、沙耶が踏み込む。舞との間合いを詰めるのは一瞬だった。


「浅草流・雷の型」


「っ!?」


 硬直が解けた頃には、もう遅い。


「舞さっ――」


「『雷花(ライカ)』!!」


「ああああああっ!!??」


 舞の身体を中心として、青白い雷が一帯に迸った。駆け抜ける電撃に、舞は成す術無く崩れ落ちる。


「人の事を心配している場合ですか」


「うっ!?」


 自身の攻撃が起こした結果に目をやる事無く、沙耶は一瞬にして可憐へと肉薄した。


「さっきの一撃は効きましたよ、お返しです」


「スィー・サイレン・ウ――、くっ!!」


「遅いっ!! 『風車(カザグルマ)』!!」


 詠唱は間に合わぬと思い、即座に無詠唱で発現された氷の障壁では何の役にも立たない。円状に振るわれた刀身は、綺麗な断面図を描くように可憐の障壁を両断し、挙句、可憐本人にも風の衝撃を与えた。


「かっ、はっ!?」


 氷塊が砕け散る。廊下に叩き付けられた可憐は、身体中の酸素を吐き出すかのように大きく口を開けてむせた。


「……緩衝魔法が発動しない。まったく、貴方がたはどれだけの耐久値を持っているんですか」


 その場に1人立つ沙耶が、呆れたようにそう呟く。

 安全を守る緩衝魔法は、一定以上の魔力を持った魔法に反応するのではない。対象となる人間に、一定以上のダメージが与えられると判断した時に発動するのだ。


 つまり。

 多少の手加減をしているとはいえ、廊下に伏す2人は浅草の奥義を耐えきったという事。


「才能……ですか」


 末恐ろしい。沙耶は素直にそう思った。


「……はっ!! ぐ、くぅっ」


「こほっこほっこほっ、っっ、っはぁっ!!」


 震える手で起き上がろうとする2人を見て、沙耶は木刀を握る手に力を込めた。


「この試験、正規受験生は貴方がた2人。残りは皆『余り枠』ですからね。つまり、ここで私が手を下してしまえば、この試験はこれで終わりという事になります」


 本来の目的は、あの男を倒す事でしたが。

 小さな声でそう呟きながらも、沙耶は木刀を振り上げる。


「ですが。私の前に立ちはだかる事もできぬのならば、所詮はその程度の人だったという事なのでし――」


「誰がその程度だって?」


「っ!?」


 油断は、していなかった。いつ襲って来ようが迎撃するだけの警戒が、沙耶にはあった。

 しかし。


「ぐっ!? うっ!?」


 脇腹にめり込んだ膝に、沙耶の顔が歪む。条件反射で振るった木刀は素手で掴まれた。その状態で、もう一発蹴りが沙耶の腹を捉える。


「かあっ!?」


 咄嗟に魔力を防御に回したとしても、重いものは重い。沙耶の身体は、面白いくらいに後方へと吹き飛んだ。







「せ、聖夜っ」


「おう」


 痛みに顔をしかめながらも、俺の下へと駆け寄ってくる2人に応える。

 少しだけ、なぜ動けるくせに転がっている片桐に止めを刺さないのかと思ったが、ここは戦場というわけではない。反感を買うような行動は避けるべきかと思い直した。

 同時に、自分の性根が本当に腐っているなと心の中で自嘲する。


「わ、私たちは……」


「まだ動けるようなら下へ行け。俺じゃあ、あの2人は荷が重い」


 可憐の言葉へ重ねるように話す。


「副会長の能力は知らないが……、花宮は光属性だ」


「光、……幻術ね」


「そういう事だ」


 舞の言葉に頷く。


「相性の問題だ。俺の扱える魔法を考えると、こっちの方が断然遣りやすい。あの2人、任せられるか?」


「……分かった」


「分かりました」


「行け」


 頷いた2人に先を促す。素直に従ったあたり、やはり片桐に苦汁をなめさせられたようだ。結局、当初の計画通りという事になっちまったな。

 走り去る2人から視線を外し、前方で伏す片桐へと目を向ける。


「拾え」


 弧を描くようにして放ってやった木刀は、腹を抱えて蹲る片桐の頭もとに転がった。


「けほっこほっ!! くっ!!」


「こえーこえー。射殺すような目付きをするなぁ」


 同じ生徒会という枠組みに収まった仲間に向ける目ではない。

 思わず笑みが零れそうになるほどの、心地良い敵対心だった。


「……中条、聖夜っ」


「一時でも縮まった縁はもう千切れたか? いちいちフルネームで呼ぶな、面倒臭ぇ。自分の名前なんざ自分が一番良く知ってる」


 片桐は悔しそうに転がっていた木刀に手を伸ばす。


「どう、……して」


「勘違いするなよ?」


 片桐が言い終える前に、被せるように告げてやる。

 今、こいつが何を考えているかくらい容易に想像できる。


「俺は俺の有用性を示す為にここにいる。刀を持たない丸裸のお前を潰したところで、意味は無いだろう?」


「くっ」


 もともと歪んでいた片桐の顔が、更に歪んだ。


「……俺はな、面倒臭いのが嫌いなんだ」


 指を鳴らす。


「ここである程度力を晒しておけば今後面倒に巻き込まれず済むというのなら、それを利用しない手はない」


「なる、ほど……」


 ゆっくりと片桐が起き上がる。


「理解したか? 善意なんかじゃねーよ。だから遠慮はするな、俺に隙があればいつでも潰しに来い。もっとも……」


 構えながら俺は続けた。


「一度痛い目見てる俺としては、これ以上醜態を晒す気も無いけどな」

【今後の投稿予定】

2日0時 第16話 グループ試験③

3日0時 第17話 グループ試験④

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 花宮の特権って書いてあったからこっちに書くけど花宮の使ってた『光の球(フラスライト)』と大和が使ってた『光の球(シャイン)』って何が違うの?
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