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テレポーター  作者: SoLa
第11章 女帝降臨編
390/432

第10話 包囲




 ヘリコプターが不時着に成功した。


 山奥で起きた謎の戦闘による流れ弾で、不運にも燃料タンクを撃ち抜かれたヘリコプター。幸運だったのは、戦闘の余波によるものか、燃料が持つぎりぎりの場所に開けた場所が突如としてできたことだった。







 栞の手を借りて、その場に座り込む。


 呼吸が落ち着いてきた。鼓動は未だに早鐘を打つような速さだが、直にこちらも落ち着くだろう。今回はいつもより早く『蓋』がされていたようだ。長距離移動となった『神の上書き作業術(オーバーライト)』で想像以上の魔力が一気に抜けたからな。身体が危機感を抱いたのかもしれない。


 良いことだ。

 これなら、もう一回くらい『蓋』を開けることも――。


 そこまで考えたところで、無言の圧力のようなものを腕に装着しているMCから感じ取った。おかしいな、何やらじぃっと見つめられている気がしてくる。そんな機能も能力も、ウリウムには無いはずなのに。


 未だに不安そうな瞳で見つめてくる栞に、手で大丈夫だと伝える。


 視線をルリ・カネミツへと向けてみれば、瀕死となった黒髪の少年の応急処置は済んだようだった。治癒魔法を掛けていたルリ・カネミツが立ち上がる。俺に視線を向けられていることに気付き、一礼してきた。


 視線を落とす。そこには、依然として血塗れの状態で少年が倒れている。『死なない程度に』と言った俺の命令を忠実に実行したらしい。身動き1つ取れない状態はそのままのようだった。下手に回復させて逃走を許すくらいなら、この方が良いのは間違いない。しかし、本当に死なないぎりぎりのところまでしか回復させないとは思わなかった。


 なんという匙加減。

 容赦ねぇな。


 この現状を引き起こした俺が口にできる台詞では無いが。


 ……さて。

 そろそろか。


「いい加減出てきたらどうだ?」


「え?」


 俺の言葉に、傍にいた栞が声を上げる。

 同時にルリ・カネミツが愛刀の柄へと手を伸ばした。


 俺の声掛けに、相手は直ぐに反応をしてみせた。

 どうやら、察知されていることに向こうも気付いていたらしい。


「気付かれていましたか」


 茂みの奥から1人の男性が姿を見せる。

 第一印象としては、このような血生臭い場所には似合いそうにない男だった。


 紺を基調とした高そうなスーツを身に纏い、モスグリーンのネクタイを締めている。黒の髪は整髪料で固めて後ろに流していた。銀縁の眼鏡を中指で押し上げる様も、男の雰囲気に実によく合っている。都心に拠点を構える洒落たオフィスで、パソコンと向かい合っていた方がよっぽどお似合いだと言いたくなる男だ。


「そこに転がっている餓鬼の連れか? 名は?」


「恐れ多くも、我が神より『臨機応変(リンキオウヘン)』の名を賜っています。しかし、貴方の足元に転がっているモノとは無関係です。お好きに調理してくださって結構」


「あ? 同じ『ユグドラシル』なんだろう。無関係じゃねーだろうが」


「同じ組織に所属はしておりますが、横の繋がりは実に希薄でしてね。同じ部隊にでも属していない限り、顔もコードネームも知らない有様でして。あぁ……、我々の組織について多少の知識は?」


「あんたが言った内容を理解できる程度にはある」


「結構」


 男は満足そうに頷きながら言う。

 しかし、それだと引っ掛かる。


「なら、なんで姿を見せた」


 男の口角が吊り上がった。




「罠にかかった鼠の顔を見るため、とでも言えば理解できますか?」




 聞こえたのは、鈴のような音色。

 それとほぼ時を同じくして、俺の両サイドで異変が起こった。


 片方へと僅かに視線を向ければ、何も無かったはずの空間に輪っかのようなものが突如として出現した。どこかで見たことのある現象に、それがどこで見たものだったのか思考を巡らせる。しかし、結論が出る前に更なる変化があった。


 輪っかが急激に大きくなったかと思えば、その内側から拳が突き出される。

 それも、両サイド同時にだ。


 ご丁寧にも、その拳はどちらも人が殺せるように強化魔法が施されていた。

 しかし、それらが俺や栞に届くことはない。


 登場するタイミングを見計らっていたかのように、そいつは俺の前へと現れた。蜂蜜色の髪をなびかせ、両の手のひらを両サイドから突き出される拳へと添えるようにして合わせる。攻撃の流れには逆らわず、身体を右回りに捻るようにしていなしていた。結果、両サイドの輪っかから出現した襲撃者2名は回転する蜂蜜色の髪をした女性を軸として、そのまま座り込んだ俺と栞の前と背後を素通りして、それぞれが逆サイドへとそのまま突っ込んでいく。


 どうやら襲撃者は2人とも全身強化魔法を身に纏っていたらしく、勢いのまま地面に突っ込んだことで派手な音を鳴らしていた。もうもうと立ち昇る土煙を視界の端に捉えつつ、助太刀に来てくれた女性へと声を掛ける。


「ナイスタイミングだ。ケネシー」


「こっ、光栄でしゅっ」


 振り向きざまにそう答えたケネシーは、台詞を噛んだせいか顔が真っ赤に染まっていた。この人、活舌悪いのか? いつも噛んでいるイメージがあるんだが。


「……おや、貴方は」


 そんな俺たちのやり取りを眺めつつ声を上げたのは、臨機応変を名乗るこの男だ。


「『双天秤(ソウテンビン)』のケネシー・アプリコット。魔法世界エルトクリアで活動するギルドランクS『白銀色の戦乙女』の副リーダーではありませんか。なぜ、このような僻地まで?」


「それが今、貴方の気にするべきことなのかしら」


 俺に対するものとは打って変わり、冷淡な声色でケネシーが返す。しかし、そんなケネシーの変わり様を指摘することもなく、男は冷笑を浮かべつつ頷いた。


「ええ。我々の動きが読まれていたとは考えにくいのでね。いったいどこから――」


 臨機応変の言葉は、野太い咆哮によって掻き消される。ケネシーのカウンターによって、人間ロケットのように地面へと突っ込んでいた襲撃者が、瓦礫を押しのけてようやく姿を見せた。


「うおぉい! やってくれやがったな、女ァ!!」


「まったく……、こうも容易くカウンターを決められるとは。我ながら情けないものだ」


 どちらも男。

 そして、どちらも深手を負った様子はない。


 ケネシーは面倒くさそうに両者を品定めした後、視線を正面の臨機応変へと戻した。


「あのうるさい男たち、少し黙らせてもらえるかしら」


「生憎と、彼らへの指揮権を握っているのは私ではない」


「……なんですって?」


 直後に、鈴の音。


 振り返る。

 先ほど見た空間の歪みが、今度は背後の上空へと出現した。


 陽の光を反射する輪っかが大きくなり、そこから新手2名が姿を見せる。


 1人は男。

 もう1人は女。


 くそ。

 マジかよ。


 いったい『ユグドラシル』は何の目的で何人用意したんだ。


 ピンクのふわふわとしたドレスを身に纏った女は、恐ろしいほどに整った顔で周囲を見渡す。落下する事無くそのまま上空に留まっているのは、浮遊魔法を発現しているからだろう。女の視線が、地面に座り込んだままの俺へと固定された。


 派手な金髪ロールを手で払いながら、俺へと視線を向けたまま女が口を開く。


猛進(モウシン)無比(ムヒ)。まだ仕留めていなかったの?」


 人間ロケットと化していた片割れ、黒の長髪の男が不服そうにそれに答えた。


「まだも何も。こちらへ送られてからそう時間は経っていないはずだが?」


 長髪の男はそう口にしつつ、肩に付着した土ぼこりを手で払う。しかし、もう片方の男は幾分か血の気の多いやつだったらしい。獰猛な笑みを浮かべつつ、荒々しい魔力を全身から放出した。


「言い訳はしねぇ。やっちまっていいって許可をもらってんだ。さっさと済ますに限るってモン――、うおぉっとォ!?」


 そのまま俺たちへと距離を詰めようとしたが、目にも留まらぬ速さで抜刀されたルリ・カネミツの一撃がそれを見事に遮った。あと少しでも足を止めるのが遅ければ、男の首は刎ねられていただろう。一瞬で元の位置まで後退したその男は、鼻先から噴き出した血を拭いながら笑った。


「やるじゃねーか、ちっこいの。俺は猪突猛進(チョトツモウシン)ってんだ。名前を教えてくれるか?」


「ルリ」


 直後に激突。

 猪突猛進を名乗る男は素手で、ルリは手にした日本刀で。


 目にも留まらぬ速度で戦闘を開始した。


「まったく……、あの子は」


 俺や栞を庇うような位置取りで、ケネシーはため息を吐いていた。


 まあ、ため息を吐きたくなる気持ちも分かる。臨機応変を名乗る男に、人間ロケットのもう片方、それに加えて上空でこちらを睥睨するように浮遊している男女2名。ルリ・カネミツが猪突猛進を抑えたとしても、まだこれだけ残っているのだ。


「ねえ、応変(オウヘン)。ここにいる奴ら、私たちが貰っちゃっていいのよね?」


「ええ、構いませんよ。お好きにどうぞ」


 金髪ロールの女性へ、心底どうでも良さそうな口調で臨機応変が言う。


 その臨機応変と目が合った。

 嘲りを多分に含んだ笑みを向けられる。


「残念ながら、貴方と手合わせすることはかなわないようですね」


「なぜだ?」


 見え透いた挑発に対して、素朴な疑問で返されたことが不思議だったのか、臨機応変の眉が吊り上がった。


「なぜ、とは?」


「なぜ、俺たちが負けることが確定しているかのような口調で話しているのか、って聞いてんだよ。このマヌケ」


 俺の口上を合図として、突如遥か先から数えきれないほどの光弾が次々と放たれた。それらは、まるで流れ星のように煌き、着弾と共に破壊をもたらす。俺や栞、そしてケネシーがいる場所を避けるようにして、周囲一帯を躊躇いなく地獄へと変えていく。


「実に危なかった。間一髪」


 まったく命の危険を感じさせない棒読みのような口調でそう言ったルリ・カネミツは、降り注ぐ星々を軽やかに躱して俺たちのもとまでやってくると、手にしていた日本刀を地面へと突き刺し、瞬く間に俺たちを守る結界を発現させた。


「ルリ。T・メイカー様がいるにも拘わらず、独断専行で1対1に持ち込むとは何事ですか」


「む。訂正を要求する。確かに身体の体積に対して脳みそが圧倒的に足りなそうなあの男相手に戦いはしたけど、周囲への警戒は怠っていなかった。T・メイカー様の玉体には塵ひとつとて付着させない自信がある」


 ケネシーの指摘に、言葉通りむっとした表情でルリ・カネミツが反論する。それに対して、再び何かを口にしようとしたケネシーだったが、その言葉が放たれることは無かった。


 衝撃音。


 ルリ・カネミツの展開した結界に拳を打ち付けたのは、次々と降り注ぐ星々の群れを掻い潜ってここまでやってきた猪突猛進を名乗る男だった。


「おいおい! 逃げんじゃねーよ、ちっこいの!! 俺とやってる最中だっただろうが!!」


「びっくりするくらい単細胞。手間をかけて名乗った私の苦労を返して欲しい」


「あァ? 何を言って――」


 そこで、その男の言葉は途絶えた。

 首が飛んだからだ。


 頭部を失った胴体が、ぐらりと傾く。

 忘れていたかのように、遅れて鮮血が噴き出した。


 その光景をなるべく見せないように、隣で寄り添っていた栞の頭を抱える。


 そして、声を掛けた。

 周囲の惨状を生み出した魔法使いへと。


「よく来た、シルベスター」


「勿体無きお言葉」


 結界を挟み、俺の正面へ1人の戦乙女が降り立った。


 いつも着ていた白銀色の鎧ではない。全身をすっぽりと覆うような、少し灰色がかった魔法服を身に纏ったシルベスターは、俺へ向けて深く一礼した。この戦場において、致命的な油断とも言えるほどに深い一礼だった。


 しかし、だからと言ってそれがシルベスターの隙となるわけではない。


 その背後から忍び寄った長髪の男の一撃を、シルベスターは手にしていた剣で難なく弾き返す。その刀剣は様々な色が複雑に絡み合った、不可思議な色をしていた。刀身を中心として小さな粒子が渦を巻いているそれは、まるで銀河を凝縮したかのような光景にも見える。


 後退して距離を置いた男は口にする。


豪胆無比(ゴウタンムヒ)と言う」


「そうか。興味が無いな」


 シルベスターが剣を振るった。


 煌びやかな光を発するその剣は、その刀身の動きに呼応するようにして、周囲一帯を蹂躙している光弾と同じものを次々と射出していく。豪胆無比は舌打ちしてから、更に距離を置いた。その光景を鼻で嗤いながらシルベスターは言う。


「……愚かな。『星光の葬列スターライト・パレード』」


 天へと掲げるようにして握られた剣から、数えるのも馬鹿らしくなるほどの光弾が放たれた。光の筋を軌跡として残し、豪胆無比のもとへと次々に凶弾が着弾する。あっという間に着弾によって生じる砂ぼこりによって豪胆無比の姿が見えなくなった。


 あらかじめ用意されていた球数が尽きたのか、周囲の爆撃が止む。


 残念ながら、あの攻撃でも集まった『ユグドラシル』の面々を壊滅させることはできなかったようだ。臨機応変も、金髪ロールの女も、その横に控えていた男も、挙句はたった今シルベスターの魔法で滅多打ちにされていた豪胆無比も生きていた。


 更に。


 鈴の音が鳴る。

 思わず上空へと顔を向けた。


 空間が歪む。

 出現した輪っかがその大きさを変えていく。


 1つや2つではない。

 更に4つ。


 最悪だ。

 最悪な状況だ。


「ふむ……」


 白髭を撫でながら姿を見せた、初老の男性が言う。


「臨機応変、花鳥風月(カチョウフウゲツ)。君たちの部隊だけかね? 勇猛果敢(ユウモウカカン)はどうしたのかな」


「さあ? 死んだんじゃないの?」


「恐らく既に死亡しているかと。そこのリナリー・エヴァンスの下僕が暴れまわっていたようですので」


 花鳥風月と呼ばれた金髪ロールの女が適当に、臨機応変が丁寧に初老の男性へと返す。初老の男性は2人へ頷きを返すと、その視線をまっすぐに俺へと向けて来た。


「初めまして……、だね? 中条聖夜君」


「……そうだな。あんたのことはなんて呼べばいい?」


「そうだね。短い付き合いではあるが、名乗っておくことにしよう。儂は初志貫徹(ショシカンテツ)のコードネームを頂戴している」


 初老の男性と言葉を交わしつつも、俺の思考は別のことへと割かれていた。


「死ぬ前に教えておこう、中条聖夜君。我々『ユグドラシル』の実働部隊が手を組むことなど稀だ」


 現在、こちら側で戦力となるのはシルベスターとケネシー、そしてルリの3人だけだ。しかもルリは結界の展開に力を使っているため、戦闘には参加できない。実質2人ということになる。


 対して、『ユグドラシル』側の戦力は膨大だ。


 初志貫徹、臨機応変、そして花鳥風月。

 これまでの態度と初老の男性の台詞から想像するに、この3人はそれぞれが部隊リーダーだ。


「見てごらん。これだけの人数が用意された。君を殺すために、だ。君を確実に殺すためだけに、この人数が集められたのだ」


「……俺1人のためだけ、か。随分と買い被ってくれたものだな」


 吐き捨てるようにそう答える。


 犯罪組織『ユグドラシル』の内部には、複数の実働部隊が存在する。実働部隊は、部隊リーダー1人とその他メンバー3人で構成されており、組織から指令が下るときには部隊リーダーが対応する。実働部隊はそれぞれが独立しており、繋がりは一切無い。


 これは以前、美月が明かした『ユグドラシル』の内部事情だ。


「謙遜するものではないよ、中条聖夜君。君にはそれだけの価値があるということだ」


 実働部隊は、4人で構成されている。初志貫徹と共に姿を見せたのは3人。つまりは、この4人で1部隊。花鳥風月の部隊は、彼女が傍に控えさせている男と、先ほどシルベスターが首を刎ね飛ばした猪突猛進という男、そして豪胆無比を名乗る長髪のあの男だろう。


 では。

 臨機応変を名乗る男の部隊は。


「もっとも、その行動はお粗末なものだと言わざるを得ないがね? リナリー・エヴァンスが天地神明(ボス)の足跡を辿るためにこの国へ訪れることなど、我々にはお見通しだった。そこへ罠を張っておけば、いずれは君が訪れるであろうことも分かっていた。君は神出鬼没な『黄金色の旋律』で唯一、らしからぬほどフットワークが軽いからね」


 足跡を辿る?

 何の話だ。


 乱されかけた思考を強引に引き戻す。


 ルリによって応急処置が施されていたはずの少年は、おそらくもう死んでいる。シルベスターからあれだけの猛攻を受けていれば、無事ではいられないだろう。そしてその少年のことを、臨機応変は自分とは無関係だと言っていた。


 つまりは、別部隊。

 先ほど初志貫徹が口にした「勇猛果敢はどうしたのか」という言葉。


 ふと、距離の空いた場所に立ってこちらを窺っている臨機応変と目が合った。口角が持ち上がり、整った顔が歪む。まるでそれは、俺たちを嘲笑っているかのようで。


 理解した。


 ここに派遣されたのは、4部隊。

 それぞれの部隊リーダーは、初志貫徹、臨機応変、花鳥風月、そして勇猛果敢だ。


「誇りたまえ、中条聖夜君。これだけの戦力を『ユグドラシル』から引き出したことを」


 勇猛果敢の部隊は、ほぼ全滅。

 おそらく最初に栞を襲ってきた連中だ。


 その中には、あの黒髪の少年も含まれていた。この場に現れないことを考えると、既にシルベスターによって壊滅状態にされたと見ていい。これ以上相手の頭数が増えて欲しく無くて、そう考えてしまっているだけかもしれないが。


 花鳥風月の部隊は、1人リタイヤで残り3人。

 死んだのは先ほどシルベスターが首を刎ねた猪突猛進だ。


 初志貫徹の部隊は、全員生存。

 というか、今来たところだ。


 そして、臨機応変の部隊。

 おそらく全員生存。

 そして、こちらが完全なる隙を見せるまでは姿を見せないだろう。


「ふはっ」


 笑い声。

 人の神経を逆撫でするような、嘲りに満ちた笑い声を上げたのは臨機応変。


 奴は言う。


「さあ、どこまで状況が理解できたかな。中条聖夜」


「4部隊のうち、既に1部隊を潰した。後は3部隊ってことくらいかな」


 明らかな強がりでそう返しつつ、傍にいるルリへ小声で話しかける。


「シルベスターとケネシーを結界の中に入れて、俺だけ外へ出せ」


 その命令に、ルリが信じられないと言わんばかりの表情でこちらを向いた。

 そして一言。


「やです」


「やれ」


「その命令には従えません。お許しください」


 シルベスターが割って入って来た。


「お前の意思は聞いていないが?」


「存じております」


 会話になってねーよ。


「勝算があるから言っている。さっさと言う通りにしろ」


「ルリ、貴方は死んでもその結界を解いてはなりません」


 ケネシーまで割って入って来た。

 俺を余所に、ルリは当然のように頷く。


「当たり前」


 おい。


「メイカー様」


 俺の『魔力暴走(オーバードライブ)』について、短時間でどう説明したものかと考えていたら、シルベスターから声が掛かった。


「貴方のことは、必ずお守りします。この一命に代えましても」


「下手な誓約はお前の価値を下げるだけだぞ、シルベスター。星空の無いこの状況下で、これだけの人数を相手にお前は勝てるのか?」


「はっ。必ずや勝利を捧げて御覧に入れましょう」


 嘘つけ。


 さっきの『星光の葬列スターライト・パレード』の威力は俺も見たぞ。

 分かり切ってることを言うんじゃない。


 それでも。

 シルベスターもケネシーも。


 一歩も譲ろうとはしなかった。

 既に覚悟は決めているのだと、その目が語っていた。


 どうしてこんな俺のために、こうも易々と命を捨てようとするのか。

 理解に苦しむ。


「さて……。お仲間へ、別れの挨拶は済んだかな?」


 初志貫徹は、白髭を撫でながら言う。

 自らの部隊に指示を出すべく、もう片方の腕を上げて――。




「あら。そっちの腕から折って欲しいのね?」




 初志貫徹の左腕が、ごきりと嫌な音を鳴らした。

 この場にそぐわない、楽しそうな声色と共に。


「がっ!? ――なっ!?」


 突如姿を見せた乱入者が、初志貫徹の腕を折った。


 何の躊躇いも無く。

 誰に気付かれることもなく。


 その乱入者には見覚えがあった。


 片手に青白く発光する本を持ち、もう片方の細腕で初志貫徹の腕を折ったその乱入者は、眼鏡の奥から覗く勝気な瞳でこちらを睥睨する。


 そして、言った。


「手助けが必要かしら、中条聖夜」


 神楽(かぐら)宝樹(ほうじゅ)

 まさかの人物が、この場に降臨した。

 次回の更新予定日は、8月19日(水)か8月26日(水)です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 能力制限掛かってるとはいえ、仮にもSランクの白銀色とそれなりに戦える戦闘員がこれだけいるユグドラシル……人材豊富だなぁ……
[一言] リナリーじゃないんかーいwww
[気になる点] 勘違いが発生している神楽と信者白銀色が揃ったということは・・・ [一言] 勘違いがヒートアップする未来が(笑)
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