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テレポーター  作者: SoLa
第2章 魔法選抜試験編〈下〉
48/432

第5話 2番手たる実力を

 生徒会館会議室の構造はそれほど難しいものでは無い。

 出入り口の扉は後方に1つ。入って直ぐの対面に、会計用の重厚な木製の机が控える。現状では、蔵屋敷先輩のマイデスクだ。机の上にはパソコンに膨大な資料、各種ハンコ類になぜか羽ペン、そして黒電話。


 会議室は横長に伸びており、中央には今俺たちが座っている長テーブル。もっぱらこうした生徒会会議に使用される(そもそも会議室なのだから当たり前)。ただこの長テーブル1つでも、やはり他の学校とは違う高級感がある。材質の良さそうな木を用い、中央にはどでかい花瓶。椅子もテーブルに合わせた木製の落ち着いた色合いで、なぜ一介の生徒会会議室に置かれているのか不思議なくらいだ。椅子は左右それぞれ5つずつ配備され、上座(いわゆるお誕生日席)に1つ。計11だ。生徒会役員は全6名の為当然ながら余る。

 その上座の席の後方には、我らが変態生徒会長のデスク。会計用の机より一回り大きく、背後には大きな窓ガラス。横にはこれまた立派な本棚。その対面には給仕室に繋がる扉がある。


「さてと、紅茶が全員に行き渡ったところで始めるとしようか」


 会長は、自分のデスクでは無く、長テーブルの上座に腰掛けてからにこやかにそうのたまった。

 目の前のティーカップに琥珀色の液体が注がれる。礼を言うと副会長はにこりと微笑んで応えてくれた。


 久しぶりの全員集合。最後に会議室に全員が集まったのは……。

 あれ、俺が生徒会に就任して初めて生徒会館に足を運んだ時か?


 着席の配置は、会長から見て左から順に会計・蔵屋敷先輩に書記の花宮。右に副会長・紫に特攻隊・片桐、そして俺となっている。

 前回も確かこの配置だったな。どうやらこれがお決まりの定位置となるようだ。


「いやぁ、こうして全員が集まるのも久しぶりだね。実に感慨深い」


「いつも全員が集まらない原因がご自身にあるという自覚はございますか?」


「ははは、照れるじゃないか。やめてくれよもう」


 ……。


 今の蔵屋敷先輩の発言が会長の頭の中でどのように意訳されたのか、誰か教えてくれ。


「ま、紅茶を飲みながらで構わない。聞いてくれたまえ」


 その声を合図に、花宮が目の前のノートパソコンのキーボードに手を添えた。


「選抜試験まで2週間を切った。具体的には後10日か。教員からも色々と仕事を受けている者もいるだろう。文化祭への準備も始まっている。それでもここまで問題無く無事に来ているという事は、皆の良き働きによるものだ。誇っていい」


 嫌に隙の無い笑みで一同を見渡す会長。今は稀にある真面目モードのようだ。

 ……この状態はこの状態でなんかムカつくな。


「まあ、引っ張っても仕方がないし本題に入ろう。最近ね、この学園内で妙な噂が流れている」


 その言葉で会議室の空気が少しだけ張りつめた気がしたが――。


「幽霊が出るらしい」


 ――気のせいだった。逆に空気が弛緩する。


「兄さんの悪癖も、ついにここまで……」


「……え、と」


 副会長は手にしていたティーカップをソーサーに戻すと、頭を抱える様にテーブルへと突っ伏した。

 書記である花宮は、この議題を議事録として残すべきか悩んでいるようでキーボードへと向かった手が虚しく宙を彷徨っている。


「寝言は寝て言ってください」


「あらあらあら、まあまあまあ」


 片桐の冷たい一蹴に、朗らかな蔵屋敷先輩の微笑みが混ざり合った。


「……ひどい言われようだと思わないかね、中条君」


「ひとまず病院に行ってください」


 話はそれからだ。


「うぅん、真面目な話なんだけどなぁ」


「片桐、お前そんな噂聞いた事あるか?」


「いいえ、皆無です」


 要らん質問を振るなとばかりに、片桐は目もくれずそう答える。


「先月、セキュリティ向上に関する話が教員側から下ろされたばかりでしょう。より堅固になった学園に、このタイミングでそういった異分子が紛れ込めるとは考えにくいです」


「そうよ。今なんて物資を学園内に入れるのだって、それなりの検問を敷いてるって話よ? 無断で侵入は難しいと思うわ」


「何で君たちは人間の仕業と決め付けてるんだい? 俺は幽霊だって言ってるんだけどね」


 片桐と副会長の正論を前にして、何で分からないかなぁとばかりに会長が首を振る。

 俺にはあんたの頭の中身が分からない。


「それに、そうやって頭ごなしに否定するのは良くないよ。実際に一部の学園生は見たと言っているんだからさ」


「その噂を、俺たちが耳にしたことが無いって言ってるんですが。そうですよね、蔵屋敷先輩」


「私はありますわ」


「あれ、あるんですか? 意外ですね。……。ん? ……は?」


 予想外の解答を発した蔵屋敷先輩を、思わず二度見する。


「……り、鈴音さん、別にいいんですよ? 兄さんの馬鹿なお芝居に付き合って頂かなくても」


 わたわたと蔵屋敷先輩を説得しようとした副会長だったが、


「いえ、付き合うという事では無く。私、その噂でしたら本当に聞いたことがありますわ」


 それは虚しくも空を切った。


「……ね?」


 その言葉に、会長がほら見ろと言わんばかりに胸を張っている。

 花宮は隣で淑やかな笑みを浮かべたままの蔵屋敷先輩をポカンと口を開けたまま眺めており、片桐は硬直したまま身じろぎ1つしない。副会長に至っては泣きそうになっていた。


 蔵屋敷先輩はこんなくだらない冗談に付き合うような人では無いはずなんだが……。だからこそ、余計に面倒臭い展開になりそうだ。


「まさかとは思いますけど、会長。本当に幽霊なんて非科学的なモノ、信じているわけじゃないですよね?」


 まずはそこだ。噂がどうであれ、あまりややこしい事にしたくはない。この男は簡単に対処できる物でも容赦なく引っ掻き回して大事にしてきそうだ。今後生徒会が動くにしても、ある程度方向性は限定しておく必要がある。


「それこそ何を言ってるんだい、中条君」


 しかし、そんな俺の心情は余所に会長は気取った感じで首を横に振った。


「魔法という非科学的なモノを操る魔法使いたる君が、非科学的なモノは存在しないなんてナンセンスな事は言わないだろうね?」


 しかもとてつもなく面倒臭い正論を持ち出してきた。

 隣から露骨なため息が聞こえる。その発信源である片桐は、もう何を言っても無駄だという表情で会長を睨んだ。


「それで。学園側は生徒会にどうしろと?」


「いや、別にこれは教師陣から指示が下ってきたわけじゃあない」


「……何ですって?」


 片桐が眉を吊り上げる。


「言っただろう。一部の学園生の噂、だとね。学園側はまだ正式な問題として取り上げてはいないよ」


 そりゃそうだ。こんなくだらない噂に右往左往するピュアな精神を持った教師なんざいないだろう。単なるゴシップネタくらいにしか捉えていないはずだ。


「だからこれは生徒会の自発的な対応だ。騒ぎになる前に原因を突き止める。ただでさえ選抜試験前でピリピリして来ているんだ。無用な混乱は避けるべきだと思わないかい?」


 癪に障るほどの正論だった。

 その会長の言い分を前に、片桐もぶすっとした顔で押し黙る。


「……原因は置いておくとして。兄さんの言い分は分かったわ。で、私たちは具体的にどう動くの?」


「それは沙耶ちゃんと中条君に任せる」


「は?」


 副会長の質問へトチ狂った回答をする会長相手に、思わず片桐とハモった。


「何でこの男と」


「何でこの俺が」


 後半は残念ながら別の主張だったが。


「沙耶ちゃんはこの生徒会における特攻隊長だからね」


「理由になっていません。何でこの男と2人で調べねばならないのですか」


「理由になってませんが。何で俺まで巻き込まれないといけないんですか」


「相性は良さそうだね」


「貴方の目はガラス玉ですか」


「あんたの耳はただの空洞か」


「い、息は合ってるみたいね」


 副会長までそんな事を言い出した。

 思わず隣に座る片桐と睨み合う。


「お前、同じタイミングで口開くんじゃねーよ。素敵な勘違いされてるぞ」


「私に指図しないでください」


「はいはいはい、痴話げんかはそこまでにしてくれるかな」


 パンパンと乾いた音を立てながら、会長が再び自らへと注目を集めさせた。


「さっきも言った通り、沙耶ちゃんはこういった事態では真っ先に動いてもらう役割だからね」


「俺は」


「だって君、何でも屋の雑用君だろ?」


「今ここで『番号持ち(ナンバー)』の序列変動させますが構いませんね?」


「そういう冗談は笑えないなぁ」


 本当にカチ割るぞコラ。

 凄みを効かせてみたが、案の定軽くあしらわれた。


「いやいや、別に深い意味なんてのは特に無くてね? 俺は構わないわけだ」


 自分の手元にあるティーカップをゆらゆらと揺らしながら、会長はポツリと。


「手を抜こうが実力を隠そうが。やるべき事さえちゃーんとこなしてくれれば、ね」


 その言葉に。

 議題が議題だけに微妙に浮ついていた会議室が、一気に張りつめた気がした。


「選抜試験項目の1つ、グループ試験。君のグループは、生徒会グループと当てる」


 俺が求めていた回答は、呆気なく本人の口から放たれてしまった。


「君が『番号持ち(ナンバー)』入りするのなら、それも結構。ならば、その力を皆の前で証明してくれたまえ。敢えて失礼な言い回しをするとだね」


 テーブルに肘を付き顎を掌に乗せ、会長は不敵に微笑みながら。


片桐沙耶程度(、、、、、、)に負ける実力なら、今の生徒会にはいらないんだよ」


「っ、兄さんっ!!」


 両の手でテーブルを叩きつけ、勢いよく立ち上がった副会長が叫ぶ。

 片桐の為か俺の為か。それとも口の悪い兄を叱りたかっただけなのか。それは分からない。

 それでも、副会長を止めたのは当事者の1人である片桐だった。隣の席から無言で手を差し出し、今にも飛び掛かりそうな副会長を制する。


 蔵屋敷先輩は、何も告げずに成り行きを眺めていた。花宮は突然の展開に音も無くわたわたしている。

 会長はそれを蚊帳の外だと放り出し、笑みを浮かべたまま俺を凝視している。


「これがクリアできたなら、正規生徒会役員として認めよう。見せてくれ。君の“青藍の2番手(セカンド)”たる実力を」


「受ける必要なんてないわ! 不条理すぎる!!」


 俺が答えるより先に副会長が吠えた。


「そんな目的で私たちを利用しようとしたってわけ!? 2年のグループが1つ余るから! 中条君たちのグループだけ実力が突出してしまってるから! だから相手に私たちを選んだんだって!! あの言い分は嘘だったっていう事なの!?」


「嘘じゃあないさ」


 激情に任せ叫ぶ副会長とは正反対に、会長はあくまでも平静な姿勢を崩さず淡々と答えた。


「ただ、もう1つ理由があったってだけでね」


「兄さ――っ!!!!」


「そこまでですわ」


 ひゅおっ、と。

 風を切る音が聞こえた。

 飛び掛かろうとした副会長の動きがピタリと止まる。同時に、一瞬時間も止まった気がした。

 木刀の切っ先が、会長と副会長の間へ割り込むように向けられている。それを握る蔵屋敷先輩は、席に着いたまま口を開いた。


「学園生の模範である生徒会の人間が揉め事を起こすのは、感心致しませんわね」


「……で、でも鈴音さん」


「反論があるなら口でなさい。手を出せばそれは単なる暴力です。違いますこと?」


「……その通りです」


「理解したのならば、着席を」


「……はい」


 副会長が席に着くのを見届けて、蔵屋敷先輩は差し出していた木刀を納めた。


「いつもながら見事な刀捌きだね。鈴音君」


「今後の行動如何によっては、その捌きの対象が貴方へ向く事もお忘れなきよう」


「おおっと、くわばらくわばら」


 蔵屋敷先輩は、会長の少しも反省を見せぬ態度に再び口を開きかけたが、直ぐに閉じた。

 どうやら何を言っても無駄だと悟ったらしい。


「つまりはそういうわけだよ、中条君」


 直ぐ傍の席で小さく唸り声をあげる副会長をガン無視して、会長が俺に振ってくる。


「俺が――」


「先に言っておくけれど。君に拒否権は無いからね。これは提案じゃないのだから。あ、あと黙秘権も無いよ」


 色々と大切なモノを奪われた。まあ、今はどうでもいい。


「じゃあ、俺たちのグループが勝ったら何をしてくれるんです?」


「何だって?」


 想定外の質問だったのか、会長にしては珍しく怪訝な顔を見せた。


「生徒会役員は生徒会長に任免権がある事は知ってます。ですが、今回提案されている試験をこの場にいる全員がこなしてきたとは思えない。今の立場をわざわざ無にされる危険を冒してまで、貴方の試験に乗るメリットは何ですかって聞いてるんです」


「そ、そうよそうよ! 彼だけ試験制にするのは卑怯よ!!」


 俺の質問に全力で賛同するが如く、副会長も叫ぶ。


「じゃあたった今、君を罷免にしようか」


「はぁ!?」


 その横暴な物言いに、俺よりも先に副会長が驚きの声をあげた。

 ただ俺も心境としては同じだ。この男、生徒会長を一番やっちゃいけない人間だろう。

 これには流石に反論させてもらおうと思ったところで、思わぬところから援護射撃が入った。


「それは少し横暴が過ぎるのではありませんこと?」


 今まで中立の立場を貫いていた蔵屋敷先輩が横やりを入れる。副会長もぶんぶんと首を縦に振った。


「そうよ。だったら兄さんも何か賭けるべきだわ。中条君ばかりリスクを負ってるじゃない」


「……ふむ」


 その言葉に、会長が顎を撫でる。

 会議室に沈黙が訪れた。花宮がそわそわしている以外、皆ぴくりとも動かない。

 全員の視線が自分に集中した事を確認したところで、会長が改めて口を開いた。


「可愛い可愛い妹にここまで頼まれてしまっては仕方が無い。中条君、君が勝ったらどうしたいかね?」


「あんたのこと一発殴らせろ」


「……結構マジな顔してるけど、もちろん冗談だよね?」


 その質問には笑顔で応えてやった。


「い、いけないぁ、暴力は。俺たちは模範たるべき生徒会の人間だよ? そういう事は――」


 会長が何やらたらたら喋り始めた横で、副会長が立ちあがった。


「青藍魔法学園生徒会執行部副会長・御堂紫の名において、この勝負を承認します」


「ちょ」


「愛ちゃん。議事録」


「え? あ、は、はい。分かりました」


 カタカタと音を鳴らしながら、花宮の指が滑るようにキーボードを這う。


「おいおいおい。鈴音君、流石にそれは無いよね?」


「申し訳もありませんわ。どうやら私、うたた寝をしてしまっていたようです」


「さ、沙耶ちゃん?」


「……」


 片桐は目を閉じたまま何も答えない。


「あ、愛ちゃん」


「あ、ちょ、ちょっとだけ、あとちょっとだけお待ちください。もう少しで打ち終わりますから」


 会長はその議事録の内容を否定したいんだと思うんだけどな。

 何を申し合わせたわけでも無いのに、会長を除いた生徒会は見事な団結を見せていた(花宮だけは素)。どれだけ会長相手にフラストレーション溜めてんだこの人たち。

 ふと視線を感じてそちらに目をやる。片桐と目が合った。


「……結局、貴方とは遣り合う事になりましたね」


「俺としては避けたい展開ではあった」


「何を今更」


 片桐は鼻を鳴らして目を逸らした。


「あの時垣間見せられた貴方の実力、ここで晒して頂きましょう」


 あの時。


『あ、貴方……。いったい……』

『俺は“出来損ないの魔法使い”。それ以上でも以下でもねぇよ』


 俺と大和の仲裁に入った片桐を、軽くあしらってしまった時。

 あの時は、あれで終わったものだと思っていたんだけどな。


「貴方の事情は理解しているつもりです。ですが、手は抜きません」


「そうしろ。女に手を抜かれて勝ったって、こっちも目覚めが悪いだけだ」


「女だからって甘く見ない事ですね」


「俺に勝ってから言え」


「……」


「……」


「おーい」


 無言で睨み合っていたところで、会長から声が掛かった。


「良い感じになってきてるところ悪いけどさ。勝負の前に2人で幽霊騒動も何とかしてくれよ」


「う」


「げ」







 その後さんざん揉めまくったものの結局会長の口車を打ち破る事はできず、俺と片桐が幽霊事件の担当役として確定してしまった。


『……やるからには全力で取り組みます。貴方もしっかりと励んでください』


 とは片桐の弁。

 正直な所、決まった後にでも「私は私で勝手にやります」とか言ってくると思っていたのだが……。ある意味で予想通り、片桐は生真面目な性格らしい。


 会長の話によると、幽霊が目撃されたという時間帯は決まって夜、それも寮棟の門限が過ぎた後だ。

 その時間帯に出歩ける学園生といえば、生徒会を除くと試合を控えた部活に所属している学園生などの特別な理由を持った者のみ。それも事前に学園へ届け出をしそれが受理されていなければならない。そういった目的を持った人間のみからの情報であることから、ある程度の信頼はあるという会長の根拠は、まあ頷けるものだ。


 それが本当に幽霊の仕業であったかどうかは別にして。

 幽霊まがいのものから物理的な被害を受けた学園生は今のところゼロ。現段階では、それらしきものを見たと言うレベルで収まっている。目撃場所は様々で特定ができない。

 ただ、皆一同が「青っぽい影が見えた」と主張しているらしい。


「……青っぽい影、ねぇ」


 1人呟き寮棟の扉を開ける。

 副会長は会長に今回の件(俺への入会試験まがいの事)について直談判をと、生徒会館にて未だに会長へと詰め寄っている。面倒事へと発展しないように蔵屋敷先輩と花宮が仲裁役に回っているのを見たが、どこまで効力が及ぶのかは分からない。

 生徒会役員による問題沙汰で、反省文にならないことを願う。


 片桐は早々に切り上げて教員室へと向かっていった。夜の見回りを行う許可を貰いに行くとの事だったので、俺もついて行こうかと聞いたところ、


『貴方がついてくるメリットは何ですか』


 とおっしゃられたのでそのまま直帰する事にした。

 くそ、人の厚意を無下に扱いやがって――。


「やっと帰って来たわね」


「……あ?」


 そんな事を考えていると、前方から声が掛かった。視線を上げてみるとそこには。


「……舞? それに可憐と……」


「こんばんはっ、中条せんぱい!」


 可憐の妹である姫百合咲夜(ひめゆりさくや)までいた。


「こんな時間にどうした」


 3人とも、まだ制服姿だった。後ろの談話スペースのテーブルにジュースやらお菓子やらが散らばっているので、どうやらここで時間を潰していたらしい。


「貴方を待ってたのよ」


 理由はずばり単純明快だったらしい。


「試験についていい加減話しておかないとまずいし。それに……」


 舞の視線が可憐の方へと向く。可憐は舞に1つ頷くと口を開いた。


「少し、気になるお話を伺いまして」







 俺がまだ夕食を食べてないという事で、話す場所は寮棟にある食堂へと移すことになった。

 券売機で適当に食券を買い、食堂でアルバイトをしている学園生に手渡す。舞たちは既に食べていたようで、飲み物だけを注文していた。


「さてと、遅くなって悪かったな」


 広い食堂の隅っこのテーブルを陣取り、椅子に腰かける。隣に舞が座り、対面に可憐と咲夜が着いた。


「で、試験の話だっけか」


「そうよ。そろそろ練習に入らないとまずいんじゃないかって思ってね」


「お前、確か余裕で勝てるとか何とか言ってなかったか?」


 教室で可憐と練習の話をした時、1人だけ違う感想を抱いていたように思えたのだが。


「なーんか事情が変わって来ちゃってるみたいでねぇ」


 ちゅーっとストローでアイスコーヒーを飲みながら、舞が言う。


「事情?」


「クラスの方からお聞きしたのですけれど」


 可憐が言う。


「どうやら私たちのグループは、臨時で参加する事になった生徒会によって構成されるグループと戦う事になっている、と」


 一瞬、言葉に詰まった。


「……クラスの奴が言ってたのか?」


「はい。その方は部活の先輩からお聞きしたらしいのですが」


「可憐に『大変だろうけど頑張ってね、応援してる』とか言ってたから、何かと思って聞いてみたらそういう事だったのよ」


「へぇ……」


 部活の先輩って事は、3年か。会長が大和に情報を流す為に仕掛けた噂が流れてきたって考えると、辻褄は合うよな。


「聖夜、貴方はどう――」


「そうか、良かったな。可憐」


「はい?」


「はぁ?」


「へ?」


 舞の言葉をぶった切って告げてやると、女子3人から見事に首を傾げられた。

 いや、そんな的外れな事を言ってるつもりはないのだが。


「自分の事を心配、応援してくれる奴がいて良かったじゃないか。友達作りは順調に進んでいるようだな」

 立ち上がり、テーブルに身を乗り出してぽんぽんと肩を叩いてやる。


「は、はぁ……。そうなのでしょうか」


「ああ、舞を見てみろ。お前と同じグループであるにも拘わらず、誰にもそんな事は言われてない。心配されたのはお前だけだ。これは一歩リード……いや、この言葉は的確だが適切ではないな。こほん、一歩前進だぞ」


「……聖夜、ひとまずこっち向いて歯を喰いしばりなさい」


「冗談だ」


 乗り出していた身体を戻し、どかっと席に座る。


「じょ、冗談、だったのですか……」


 少しだけ残念そうな可憐はスルーした。本当に欲しいと思ってんならもっと積極的になれ。


「じ、実は私も聞いたんです……」


 頃合いを見計らってか、今度は咲夜が口を開いた。


「クラスの子から『お姉さんのチームは生徒会と戦うってホント?』って」


 生徒会と戦う、ね。学園に喧嘩売りに行くみたいな表現だな。

 俺、一応生徒会の人間なんだけど。


「そいつも部活か何かで聞いたのか?」


「は、はい。委員会の人から聞いたみたいです」


 ……思いの外、噂は広がりを見せているらしい。

 まあ、隠す事でもないのか。


「はぁ……」


 思わずため息が出た。

 プレッシャーになるし、試験でやるべきことは変わらないのでギリギリまで伏せておくつもりだったのだが。

 時間の問題だったのかもしれないな。それに、これは2人にとって見れば俺の問題のとばっちりだ。きっちり話しておくべき事だったのかもしれない。


「ま、本当かどうかは置いとくとして。用心しておくに越した事はないでしょ? だから――」


「本当だ」


「え?」


 簡潔に告げる。その答えに可憐がピシリと固まった。


「その噂は本当だ。どこから出回ったのかは知らないが、俺も今日聞かされたよ。それを仕組んだ本人からな」


「し、仕組んだ本人って……」


「生徒会長だ。御堂縁」


 まったく予想していなかった人物だったのだろう。質問した咲夜は目を丸くする。

 対して舞は頬杖を付きつつアイスコーヒーをストローでかき回しながら、面白く無さそうに口を挟んだ。


「なんで生徒会長がでしゃばってくるのよ」


「それは、まぁなんというか……」


 俺のせいなんだけどさ。


「この試験で、俺が生徒会役員として相応しいかを見極めるんだと」


 あと、2番手に相応しいかどうかもな。


「貴方、正規メンバーになったんじゃなかったの?」


 舞が怪訝な顔をして問うてくる。


「その線引きが曖昧なんだ。役員の任免は会長職に一任されているからな。外から見りゃ、転校生がいつの間にか生徒会にいたって感じだろうし。何より……」


 ぐいっと自分の学ランの襟を引っ張って3人に見せる。


「ほら、付いてない(、、、、、)だろ?」


「……ああ、生徒会の紋章ね」


 舞は納得した顔をして頷いた。

 他の5人は皆付けている。付けていない……、というよりも貰っていないのは俺だけだ。


「……あれ?」


 その話を聞いて、咲夜が額にしわを寄せる。


「中条せんぱい。じゃあ、この試験で会長さんから認めて貰えなかったら、中条せんぱいってクビになっちゃうんですか?」


「……多分な」


 あの人なら本気でやるだろう。


「はぁ!?」


 舞が眉を吊り上げる。可憐も微妙に顔をしかめた。


「……本当にそのような権限が会長職にあるのですか?」


「ああ。この学園の制度では、生徒会役員全ての任免権が会長職にある事を謳っている」


 俺のような見習いだけではない。書記や会計は愚か、副会長の任免まで思うがままだ。気に入らなければ即座に切り捨てる事ができる。見れば見るほど、絶対王政だった。


「そ、それはいくらなんでもひどいと思いますっ」


 咲夜がそう言った直後。


「特訓よ!!」


 大きな音を立てて、舞が立ち上がった。


あの女(片桐)には恨みがあるんだからね。聖夜が手を下す前に、私が木端微塵に吹き飛ばしてやるわ!!」


「……もうちょいソフトにいこう。ソフトに」


 ともあれ、モチベーションの低下やプレッシャーに繋がらないのなら何よりだ。


「それで、練習についてなのですが……」


「そうだな。相手が相手である以上、やっておく必要はありそうだ」


 可憐の言葉に賛同する。

 というか、やっとかなきゃ勝ないぞ。あいつらには。


「1つ問題がありまして」


「あん?」


「練習場所が、ありません」


「へ?」


 無い? どういう事だ?


「既に魔法が使える施設の予約はいっぱいになってしまっておりまして……」


「げ」


 そういや片桐と揉めてた3年も、それが原因で問題起こしてたんだっけ。


「……仕方がないわね」


 ため息を吐きながら、舞が言う。


「協力して貰うわよ、聖夜。元々は貴方がぼやぼやしてたせいなんだからね」

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