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テレポーター  作者: SoLa
第2章 魔法選抜試験編〈下〉
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第12話 当日




 ――――魔法選抜試験当日。







「……こんな時間から何の用だ」


「どうした中条君。昨日といい今日といい、年上を敬う心をどこかへ落してしまったんじゃないかい?」


 早朝。文字通りの早過ぎる朝。

 何の前触れも無く、朝4時30分にけたたましいアラーム音を発した携帯電話。思わず飛び起きてしまい、何事かと携帯電話を開いて見れば『着信』の文字。


『やあ、おはよう。清々しい朝だね。その清らかな心を持ったまま、生徒会館へ集合してくれたまえ。今すぐに』


 通話ボタンを押すなりそれだけ告げられ、通話は強制終了した。

 悪意しか感じられぬモーニングコールに、いよいよ殺意しか抱けなくなった俺は二度寝する事無く学生服に着替え生徒会館へと足を向ける。

 そして到着した俺を出迎えたのが先の発言だ。


 殴ろう、もう。俺が敬う心を落としたんじゃない。

 この男が尊敬に足る態度を落としたんだ。それを身体に分からせてやる時が来た。


「まずは一発殴ります。話はそれからでいいですよね」


「おいおいおい。折角この俺、生徒会長様自らがモーニングコールをしてあげたというのに。なんて口の利き方だい、それは」


 ……ここまで自殺願望をお持ちだとは思わなかったぜ。これは心置きなく殺れそうだ。


「え、え、え? 本気なの中条君? その振り上げた拳は本当に俺を狙ってるの?」


「問答無用だ、クソや――」


「おはよー、って、何してるの2人とも」


「紫! 実にいいところに!」


「……副会長?」


 聞き覚えのある声に振り向いて見れば、副会長が不思議そうな顔をしながら会議室に足を踏み入れたところだった。


「助かったよ。中条君、寝起きで機嫌が悪いみたいでさ」


「あらら。それは駄目よ、中条君。もう高校生なんだから」


 めっ、みたいな顔で言われる。何か釈然としないものがあるのは、俺の理解力が足りないからではあるまい。


「良かった。兄さん、ちゃんと中条君に伝えてくれたのね」


「もちろん。可愛い妹の頼みを断るわけないじゃないか」


 両腕を広げて待ち構える兄を、副会長は普通に笑ってスルーした。


「ちょっと待て。伝えるって何の事だ」


 ひっかかりを覚えた単語に、抗議の声をあげる。俺は何も聞いてないぞ。

 すると副会長はきょとんとした顔をして。


「今日は選抜試験当日。生徒会役員は5時30分に生徒会館に集合して、準備の手伝いを行う。それを聞いたからここにいるんじゃないの?」


「……」


 副会長の説明を受け、固まる俺。

 こっそりと忍び足で会議室を後にする生徒会長。

 一瞬の静寂。

 そして。


「聞いとらんわ!!!!」


 感情の赴くまま絶叫した。







「おはようございます~」


 6時ちょうど。

 魔法実習ドームに、生徒会役員を含めた青藍の教師陣が集結していた。5列で整列し、その最後尾に生徒会役員が並んでいるという構図だ。


 そして何を間違ったのか。

 その先頭のスペースでこちらに顔を向け、挨拶をしているのはTHE・ぽわぽわの異名を持つ白石はるか氏だった。


「おい片桐」


「……今は挨拶中ですが」


 迷惑そうな表情を隠そうともせず、俺の横に立つ片桐が応える。だが、そんな事俺の知った事では無い。


「その挨拶をしているのが、何であの(、、)白石先生なんだ?」


「……。今年の選抜試験責任者があの方だから、ですが」


 はい、ダウト。ダウトでしょそれ。


 ……。


「……え? マジなの?」


「私の心境としては、貴方が今の今までその事実を知らなかった事に対して、『え? マジなの?』と問いたいところなのですが」


「……」


 片桐からの凍てついた視線から察するに、どうやら本当らしい。


「準備期間中。確かに参加しなくていい、とは言いましたが……。まさかそこまで無頓着に過ごしていたとは。驚きを通り越して信じられません」


「いや、信じないだろ普通。だって――」


「この状況下でおしゃべりしてるなんていい度胸なのですよー!!!!」


 そんな気の抜ける怒声と共に、俺の額に激痛が走った。


「ぎゃああああああああああああああ!?」


 痛みに悶絶し、恥も忘れて転げまわる。涙目で捉えた先には、砕け散ったチョーク。


「なんで俺だけ!?」


 隣で澄ました顔をして整列する片桐に恨めしい視線を向け、抗議の声をあげる。


「このメンバーでおしゃべりするのは中条君くらいですっ!!」


「おしゃべりは1人でするもんじゃないでしょう!!」


「ほっほぉう!? くっち応えですかぁ!? なっかじょうくぅん!!」


「げっ」


 こめかみがひくひくしていらっしゃる。やばい。あれ、『入ってる』!?


「謝って下さい。早く」


 片桐にしては珍しい早口でそう言ってくる。見れば冷や汗を流していた。

 謝るという対応は間違ってない。『入った』白石先生がどれほど恐ろしいものであるかは、身に染みて分かっている。


 が。

 片桐のそれが、関わり合いになりたくないからであろう事は見え見えだった。

 片桐に対し、お前の考えは全て理解したと頷いてやる。何を勘違いしたのか、片桐は安堵の表情を浮かべた。


 前を向く。

 今にも突撃してきそうな白石先生に対し、手を挙げてこう言った。


「先生、真犯人はこいつです」







「ふぅ……。ここまで来れば大丈夫か」


 教会手前の噴水にて。

 後ろを振り返り、追っ手(片桐)がいない事を確認してから、俺はようやく一息吐いた。


 あの申告の後、白石先生の新たなターゲットとして認識された片桐は、その場でお説教。周りの教員たちは長くなると感じたのか、勝手に持ち場へと散りだす始末。説教が終わるなり片桐が喰い付いて来たので思わず逃げ出してしまったのだ。


「やべぇな。折角早起きしたってのに、いきなりサボりかよ」


 何をするのか聞いていない以上、どこで何をしたらいいのかも全く分からん。かと言って、もう一度実習ドームに戻る気にもなれない。……戻ったら、ただでは済まない自信がある。

 どうしたものかと噴水の前でぶらぶらしていると、


「お、聖夜じゃねーか」


 後ろから聞き覚えのある声が届いた。


「……大和さん」


 随分と久しぶりに会った気がするな。と、言うよりも。


「いくら今日が試験だからって、流石に早過ぎじゃないですか? 開始は9時からですよ」


 まだ6時30分だ。いくらなんでもこの時間にここにいるのはおかしい。


「まさか、試験に向けて秘密裏に特訓を……」


「それこそまさかだ。俺がそんな真面目な奴に見えんのか?」


 いいえ、まったく。これっぽっちも。


「くくっ。正直な奴だ」


 俺の表情を見て、言わんとする事は分かったのだろう。大和はニヤリと口を歪めた。


「お前の様子をちょっくら見に来ただけだよ。ま、取り越し苦労だったかな」


「……はぁ」


 コメントに困る回答だった為、微妙な返事になってしまった。


「結局、お前が出るのはグループ試験だけか?」


「ええ。あくまで『余り枠』ですからね」


 会長の趣向で若干本筋からずれてはいるが、本来俺はサポート役であって試験結果など関係無い。


「そっか。2年のグループ試験会場は知ってるか?」


「旧校舎、ですよね。俄かには信じがたいですけど」


「当たりだ。で、信じがたいってのは?」


 俺の言葉に、大和が怪訝そうな顔をした。あれ、そんな的外れな発言をしたつもりは無かったんだが。


「旧館とはいえ、校舎の中で魔法戦をするんですよ。色々と怖いんじゃないですか?」


 将来の事を考えれば、この上なくいい環境ではある。実戦にて、魔法実習ドーム等の模擬戦を行うような立派な空間で戦闘するなんて事は稀だ。そんな戦いやすい開けた空間で何十回何百回と模擬戦をするよりも、1回だけでも日常のありふれた空間での戦いの感触を味わった方が、よっぽど良い経験になるだろう。


 しかし、現実問題。校舎内で実際に魔法戦を行うのもどうかと思う。試験中は受験生以外の立ち入りが禁止されるとはいえ、色々と危険がつきまとうのも事実なのだから。


「ははっ。なるほど、そういう事か」


 ……真面目な話をしているつもりだったのだが、見事に笑われてしまった。


「お前、この学園の生徒を高く評価し過ぎだぜ。2年程度の実力で、お前が不安視するような事態は起こらねぇよ。舞台を移したって実力は変わらない。せいぜい魔法球数発でドンパチやる程度だ」


「あー」


 そうか。舞や可憐、片桐といった“例外”と過ごす時間が多いせいで勘違いしていた。

 大和の言うとおり、今の同学年たちではあまり大きな魔法戦には発展しないだろう。緩衝魔法も発動している中でやる事だし、危険はほぼ無いと言っても過言では無い。


「まあ、俺たち3年になってくると話は変わってくるけどな」


「だから3年の人たちは『約束の泉』で行うんですね」


「そういう事だ」


 最高学年である3年生には、『約束の泉』のスペースを区切って即興の魔法対戦用のフィールドが造られている。なぜ、2年と同じように旧校舎で行わないのかと疑問に思っていたのだが、納得した。3年にもなると、流石に目を離してはいられない程度には成長するという事だ。


「もっとも、お前らをどうするか(、、、、、、、、、)については(、、、、、)、教員共も揉めていたようだがな」


「は?」


「生徒会役員と令嬢2人。同じ2年とはいえ、同じようには括れないだろ?」


「……そうですね」


 下手をすれば、現3年にも引けを取らないだろう。俺や片桐に至っては余裕で勝ててしまう自信がある。無論、目の前にいる男も含めて『番号持ち(ナンバー)』を除いて、だが。


「苦汁の決断だったらしいがな。特別扱いは良くないってよ」


「なるほど」


 旧校舎を保護しているのは、あくまで対抗魔法回路のみ。魔法によらない物理的な攻撃は普通に通るのだ。暴れれば当然窓は割れるし、扉は砕ける。特に身体強化魔法を得意とし、身体も動かす派である俺や片桐、舞は何かしらやらかしそうだ。


「んじゃ、俺はそろそろ行くわ」


「え、寮棟に戻るんですか?」


 言う事は言ったという顔をして階段へ足をかける大和に、思わず声をかける。


「言ったろ。様子を見に来ただけだってよ」


 もうこちらには振り返る事無く、大和はひらひらと手を振ってそう応えた。







「やあ」


「何でてめぇがここにいやがる」


 大和が階段を下り終えたところで。まるで待ち構えていましたと言わんばかりのタイミングで縁が顔を出した。気軽に声を掛けた縁とは裏腹に、大和は嫌悪感を剥き出しにした低い唸り声でそう口を開く。


「何で? それは俺のセリフなんじゃないかい? 俺は生徒会長として選抜試験の準備の為にここにいる」


「そうかよ」


 話は終わりとばかりに大和が歩き出す。

 が。


「随分と中条君にご執心のようだね」


 その言葉に、大和の足がピタリと止まった。


「……聖夜をどうするつもりだ」


「質問の意図が見えないね」


「ふざけた事抜かしてんじゃねぇぞ」


「へぇ……。こんな時でも後輩の心配かい?」


 大和を纏う雰囲気が、変わる。学園生とは思えぬ威圧感を前にしても、縁の態度は平然としたものだ。

 むしろ。


「君も丸くなったものだねぇ」


 喧嘩を売っていた。


「てめ――」


「そこまでですっ!!」


 片桐沙耶。

 ブチギレ寸前だった大和を牽制するかのように声を張り上げた沙耶が、2人の間に割って入った。


「こんな時間からいったい何事ですか」


「何事も何も。楽しく談笑していただけじゃないか。なぁ、大和」


「死ね」


 それだけ告げ、大和は沙耶を一睨みしてから踵を返す。その後ろ姿に何を言おうとしたのか縁が口を開きかけた瞬間、沙耶が強引に口を塞いだ。もちろん手で。


「もがっ!?」


「ひとまず黙りなさいっ!!」


 これ以上の厄介事は御免だと、真っ先に行動に移した沙耶は正しい。

 口をもごもごさせる縁と、はらはらしながらそれを塞ぐ沙耶。

 それを見る事無く、大和はその場を後にした。







「で」

 無数の怒りマークを付けて沙耶が縁を睨む。


「何のおつもりですか、会長」


 何に対する質問かは問うまでも無い。先ほどの大和との一件だ。


「いや、ほらあれだよ。何というか、虫の居所が悪かったみたいでさ」


「……そうですか。ならそこに正座して下さい。虫ごと、貴方の存在をたたっ斬ります」


「一回落ち着かないかい? 発言がもの凄く物騒だよ?」


 柄を掴む力の入りようを見るに、沙耶は本気だった。それでも、いつもとまったく変わらぬ縁の飄々とした態度に毒気を抜かれたのか、大きなため息を1つ付いて沙耶は木刀から手を離す。


「早朝から豪徳寺先輩は何をしに?」


「それを俺が聞き出せたとでも?」


「……胸を張れる回答ではないのですが」


 沙耶は本気で頭を抱えたくなった。


「まあまあ、気楽に行こう。今日という日はまだ始まったばかりだ」


「それで、中条さんの方は?」


「見当たらないねぇ、って、おおっと!?」


「ちっ」


 目にも留まらぬ速度で抜刀し、一閃された刀身を、縁は紙一重で躱した。半ば本気で狙った一撃だっただけに、沙耶の口から思わず舌打ちが漏れる。


「ここで俺がダウンしたらどうするつもりだい」


「放置します」


「……素敵な回答をどうもありがとう」


 沙耶の冷淡かつ端的な回答に、縁の心は少しだけ傷付いた。


「さて。無駄話はこれくらいにして、そろそろ持ち場に戻ってください。試験開始までもう余裕はないですよ」


「いや、先に行っててくれ」


「……は?」


 縁の言葉に、沙耶は思わず礼儀も忘れて問い返す。それを特に気にしたようでも無く、縁は視線を外すと一言。


「俺は、少し。この上に用があるから」







「何でこんな事になってるんだ」


 現状を再確認してみて、俺はやはり何かがおかしいという結論に至った。


「あら、おいしくない?」


「いや、おいしい。おいしいんですけど」


 木製の小さなテーブルを挟んだ反対側に座るシスターの質問に応える。

 俺は今日行われる選抜試験の準備要員として早朝から駆り出されたはずだった。それがどうだ。いつの間にやら教会の中にあるシスターの生活部屋で、優雅にティータイムを楽しんでいるときた。全くもって意味が分からない。


「朝からご苦労な事よね。みんな張り切っちゃってさ」


「俺もその中の一員だったはずなんですけど」


「そなの? だってチミ、噴水の所で暇そうにしてたじゃない」


 ……事実なだけに、何も言い返せない。


「いいんじゃないの、別に。始まったら椅子に座ってガリガリ採点しているだけの試験官と違って、貴方は採点はされなくても参加はするんだからさ」


「……それはそうなんですが」


 そこまで言って、俺は言葉を切った。

 ここでぐちぐち言っても、俺が準備に戻っていないのは自分の意思であり事実なわけだし、意味が無い。

 それに聞きたかった事もある。


「本当に良かったんですか」


「何が?」


「試験前に手の内を晒してしまって、ですよ」


 前日、俺は会長を相手に“魔法の一撃(マジック・バーン)”を行使している。普通に考えるなら隠しておくべき奥の手であるはずだ。


『うまく機会を作って、試験前に一発かましておきなさい』


 それでもシスターはそう言った。

 そこにどのような思惑があったのかを、俺はまだ知らない。


「んー。その質問が出てくるって事は、もしかして貴方、“魔法の一撃(マジック・バーン)”が彼らに知られていない奥の手に成り得たって考えてる?」


「……。ええ、その通りですが」


 そう考えるのは自然の成り行きだろう。


「ならないわよ」


 しかし、目の前のシスターはいとも簡単にそうぶった切った。


「向こうは私がこの技法を使える事を知っているし、私が貴方と接点を持った事も知ってる。飛び道具を持たぬ貴方に私が教えるであろう事は向こうも当然推測できるわ」


「……なんですって?」


 今、聞き捨てならないセリフが聞こえた気がする。


「貴方も覚えているでしょ。私が最初に貴方をここへ招き入れる為に使った手段は放送よ。それもお昼休みにね。学園をサボってない限り、放送ってのは聞こえるものよ」


「そこじゃない」


 重要なのは、そこではない。


「この技法が使える事を、知っている?」


「ええ、そうよ」


「なぜ」


「教えない」


「……何ですって?」


 思いの外強い拒否に、面食らってしまう。

 普段のおちゃらけた態度はどこへやら。シスターは真面目な顔をして言う。


「聞きたけりゃ向こうに聞きなさい。この件に関して、私は貴方に一切の説明をする気は無い」


 もう一度、念を押すようにそう言った。


「なに、気分悪くした?」


「いえ」


 拒絶にも近い反応に驚きはしたものの、気分を害したわけではない。

 こちらは元々教えを乞うた人間だ。気になる事情ではあるものの、それが聞けないからといって逆上するのはおかしいだろう。

 それに形としては言わなかったが、シスターの指す『向こう』側の人物には何となく目星はついた。と言うより、あの男しかいない。試験が終わったらゆっくりと拳で聞いてみる事にするとしよう。


「なるほど。最初の疑問については解消されました。つまり、抑止力、と」


「そういうこと」


 身体強化魔法以外にも、手があるという事。

 それが伝わっているだけで相手の行動も牽制できるというわけだ。


「ま、試験でバンバン使うのは避けてほしいってのが本音だけどね」


「心得てます」


 昔滅んだとある一族が愛用していた秘匿魔法。

 シスターは、この技法をそう称した。それをあの男が知っている事も気がかりではあるが、今はそんな事はどうでもいい。つまりはあまり表に出したくない魔法であるという事だ。

 ……だとするならば、やはり抑止力という扱いは正しいのか。

 何やら勝手に自己完結できてしまった。


「んで、リナリーは元気にしてるわけ?」


「急に話を変える人ですね。元気ですよ。最近がどうかは知りませんが」


 前は護衛任務の都合でやり取りしていたが、暇を貰ってからはまったくと言っていいほど無くなった。最後に師匠の声を聞いたのは目の前のシスターに弟子入りする事が決まった日だ。

 もともと世間話をするような間柄でも無い。これが普通の距離感なのかもしれない。


「ふぅん。ま、そんなもんかね」


「何がです?」


「いんや、こっちの話さね」


 何やら1人で勝手に納得されてしまった。


「さて。そろそろ良い頃合いかね? 学園に向かった方がいいんじゃないの?」


「本当ですね」


 時計は既に8時を回っていた。早い学園生はもう登校し始めている時間だ。


「御馳走様でした」


「んー」


 お礼を言って席を立つ。片付けはやってあげると言うシスターに甘え、俺は生活部屋を後にする事にした。







 ありがとうございました、と。


 今日御馳走したお茶の件だけではない、今までの特訓の件も含まれた礼である事を十分に理解しつつ、メリッサはいつも通り陽気に手を振る事でそれに応えた。

 本館を目指し階段を下りる聖夜の後ろ姿が見えなくなった事を確認してから、メリッサは鋭い眼光を茂みに走らせながら言う。


「欲しかった情報は聞き出せた? そこにいるんでしょ。出てきなさい」







 午前9時。

 青藍魔法学園、魔法選抜試験。

 ――――開始。

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