第16話 招待
「っ、お前……」
開いた扉の先。
木を基調とした部屋の中。
中央に置かれている木製の長机の一角で。
ティーセットを広げて優雅に寛ぐその女に、俺は見覚えがあった。
「ハローハロー」
その女は気の抜けるような挨拶と共に、嫌に気さくな態度で手をひらひらさせてくる。
大きな窓ガラスから差し込む夕日を浴び、その美しい“銀色の髪”はより一層際立って見えた。
「……お前も、生徒会だったのか」
「ええ、そうよ」
「聞いてないぞ」
「聞かれてないからね」
しれっと答えてきやがる。
……そういえば、こいつ昨日言ってたな。「この学園の校風すら変えられない」とか何とか。よくよく考えてみれば、ただの一生徒が口にするような発言じゃない。それに加えて、片桐との繋がりも何となくだが見えていたんだ。察しておくべきだったか。
「それとなーくヒントは与えてあげてたつもりなんだけど。中条君って、意外と鈍感さんかな?」
首を傾げるその仕草が可愛い所がムカつく。
「ファーストコンタクトの場所があの階段だったって時点で、もうバレちゃったかと思ってたけど」
……そうだな。あの階段の先には、教会かこの生徒会館しか無かったんだ。ここまで条件が揃っていながら気付けないとは。
「まあ、お蔭でドッキリが成功したんだしね。良しとするわ」
カチャリと音を立てて、女は手に持っていたティーカップをソーサーに置く。
「生徒会役員の御堂紫よ。紫って呼んでね」
……御堂? 何処かで聞いたような。……名家だったか?
「それで、俺に何の用だ?」
「はい?」
俺の質問に、御堂が首を傾げる。
御堂という名を何処で聞いたかは思い出せないが、それは後回しで構わない。ひとまず、この女の目的を知っておく必要がある。
「まさか俺に罰則でも与えようとしているのか?」
「それは名案ですね」
「お前には聞いてない」
後ろから口を挟んできた片桐の言葉を両断する。片桐は気に入らないといった表情でそっぽを向いた。
「ぷっ」
何が面白かったのか。御堂は俺たちを見て笑いを漏らした。
「中条君、貴方ちょっと結論を焦り過ぎよ」
「こういう性分なんだよ。それに、掌で弄ばれているような状態は好きじゃない」
「あら残念。もう少し引っ張るつもりだったのに」
「そういう無駄な演出はいらん」
俺の言葉に、御堂は本気で残念そうな顔をしながら自らの髪を数回撫でつけた。
そして。
「中条君を生徒会に勧誘でもしようかと思って」
……。
「……は?」
唐突に御堂から漏れ出た言葉に、思わず言葉を失った。
今、何て言った?
「すまん、よく聞き取れなかった。もう一度言ってくれるか?」
「うん。中条君を生徒会に勧誘しようかと思って」
……。
言っている意味が理解できない。いや、俺の脳が翻訳をミスっているという可能性もある。
「……それ、何語?」
「日本語だけど。英訳した方がいい? そう言えば中条君、帰国子女だものね」
「……いや、いい。ちゃんとした日本語でもう一度頼む」
「中条君を、生徒会に、勧誘しようかと思って」
……。
聞き間違いではないらしい。
「え、本気なの?」
「ええ、本気だけど」
予想の斜め上をいく展開だ。
「片桐」
「はい」
「こいつ、頭でも打ってるんじゃないのか?」
「私も最初は疑っていたのですが、残念ながらこれで正気のようです」
「ちょっと!? それ酷くない!?」
片桐の冷静な対応に、御堂が心外だとばかりに叫ぶ。
「酷いのはお前の脳内とその決断だ」
「中条聖夜さん、珍しく意見が一致しましたね」
「奇遇だな」
「そこで共闘しないでよ!!」
涙目で喚く御堂に、俺はため息を1つ吐いた。
「何を企んでいる」
「……何かしら、さっきから心外な物言いばかりしてくれちゃって」
俺の若干トーンを落とした声色に、御堂もふざけた空気を消し去る。
というか、今の嘘泣きかよ。中々に強かな女だ。
ただ、そのぶすっとした表情は止めてもらいたい。雰囲気ぶち壊しだ。
「俺を生徒会に引き入れるメリットが見当たらないって言ってんだよ」
「何だ、そんなこと?」
御堂は「何を言い出すのかと思えば」みたいな表情で、手元にあったティーポットを傾けた。空のティーカップ3つに注いでいく。
「ダージリンだけど、いかが?」
「先に俺の質問に答えろ」
「本当に難儀な性分ですこと」
芝居がかった声色でそうのたまい、御堂は自分のティーカップに口を付けた。
カップ越しに俺を見据えて、一言。
「貴方、今の自分の立場分かってる?」
「あん? 失礼な態度でも取れば、この館内でタコ殴りにでもされるのか」
「違う違う。勧誘に関する質問への答えよ」
ああ、そういうことか。
てっきり脅されてるのかと思ったわ。
「俺の立場なんて、お前も分かりきってるだろ。俺は“出来損ないの魔法使い”だ」
「あー、違う違う。そっちでも無いわ」
……じゃあどっちだ。
「随分と自虐願望をお持ちのようですね」
「うるせーよ」
後ろで、片桐に呆れ声で言われた。
「私が指しているのは、もう1つの方」
「もう1つ?」
「“2番手”」
その単語を聞いて、俺の眉は無意識下でピクリと反応した。
「学園は、正式には認めてないって話だったぞ」
「そりゃそうよ。私闘なんて簡単に容認してたら、生徒会のメンバーは過労死で皆死んじゃうわ」
「じゃあそんな肩書き意味無いだろう」
「現段階では、ね」
「あん?」
御堂は思わせぶりに一度言葉を切り、カップを置いた。
「現か元かはこの際置いておくとして。“2番手”である豪徳寺大和を一騎打ちで破り、彼にその実力を認めさせた。そして先日、公衆の面前で“5番手”を迎撃。番号はどうあれ、貴方が『番号持ち』入りするのは時間の問題よ。私闘とはいえ、流石にこれだけの事態を学園側が見過ごすとは思えない」
「ナンバー?」
「学園が認める上位5名の魔法使いを指す単語です。“1番手”から“5番手”まで。1から5までの番号を与えられる事から、『番号持ち』と呼ばれています」
片桐の解説を聞き、思わず頷く。
「へぇ、そりゃ初耳だ」
「生徒会は現状、2人の『番号持ち』を所有しています。更に2番の襲名最有力株である貴方を迎え入れるという事は、真に遺憾ながら生徒会の戦力向上という観点から見れば、確かに理に適っていると言わざるを得ません」
「あれだよね、お前の言い回しって結構棘あるよね」
「1,2,3番手が所属する組織。いわゆる学園トップ3です。抑止力としても十分機能するでしょう」
スルーかよ。
……ん? まさか。
「おい、御堂」
「紫って呼んでね」
「お前、“3番手”か?」
「え?」
御堂のお願いを丸ごと放り出し、質問する。その内容は予想できなかったのか。御堂は一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに首を横に振った。
「残念ながら違うわ。私、あんまり魔法って得意じゃないしね」
「……おいおい。じゃあまさか」
「貴方程度が何を考えているかは魔法を使わずとも容易に想像できますが……。大変心苦しいですがきっぱりと言っておきます。私でもありません」
「俺に喧嘩売ってんのか、てめぇは」
「まぁまぁ、“3番手”が誰かっていうのはひとまず置いておいて」
俺と片桐の間に散った火花を見て、御堂が手を鳴らした。
「中条君。生徒会のメリットは分かったでしょ?」
「そうだな」
御堂の言葉に頷く。
「じゃあ生徒会に――」
「断る」
「何で!?」
俺の断言に、御堂は驚いたように声を上げる。……別に驚愕する答えじゃないだろう。
「俺のメリットが無い」
生徒会が何人『番号持ち』を保有しようが、それによって抑止力がどうなろうが、俺には関係無い。
「学園の為に尽力とか、そんな綺麗事考えられないからな」
「でしょうね。貴方を見ていれば直ぐ分ります」
「……お前、いい加減表出ろ」
どれだけ嫌いだ、俺のこと。
「あるわよ、メリット」
「へぇ、どんな?」
あっけらかんとそう言い放つ御堂に向き直る。
生徒会役員になるという奇想天外な事態が、この俺にどうメリットをもたらすというのか。
軽い気持ちで先を促した俺だったが、
「選抜試験、そのグループ登録。貴方とその友人を悩ます問題を解決できる」
放たれた一言は想像以上に俺を驚かせるものだった。
「……何だと?」
自分の声が、震えていることに気付いた。どうやらそれ程までに、御堂から発せられた言葉は俺に衝撃を与えているらしい。
「貴方は気兼ねなくお友達と組めるようになるわ」
「どういうことだ」
「簡単よ」
御堂は特に勿体ぶる事無く答えを提示した。
「生徒会という立場を利用すればいい」
「……言っている意味が分からないな。お前の言う生徒会って大層な立場を利用すれば、“出来損ない”の色が薄れるとでも?」
「正式な書類の話を指すのなら、確かに書面上から塗り潰せますね」
「……何?」
後ろに控えていた片桐からの思いの外暴力的にな表現に、軽いジョークのつもりだった俺は一瞬言葉に詰まった。
「中条君。貴方、生徒会役員の特権はご存じ?」
「……特権? 雑用係じゃないのか」
「……普段の生徒会がどのように見られているのか良く分かったわ」
滅茶苦茶落ち込まれた。
「特権の方だと言っているでしょう」
ため息交じりに片桐がそう言う。
とは言ってもな。
「あのなぁ、俺はまだ転入してきて間もないんだぞ。特権なんて言われても――」
あ。
「試験受けずにクラス=Aってやつか?」
「そうそう、それよ」
良く出来ましたとばかりに、御堂がうんうんと頷くが、
「それが何だ」
「あら」
再びがっくりと項垂れた。
「良く考えて見て下さい。試験を受けずに最高クラスへと配属されるんです。そのメリットは何ですか?」
見るに見かねたのか、片桐が口を挟んでくる。
……試験を受けずにクラス=Aへ。そのメリット、か。
「答えはね」
銀髪を撫でながら、御堂がそれとなしに口を開く。
「試験結果……というよりも。クラスの配属先、つまり自らの魔法使いとしての位は明記されたとしても、その内訳は明記されないって事よ」
「っ」
その答えに、思わず息を呑む。
内訳は明記されない。それはつまり……。
「そう。貴方が危惧している呪文詠唱の採点項目。スルーできるわよ」
……。
呪文詠唱の採点項目免除。学園の記す正式な書面に、記録がつかないという事。
「加えてクラス=Aに在籍できます。これ以上の条件は無いでしょう」
「口ではね、何とでも言わせておけばいいのよ」
御堂は心底くだらなそうにティーカップを弄びながら言う。
「貴方は書面上どう見てもクラス=Aのエリート。そして『番号持ち』入りの最有力候補生。これ以上、何を望むの? お友達に遠慮なんて、しなくていいと思うけど」
「貴方のその人格さえどうにかなっていれば、むしろ『スカウト』や『アピール』で引っ張りダコになれるレベルですね」
片桐が何やら茶々を入れてきているようだが、それすら気にならなかった。
いや、気にする事ができなかったと言った方が適切か。
うまく、呼吸ができない。心臓がバクバクいっている。小刻みに震える手を、制御できない。
俺の心境に気付いたのか、御堂がクスリと笑った。後ろからは、何やら露骨に嫌そうなため息が聞こえる。
「それで?」
いつまで経っても答えない俺に痺れを切らしたのか、御堂が先を促してきた。
「どうする? 中条君」
これは、相当旨い話だ。学園が外に提示する書類にバツが付かないのなら、あいつらと組むことができる。その上(目立つのは正直避けたい事ではあったが)、クラス=A在籍に『番号持ち』の称号を得られるのなら……。
“出来損ないの魔法使い”という汚点が、完全に払拭されるわけではないが、それが気にならなくなる程度にはもっていける。そうだ。なにせ、外に出す書面には良い記述しか書かれないのだから。
「……1つだけ、教えてくれ」
「何かしら」
御堂が良い笑顔を向けながら、首を傾げてくる。
「何でなんだ?」
「はい?」
「俺とお前は、正直何の繋がりも無い。転入してきた頃に一度、階段ですれ違った程度だったはずだ。なのに……。何でお前はここまで俺に気を遣ってくれるんだ?」
「言ったでしょ。自分が、情けないって」
「あん?」
脈略の無いセリフに、思わず聞き返す。
しかし、御堂にとってはそれが答えだったらしい。
「貴方がこうして悩まなければならない状況を作っているのは、私たちよ。これだけの権利を有しておきながら。これだけの待遇を受けておきながら。……私たちは、悪しき風習の1つすら変えられないの」
その言葉に、片桐も表情を悟られぬようにするためか、静かに俯いた。
「学園生活を少しでも楽しめるよう、イベントを提案できる。少しでも便利になるよう、施設や設備を改修できる。少しでも良い待遇になるよう、教師陣に提案できる。風紀を守る為に、規律を制定できる。それでもね」
ティーカップをゆらゆらと揺らしながら。
「生徒みんなの思想は、変えられない」
……。
「変えられないのよ」
もう一度、言った。
静寂が会議室を包み込む。
それでも。
俺にとっては温かい沈黙だった。
だからこそ。
「はぁ……」
「ちょっと!? 何でそこでため息なんて吐くのよ!?」
面と向かってそんな事言われると恥ずかしいからだよ、とは絶対に言わない。
けれど。
ここまで誠実な奴らには、少しだけ本音で応えてもいいのかもしれない。
そう、素直に思えたから。
「ありがとな」
「え?」
「そう言ってくれる奴が1人でも傍にいてくれるだけで、救われるよ」
「っ!」
御堂の目が見開かれる。
『ありがとな』
『え?』
『世の中には、いろんな人間がいる。くだらない事で騒ぐ奴もいれば、アンタみたいに他人の事を自分の事のように考えてくれる、悩んでくれる奴もいる』
『……中条君』
『ま、あんたみたいな奴は稀だがな。人の好みまで詮索する程のお人好し兼ストーカーなんざ、滅多に会えるものじゃない』
『ちょっ!? それは流石に――』
『けどな。それでも確かに、救われてる奴はいるんだよ』
おそらく、俺の言わんとすることには気付いただろう。
あの時は、何処かで他人事だと思っていた。
そういった同情など、何の糧にもならないと思っていた。
卒業なんて、できてなかった。ずっと燻ってたんだ。心の奥底で。いや、もしかするとずっと表面から出ていたのかもしれない。“出来損ないの魔法使い”、ある種の劣等感とも呼べる負の感情が。あまりに自然に感じていたせいで、気付けなかった。自分がどれだけこの蔑称に憤りを感じているかを。
舞や可憐、咲夜が悪かったわけじゃない。
私たちは気にしない、と。そう言ってくれるのも優しさだ。そして、自分たちの立場を危ぶめてまで俺の傍にいようとしてくれた事に対しても、感謝は絶えない。
けれど、俺は心の中ではこう思っていたんだ。
全てが恵まれた人間に、俺の気持ちなど分かるはずがない、と。
卑屈になってた。
もう認めよう。俺は、まだまだ子供だったんだ。
親から見捨てられ、手に入れた魔法すら才が無かったと知った時の絶望感。対して、恵まれた血縁に生まれ文句無しの魔法力を持ったアイツ等。勝者が何を心配したところで、結局それは見下されているだけ。何の慰めにもならないんだと、勝手に聞き流していた。
『貴方は、いつもそう……。私の為可憐の為って言っておきながら、結局自分の親切を押し付けてるだけじゃない!!』
舞の言う通りだ。結局、俺は自分の感情を押し付けていただけ。
何も無い俺と違い、お前らには大切なモノがあるんだと。所詮住む世界が違うのだからと。
親切だからじゃない。ただの、八つ当たりだ。
「だせぇ……」
本当に格好悪過ぎだ。
「そんなことないわ」
その声に目を向けてみると。
御堂は席から立ち、俺の目の前へと歩み寄っていた。
「貴方が今、何を考えていたのか私は知らない。けれど、貴方は格好悪くなんて無い」
いきなりの言葉に、面食らう。
「グループ試験はね、メンバーの力量によって大きく左右される試験よ。だから、必然的に力の強い生徒に人は集まってくる。信頼や協調を後回しにした、打算的な考え方でね。私は、それが大嫌い」
でもね、と御堂は笑う。
「貴方は、違った。そうでしょ? どんな経緯や理由があれ、貴方は友達の為に学年最強とも言われる2人の『アピール』を断った。それは、尊ぶべき決断よ」
「……けどな――」
俺のしようとした反論は、御堂に首を振られて遮られた。
「だから、私は貴方に目を付けた。私は、貴方の人間性に惹かれた。生徒会の戦力補強なんて二の次よ。私は。私たちは。私たち青藍魔法生徒会は。中条聖夜君、貴方を迎え入れる用意がある」
……。
「私たちの、仲間になって頂戴」
真摯な瞳に、見つめられる。
「そう深く考える必要などありませんよ」
俺が御堂の言葉に萎縮しているとでも捉えたのか、片桐がこんな事を言う。
「貴方は生徒会の立場を利用していればいいのです。当然、私たちも貴方の力は利用させてもらいますが。ギブ&テイクというやつですね」
「ちょっと沙耶ちゃん。そんな事言わないの。組織力っていうのは、信頼から作り上げられるものなんだから」
「……は、はは」
「……気でも狂いましたか」
「ははは」
思わず笑ってしまう。
良い雰囲気をぶち壊した片桐にも。
それが本当は俺の気持ちを楽にする為の言葉だったことも。
その言葉を真に受けてしまった御堂が説教を垂れるのも。
全てが、温かかった。
「片桐」
「……何ですか?」
「お前、良い奴だな」
生徒会入りは反対とか言っておきながら。何だかんだでこいつもお人好しって事だ。
「はっ!? な、なななっ、何を突然!?」
俺の言葉を受けてわたわたと慌てだす片桐を尻目に、御堂と改めて向き直る。
「御堂」
「紫って呼んでね」
勝気な瞳に、優雅な笑みを携えて。
御堂は俺の答えは既に分かりきっているにも関わらず、お決まりのセリフと共に先を促してきた。
「よろしく頼む」
手を差し出す。間髪入れずに握られた。
女性らしい、柔らかな掌だ。
「こちらこそ」
「せいぜい役に立って下さいね」
片桐の憎まれ口も、今だけは少しだけ心地良かった。
「ああ。見合う成果は挙げてみせるさ。雑用でも何でも言ってくれ」
片桐にも手を差し出す。
それをチラリと見た片桐は、無理矢理目線を逸らした先が御堂で無言の圧力でも受けたのか、「うぅ」とか唸りながら恐る恐る俺の手を握ってきた。
「よろしく」
「……こ、こちらこそ」
こうして、俺は晴れて生徒会役員になれた。
――――と、なれば話は簡単に終わったのだろうが。
「ちょおっと待ちたまえよ、君たち」
会議室の出入り口から、第三者の声が響く。
俺が振り向くよりも先に、御堂はため息を吐き、片桐はこう呟いた。
「……会長」
その言葉で。
俺は自己紹介を受ける事無く、振り返った先に居た男の大まかな素性を知った。
癖のある銀髪。
女性が放っておかないであろう整った顔立ち。
こちらの全てを見透かしていそうなスカイブルーの瞳。
余裕に溢れた笑み。
胸ポケットから覗く、『エンブレム』。
「困るんだよねぇ。そういう大切な話を、俺抜きでされちゃあ」
この男が。
青藍魔法学園生徒会長にして、“青藍の1番手”。
――――青藍魔法学園、最強の男。