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テレポーター  作者: SoLa
第12章 ユグドラシル編〈下〉

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第2話 代弁者

 ブックマークや感想、レビュー等ありがとうございます。

 読んでくださっているという事実が目に見える形で分かるため、とても嬉しいです。




 温かい。

 ぬるま湯に浸かり、揺蕩う波に身を任せて彷徨っているようだ。


 そう感じたのは、果たしていつの頃だっただろうか。


 最初は、ただ寒いだけだったのに。

 全身が凍えるように寒かった。

 そして痛かった。


 割れるように痛かった頭は、もう何も感じない。

 思考がふわふわと浮いているようだ。


 胸から何かが零れ落ちていくような感覚も無い。

 既に塞がり、温かい何かで満たされている。


 何かが聞こえる。

 耳鳴りしか聞こえなかったはずなのに。

 そして、その耳鳴りすらも、聞こえなくなったはずなのに。


 聞こえる。

 何かが聞こえる。


 マスター、と呼ぶ声が。


 ずっと、聞こえるんだ。

 誰かの声が。


 悲しそうな声で。

 必死そうな声で。


 ずっと呼んでいる。

 マスター、マスター、と。


 マスター。

 マスターとは何だ。


 そうだ。

 マスターとは、俺だ。


 あいつが。

 あいつが俺を呼ぶときの愛称だ。


 あいつとは誰だ。

 あいつとは、ウリウムだ。


 俺の魔法伝導体マジック・コンダクター

 俺の、相棒だ。


 あいつが。

 ウリウムが、俺を呼んでいる。


 応えなければ。

 あいつが、俺を呼んでいるんだ。


 寄せては返す波の中で。

 俺は、揺蕩う身体に力を入れた。







《マスター!》


 身体を起こす。

 視界いっぱいに広がったのは、光の世界だった。


 一面に広がる草原。

 周囲に立ち並ぶは、空を覆い隠す程に枝と葉を伸ばす樹木。

 そして、煌びやかに彷徨う光の粒子。


 俺が座り込んでいるのは、木々によってドーム状となっている草原の中心部分だった。


「……あれ、俺死んだ?」


 幻想的な風景に見惚れながら、俺はそう呟いた。


《縁起でもないことを言わないでよ!!!!》


 キーン、とした。

 耳ではない。頭が。


 ぼんやりとしていた思考がクリアになる。

 そこで、全てを思い出した。


「あれ!? 俺、生きてる!!」


 全身をまさぐるが、どこにも異常が無い。


 おかしい。

 俺は蟒蛇(うわばみ)(すずめ)の魔法で全身に風穴を空けられたはずだ。


「……夢?」


《あーあー! もっかい大声出しちゃおっかなー!》


「分かった分かった! ごめんごめん!」


 ウリウムに謝る。

 俺にしか聞こえない念話のため、鼓膜に影響は無いが直接脳に痛みが来るんだよ。


「……それで、ここは?」


《あたしの故郷》


「それって……」


 ざわり、と。

 空気が揺らいだ気がした。


 ――――よくぞこの地へ辿り着いた、『代弁者(オラクル)』よ。


 ウリウムとのやり取りとは違う。

 鼓膜を通した会話ではない。おそらくは念話だろう。

 それでも、ウリウムとは違う違和感を覚える声だった。


《……マスター?》


「あ……、ああ、大丈夫。今の声は?」


《あたし達の声。貴方達の言う、精霊王よ》


 なるほど。

 やっぱりそうか。


 それじゃあ、ここは……。


「危険区域ガルダー。そして、周りに生えているのが、かの有名な妖精樹ってやつだな」


 ――――察しが良いな、代弁者。


「それで、そのオラクルっていうのは?」


《私達の声が届く人のことよ。誰もが聞こえるわけでは無いからね》


「そうか」


 そう言えば、そんなことを言っていた気がする。

 あれは確か、修学旅行で魔法世界を訪れた時のことだ。


 ウリウムを譲ってくれたお礼のために、ルーカスさんの工房を訪れた時のこと。

 ウリウムと向かい合って対話した時に教えてくれた。


 メイジ以降、意思疎通ができるモノは貴方が初めてなのよ、と。

 だからこそ、興味を持つのは当たり前でしょう、と。


 事実、俺が持つMCを通して会話をしていたウリウムの声も、聞こえていたのは俺だけだった。あの完全無欠の大魔法使い、リナリー・エヴァンスですら聞こえていなかったのだ。そう考えながら、腕に装着したMCへと目を向ける。


「やっぱり、これを作るための材料を取りに来た師匠達も、意思疎通は取れなかったんだな」


《そうね》


 ――――魔法に愛された、凄まじいモノ達が来たものだ、とは思ったがな。


 でしょうね。

 そのうちの1人、今世界最強を名乗ってますから。


「どういう理屈で俺は聞こえるんだ?」


《それが分かれば苦労しないわ》


 それもそうか。

 納得し、改めて周囲を見渡す。


 光の粒子が彷徨い、消えていく様はとても美しい。

 本当に、一瞬あの世かと勘違いしたほどだ。


「俺はどうやってここに?」


《貴方を運んでくれた人がいたのよ。ここへ送り届けてくれた後、すぐにいなくなっちゃったけど》


「……まさか、蟒蛇雀じゃないだろうな」


《それこそまさか、よ。あの女の最後、聞く?》


「いや……、遠慮しておくよ」


 身体に風穴を空けて吹き飛ばしてやったのだ。

 それも、この危険区域ガルダーの中で。


 抵抗できなければ、今頃は魔法生物の腹の中だろう。

 それだけ聞ければ十分だ。


 ――――個体名エルダ・ブロウリー・ジェーン。剣聖と呼ばれる老人だよ。


「剣聖……」


 これはまた大層な2つ名を持った人がいたものだ。いや、この危険区域ガルダーを、俺という荷物を文字通りに背負った上で動き回るほどの人間だ。そのくらいの強さが無いと共倒れで終わっていたのだろう。なんにせよ、助かったことには変わりない。命の恩人である。


 ――――この地に住んでいるようだし、今のお前なら会いに行けるだろう。


「住んでいる?」


 この危険区域ガルダーに?

 そんな人間が存在するのか。

 凄いな。


「それなら、そのうちお礼に行かないとな」


《……そうね》


「どうした?」


 歯切れが悪い。

 何か不都合でもあるのだろうか。


 まあ、いいか。

 本当に嫌なら、ウリウムの方から言ってくるだろう。


「そっか。倒せたのか……」


 自分の手のひらを見つめながら、改めてそう呟く。


 正直、実感が無い。

 あの化け物を、俺は倒せたのか。


 しばらく無言だったのだが、ウリウム達は黙って俺の様子を窺うだけだった。


「……それで」


 気持ちを切り替える。

 いつまでも感傷に浸っている場合ではない。


「ウリウムからの話では、この地に精霊王全員が揃っていると聞いた。俺に話しかけてくれているのは誰なんだ?」


 ――――少し語弊がある言い方だが……。この場で正す必要も無いか。ライオネルタだ。


 ということは光属性のやつだな。


「他のやつらは?」


 ――――喋っていいの!?


「うわっ!?」


 キーンってした!

 キーンって!


 ――――こんにちはこんにちはこんにちは! ねえねえねえ私はガルガンテッラって言うのよろしくね! 君とウリウムの馴れ初めが聞きたいな。もちろん、この国の中で起こった出来事なら把握しているのよ? でもでもでもさ、やっぱりこういうのは当事者ってやつの口から聞きたいじゃない? 禁断の恋ってやつしちゃってるわけ? きゃー羨ましー! 私も混ぜて混ぜて混ぜて! 実は最初から思っていたんだけど、貴方の魔力とってもおいしそ……。


 ズドン、と。

 馬鹿みたいに大きな音が鳴り響いた。


 音源に目を向ければ、俺を中心として円状に自生している妖精樹7本のうち、1本の幹から煙が上がっている。


 ――――ガルガンテッラ。少し黙れ。


 不機嫌そうな声が頭に鳴り響く。

 この声色は、おそらくライオネルタのものだろう。


 ――――とまあ、このように収拾がつかなくなるのでな。


 それで、誰が話すか決めていた、と。


 ――――改めてよくぞこの地へ来た。代弁者よ、歓迎しよう。趣向品等は出せないがな。


「ありがとう。俺の身体も治してくれたみたいだな。助かったよ」


 そこまで話してから気付いた。


「あー、そういえば言葉遣いは……」


 ――――気にする必要は無い。


「そう言ってもらえると助かるけど……」


 本当にいいのだろうか。


 ウリウムとは、それなりに親しくなってから正体を明かされたので問題なかったが、一応、というより、こいつらは魔法の神様みたいなものなのでは。本当にこんな感じでいいのだろうか。


《マスター。良いって言ってるんだから、深く考えちゃダメ》


 そんなものか。

 ウリウムがそう言うなら、そういうことにしておこう。


 立ち上がり、魔法服についた葉や土を払い落とす。


 ――――む。もう行くのか。


「あぁ。助けてくれたことには感謝しているし、色々と聞きたいこともあるんだが、ゆっくりしている時間は無いんだ」


 本当なら、聞きたいことがたくさんある。


 師匠達がここへ訪れた時のことも聞きたいし、なんなら始まりの魔法使いやその弟子である七属性の守護者達の話も聞いてみたい。いずれにしても神話に近い内容となるだろう。それを生き証人のような存在から聞くことができるのだ。信憑性は極めて高いと言える。そして、何より精霊王達の話も聞きたかった。彼らは一体何者なのか。もはや魔法の神髄と言っても過言ではない。


 しかし、である。


 懐からクリアカードを取り出す。内容を確認しようとしたのだが、残念ながらクリアカードは起動しなかった。これが危険区域ガルダーの魔力によるものなのか、それともこの妖精樹が自生する地域特有の障害なのかは分からない。しかし、時間すら分からないのはまずい。スマホも起動しないし、さっさと戻った方が良いだろう。


 俺は蟒蛇雀を連れて危険区域ガルダーへとやってきた。それからいったいどれほどの時間が経過したのかが分からない。天道(てんどう)まりかに託すことになった『脚本家(ブックメイカー)』の分身体は無事なのか。テンチシンメイはどうなった。あいつや側近共の魔力を辿れば、俺の『知覚拡大エリア・イクスパンション』と『神の書き換え作業術(リライト)』の合わせ技で仕留めることができる。


 ――――えぇ……。もう行っちゃうのぉ? だったらだったらだったら私も連れて行ってよぉ。


 ――――おい、ガルガンテッラ。


 ――――アギルメスタは黙ってて。私の名付け親の子孫も死んじゃったしぃ、つまんないんだも~ん。


《あ、だめ!!》


「ちょっと待ってくれ」


 頭の中で勝手に進められていく会話を制止する。

 今、なんて言った?


「名付け親の子孫が……、死んだ?」


 それの意味するところは。


 落ち着け。

 呼吸を整えろ。


 まだそうだと決まったわけじゃない。

 その死んだという子孫が、あいつだと決まったわけじゃないんだ。


 しかし。


 ――――そうそうそう、そうだよ。個体名マリーゴールド・ジーザ・ガルガンテッラは死んだ。私、あの子のことわりと気に入っていたんだけどなぁ。


《マスター!》


 気付けば俺は、膝から崩れ落ちていた。


 呼吸が荒い。

 いや、どうやって呼吸していたか方法が思い出せない。


 咳き込む。

 何度も、何度も。


 視界が明滅している。

 どうしていいのか分からない。


 死んだ?

 エマが?


 なんで?


 嘘だ。

 そんなのは嘘だ。


 だって。




 約束したじゃないか。




《マスター!!》


 ウリウムの声が、脳天を貫いた。


 そこで、正気に戻る。

 自分が今、四つん這いになって吐瀉物を撒き散らしていることに気付いた。


 咳き込む。

 何度も、何度も。


《マスター! 落ち着いて、お願い!! あたしの声を聞いて!!》


「……あ、あぁ」


 息も絶え絶えに声を出す。

 もう一度大きく咳き込み、喉に引っ掛かっていた吐瀉物を吐き出した。


 そこで、ようやく新鮮な空気を身体に取り込むことができた。

 口を拭って立ち上がる。


 ――――あー、私、まずいこと口走っちゃったかなぁ。


 ――――ガルガンテッラ、貴様はいい加減に……。


「いや……、止めないでくれ」


 誰かは分からない。

 ガルガンテッラへ苦言を呈していた声を制止する。


「ガルガンテッラ、教えてくれ。エマは……、お前の子孫はどこで死んだんだ?」


《マスター!》


「ウリウムは黙っていてくれ」


《黙らないわよ! マスターはそれを知ってどうするつもりなの!?》


「そんなの決まっている! そこへ向かうに決まってんだろうが!!」


《向かってどうするのよ!! エマちゃんはもう……》


「だから何だ!!」


 口ごもるウリウムに向かって叫ぶ。


「説明されなくたって分かる! あいつは絶対に、行方が分からなくなった俺を探しに行ったんだ!! 蟒蛇雀と一緒に転移したことは、天道まりかが知っている!! あいつなら絶対に、何を差し置いてでも俺を探しに出たはずだ!!」


 そう。

 あいつなら。


 文字通り、何を差し置いてでも飛び出しただろう。


「死んでいるってのはおそらく本当だろう。お前たちがこんなことで俺に嘘を吐くとも思えないし、そんなメリットがあるとも思えない。だけどな、死んでいるならさっさと切り捨てて次の事を考えよう、なんて効率的な考え方ができるほど、俺は賢くない」


 腕に装着されたウリウムを見る。


「教えてくれ。エマは今、どこにいる。さっき、ガルガンテッラがエマの死を教えてくれた時、最初に制止したのはお前だったな。つまり、お前もエマの死は知っていたって言うことだ。


 だめ、と。

 ウリウムはそう口にしたのだ。

 ガルガンテッラが事実を口にする前から。


 言語化せずとも意思疎通ができるというなら、どちらにせよエマの死はウリウムも知っていたことに他ならない。


「できればお前に教えてもらいたい。できないなら、ガルガンテッラに聞く」


 しばらくの沈黙。

 その間、他の精霊王達も空気を読んだのか誰も喋らなかった。


 やがて、ウリウムがその重い口を開いた。


《……罠かもしれないのよ》


「俺とずっと一緒にいたはずのお前が、エマの死を知っている時点で感知能力が格段に上昇していることは分かっている。おそらく、この妖精樹の近くにいるからだな。そして、エマの死を知っているということは、エマがいる場所に罠が張られているかどうかも分かっているはずだ。そのお前が、罠があると断言しなかった。つまり、罠は無いな」


《……どうして、こんな時だけちゃんと頭が回るのよ》


 お前、それめちゃくちゃ悪口だからな。


「それに、罠があろうがなかろうが俺には関係ない」


 いつかの世界線で、死んだと分かっているはずのヴェロニカを見捨てられなかったように。

 俺はきっと、何度やり直しても、誰も見捨てたくは無いんだ。


「ウリウム」


《……古代都市モルティナ。マスターたちが一度乗り込んで、既に放棄されていた『ユグドラシル』の拠点。そこにエマちゃんはいるわ》


 そうか。

 あそこか。


 教会にある祭壇の下。

 まるで青藍魔法学園の教会の地下に似た隠し方をしている、あそこか。


「案内してくれるよな。してくれなきゃ、ここで俺は『魔力暴走(オーバードライブ)』を使わざるを得ない」


 妖精樹が自生しているこの場所は、まず間違いなく危険区域ガルダーの中。やみくもに駆け回るのはリスクしかないので、最短経路で駆け抜ける必要がある。そのためには、『知覚拡大エリア・イクスパンション』を利用するしかなく、それを使うためには『魔力暴走(オーバードライブ)』が必須だ。


《……分かったわよ》


 ウリウムは、本当に渋々といった声色で了承した。


 ――――行くのか。


「あぁ。折角来たのに悪いな」


 ――――いや、構わない。どちらにせよ、予言とは違う出会いだ。


「予言?」


 ――――それはまたいずれ、君がこの地へ訪れた時にでも話してやろう。


「そうか。分かった。俺を治してくれてありがとう」


 ――――うむ。君の行く末が、光に満ちていることを祈っている。


 ――――火にもな。


 ――――雷もね。


 ――――風も!


 ――――土もだ。


 ――――闇もよ!


 ここで初めて聞く声色が、いくつも脳へと流れ込んでくる。

 色々と混ざり過ぎていて混沌とした道になっていそうだな。


《残念。マスターの行く先には水の加護が満ちているから》


 しっしっ、と言わんばかりにウリウムが牽制している。


 ――――次に来る時は、妖精樹で作成されたもう一つのMCも持ってくると良い。


「分かった」


 あれ、今誰が持っているんだっけか。


 色々と聞きたいことはあるが、俺はエマの状態を確認した後は『脚本家(ブックメイカー)』に頼んで遡りの神法を使用してもらうつもりでいる。これ以上、情報を仕入れると消費する魔力量で拒否される可能性がある。あまり長居はしない方が良い。そういった意味でも、ここで昔話を聞かなかったのは正解だったというわけだ。


「また来る。それじゃ……」


 元気で、と続けようとしたが、こいつらは寿命を持つ生物ではない。病気と言う概念も無いかもしれないので、言うのは止めておいた。


 地面を蹴る。

 ウリウムのナビのもと、俺はこの光り輝く地を後にした。







 古代都市モルティナには、そう苦労せずに到着した。


 危険区域ガルダーのS区域からここまでを単独で踏破した形になるが、これは期間限定でバージョンアップしているウリウムの完璧なナビと、俺の無系統魔法『書換魔法(リライト)』の合わせ技があったからこそ実現したものだ。決して、俺の実力だけでできたわけではない。


 以前、ティチャード・ルーカスさんの工房で、俺は精霊王達が集う精霊樹のもとへ行くことを渋っていたことがある。その際、ウリウムがなんでそこまで心配するのかと疑問を抱いていた意味が良く分かった。確かに、今の俺であれば、ウリウムのナビさえあれば移動自体は容易にできる。なにせ、危険な魔法生物とは一度たりとも遭遇しなかったのだ。また機会があれば、あの地を訪れて昔話をゆっくりと聞きたいものだ。


 別名、廃墟街とも呼ばれるこの地は、以前訪れた時と同じく人気がまるで感じられなかった。


 以前とはつまり、魔法世界にやってきてすぐに『ユグドラシル』の拠点を強襲した時の話ではあるのだが、それが随分と昔のように感じてしまう。あれから、俺は『脚本家(ブックメイカー)』の神法でエルトクリア大図書館へと呼び出され、アマチカミアキと対峙。そして、蟒蛇雀と戦闘になり、天道まりかと共闘するも街への被害を考慮し、危険区域ガルダーへと転移。俺は蟒蛇雀を撃破するも意識を失い、剣聖の手によって妖精樹の自生するあの光り輝く場所へと連れていかれたのだ。


「思い返せば、あっという間だった気がする」


《あっという間というその間に、何度マスターは死にかけたんでしょうね》


「悪かったって」


 ウリウムと会話しながら歩く。


 本当なら、こんな道草などせずにさっさとエルトクリア大図書館へ向かった方が良いのは分かっている。でも、俺は確かめなければならない。エマが一体、どこでどうなってしまったのかを。遡りの神法を使ってもらったところで、エマがなぜ死んでしまったのかを確かめておかなければ、次も同じ目にあってしまう可能性があるからだ。


 これは、必要な情報だ。

 私情が無い、とは言わない。


 そもそも、エマを死なせたくないから遡りをしたいという考え自体が既に私情なのだ。『脚本家(ブックメイカー)』が俺の願いに応じてくれるかも分からない。師匠の死は、『脚本家(ブックメイカー)』にとって都合が悪かったから遡りの神法を発現してくれた。


 しかし、エマの死はどうなんだ?

脚本家(ブックメイカー)』にとって、それは遡りに値する事なのか?


 俺は頭を振ってもやもやする思考を飛ばす。


 悪い事ばかり考えるな。本当ならすぐにでも遡りの神法を発現して欲しい。しかし、ここでエマの死について情報を得ておかなければ、なんとなく後悔するような気がしてならない。確証は無い。そう思った根拠があるわけでもない。それでも、行かなければいけないような気がしていた。


 ウリウムは、罠は無いと言っていた。その回答が、俺の行動を後押ししてくれている、というのもあるだろう。危険が無いのなら、確認しておくに越したことはないのだ。


「……ん?」


 廃墟となった街並みを歩いているうちに、違和感に気付いた。

 それは、たった今歩いている道路にあった。


 赤い斑点が飛び散っている。まず見間違えようもなく、これは血の跡だ。量からして、襲われたこの人は死んでいるだろう。しかし、問題なのはこの血の跡だった。


「乾いてはいるが、新しいよな」


《……そうね》


 俺達が強襲を掛けた後にできた血か。

 それとも、強襲を掛ける前からあったのか。


 後者の可能性は低いか? 俺達が最初に古代都市モルティナに来た時には、既に人気は無かった。あの時にまだ生き残りがいたとすれば、先行していた『白銀色の戦乙女』と『赤銅色の誓約』の面々が気付いていたと思う。それに、『ユグドラシル』がここの住人を殺害したのだとすれば、ここの住人は『ユグドラシル』の敵であるはずだ。そうなると、俺達が強襲した時に姿を見せないのもおかしい。


「俺達が最初に『ユグドラシル』の拠点に攻め入った時、それより更に前にあったとすれば……」


 ここの住民達は、ぎりぎりまで生きていたことになる。殺したのは誰か。十中八九、『ユグドラシル』ではあるだろう。問題なのは、どうしてここの住民を皆殺しにする必要があったのか、だが。


 いや、前提から間違っているのか?


 分からないな。

 俺ではどうしようもない。


 エマや栞の考えを聞きたい。


「……あー、俺って本当にエマのこと、頼りにしていたんだなぁ」


 そう呟いた。

 滲みそうになる視界を必死に押し殺す。


《……マスター》


「急ごう。ここまで来れば、俺でも分かる」


 目的地である教会は、もう目と鼻の先だった。

 次回の更新予定日は、1月29日(木)0時です。

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― 新着の感想 ―
更新再開ありがとうございます また一から読み直しました!
更新再開から読み返して最新話まで追いつきました 続き楽しみにしてます
中条聖夜、3年ぶりの覚醒…! 良かったー! 重傷欠損も治せるとか妖精樹本体凄いな。 中編の最後の台詞的にウリウムが一番親しみやすくて、他は厳格寄りな奴なのかなーって思ってたけどそれ以上の奴いて笑った…
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