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テレポーター  作者: SoLa
第10章 真・修学旅行編〈下〉
376/432

オマケ 9章〈中〉15話(初期案)

 予告していた修学旅行編の初期案の一部を公開します。遡り前に死ぬ予定だったのがリナリーとヴェラではなく、スペードとアリスだったという案です。(本編分岐後3話分)


 これ自体が数年前に考えて用意していたものだったため、実際に採用された現9・10章とは内容が変わる上、設定などにも矛盾が生じていますが、そのまま公開します。ですので、混同しないようにご注意ください。ここで何かが発覚するようなことがあっても、本編の世界線にはなんら関係はありません。


 本日12時と15時にも更新します。

 あくまで用意していたものを公開するだけのため、完結はしません。

 今後も続きを書く予定は一切ありません。




 魔法世界エルトクリアの暦は、七属性の守護者たちの名前を月へ用いて、ライオネルタから始まり、ウリウム、ガングラーダ、ウェスペルピナー、グランダール、アギルメスタ、そしてガルガンテッラで終わる。各月52日から53日で構成されており、日本で言うところの閏年のみライオネルタの月が54日となる。


 魔法世界を建国したガーナ・エルトクリアが自らの国の暦にその名を用いただけあって、彼らの功績は計り知れないものがある。なにせ、この世に魔法という奇跡の力を広めたのは『始まりの魔法使い』たるメイジと彼らなのだから。


 メイジの神殿から始まり、七属性の守護者全ての神殿を回り終えた俺たちは、宗教都市アメンにある歴史館を訪れていた。


 ここには、メイジと彼を師事する事になる7人の弟子達の出会いから始まり、魔法世界の建国、そして現在までの発展の道のり、その全ての歴史が詰まっている。メイジ達の物語は伝え聞いた話として語られており、御伽噺としてのブースで語られてはいるが、先のウリウムの話を聞く限り、全てが実話だということが判明してしまった。


 魔法世界の暦ついて明記されているパネルを前にして、俺は立ち尽くしていた。




【魔法世界暦】

 ライオネルタ   53日(※閏年のみ54日※)

 ウリウム     52日

 ガングラーダ   52日   

 ウェスペルピナー 52日

 グランダール   52日

 アギルメスタ   52日

 ガルガンテッラ  52日  計365日

※1 1年は7ヶ月。

※2 週の概念は無い。

※3 魔法世界の暦とアメリカの暦の新年には13日分のズレが有る。




 魔法世界に住む人達からすれば、当たり前すぎてさっさと次へ進んでしまうパネルに違いない。観光で他国から訪れた人だって、そこまで意識して見るものではないだろう。しかし、真実を知ってしまった俺は、ある一文から目を離せなくなってしまった。




※3 魔法世界の暦とアメリカの暦の新年には13日分のズレが有る。




 なぜ、ズレがあるのか。魔法世界と言っても、エルトクリアは正確に言えばアメリカ合衆国の領地の一角を間借りしているだけにすぎない。厳密に言えば、魔法世界エルトクリアはアメリカの一部なのだ。にも拘らず、暦が別物であるどころか、新年の始まりにすらズレがあるのはぜか。


 それは、当時国内で弾圧されていた魔法使い達が、アメリカという大国に対して独立戦争を仕掛け、その戦争が終結するまでに13日間かかったからだ。絶対数の少ない魔法使い側が大国相手に善戦し、13日間も持たせることが出来た理由はただ1つ。


 メイジとその弟子達という超戦力がいたからである。


 終始魔法使い側が押され気味であった独立戦争ではあるが、メイジ達を投入した場所では必ず勝利を収めていた。これ以上の被害拡大を恐れたアメリカは、譲歩案を魔法使い側に提示した。魔法使い側に与えるのは、人権と自治権。


 対価は、メイジとその弟子7人の首。


 国家を脅かす程の力を持つ魔法という力を世に広めた存在にして、独立戦争における英雄たち。そのたった8人の存在が、絶対数の少ない魔法使い達が大国を相手にして独立戦争に踏み切るトリガーになったとも言われている。アメリカにとっては、その存在が何よりも恐ろしかったのだ。


 アメリカ合衆国の新年、1月1日から始まった魔法使い達の独立戦争は、13日後、メイジ達の公開処刑を以って幕を閉じることになる。自治権を勝ち取った魔法使い達が創り出した魔法世界エルトクリアが動き出したのは、独立戦争が終結してからである。断じて、アメリカの定める新年からではない。


 だから。

 アメリカと魔法世界の暦には、13日のズレがある。


 アメリカは、この13日間の多くを語らない。

 アメリカは、この13日間のズレを『空白の13日間』と呼ぶ。


 魔法世界の住人達は、この13日間を英雄達の悲劇と語る。

 自分達の尊厳を、命を懸けて勝ち取ってくれた英雄達を誇る。

 魔法世界は、この13日間のズレを『審判の13日間』と語り継いでいる。




 13日分の(、、、、、)ズレがある(、、、、、)




 たったこれだけの文字の中に、どれほどの苦悩と悲劇の物語が詰まっているというのか。ただ歴史の教科書の文章を目で追っているだけではない。実際に、その時その場所でもっとも辛い役目を背負った人物と関わりのあった存在が、俺の傍にいる。


 ウリウムが身近にいるからこそ、俺はその重みからしばらく身体を動かすことが出来なかった。







「失礼します!」


 手元の資料に目を通していたシャル=ロック・クローバーが顔を上げる。入室してきた魔法聖騎士団(ジャッジメント)の様子に違和感を覚えたからだ。


「どうかしましたか?」


「そ、それが……、創造都市メルティの市街地にて、ギルドランクS『白銀色の戦乙女』所属のレッサー・キールクリーン様が狙撃されているとの目撃情報が」


「……何ですって?」


 クローバーが眉を吊り上げる。


「『紅茨姫(ベニイバラヒメ)』は周囲へ不和を撒き散らすような性格はしていない……。と言うより、そもそも親しくない人間とは一切関わろうとしない方だったはずです。相手はどこの命知らずですか?」


「現在調査中です! それと、この一件との関係性については不明ですが、交易都市クルリアにてギルドランクA『無音白色の暗殺者』と『白銀色の戦乙女』が衝突していたとの目撃情報も入っております」


 クローバーは重々しいため息を吐きながら、手元の資料をデスクの脇へと追いやった。


「……死人は?」


「現状では確認されておりません!」


 無論、『白銀色の戦乙女』の面々がそう簡単にやられるはずは無いとクローバーも確信している。ただ、ギルドランクAであろうとギルドの貴重な戦力であることは事実だ。出来れば、どちらのメンバーも欠けることなく事態を収めたいところではある。


 団員の回答に軽い安堵感を覚えつつ、クローバーは自らの顎に手を当てて思案する。


「白銀色と無音白色の衝突が事実なら、『紅茨姫(ベニイバラヒメ)』を狙撃していたのはベルリアン・クローズ一択ということになるのでしょうが……。交易都市クルリアでは誰と誰が交戦中でしたか?」

 

「確認中ではありますが、『白銀色の戦乙女』のチルリルローラ・ウェルシー・グラウニア様とアイリーン・ライネス様がいたとの情報が入っております」


 その回答に、クローバーは閃くものがあった。


「ジャックは『黒雷狼(コクライロウ)』と兄妹弟子です。私の方から彼に連絡させてみましょう。他に報告がなければ下がって結構です。引き続き情報収集に努めてください」


「はっ」


 団員は敬礼して退出する。それを見送りつつ、クローバーは再度深いため息を吐いた。


「……まさかとは思いますが、あの男は関係してないでしょうね」


 今までこれといった衝突が無かったグループ同士の衝突だけに、クローバーはそんな邪推をしてしまった。







 なかなか見応えのある場所だった。

 メイジの神殿で、石像の後ろに刻まれていた言葉がどこの場面で使われていたのかも判明した。ただ、この歴史館では神殿に刻まれているといった描写はなく、メイジもまた俺が良く知っている男バージョンだったため、神殿に行ったことのある者にしか分からないようにされているのは良い趣向だ。思わずにやりとしてしまうところもあったし。


 御伽噺として語られている部分や、実話として展開されている戦争、魔法世界の開国の場面については俺の知っている内容のままだった。宗教画のようなタッチのイラストや実際の写真を交えた展示を見ると、教科書で学んだこと以上の内容がリアルに分かって良い。


 メイジは魔法で変装していたのだろうな。

 写真でも初老の男性だったし。


 身体をほぐしながらお手洗いに行った女性陣を待つ。お土産のコーナーもあったのだが、女性陣の喰い付きはそこまで良くなかった。殿堂館の時とは大違いである。特にエマが顕著だった。「T・メイカー様のグッズが無いのなら……」とか言っていたが歴史館だぞ。歴史館に俺のグッズが置かれるわけがない。


 ちなみに、俺は歴史館のロゴが入ったストラップを購入した。こういうの、何となく買っちゃうんだよなぁ。殿堂館の時も同じようなストラップだけは買っちゃったし。そんなことを考えながら、殿堂館のストラップと同じように歴史館のストラップも生徒会館の鍵へと取り付けた。


 お腹が空いた。

 もともとは交易都市クルリアで散策ついでに昼食もとるはずだったのだ。しかし、予定を変更して交易都市クルリアの探索を諦めて宗教都市アメンへ来たせいで何も食べていない。アメンには都市の性質故かそういった施設が極端に少ないようだ。一般の旅行客に向けて作られた建物もここしかない。


 そして、ここにはレストランがある。

 つまりはようやく飯を食えるのだ。


 本当なら入ってそのままレストランに直行したかったのだが、「歴史館に来ていきなりレストランに足を運ぶのはちょっと……」という見栄が働いてしまい、先に展示を見ることになったのである。昼ごはんというより、既におやつの時間になってしまっている。というか、そろそろ夕食を意識し始める頃だ。いい加減に辛い。


 女性陣と合流し、エスカレーターを利用して3階のレストランへ。歴史館は1、2階が展示スペースで3階がレストランになっている。


 レストランの入り口には、「入場券の半券を見せるとドリンク1杯無料!」の文字が躍っていた。……先に展示スペースへ向かって良かったね。宗教都市とはいえ、こういうところは変わらないのだなと思ってしまった。まあ、ここが一般の旅行客に向けた施設だからかもしれないけど。


 従業員に案内されて席へ移動する。

 渡されたメニューを見れば、ここのレストランは何かの分野に特化しているわけではなく、大人気メニューを一通り網羅しているタイプの店であることが分かる。


 これ、アレだ。

 せっかく旅行に来たのに、特に予定も立てずにぶらついたせいでお店が見つからず、仕方なく近くのファミレスに入っちゃった感じのアレだ。


「わ、私、せっかくだしこの歴史館特別メニューにしてみようかな! あはは」


 美月がメニューのとある一点を指さしながら言う。そこにはちょっと良いお肉を使った値段お高めのハンバーグセットがある。


「……俺もそうしようかな」


 結局、全員がそれにした。

 ドリンクが1杯無料ということで、各々注文したジュースで喉を潤しつつ料理が出来上がるのを待つ。


 そんな時だった。

 クリアカードに、着信。

 相手は。


「……スペード?」


 着信だ。

 メールではなく、着信。


 さっきの今でアリスをどうにか出来たとは思えない。別件だろうか。

 眉を潜めつつ席を立った。


「どうされました、聖夜様」


 やはりと言うべきか、真っ先に反応するのはエマだ。


「ちょっと電話だ。舞たちを頼むな」


 皆にも断りを入れた上で移動する。レストランを出た廊下には誰もいなかった。念のためにホログラムをオフにしてから通話に応じる。


 何の用だ、と。

 そう問いかけるよりも早く、クリアカード越しに聞こえてきたのは爆音だった。 


『すまねぇ!! セーヤナカジョー!!』


 次いで、多分に焦りを含ませた謝罪。

 声は間違いなくウィリアム・スペードだ。


 何かがあった。

 そう思わせるには十分すぎる声だった。


「どうした。何があった」


 足早に移動する。

 レストランの正面で出来る話じゃ無さそうだ。


『奴隷がっ! 奴隷が殺された!!』


 ……、……は?


『野郎!! どうしてこんなところでこいつら――があああああっ!?』


 音声が乱れるほどの声で我に返る。


「お、おい!! どうした!? スペード!!」


 返答は無い。

 雑音が酷い。


 何だ、何が起こっている!?


「おい、スペード!! 返事をしろ!! スぺード!!」


 返答の無いクリアカードから聞こえてくるのは、何かが崩落するような音、遠くからの悲鳴、液体のようなものが滴り落ちる音、そして、近付いてくる足音。


 ザザッ、と。

 耳障りな音がして。




『はぁあぁあぁい? きっこえてるかなぁ~、「白影(ホワイトアウト)」ちゃぁあぁあぁん?』




 ――――っ!?

 身体中に悪寒が駆け抜けるほどの嫌悪感を催す声。


 スペードじゃない。

 誰だ!? いや、この声、聞いたことがあるぞ!?


『いやいやいや、流石は魔法世界の最高戦力様だわ。こんっっっっ! ―――なに!! 逃げ回られるとは思ってなくてねぇ!! 2対1なのに想像以上に時間喰っちゃった。あはははは!!!!』


 この頭のネジが外れたような喋り方は――っ。


蟒蛇(うわばみ)……、(すずめ)!?」


『はい、せいかぁーい! だからどうしたって話なんだけどねぇ? 何にも出来なかった「白影(ホワイトアウト)」ちゃん! はははははっ、ははははははは!!』


 蟒蛇雀。

 忘れもしない。対峙しただけで死の恐怖を植え付けられた、あの文化祭の夜の事。師匠の攻撃を掻い潜り、逃走を成功させる程の実力の持ち主。


 なんでそんな奴の声がスペードのクリアカードから聞こえる!?


「おい、てめぇ!! スペードはどうした!? アリスは!?」


『アリスぅー? あぁ、あの小汚い奴隷の事かぁ。あははっ、傑作だったよ? スペードに守られながら逃走してんのにさ!! 最後の最後になんて言ったと思う?』


 なんだよ、最後の最後って。


 やめろ。

 やめてくれ。


『助けてぇ、T・メイカー様ぁ、だってさ!! あははははは、はははははははあああああぁぁぁぁぁ!! さいっこう!! くはははははははははっ!!!!!』


「てめぇ!!」


 握りしめたクリアカードが軋んだ音を鳴らす。


 うるさい。

 自分の鼓動がこれほどまでに耳障りだと思ったことは無い。


『ねえねえ、今どんな気持ちなの? 可愛い女の子に頼られて、なんにも出来ずに殺されちゃった今の貴方、どんな気持ち? ねえねえ、お姉さんに教えてよぉ。ぷふっ、ははははははっ!!!!』


「蟒蛇雀ぇぇぇぇ!!!!」


『あはははははははははははははっ!! いいねぇいいねぇ!! そうそうそうそう!! そういう声!! 欲しかったのはそういう声なんだよねぇ!!!! ははははは!! おいこら、寝てんじゃないわよ最高戦力ちゃあん!』


 次いで鳴る、鈍い音。

 そして、呻き声。


 そうだ、スペード!!


『ほらぁ、最後に何か言いたい事あるでしょお? 今さぁ、まだ「白影(ホワイトアウト)」に繋がってるのよ? ほらほら、言い残しておくことがあるなら言っておきなさい? 私ってやさしー、遺言残す時間あげちゃうなんて天使なんじゃない?』


「待て蟒蛇雀!! おい!! やめろ!!」


『セー、ヤ、ナカジョー』


 更に怒鳴りつけようとしたクリアカードから、弱々しい声が聞こえる。


「スペード!!」


『ほん、と……、に、すま……、城まで、送……、れ、なかっ……』


「場所を言え!! 謝罪なんていらねぇよ!! 直ぐに助けにいくから場所を――」


『はい、時間切れ~』


 形容しがたい何かの雑音。

 呻き声。

 そして、不快に感じる水飛沫のような何かが撒き散らされる音。


 ぞわり、と。

 悪寒が駆け抜ける。


「おい……、スペード?」


 声が震えていることが、自分でも分かった。


「返事をしろ」


 聞こえない。

 何も聞こえない。


「おい、スペード。返事をしろ!!」


 そこまで叫んだところで、ようやくクリアカードに表示される文字が目に入った。

 表示されているのはシンプルに『切断』の文字。


 ……。

 嘘だろ?


 何かの冗談だよな。

 誰かそう言ってくれ。


 熱い。寒い。

 よく分からない。


 頭がぐわんぐわんと回る。

 立っていることすら難しい。


 なんで? どうして? いったい何がどうなったらこうなる?


 死んだ?

 スペードが?


 死んだのか。

 なんで。

 どうして。

 おかしいだろう。


 アリスは。アリスはどうしたんだ?

 死んだの? 嘘だろうそうだと言ってくれ!!


 その時。

 T・メイカーの名を呟いたあの声がフラッシュバックし、聞けるはずもないアリスの最後の叫びが聞こえた気がした。


 すなわち。











 ――――たすけて、てぃ、めいか。











「うわああああああ!?」


 崩れ落ちる。

 どうやって倒れたのかも分からない。


 突如として視界が暗転し、顔に激痛が走る。鼻先にぬるりとした感触と、口内に広がる鉄の味。

 ただ、そんなことすらどうでも良かった。


「あああああっ!! うわああああああっっっっ!!」


 喉がはち切れんばかりに叫ぶ。

 絶叫だった。頭が割れるほどに叫ぶ。


 ウリウムが何かを必死に訴えているような気がする。その声が聞こえているはずなのに、脳が言葉として認識していない。


「あぁぁあああああああっぁぁ、うっ、げぇぇぇぇ!!!!!」


 先ほどまで飲んでいたジュースを盛大にぶちまけた。口からだけじゃない。鼻からも逆流したらしく、呼吸困難になって廊下を転がる。


 何が何だか分からない。

 今、俺はどうしたんだ? 何がしたい?


 ここはどこだ。

 訳が分からない。


 アリスは、スペードは? クリアカードはどこだ。

 そうだ、連絡していたんだ。早く、クリアカードを――――。




「やはり、今回もこうなったか」




 ――――っ。


 不思議と、その言葉はすんなりと頭の中へと入ってきた。


 上半身を起こしながら、そちらへと視線を向ける。

 声の主は、身を隠す事無くそこに立っていた。


「場所を弁えず絶叫するところまで一緒とは……。僕があらかじめ防音の魔法を展開していなければ、どうなっていたか知っているかい? 歴史館の警備員が駆け付けて来て、動転した君が更に一騒動起こすのさ。まあ、流石に何度も経験すれば学習するし、そんな面倒な事は起こさせないわけだけど」


 男はゆっくりと俺のもとへと近付いてくる。


「さて」


 倒れている俺の直ぐ傍までやって来た男は、しゃがみながら俺の肩へと手で触れる。


「『神の上書き作業術(オーバーライト)』を使ってくれ。対象となる魔法具は、君がホテル・エルトクリアに置いてきたアレだ。悪いけど、勝手に持ち出させてもらっているよ。だから行き先は、エルトクリア大図書館近くの一室になる」


 肩で息をしながら、俺を見つめてくる男へ目を向けた。日本人だ。この男も見たことがある。蟒蛇雀繋がりで、文化祭の時の記憶が刺激された結果だ。


「さあ、早くしてくれないかな。ここで時間を掛けると君の連れがやって来てしまうんだ。それはそれで面倒な事になる」


「……舞、たちを、置いていけない」


 自分のものとは思えない、しゃがれた声が出た。

 俺の肩に手で触れたままの男は、眉間に皺を寄せて言う。


「どうせこのルートは破棄されるんだ。さっさとやってくれ。説明は向こうでしてあげるから」

 続きを本日12時、15時に更新します。

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