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テレポーター  作者: SoLa
第12章 ユグドラシル編〈下〉

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437/444

第1話 『妖精』エカチェリーナ・トルシナ

 新年明けましておめでとうございます。


 お待たせしました。

 更新再開します。


 感想やレビュー、誤字脱字や設定ミス(小声)のご報告、ありがとうございます。


 また、本日より『カクヨム』様でも公開を開始しています。本編内容はほぼ変わりませんが、オマケ部分は別に用意します。毎日更新で最新話に追いつくまでは行いますので、読み返しの際はぜひそちらもご利用くださいませ。


 今年もSoLaと『テレポーター』をよろしくお願いします。

 2026年からは、皆さまの頭の中を『テレポーター』でいっぱいにできるように頑張ります。


 SoLa




 星降夜(ほしふりび)

 それは、シルベスター・レイリーが魔法聖騎士団(ジャッジメント)を脱退する契機となった事件。


 しかしながら、それはあくまでシルベスター個人の認識のお話。その実態は、あと一歩踏み込んでいたらアメリカ合衆国とロシアによる第三次世界大戦の序章となっていた、とまで言われる事件である。


 発端は、魔法世界エルトクリアにある資源、危険区域ガルダーにロシアが目をつけたことにある。ハイリスクハイリターンを具現化したかのようなこの土地は、言うまでもなく世界各国から注目を浴びていた。ロシアも、そのうちの一つだった。


 危険区域ガルダーの管理を引き受けることで了承した魔法世界の自治権だが、その場所は変わらずアメリカ合衆国の中にある。独立国家として認めていない以上、上下関係は存在する。当然ながら貿易もアメリカ合衆国主導で行われる。


 何が起こるか。

 好悪と損得勘定による贔屓だ。


 アメリカ合衆国とロシアは仲がよろしくない。ロシアの貿易の優先順位は必然的に下がる。アメリカ合衆国の立場からすれば当たり前のことだし、ロシアの立場からしても当たり前のように納得のいかないことだった。


 魔法世界エルトクリアが自治権を獲得した頃には、魔法は『始まりの魔法使い』メイジたちの尽力で世界に知れ渡っている力だった。あからさまな優先順位によって行われる貿易によって、国力も目に見えて差がつき始める。


 度重なる外交と、数に比例しない結果。焦りを感じ始めたロシアが取った手段が、魔法世界にあるギルドの利用だ。有力な魔法使いを敢えて敵国へ派遣することは、相応のリスクを背負うことになる。それでもなお、ロシアはやるべきだと考えた。


 ギルドで名を挙げ、危険区域ガルダーへのチケットを手に入れる。そして、自分たちの手で資源を獲得する。初めは上手くいっていた。ルールに則り活動をしているのだから、アメリカ合衆国から文句を言われる筋合いも無い。順調にクエストをクリアすることで、魔法世界からの評価も上がる。


 関係がおかしくなり始めたのは、アメリカ合衆国があからさまな横槍を入れてから。魔法世界のギルドに圧力をかけて、ロシア出身のグループへのクエストを絞ったのである。この点だけを見るなら、悪いのはアメリカ合衆国だ。しかし、具合が悪かったのは、ロシア側にもグレーなところがあったことにある。


 ロシアは、危険区域ガルダーへ入ることが許されたグループへ、定期的に資材の回収を命じていたのだ。


 断りもなく秘密裏に。

 魔法世界の関所を買収して。


 より関係が拗れた両国へ完全な亀裂が生じたのは、危険区域ガルダーに生息する接触禁止の魔法生物へロシアが手を出したのを目撃されたとき。


 国の指示で手を出したのが、エカチェリーナ・トルシナ。

 それを目撃したのが、シルベスター・レイリー。


 2人の戦いは、決して拮抗してはいなかった。

 実力は明らかにエカチェリーナの方が上。


 それをシルベスターは十二分に弁えていた。


 故に、時間を稼いだ。

 自らの仲間が到着するまでの時間を。


 使用した魔法は『星光の葬列スター・ライト・パレード』。

 プラネタリウムのようなドーム状の領域を展開、星の光を魔法球として連射する空間掌握型魔法。


 星が降った。

 数多の星が夜空を流れた。


 その幻想的な光景は、戦場から遠く離れた場所からでもよく見えた。


 遠近感の掴みにくい魔法に、エカチェリーナは足止めを余儀なくされた。逃げることは容易だったが、目的が達成できていない。希少な魔法生物の素材をまだ手中に収めていなかったのだ。それでは、わざわざエカチェリーナがここまで足を運んだ意味がない。


 しかし、ここで欲を出したのがまずかった。


 到着したのは魔法聖騎士団(ジャッジメント)ではなかった。

 もちろん、エカチェリーナの援軍でもない。


 リナリー・エヴァンスである。


 唯我独尊、傍若無人を地で征く世界最強の魔法使いによって戦況は一変。目的の達成云々を気にしている余裕が一切無くなったエカチェリーナは、全力で逃走することを余儀なくされた。逃げきれたのは実力ではない。リナリーの気まぐれだ。リナリーはエカチェリーナを討伐しろと依頼を受けたのではない。違反行為を止めてほしいと言われただけだったのだ。


 ギルド本部へ帰還後、リナリーは責められた。

 なぜ捕縛してこなかったのだと。


 その場に集っていたのはギルドマスターの他、ギルドの御意見番や魔法世界宰相、『トランプ』数名。そして、アメリカ合衆国の使者。リナリーを責める発言は主にアメリカ合衆国の使者からだった。第一発見者であり、重要参考人でもあるため同席していたシルベスターは、労いの言葉1つも無いその物言いに口を挟もうとした。しかし、その必要は無かった。


「文句があるなら自分がやればよかったじゃない。自分でできないことを他人に押し付けないでくれる?」


 アメリカ合衆国と魔法世界エルトクリアには、明確な上下関係がある。


 契約により治外法権は勝ち取っているが、暗黙の了解というものがある。だからこそ、魔法世界エルトクリア側は強く出れない。それこそ、王族でも出てこない限り、アメリカ合衆国は強気な姿勢を崩さないだろう。しかし、そう何度も王族が足を運んでいてはその立場も軽く見られてしまう。そんなジレンマに囚われていた中で、リナリーの発言である。


 御意見番イザベラ・クィントネス・パララシアは、声を押し殺す努力も見せず笑って見せた。それを隣に座るギルドマスターが形式的に咎めているが、それだけだ。宰相ギルマン・ヴィンス・グランフォールドは額に手をやり首を横に振った。


 本当にただそれだけだった。


 アメリカ合衆国の使者は、唾を撒き散らしながら口調を強めるが、リナリーは堪えた様子を一切見せない。しまいにはひと睨みでアメリカ合衆国の使者を黙らせてしまった。


「もう終わりでいいわね?」と。

 そう確認するリナリーへ、ギルドマスターが退席を促す。

 リナリーは終始自然体のまま、この場を去っていった。


 その立ち振る舞いに、シルベスターは自らの理想を見た。


 不条理をねじ伏せる圧倒的な力。

 理不尽を跳ねのける、絶対的な自信。


 その自由奔放さに、シルベスターは憧れたのだ。







 鮮血が滴り落ちる。

 肩で息をする御堂(みどう)(えにし)は、彼我の戦力差をあらためて痛感していた。


 相対するは、エカチェリーナ・トルシナ。

 世界最強の魔法使いリナリー・エヴァンスと同じく、不条理の領域へ足を踏み入れた者。


 装着していた仮面は既に粉々に砕かれて失っている。


 彼女が攻勢に入って僅か数秒で破壊された。

 その時の彼女の表情は、今も縁の脳裏に焼き付いて離れない。


 声は聞こえなかった。

 それでも分かった。


 ああ、貴方だったの。裏切り者さん。


 それに反論する術を縁は持たない。

 そもそも、反論するだけの猶予すら今の今まで与えられなかった。


 額から垂れる汗を、縁はいつもとは逆の右腕で拭う。


 死んだ、と思ったのは一度や二度ではない。

 それでも、やった価値はあったと縁は考えている。


 縁が前方からやや横に視線をずらすと同時、シルベスターの切り札が発現した。


「『星の鼓動(スター・ビート)』発現、『(シックス・)(マグニチュード)(・スター)』」


 シルベスターの身体から練り上げられた魔力が噴き出す。


 この魔法は、幻血属性『星』を持つシルベスターのオリジナル。

 未だその全力を解放したことの無い切り札である。


 なぜ、その全力を解放したことがないのか。

 それは、全力の解放は自らの死を意味するからだ。


星の鼓動(スター・ビート)』は、魔法技能を含む己の身体能力を段階的に向上させていく魔法である。


 六等星から一等星まで、6段階を時間経過で解放していくこの魔法は、一等星に辿り着いた時点で己の死が確定する。二等星までであれば中断可能だが、一等星に至った時のみその真の効果を発揮できる奥義がある。


 その奥義の名は『超新星(チョウシンセイ)』。


 シルベスターがこれまで解放した最高段階は二等星。二等星まで到達せざるを得なかったのは、かつて危険区域ガルダーの地下迷宮、その最深部が最初で最後である。その際に『超新星(チョウシンセイ)』を使用した。


「『渦巻銀河スパイラル・ギャラクシー』」


 静かに抜刀。

 刀身は眩い光を放つ銀河そのもの。


 シルベスター・レイリーの愛刀は魔法剣。

 それも、ただ魔力を流す触媒として利用する武器では無い。


 刀身を自らの幻血属性(げんけつぞくせい)によって生み出すものだ。


 シルベスターには、愛刀が2本ある。

 どちらも柄と愛刀を納める鞘は同じデザイン。


 ただ、刀身があるか無いかの違いがある。


 それを仕事の難易度によって使い分ける。

 より難易度の高い仕事には、刀身の無い魔法剣を使用する。


 今回持参しているのは、刀身の無いもの。

 つまり、本気ということだ。


御堂(みどう)(えにし)


 シルベスターは視線を向けることなく自らの後ろにいる男へと声をかける。


「問題無い。そちらの動きに合わせる」


「承知した」


 その短いやり取りのみで、シルベスターは駆け出した。


 迎え撃つはエカチェリーナ・トルシナ。

 リナリーと同じく不条理の領域に足を踏み入れた逸脱者。


 彼女の顔には笑みが浮かんでいる。


 縁の無系統魔法『神の強制解除術(キャンセル)』によって、発現した魔法球を強制解除されたが動じることはない。シルベスターの一閃を躱す。二撃、三撃も余裕をもって回避していく。四撃目を手のひらで受け止めた瞬間、彼女が触れた箇所で局所的なハリケーンが発生した。


「ぐっ!?」


 突如生じた突風にシルベスターが吹き飛ばされる。

 それを気に掛ける暇もなく、エカチェリーナは縁へ肉薄していた。


「発現して効果が生じるまでに、君が認識できなければ解除もできないよね」


 腕を交差させて衝撃に耐える。

 その動作よりも早く、エカチェリーナの拳が縁の腹部に突き刺さった。


 衝撃音。

 次いで斬撃音。


 吹き飛んだ縁が後方の瓦礫へと打ち付けられる。

 口から漏れ出したのは、うめき声と鮮血。


 彼女の移動速度、そして攻撃力は3人の中で群を抜いていた。

 敵うはずもない。


 シルベスターの『星の鼓動(スター・ビート)』には致命的な欠点がある。

 それは、一等星に到達すれば死が確定することではない。


 一等星に到達するまでに時間がかかってしまうということだ。


 相手が格上、それも時間稼ぎすらままならないほどの格差がある場合、自分の最高のパフォーマンスを発揮する前に勝負がついてしまうということ。今回の件がまさにそれだった。敵対するエカチェリーナは、かのリナリー・エヴァンスと同じく理の外側へ足を踏み入れた人外の化け物。


 それも、格上の相手が一切の油断も無く、相対している状況。


 勝ちの目はない。

 それはもう、縁もシルベスターも察していた。

 この場から逃走することすら許されないと悟っていた。


 できることは、増援が来るまで耐え抜くこと。

 それすらも限りなく不可能であると知っていた。


 しかし、奇跡はここで起こった。


「さて、そろそろおしまいに」


 エカチェリーナが踏み込もうとした瞬間、彼女の右腕、その肘から先が吹き飛んだ。


「いづっ――、は、え?」


 吹きあがる鮮血。

 迸る激痛。


 エカチェリーナは、ステップを踏むように後退しながら周囲を警戒する。


 御堂縁ではない。

 シルベスター・レイリーでもない。


 彼らは、揃って目を丸くし、口を開けている。

 この起こり得ない非常事態に、らしくもなく硬直しているのだ。


 そもそもこの2人にエカチェリーナを害するだけの実力も無い。


 ただ、問題もある。

 エカチェリーナを害することができる人物。


 それも、縁とシルベスターに意識を向けていたとはいえ、戦闘態勢のエカチェリーナの意識の隙間を縫って彼女に害を与えることができる存在が、果たしてこの世界に何人存在するというのか。


 ふわり、と存在感が生じる。


 絶対に、そこにはいなかった。

 そう断言できるはずの場所に、突如として1人の男が立っていた。


「……なぜ貴方がここにいるのよ」


 緑色を基調とした自らの魔法服のマントを切断し、瞬く間に止血処置を終えたエカチェリーナは、噴き出る脂汗を拭いながらそちらに目を向ける。そして、その名を叫んだ。


泰然(タイラン)!」


 自らの名を呼ばれた男は、丸渕のサングラスを指で押し上げる。


 白い中国の民族衣装。

 黒の短髪と丸渕のサングラス。

 中国最強の魔法使い。


鳳凰(ホウオウ)』の異名を持つ男。

 泰然。


「無論、助けを求められたからだ。まさか、あの時の貸しの返済がこれほどまでに大きな負債となるとは思わなかった。もっとも……」


 一歩を踏み出す。

 上半身が僅かに下がる。

 片手をエカチェリーナへと向け、泰然は言う。


「返済を続けていれば、探し人には辿り着けそうだ。あの少年には感謝をしなくては」


「何の話よ!!」


 跳躍。

 足元のすべてを瓦礫に変えてエカチェリーナが跳ぶ。


 目にも留まらぬ速度で距離を詰めたエカチェリーナが、泰然と激突した。

 緑と赤の閃光が瞬く。


 まさしく、暴風と業火の激突であった。


 周囲の瓦礫や壁を足場として利用して、高速で立体的に移動するエカチェリーナ。しかし、泰然の瞳はその動きを正確に読んでいる。絶えず泰然の死角から鋭い一撃を放つエカチェリーナだが、寸分の狂い無く泰然はそれを迎撃する。魔法球も、拘束魔法も、全てが不発に終わる。攪乱も全くと言って良いほど役に立ってはいなかった。


 これは泰然が生み出したオリジナル魔法『焔絶対領域ホムラ・ゼッタイリョウイキ』によるものだ。


 現在、泰然の半径30cmには、揺らめく炎が展開されている。この炎自体に大した攻撃力は無い。身体強化魔法を発現した魔法使いであれば、攻撃の際に熱さも感じないし障壁としても機能しないだろう。この炎の役割は感知と迎撃である。自分以外の異物がこの炎に触れた瞬間に、泰然は自らの身体を最も効率よく稼働させてその異物を迎撃する。これは、泰然は脅威になり得る敵と戦闘を行う際、必ず発現する魔法である。


 この炎を身に纏い舞うように戦う戦闘方法から、泰然は『鳳凰(ほうおう)』という異名を得るに至った。


 泰然の放ったカウンターが、エカチェリーナの左脇腹を捉えた。炎を纏った拳がめり込み、エカチェリーナが小さな呻き声を上げる。反対の手でエカチェリーナを捕えようとした泰然だったが、めり込んだ拳を抱え込んだエカチェリーナは、そこを軸として強引に身体を捻り、回し蹴りを繰り出した。捕捉のために伸ばそうとしていた腕を防御へと回し、蹴りを受け止める泰然。接触した部分から突風が巻き起こる。


「むっ」


 泰然の上半身が風圧に負けて仰け反った。エカチェリーナは追撃を仕掛けない。そのまま跳ねるように距離を開けて、元ガルガンテッラの屋敷であるひと際大きな瓦礫の山の頂上へと着地した。残された片腕で脂汗を拭いながら、エカチェリーナは舌打ちする。


「ちょっとしたお使い気分で来る場所では無かったわね」


「お使い、か。ClassMの底が知れるな」


 泰然からの皮肉に顔を顰めたエカチェリーナだったが、反論はしなかった。

 距離を詰めてくることなく自らの様子を静観する泰然に、エカチェリーナは思わず舌打ちする。


「随分な余裕ね。高みの見物というわけかしら」


「まさか。私から距離を詰める必要が無いというだけだ」


 泰然はその口にすると共に、自分の魔力を解放した。濃密な魔力の波動が、泰然を中心として吹き荒れる。その余波で、泰然の周囲一帯の瓦礫が消し飛んだ。泰然の乱入と同時に距離を開けていたシルベスターと縁ですら、思わず顔を覆ってしまうほどの勢いだった。切断された縁の左腕の止血を行っていたシルベスターの手が僅かに止まる。


「……これがライセンスにClassMと刻まれる魔法使いか。自信を失くすよ」


「心配するな。私もだ」


 止まっていた手を再開しながら、縁の言葉にシルベスターが同意した。止血された腕を一瞥した縁は、短く礼を言ってから立ち上がる。


「とはいえ、彼に任せたままでは終われないよねぇ」


「そうだな」


 縁に続き、シルベスターも足元に転がっていた愛刀を掴んで立ち上がった。それを視認したエカチェリーナは、小さく溜息を吐いてから空を見上げる。


「ここまで……、かな」


 そう呟いて、首を横に逸らす。そのギリギリを凶刃が走り抜けた。突如として背後から襲撃を受けたにも拘わらず、エカチェリーナは最低限の動きでそれを回避。更には回し蹴りで襲撃者の脇腹を的確に捉えた。


 かに見えたが。


「おや」


 エカチェリーナは眉を吊り上げた。襲撃者である月詠(ツクヨミ)は、寸前で自らの太刀を滑り込ませることに成功していた。衝撃と共に巻き起こる突風で月詠が弾き飛ばされる。そのまま貴族都市の一角にある屋敷の1つへと激突し、月詠の姿は見えなくなった。それを追うことはせず、エカチェリーナは非難の目を泰然に向ける。


「貴方こそ、ClassMのクセにやることは小賢しいわね」


 泰然が自らの魔力を解放したのは、ただの撒き餌としての役割。本命は仲間による背後からの奇襲だったからだ。しかし、泰然がその挑発に乗ることは無かった。無言のまま、ゆっくりと腰を落とし構えを取る。その様子に、エカチェリーナは残された片腕を上げて言葉を続けた。


「分かった分かったわよ。降参、降参。これ以上、ここで貴方たちと争っても仕方が無いし、私は撤収することにするわ」


 目的は達成したし、と。

 小さく続けるエカチェリーナの言葉は、泰然の耳には届かなかった。


 しかし、一歩を踏み出そうとした泰然を、エカチェリーナが制止する。


「待った。それ以上は近付かない方がいいわよ」


「なぜ」


「こういう物言いは好きじゃないんだけど……。私と周囲を巻き込みながら戦闘を継続したいのかしら」


 泰然の足が止まる。


「構わないと言ったら?」


「貴方の身体はそう言っていないみたいだけれど」


 エカチェリーナの流し目が、泰然の奥、シルベスターと縁へと向いた。


「命拾いしたわね。『星詠(スター・リーダー)』と裏切り者さん」


 まあ、それは私もか、と。

 そう自嘲気味に呟きながら、エカチェリーナは姿を消した。


 身体強化魔法によって一瞬で移動したのか。

 それとも風の属性同調によって実体を失くしたのか。


 シルベスターは分からなかった。

 そして、それは縁も同様だった。


 縁はふらついた足に抵抗することなく、そのまま後ろ向きに倒れた。それにつられるようにして、シルベスターも座り込む。


「……これだから理の外側にいる魔法使いとは関わりたく無いんだ」


「まったくだ」


「おっと、今の発言に同意するということはつまり、リナリー・エヴァンスとも関わりたく無いということに……」


「気安くその尊い名を口にするな。殺すぞ」


「あ、はい」


 これまで命を預け合った味方に向ける視線では無かった。縁としては軽い冗談のつもりだったが、完全に地雷であったことを自覚しそれ以上の追及は止めることにする。


「少しいいか」


 2人の前に、泰然がやってきた。

 縁は仰向けに倒れたまま、視線だけを泰然へと向ける。


「お仲間はそのままでいいのかい」


「裏切り者に心配されるほど弱くは無いです」


 縁の言葉に反応したのは、泰然ではなく月詠だった。埋もれていた瓦礫から抜け出してきた月詠は、艶やかな紫の着物に付着した汚れを手で払いながら答える。


「老師、ついでにこの男を捕まえて拷問するですか」


「御堂縁への手出しはよせ。この段階で日本と事を構えたく無い」


 鞘から太刀を抜く仕草を見せていた月詠だったが、泰然からの否定の言葉に口を尖らせながらも頷いた。柄から小さな手が離れるのを見て、縁は小さく息を吐く。その様子を横目で捉えつつ、シルベスターが口を開いた。


「聞きたいことならこちらもある。なぜ中国のClassMが魔法世界にいる」


中条(なかじょう)聖夜(せいや)からの依頼だ」


 泰然からの答えに、縁が目を丸くする。


「中条君からの?」


「流石は……」


 シルベスターが隣でぶつぶつと呟いているが、縁は意識的に無視することにした。


「それで、今度はこちらからの質問だ。中条聖夜はどこにいる」


 泰然からの質問に、2人は目を見合わせる。

 答える術を、彼らは持っていなかった。

 次回更新日は、1月15日0時です。

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― 新着の感想 ―
予言や縁先輩の腕のこともあるしもう1回巻き戻りそうだな。(ラストかな) それを天地神明は果たして感知するのだろうか。 あとは2都市陥落は流石にまずいってことで防衛戦はすんのかね。
あけおめ!愛してる!
あけましておめでとうございます 2026年の楽しみが増えてとても嬉しいです
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