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テレポーター  作者: SoLa
第10章 真・修学旅行編〈下〉
375/432

第18話 それぞれの思惑

 本日は18時、20時と2回更新しており、これは2話目です。

 最新話へ直接飛んできた方はご注意ください。




 王城エルトクリア。

 女王の私室にて。


 部屋の主アイリス・ペコーリア・ラ=ルイナ・エルトクリアは、客人を迎え入れていた。丸テーブルを挟み、その対面に座る客人からの話を聞き終えたアイリスは、深くため息を吐いてから腕を組んだ。


「……おそらく、血であろうな」


 人払いは既に済んでいる。今、この空間にいるのはアイリスと、その背後に直立不動で控えているクランベリー・ハート、そして客人リナリー・エヴァンスの3名だけだ。


「ハートの話では、中条聖夜を迎えに向かう道中で傍若無人と遭遇戦になり、その場に居合わせたギルド受付嬢が死亡。その際、その血を浴びたらしい……、というより、共々腹を貫かれたんだったか」


 アイリスから視線を向けられ、クランベリーは頷いた。


「その後、中条聖夜と接触し、中条聖夜は大図書館へと転移した。遡りには奴の血が必要だ。その血にハートと受付嬢の血が混ざっていたのなら、この状況も頷ける。いや、それ以外には考えられん。こればかりは『脚本家(ブックメイカー)』も予想外の展開だったかもしれんな」


「まあ、今回の本筋には影響しなかったわけだからね。これが吉と出るか凶と出るかは今後次第でしょうけど」


 リナリーの視線がクランベリーへと向けられる。

 クランベリーはべーっと舌を出して視線を逸らした。


「まあ、私としては良き相談相手が出来たと思っているよ。これからもよろしく頼むぞ、ハートよ」


「はっ」


 慌てて姿勢を正し、クランベリーが一礼した。

 その様子を笑って流しながら、アイリスの視線がリナリーへと戻る。


「して、中条聖夜は?」


「昨日帰国したわよ。修学旅行最終日は、無限ループが終わった安心感やら『ユグドラシル』の残党への警戒心やらで穏やかでは無かったようだけど」


「それはまあ……、そうであろうな」


 それには苦笑せざるを得ない。

 せっかくの修学旅行にも拘わらずかわいそうに、とアイリスは思った。


「協力者への報酬はどうしたのだ?」


「赤銅色に350万、番外に250万、白銀色には400万を支払ったそうよ」


 リナリーがすらすらと返答する。

 金額は無論、エールだ。日本円に換算するなら、赤銅色に3億5000万、番外に2億5000万、白銀色には4億ということになる。


「凄まじい出費だな。カーリウ・スカウラウド討伐に対する礼金は使い切ったか。天晴れな使い方ではあるが」


「私が出すと言ったんだけどね。聞いてくれなくて。変なところで男の子を発揮するんだから」


 柔らかな笑みを浮かべてリナリーはそう呟く。

 それを見たクランベリーが舌打ちした。


 リナリーの視線がクランベリーへと向く。


「何?」


「別に。急に色気づきやがって、なんて思ってないよ。弟子に欲情とか師匠失格、とかも思ってないし」


「邪推が過ぎるわね。若作りのおばさんが」


 びきっとクランの頭に怒りマークが入った。


「はーっ!? 何を言ってんの私より年上のくせに!! それにこれは若作りじゃない!! 合法ロリって言うのよ!! その手の界隈では引く手あまたなんだから!!」


「ハート」


「申し訳ございませんでした」


 女王からの一喝でクランが頭を下げた。

 その様子をケラケラと笑っていたリナリーは、ゆっくりと席を立ちながら言う。


「私も近いうちに日本へ行くわ」


「……何?」


 その言葉に、アイリスは眉を吊り上げた。

 リナリーはその顔に笑みを浮かべたまま言う。


「そろそろ弟子の修業に本腰を入れようかと思ってね」







「くそったれ。何なんだよ、あの化け物は。無茶苦茶じゃねーか」


 男はそう吐き捨てる。


 遠目から見ても分かった。勝てるわけがない、と。あれは争える領域にいない。早々に離脱の決断を下した自分を褒めてやりたいくらいだと男は思った。


「指定された交易都市に行けば、あとちょっとのところで大爆発に巻き込まれそうになるし、近未来都市で飛空車に乗れば気付いた時には一刀両断。T・メイカーとやらも訳が分からねぇ。ミラーが死ぬのも納得だよ。くそが」


 男より遅れて魔法世界入りを果たした同僚は、黄金色のメンバー1人をプライベートジェットに乗せて魔法世界入りをしたと聞いている。そのジェットに同乗していなくて良かったと男は心から思う。


「噂通りの化け物揃いだ、『黄金色の旋律』め。一緒にいたら、知らないうちに何をされたものか分かったモンじゃねぇ」


 愚痴ならいくらでも出てくる。

 しかし、ここから先は一旦黙らなければならない。


 男は深呼吸して精神を整える。

 そして。


 入室直後に、男は首を刎ねられて死亡した。


 おそらく、殺されたという感覚すらなかっただろう。それほどに容赦の無い素早い一撃だった。綺麗に胴体と分断された頭部は、回転しながら宙を舞い、重い音を立てて床に転がった。遅れて胴体から噴水のように鮮血が噴き上がる。その後、重力のことをようやく思い出したようなタイミングで身体が崩れ落ちた。


「私の指示に背いたな。その背信行為は貴様のこれまでの部隊への貢献と、貴様自身の命を以って帳消しとしてやろう。私の寛大な処置に感謝するがいい。ご苦労だった、元四番隊隊長『連鎖』シャルネイル・イーガンよ」


 すたすた、と。

 一切の抑揚を感じさせぬ物言いでそう告げ、少女は自らの席へと戻る。


 打ち捨てられた死体には、見向きもしなかった。


「さて、話を戻すか。三番隊隊長『雷帝』アリサ・フェミルナー」


「……はっ」


 デスクを挟み、直立不動で待機している部下へ少女は声を掛ける。

 その僅かな反応の遅れに、少女は眉を吊り上げた。


「何か思うところでも?」


「ございません」


「お前の心はそう言っていないようだが?」


 アリサは答えられなかった。

 しかし、それ以上の言及を少女はしなかった。


「まあいい。候補者の選定が済むまで、二番隊と四番隊の管理はお前に一任する。『砂塵』は別件で掛かり切りなのでな。いいな?」


「はっ」


「それから、お前にも厳命しておくか。中条聖夜には手を出すな」


「……は?」


 それは肯定では無く疑問から生じた返答だった。

 話が切り替わり過ぎてついていけなかったのだ。


「ナカジョウ、セイヤ、ですか?」


「そうだ」


 少女は頷く。


「話は以上だ。行っていいぞ」


 くるりと椅子を反転させた少女は、アリサに背を向けて宙に浮かせていた知恵の輪の処理に集中し始めた。こうなっては何を言っても反応は無いだろう。「誰ですか、それ」という質問はもうできない。自ら調査することで回答を得なければいけないということだ。


 アリサは首を傾げながら一礼し、その場を後にした。

 死体の処理を依頼しなければ、と頭の片隅で考えながら。







「お目覚めですか」


 エルトクリア大図書館。

 その最奥『創世の間』にて。


 今井修は首を垂れ、自らの主に対してそう告げた。


『報告を聞こう』


 無機質な女性の声が一帯に響き渡る。


「指令は達成されました。リナリー・エヴァンスは存命、アマチカミアキの討伐にも成功しております」


『素晴らしい』


 微塵も感情を感じさせない声で『脚本家(ブックメイカー)』は言った。


『それで、被害は』


「驚くほどありません。ただ、花園家第一護衛の鷹津祥吾が死亡しました」


 少しの沈黙。


『そうか。警告全ては守られなかったか』


 無機質な声は言う。

 パソコンの画面に、淡々と文字が紡がれる。


『惜しい者を亡くしたものだ。とは言え、遡りの記憶を持たずにこれほどの結果を続けて出すことは、これまでのデータから不可能だと判断する。神法を用いてやり直すことはもう無い。必要な犠牲だったと割り切るほか無いな』


 実際のところ、必要な犠牲とは言うものの『脚本家(ブックメイカー)』からすれば大成功の範疇だった。なにせ、自らが実体化することなく事件が収束したのだから。それは、今回の神法の軸となった中条聖夜が致命的な一撃を一度も受けなかったことを意味する。あの栞を挟んだことが徒労に終わった、という事実だけでも素晴らしいのに、指令は見事達成されて被害も軽微なものと来た。これ以上の結果を望むのは酷というものだろう。


『十分だ。これ以上の介入はしない』


 無機質な声が『創世の間』に響き渡る。

 そこから導き出される結論は1つ。


 鷹津祥吾は、切り捨てられたということ。


 その結論に、今井修は異を唱えない。

 ただ、首を垂れて「かしこまりました」と返すにとどまった。







 花園家の一室で。

 花園剛は自らのデスクに項垂れるように腰かけていた。


 正面の来客用のテーブルとソファには、任務達成後に呑み交わそうと約束したワインのボトルとワイングラスが2つ用意されている。しかし、その約束が叶うことはもう無い。剛は草臥れたため息を吐いた。


 定期連絡が途切れたことから、薄々と理解はしていた。

 姫百合側からの一報で、その嫌な予感が的中していたと悟った。


 花園家第一護衛、鷹津祥吾は死んだ。


 ガルガンテッラの末裔や『ユグドラシル』の裏切り者である鏡花水月(キョウカスイゲツ)が関わっていたことからも、危険な任務であることは間違いなかった。祥吾自身、その認識はあっただろう。いつかはこういう日が来ることも覚悟していたに違いない。


 それでも、早過ぎた。上に立つ者としては失格かもしれない。しかし、それでも剛は必要な犠牲だったとその死を受け入れることが出来なかった。


 これから、祥吾の父がやってくる。

 事情を説明しなくてはならないからだ。


 実の娘である舞にも詳細は話していない。

 どこまで説明するべきか、気持ちの整理がついていないからだ。


「……祥吾」


 ワインのボトルを見つめ、剛はその名を呟いた。


 受け入れなければいけない。

 気持ちを切り替えないといけない。


 剛は立ち上がり、自分しかいない私室で、静かに頭を下げた。


「ご苦労だった」


 その一言に、全ての気持ちを込めて。


 花園家の二重スパイとして『ユグドラシル』に送り込まれた鷹津祥吾は、己の使命を全うした。なぜなら、『ユグドラシル』側には最後まで、花園家の一切の情報を流すこと無く死亡したのだから。

 長らくのお付き合いありがとうございました。

 これで『修学旅行編』は完結です。

 後書き的な何かは、後ほど活動報告にて。




「人が生まれてきた時、最初に与えられるものは何だと思う? 親の愛情? 自らの名前? 自らの呼吸という行動によって得られる酸素? 目蓋を開くことで受け止める光? 魔法能力の適正の有無? それとも宗教的な観点から見た神の祝福? どれも不正解。答えは『身分』よ。人は生まれた瞬間から、運命を決定づけられる。支配者となるか、被支配者となるか、ね。己が立場を弁えたなら、首を垂れなさい」


 舞台は再び青藍魔法学園へ。

『女帝降臨編(仮)』は4月中旬以降から更新を開始します。



 新章開始までの間に、プロット練り直し前の『修学旅行編』の一部(あくまで一部。当初書き進めていたものだけ)を公開する予定です。ツイッターかどこかで呟いた記憶があるのですが、遡り前に死ぬ予定だったのがリナリーとヴェラではなく、スペードとアリスだったというやつです。これ自体が数年前に考えて用意していたものだったため、実際に採用された現9・10章とは内容が変わる上、設定などにも矛盾が生じていますが、そのまま公開します。ですので、混同しないようにご注意ください。ここで何かが発覚するようなことがあっても、本編の世界線にはなんら関係はありません。あくまで平行線の世界で起こったようなものという認識でお願いします。

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[良い点] 10章めちゃ面白かったです 1、2章で読むのやめないでよかった [気になる点] 今回の旅行で裏切り行為をしていたのは花園家の二重スパイとして『ユグドラシル』に送り込まれた鷹津祥吾のみなん…
[良い点] 面白かった [気になる点] 天地神明の能力がわからない以上、完全に死んだとは断言できないよね…。死者蘇生の研究してたし、自分のクローン量産とかあるかもだし。 個人的には今井修がなんか引っか…
[良い点] めっちゃおもろい 作者さん、頑張って [一言] 読み返してて気づいたけど、「女帝降臨」ってブックマーク20000件突破記念の「8勝の本編に入れようか悩んだけど結局入れなかった駄文」で新聞部…
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