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テレポーター  作者: SoLa
第11章 女帝降臨編
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第11話 女帝降臨

 今章のタイトル、そして今話タイトルとなっている『女帝降臨』。お察しの通り、タイトルの降臨が指していた本当の場所は、実はこの戦場でしたというオチ。




「かぐ……ら?」


 己の目を疑っているのか。


 まるで信じられないモノでも見たかのような表情で自分の名を呼ぶ中条聖夜に、宝樹は少しだけ前回受けた借りを返すことができた気がしていた。その顔に少しだけ笑みが浮かぶ。


 しかし、その笑みは宝樹の手が乱暴に払われたことで、直ぐに消えることになる。折れた腕を庇いながら、初志貫徹が空中で宝樹から距離を置いた。同時に、初志貫徹の部隊に所属する3名が、宝樹を包囲しながら臨戦態勢を取る。


 しかし、包囲された宝樹はと言えば何ら警戒心を抱いているようには見えない。掴む対象がいなくなり、宙を掴むような仕草のまま固定されていた自らの腕へと目をやり、鼻を鳴らしてからようやくその腕を下ろした。


 初志貫徹は、この場に登場したイレギュラーへと、苛立ちを込めた視線を向ける。


「貴様……、神楽宝樹か。なぜここに。神楽家は中条聖夜から手を引いたのでは」


 風でなびく黒髪を撫でながら、宝樹の視線が初志貫徹へと向いた。


「良く知っているわね。情報源が気になるわ……、と返してあげたいところなのだけれど。残念ながらそれはもう分かっているの」


 言葉通り、しかしどこか演技のように思わせるため息を吐き、宝樹は続ける。


「ところで、『ユグドラシル』宛てに荷物を送りたいのだけれど、今の貴方たちのボスがいる住所を教えてくれるかしら」


「何を馬鹿なことを。荷物? 爆弾でも送り付けるつもりかね」


 痛みで脂汗を滲ませながらも、弱みは見せまいと懸命に口を動かす初志貫徹。折れた腕を庇うようにして話す初老の男性に対して、宝樹は嘲りを滲ませた笑みを浮かべる。


「そんなことするはずがないでしょう。首よ。とうにスパイだと知られていることにも気付かず、懸命に誤情報を流し続けてくれていた哀れな鼠に敬意を表し、綺麗なラッピングで彩を添えて差し上げるわ」


 その発言に、数と状況から圧倒的に有利に立っているはずの初志貫徹の部隊が静まり返った。ごくり、と誰かが喉を鳴らす音が、嫌に大きく聞こえる。


「……麗しい外見に似合わず、噂通りに狂っているな。お嬢さん」


 これでは、どちらが悪の組織か分からない。

 そんな表情で初志貫徹は言う。


「現地で懐柔した者への処断は済み、一安心だと思っていたところだったのだがね。それもこちらを油断させるためのブラフだったということかな」


「見るに堪えなくてね。近くに侍らせていてもストレスになるだけだし、さっさと処分させてもらったの。それでそちらの油断を誘えたのなら、最後の最後で初めて役に立ったと褒めてあげるべきかしら」


 宝樹は頬に手をやり、軽く頭を振ってから、こう続ける。


「かわいそうなことをしたわ。そちらの方は、もう肉片も残っていないから」


 その発言からは、他人の命を奪ったことに対する罪悪感は欠片も伝わってこない。初志貫徹はその様子を見て、神楽家がなぜ危険因子として『ユグドラシル』上層部で一目置かれていたか分かった気がした。


 包囲されたままの宝樹に、未だ警戒心らしいものは見えない。自らの艶やかな黒髪に人差し指を通し、弄ぶ始末だ。


 直接の接触は極力避けろ、と。

 初志貫徹はそう厳命を受けていた。


 しかし、こうなってしまえば仕方が無い。

 初志貫徹は、折れていない方の手を振り上げる。


「や――」


 やれ、と。

 初志貫徹はそう命令を下そうとした。


 話すことなどもう無い。

 説得も懐柔も不可能。


 ならば、この場へ来てしまった以上殺すしかない。


 初志貫徹はそう考えた。

 部隊リーダーとして、そう結論を下した。


 しかし。

 初志貫徹はその命令を下すことはできなかった。


 折れていない手を振り上げて。

 無様な真似を部下に見せないように、痛みを堪えながら。


 やれ、と。

 たった2文字の命令を口にしようとして。




 初志貫徹の頭部が弾け飛んだ。




 ぐらり、と傾く身体。

 噴き上がる鮮血。


 その光景を。

 宝樹は何の感情も読み取ることのできない、無表情で眺めていた。


 術者の魔力供給が途切れ、浮遊魔法が効力を失う。

 頭部を失った初志貫徹の身体が、重力に従って落下していった。


 弾けた鮮血も、遅れて眼下へと降り注いでいく。沈み始めた夕陽に照らされたそれは、鮮やかな紅色をした雨のようだった。


 突如として部隊リーダーを失った部下たちは、そのあまりの光景から動揺し、その身体を硬直させる。それはプロにあるまじき隙。しかし、それもやむを得なかったのかもしれない。なにせ、たった今死んだのは、彼らの部隊リーダーだ。当然、彼らよりも実力は高い。その部隊リーダーが、抵抗らしい抵抗すらさせてもらえず、一瞬で無力化されてしまったのだから。


 その光景を見て、真っ先に動いたのは臨機応変。

 次いで花鳥風月とその取り巻きだった。


 もともと、臨機応変は浮遊魔法を使っていない。彼は無詠唱で発現した身体強化を利用し、聖夜たちがいる開けた場所から一瞬で後退。茂みの中へと姿を隠した。襟元に忍ばせていた小型の通信機器を使用し、自らの部隊へ伝える。「狙撃手有り。迂闊に姿を見せるな」と。


 花鳥風月が何より恐怖したのは、初志貫徹が一撃で無力化されたことではない。凶弾の射線を辿ってみても、付近に狙撃手の姿が見えないどころか、それらしい狙撃ポイントすら見つけられなかったことだ。


 自らを庇うような位置で待機していた下僕の腕を引き、花鳥風月は即座に降下を開始する。その意図が伝わったのか、腕を引かれた男も無言のまま浮遊魔法の効力を切った。しかし、浮遊魔法を切って、重力に従った落下すらもどかしい。


 射線の通ったこの場に一瞬でも長く滞在することが、死ぬほど恐ろしいのだ。


 眼下に広がる木々。

 あと少しというところで。


「……魔法、陣?」


 手を引く男が、何かを見つけたようだ。

 ぽつり、と。呟きのような一言を漏らした。




 それが、その男の最後の言葉だった。




 花鳥風月の身体を強引に引き寄せた男は、その直後に頭部を吹き飛ばされた。それを至近距離で目撃した花鳥風月は、声にならない悲鳴を上げる。頭部を失った部下の腕から、力が抜けていく。そのままもつれるように落下した花鳥風月とその男は、派手な音を立てて木々の中へと突っ込んだ。血で汚れたピンクのドレスを振り乱し、自らを救うために文字通り命を張った男へ僅かながら視線を向け、花鳥風月は態勢を整えてから頭上を見上げる。


「何をぼさっと浮いてるのよ! 散開!!」


 見るに堪えず、花鳥風月が叫ぶ。


 ただ、その命令が彼らに伝わるのは少しだけ遅かった。

 そう言わざるを得ない。


 凶弾。

 その3発目が着弾した。


 ぼばっ、と。


 初志貫徹の部隊の1人

 その頭部がはじけ飛ぶ。


 先ほど死んだ2人と、まったく同じ光景が展開された。


「超長距離射撃……っ。いったいどこから!」


 花鳥風月が周囲を見渡す。


 しかし、花鳥風月は既に森の中へと身を潜めている。射線が通らない場所にいるという事は、当然ながら自らの視野も狭めているということ。方角は分かっても、正確な狙撃ポイントなど分かるはずがない。内心で動揺を抑えきれない花鳥風月は、それでも周囲に目を走らせる。


 そこで、先ほどの部下の死に目の言葉を思い出した。

 魔法陣、と。


 上空に視線を向ける。

 しかし、それらしいものを花鳥風月は見つけられない。


「ちくしょうがっ!」


 事態は動く。


 初志貫徹の部隊の1人、歳月不待(サイゲツフタイ)が障壁魔法を発現した。計4枚。自分と宝樹の間に、狙撃された方角へ向けるようにして。その意図を察した宝樹が鼻で嗤う。


 宙を蹴るようにして歳月付待が飛び出した。

 宝樹の方へと。


 拳を握りしめてから――。


 障壁ごと撃ち抜かれた歳月不待は、拳を握りしめたまま墜落した。


 原型を失った頭部はどこかへと飛んでいった。

 呆気の無い最後を見届けた宝樹は一言。


「残念でした」


 抑揚を感じさせない声で。

 救いのない言葉だった。


 そして、もう1発。


 3枚重ねて発現された障壁魔法。

 その全てを呆気なく貫いた凶弾が、最後の1人を撃ち抜く。


 初志貫徹の部隊は全滅した。


 驚くほど早く。

 命乞いすらさせてもらえずに。


「さあ、始めましょうか」


 まるで今までの戦いは本番では無かったかのように。


 ただ1人。

 空へと立つ絶対的存在は、赤い夕陽を一身に浴びながら口にする。


「『ユグドラシル』関係者は誰1人として逃さないで。殲滅なさい」


 それは、無慈悲の宣告。

 蹂躙が始まった。







 幻血属性『星』。

 星の瞬きによって威力が増減するこの魔法は、夕暮れ時には適さない。


 あと少し時間が経てば、星も姿を見せるだろう。しかし、それを相手が待つはずもない。ギルドランクS『白銀色の戦乙女』のリーダー、シルベスター・レイリーの名はあまりに有名だ。そして、それは彼女が持つ幻血属性の特性についても同様である。


 だからこそ、豪胆無比は短期決戦でシルベスターを無力化しようとしていた。


 その戦法は間違っていない。

 問題があるとすれば2つ。


 1つめは、星の瞬きによるブーストがなくても、シルベスターは十分高位の魔法使いと呼べるだけの実力を有していたこと。そしてもう1つは。


「――ぐっ」


 掌底を弾いた己の手を庇い、豪胆無比が後退する。攻撃を加えて来た乱入者は追ってこなかった。豪胆無比へと一撃を加えた乱入者は、その間でゆっくりと体勢を整える。


 黒のスーツを身に纏った女性だった。黒の長髪を後ろで縛って流している。サングラスに耳にはイヤーモニター。どこぞのSPのような出で立ちだ。事実、彼女は宝樹の護衛の1人だった。


「……何をした、女」


 豪胆無比が問う。

 しかし、護衛の女は答えない。


 掌底を弾いた左手がまったく機能しなくなっていた。指を動かそうとすれば、激痛が豪胆無比を襲う。表面上は、傷1つ負っていないというのに。しかし、そう思っていられたのは僅かな間だった。


「何だ、これは!」


 じわじわ、と。

 豪胆無比の手のひらが赤く染まっていく。


 それは、内側の変化。表面の皮膚は破れていない。よって、内出血という現象が生じている。その光景を見た豪胆無比が視線を上げた。この現象を起こしたであろう人物を睨みつける。


「答えろ、女!」


 それに対する反応は、戦闘再開。

 護衛の女が地面を蹴り、豪胆無比との距離を詰める。


「くそっ、近付くな!」


 牽制の意味合いも込めて、豪胆無比は魔法球を発現した。計6発。それぞれに火属性が付加されている。しかし、それらが射出される前に護衛の女が豪胆無比の懐へと潜り込んだ。舌打ちをした豪胆無比の右腕が、護衛の女を捕えようと伸びる。


 それを、護衛の女の手が阻んだ。


「ぎっ!?」


 激痛。

 豪胆無比が僅かに怯む。


 それが、一瞬の隙。


「シィッ――」


 豪胆無比と護衛の女の接触。その間に距離を詰めていたシルベスターの一閃が、豪胆無比の首を刎ね飛ばした。発現者の制御下から外れた5発の火球が、不穏な振動を見せる。シルベスターが剣を構え直す前に、護衛の女が跳躍してその足を振るう。5発の火球は暴走状態に陥る前にその全てが蹴り潰された。


「助力感謝する」


 軽やかな身のこなしを披露した護衛の女へ、シルベスターが声を掛ける。護衛の女は軽く一礼した後、直ぐに姿を消した。その強化魔法による跳躍は、シルベスターを以ってしても、気を抜けば一瞬で見失ってしまいそうなほどの熟練度だった。


「……流石は神楽家の、しかも御息女直属の護衛ということか。戦闘中とは言え、乱入される直前まで接近に気付けなかったとは。私もまだまだということか」


 そう口にしつつ、シルベスターは頭部を失い転がった敵の姿を見る。真っ赤に染まった手のひらへと視線を移し、こう呟いた。


「……風属性の『切断』の応用技術だな。属性魔法の基礎的な付加能力をここまで繊細な技へと昇華させるとは。あれでただの護衛なのだとすれば恐ろしいな」







 神楽宝樹専属として用意されている護衛は、現在68名いる。しかし、その全てが宝樹自らスカウトしたわけではない。基本的には彼女の祖父である真徹が用意したものだ。だから、宝樹自身が特にその実力を認め、有事の際に必ず声を掛けるのは5名しかいない。そのうちの1人は遠距離狙撃に自らの能力を全振りしているため、近接戦の舞台には姿を見せない。加えて2人はもしもの際に宝樹の盾となる為、宝樹に気付かれないようひっそりとその周辺で気配を殺して潜んでいる。


 よって、この場で動いているのは2人しかいない。たった今、シルベスターのもとへと助太刀した護衛の女、(みやび)はその片割れだった。森の中を駆ける。茂みを突き抜け、木の幹を足場に、目にも留まらぬ速度で進む。それはまさに疾走だった。


 今回の作戦に投入された『ユグドラシル』本隊の部隊は4つ。


 うち1つは『白銀色の戦乙女』が

 うち1つは雅の同僚である紅葉(もみじ)が。


 それぞれを壊滅させている。


 残るは2つ。

 その1つも、まもなく終わりを迎えようとしていた。


「……見つけた」


 息切れ1つ見せる様子も無く、雅はそう口にする。視線の先には、ピンク色のふわふわとしたドレスを着た美女。このような山の中には相応しくない出で立ちだ。しかし、その美女が『ユグドラシル』の人間であることは既に確定している。


 故に、雅に迷いはない。


 標的となった美女――花鳥風月は、強化魔法を発現した雅にとって、あと一歩の間合いとなったところで、ようやくその存在を察知した。翡翠色をした双眼を見開き、その風貌に似合わぬ舌打ちをかました花鳥風月は、咄嗟に身体強化魔法を発現しようとして。


「――『糸切狭(イトキリバサミ)』」


 ばつん、と。

 花鳥風月の右腕が切断された。


「ぎっ!?」


 突如としてもたらされた痛みに、花鳥風月の端正な表情が歪む。しかし、本当に表情を歪ませて悔しがりたいのは雅の方だった。雅は一撃必殺で花鳥風月の首を落とすつもりだった。しかし、花鳥風月の反応の方が早かった。発現しようとしていた身体強化魔法では、迎撃が間に合わないと判断した花鳥風月は、即座に対応を変更。無詠唱で魔法球を発現して射出したのだ。


 その回避に動かざるを得なかった雅は、自ら用意していた攻撃魔法が花鳥風月の首に届かなくなることを悟った。不発に終わるならば、と雅は花鳥風月の右腕を切り飛ばしたのだ。


 己の2本の手刀で花鳥風月の右腕を落とした雅は、着地と同時に再び花鳥風月との距離を詰める。金髪ロールの髪を振り乱し、花鳥風月が後退しつつも臨戦態勢を取った。


 一打、二打、三打。

 掌底、膝蹴り、回し蹴り。


 怒涛の三連撃に押され、花鳥風月が呻き声を上げる。


 劣勢となっている立場故だろう。あるいは、一撃ごとに自らの動きを奪っていく雅の不気味な攻撃手段に恐れを感じたのか。花鳥風月は、雅の攻撃から逃れるために大きく跳躍した。


 ――してしまった。


「あ……」


 それは、自らの無意識下での行動に呆れてのものか。

 それとも、自らの死期を悟ってのものか。


 花鳥風月の肩を凶弾が貫いた。


 その姿が宝樹の用意した狙撃手の視界に現れた時間は、ほんの1秒足らずのことだったに違いない。花鳥風月は、己のミスを修正すべく跳びあがっている最中に枝を掴み、強引に軌道を修正しようとしたのだから。


 しかし、その行動もまた、狙撃手――紅葉の照準を自分へと向けさせる一手となってしまった。木々が不自然に揺れる。それに驚いた野鳥の群れが飛び立つ。そして、味方サイドにはいない花鳥風月の派手な色をした服装。


 それら全てが要因となり、紅葉の引き金が引かれた。


 但し、姿を見せたのはほんの僅かな時間のみ。

 花鳥風月は遠距離からの狙撃に警戒し、直ぐに身を潜めるように動いた。


 だから、一撃必殺とはならなかった。

 とはいえ、致命的な一撃であることには変わりない。


 鮮血が舞う。

 花鳥風月の左肩には風穴が空いていた。


 痛みで脂汗が滲む。

 端正な顔が歪む。


 その翡翠色の双眸には、今まさに己の命を刈り取らんとする狩人の姿が映し出されていた。自らの死期を悟った花鳥風月は一言。


「……ここまでとは」


 直後。

 花鳥風月の首が刎ねられた。


 そして、その頃には、既に雅の頭の中から花鳥風月の存在は消え去っていた。次にどう動くべきかが彼女の思考の中でシミュレートされている。


(連絡が来ないということは、周辺で下部組織のメンバーを潰して回っている桜花(おうか)の方は手助けは必要なさそうですね。護衛に回っている葵たちからも連絡は無し。紅葉の方は……、救援要請が来たところで、彼女では助けは間に合わないでしょうし。となると、次はやはり――)


 取捨選択が終了し、雅は次の一歩を踏み出した。







「仕方がありません。本日のところはお暇させて頂きましょうか」


 わざとらしいため息を吐きつつ、臨機応変はそう口にした。


「……逃がすと思っているのか?」


 俺の問いに、嘲笑を浮かべた臨機応変は言う。


「捕らえられるとでも思っているので?」


 直後、臨機応変が首を反らした。そのぎりぎりのところをロングソードの煌きが奔る。おそらく回避行動を取っていなければ、臨機応変の首は刎ねられていただろう。そう思わせるほどの見事な一閃だった。


「シルベスター・レイリー。貴方と争っていた男はどうしたのです?」


「とうに死んだ。次はお前だ」


 シルベスターからの攻撃を捌きながら、臨機応変は冷笑を浮かべる。その視線は、繰り出されるロングソードの刀身へと向いていた。


「強がりを……。もう魔力も心許ないのでしょう? ご主人様に弱音は見せたくありませんか?」


「ほざけ」


 シルベスターの繰り出す連撃、その全てを臨機応変は紙一重で回避していく。そこへ助太刀したケネシーの刺突攻撃も加わり、臨機応変の回避行動は、より一層人間離れしたものとなりつつあった。


「減らず口を叩くだけの実力はあるようですね」


「いえいえ、これでも必死なのですよ?」


 ケネシーの称賛の言葉に、臨機応変はそう返した。


 シルベスターから放たれるロングソードの一撃を足蹴りで弾き、ケネシーの刺突を刀身へ掌底を叩き込むことで逸らさせる。臨機応変を軸に、2人が弄ばれているようにも見えてしまう。その立ち回りは実に秀逸で、たまにシルベスターとケネシーの同士討ちを狙うかのような動きも見せていた。


 臨機応変が舌打ちして見せたのは、その光景がしばらく続いてからのことだった。シルベスターとケネシーからもたらされる攻撃を巧みに躱しながら、自らのネクタイを緩めて取り払う。右手に握ったそれに魔法を発現させた。


「物質強化か」


「ご明察です」


 鈍い音を響かせて、シルベスターのロングソードと臨機応変のネクタイが交わった。臨機応変は受け流すようにネクタイの向きを変え、ロングソードの刀身を跳ね上げる。


 それによって、奇襲が失敗した。


 生い茂る木々から飛び降りるようにして襲い掛かって来た神楽の護衛が、そのロングソードの動きから逃れるように回避行動へと移る。頭上からの攻撃をシルベスターのロングソードを利用することで回避して見せた臨機応変は、ケネシーに膝蹴りをかました後、その3人から距離を空けるように後退した。


 ……そろそろいけるか。

 栞の頭を一撫でしてから、ゆっくりと立ち上がる。


「お兄様?」


 突然の俺の行動に、疑問を抱いたらしい栞からの視線に笑顔で応えておく。視線は直ぐに目の前で行われている戦場へと戻した。


「ふう」


 ネクタイが無くなり襟元が緩んだワイシャツをひらひらさせつつ、臨機応変は言う。


「流石に3対1となると辛いですね。いい加減、私はこれで――、っ!?」


 血飛沫は、やや遅れて上がった。


 鮮血に染まる喉元を抑えつつ、臨機応変が更に後退した。これまでのどこか余裕のある表情から一変し、驚きと屈辱に顔を歪める臨機応変に言ってやる。


「良く避けたな。多少なりとも『発現の兆候』を感知できるクチか」


 完全に感知できるなら、回避できているはずだからな。

 逆にできないなら、今の一撃で首が飛んでいた。


 手に付着していた血を払いつつ、臨機応変に告げる。


「俺が回復するまで待っていてくれた礼だ。4対1なんて劣勢を嘆く暇すら与えねぇ。一瞬で終わらせてやるよ」


魔力暴走(オーバードライブ)』。

 いくぞ。


 タイミングを見誤るなよ。

 次回の更新予定日は、9月2日(水)もしくは9月9日(水)です。

 隔週更新が続いて申し訳ない。できれば週一に戻したい……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 神楽の部下つよいねー。 [気になる点] あれ、神楽さん何もしてなくね?神楽さんも手伝ってあげてよw
[一言]  聖夜は「書き換え」を殺す気で使えば大抵の相手は為す術もなく殺られるからね。聖夜は平和ボケさえなければ既に世界トップクラスじゃない?
[一言] 護衛つよ 宝樹が聖夜を直接スカウトしたから最低でも 今回出てきた護衛達レベル? あれ聖夜ってそんな強かったっけ? 今までの戦いを見てるとそこまで強くない気がするけど 今までは相手が悪かったの…
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