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テレポーター  作者: SoLa
第11章 女帝降臨編
380/432

第0話 意図

 この物語はフィクションです。

 実在する人物、団体などとは関係ありません。


 念のために。




 首相官邸の総理大臣執務室。

 そこへ、日本五大名家『五光』各当主の面々が呼び出されていた。


 その場で唯一席に坐するのは、この国のトップである内閣総理大臣のみ。その背後に控えるのは魔法省の大臣だ。執務机を挟んだ先で、5人の当主たちが直立している。


「……分かった。君たちの提言通り、アマチカミアキ討伐の事実は伏せるとしよう」


 重苦しいため息を吐き、総理大臣は言う。


「世界的犯罪組織である『ユグドラシル』の衰退が、他の犯罪組織の活性化を促す可能性があるという話は理解出来る。まさか、やつらも犯罪への抑止力の一端を担っていたとは。皮肉な話だ」


「そもそも、本当に『ユグドラシル』のトップを始末出来たという保証もありません。魔法世界側からの連絡があったとはいえ、その者がかの組織のトップであったという証拠も、その者の死体の確保も出来ていないのですから」


 白岡家当主、白岡巡はそう答えた。そちらを一瞥した後、総理大臣はもう一度、今度はわざとらしくため息を吐きながら手元の資料をめくる。その仕草を見て、二階堂家当主、二階堂華が端正な眉を吊り上げた。


「何か?」


「魔法協議会の会長が変わったな。どうだね、調子の方は」


「質問の意図が分かりかねますが」


 姫百合家当主、姫百合美麗は微笑みを崩さぬままそう返す。


古宮(ふるみや)殿が引退されてから、我々への情報提供が疎かになっているとは思わんかね」


 魔法省大臣が口を挟んだ。


「と、言いますと?」


「アマチカミアキが討伐されたという情報が、我々には入って来なかった」


 花園家当主、花園剛の質問に被せるようにして魔法省大臣が声を荒げる。それに鼻で嗤いながら答えたのは岩舟家当主、岩舟龍朗だ。


「必要無いと思ったからではないか」


「……なんだと?」


「どちらにせよ討伐の事実は伏せるのだ。ならば、必要の無い情報だろう」


「っ、何たる言い草だ! 私は魔法省の――」


 総理大臣が手で制したことで、魔法省大臣が口を噤む。

 しかし、それは岩舟の意見が正しいと考えたからではない。


「今回の一件についても、魔法世界側からの情報提供が無ければあずかり知らぬところだった。その情報提供があったのも、その討伐に我が国の学生が絡んでいたがゆえのこと」


「それが現会長の判断でしたので」


「それが困ると言っているのだ」


 剛の返答へ切り返すようにして総理大臣は言う。


「我が国の人間が絡んでいるにも拘らず、流石に私が何も知らないというのはまずい。あちら側からの謝罪に、何の話かと問い返すところから始まっているのだぞ」


「面子の話か?」


 吐き捨てるように言う龍朗を、総理大臣が睨む。

 仲裁に入るように巡が声をあげた。


「我々に何をお望みなのかは敢えてお聞きしませんが、我々の一存では如何ともしがたいことですので」


「私は総理大臣、この国の最高責任者だが?」


「しかし、魔法のスペシャリストでは無い。そちらの大臣も同様だ」


 ぴしゃりと龍朗が言い放った。

 総理大臣の目が細められる。


「……魔法の危険性については十分な認識をしているつもりだ」


「現場第一線で活躍している魔法使いと同じ程度にか? もし本当にそう誤認しているのなら天晴れだな。転職を勧めよう」


「口が過ぎるぞ、岩舟」


 口論になる前に、剛が割って入った。

 龍朗は鼻を鳴らして視線を逸らす。


 総理大臣は意識的に怒りを吐き出すようにして深呼吸した。魔法省大臣に至っては怒りのあまり顔が真っ赤になっている。


「国家間の信頼関係にも関わってくる話だ。君たちの方からも会長殿にはそう伝えてくれ。話は以上だ。退出してよろしい」







「腹立たしい。変えるか?」


 退出し、廊下に出るなり龍朗はそう切り出した。


「馬鹿を言うな。第一、何を理由に」


 何を、という単語が抜けているが実際に何を指しているかは明白だ。剛は切って捨てるようにそう返答する。しかし、龍朗の方は本気だった。


「魔法関連において著しく国防を損なうと判断した場合は強権を発動できるだろう」


「流石に横暴が過ぎるな。国民からの信頼は得られまいよ」


「国民の信頼?」


 職員を避け、廊下を歩きながら龍朗は鼻で嗤う。


「政治になど、とうに期待していないだろう。ただただ消去法で次代の与党を決めているだけだ。どこが一番マシなのか、とな」


「自分の考えを世間一般のものとして発言するな」


「事実だろう。戦争には反対なのに、改憲派が集う一派が権力を握っているのがその証拠だ。人は誰しも自分がかわいいのだ。お国のために自らの命を投げ打つ時代はとうに廃れたのさ」


「話が飛躍しているぞ。それに、戦争で戦う理由は国のためだけではない。愛する家族、親友、恋人。ひとそれぞれで理由は違う。無論、戦争など無いに越したことはないがな」


「ふん、そもそも金さえ与えればどこにでも靡く連中だ。元より信頼は置けん」


「それは偏見だな」

 

 龍朗と剛のやり取りを興味深そうに聞いていた巡が口を挟む。

 そして、にやりと口角を吊り上げた。


「そういった輩がいるのも否定はせんがね?逆にそういう者ほど重宝するぞ。何せ金さえ用意できればどのような駒にでもなり得るのだからな」


「所詮、世の中は金だ」と巡は笑う。


「話が脱線しておりますけど」


 ジト目で美麗が口を開いた。


「とにかく、強権の私的流用には反対を。今は戦争時ではありませんので」


「右に同じく」


 自分は関係無いと言わんばかりに距離を置いて歩いていた華も同調する。数の暴力に負けた龍朗は、つまらなそうに言う。


「新たな会長殿ならお許しを頂けると思うがな」


「その会長に関してですけど」


 華の視線が剛へと向いた。


「いったいどうなさるおつもりで?」


「分からん」


 それが剛の偽らざる本音だった。


「あちら側からの要求は、中途入学を認めろという一点のみ。理由についてはお答え頂けませんでした」


 美麗が付け加えるようにしてそう口にした。


「……御息女は確か中学を中途退学されていたな。以降は学業の場には姿を見せていなかったはずだ。なぜ今更になって?」


 巡は顎髭を撫でながら思案する。


「まさかまた中条聖夜絡みでは」


「何の確証も無く決めつけてはかわいそうですよ。彼はまだ学生の身です」


 華の邪推を注意するように美麗が反論した。


「かのリナリーエヴァンスの弟子でありながら、ただの学生の身とは笑わせてくれる」


 龍朗は少しの笑顔も浮かべずに言う。

 そして、真面目な顔をしてこう続けた。


「くれぐれも扱いには注意することだ。下手を打てば死人が出るぞ」


「分かっている」


 剛は幾分かうんざりした声色で呟く。


神楽(かぐら)宝樹(ほうじゅ)……、か」

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