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テレポーター  作者: SoLa
第10章 真・修学旅行編〈下〉
369/432

第12話 近未来都市アズサ ① / 歓迎都市フェルリア ④ 

 レビューが増えました。

 嬉しい。ありがとうございます。




 近未来都市アズサ。


 魔法世界に10ある都市の中で、魔法と科学文明の結合によって発展を遂げる最も発達している都市だ。天を突かんばかりの高層ビルが立ち並ぶその都市は、まさに近未来を舞台としたSF映画に出てくるような光景に近い。


 高層ビル群の合間を縫うようにして飛行するのは、浮遊魔法と科学を応用して造り上げられたタクシーやバスだ。空中での混雑や衝突事故、果てはあまり数が飛び過ぎると景観を損ねるという観点からも、空を飛ぶ乗り物は公共のものに限られる。私用で使われる移動手段は、この近未来都市であっても未だ自動車やバイクである。


 近未来都市アズサは、発展を遂げつつも古き良き時代の面影を残す他の都市とは一線を画する。そうなるように、実際に一線を引いている。空を飛び交う乗り物は、近未来都市アズサの都市内限定の移動手段。他の都市では使用不可だ。そうしないと、我が物顔の貴族たちが移動手段全てを空飛ぶ乗り物に指定してしまう。


 するとどうなるか。


 答えは簡単。

 貴族都市ゴシャスの警備体制が意味を成さなくなるのだ。


 貴族都市内にある邸宅から他の都市にある目的地までの移動手段に空飛ぶ乗り物が使用されてしまえば、その全てを検問で止める事は不可能だ。魔法世界エルトクリアは防護結界によって守護されているが、貴族都市ゴシャスを囲む壁が防護結界のてっぺんまで伸びているわけではない。その乗り物で易々と壁を乗り越えられてしまえば、外敵の排除が容易ではなくなってしまう。


 貴族都市ゴシャスには王城エルトクリアもある。白亜の頂、文字通りその頂点にある王城までもがひとっ飛びの対象となってしまうのは、国防の観点からみてもまずいと言わざるを得ない。貴族たちの我が儘も、その正論の前では沈黙する他無かったのだ。


 その近未来都市アズサ内でしか見れない空飛ぶ乗り物を見下ろしながら、リナリー・エヴァンスはため息と共にクリアカードの通話を切った。そして、一度中断していた相手へ再び回線を繋ぎ直す。


 相手は、1コールで通話に応じた。


『何か問題が?』


「警告に抵触したみたい。ここから先はどうなるか分からないわ」


『……何だと』


 青白く光るホログラムが、鷹揚に坐していたその人物の上半身を起こす仕草を映し出す。


『中条聖夜は無事なのか』


「ええ……。今のところは、という注釈が付くけどね」


『7つある警告、どれに触れたのだ』


「7つめ。接触禁止の人物との遭遇」


『して、誰と』


「天地神明」


 ホログラムの女性が立ち上がった。


 口を開いて、閉じて。もう一度開くが、結局何も口にすることは無かった。力なく、崩れ落ちるようにして椅子に座り直す。ホログラムの女性、アイリス・ペコーリア・ラ=ルイナ・エルトクリアは、頭を振ってからようやく絞り出すようにして声を上げた。


『……それでよく無事だったものだ』


「奇跡ね」


 淡白なその回答に、アイリスは眉を吊り上げる。


『少々冷たいのではないか? お前の弟子なのだろう』


「何の報告も無い独断専行だもの。勝手に行動して勝手に警告を破った。心配より先に怒りが込み上げてくるわね」


 近未来都市アズサを一望できる大きなガラス窓から身を引き、一人用のソファに身体を埋めながらリナリーは吐き捨てるようにそう言った。その様子がいつもの気丈なリナリーには似合わぬ強がりにしか見えず、アイリスは堪らず噴き出した。


「……何」


 ジロリ、とリナリーがホログラムを睨みつける。


『……いや、なに。前言を撤回しようと思ってな。お前は弟子想いの良い師匠だよ』


「怒るわよ?」


『さて、冗談はこのくらいにしておこうか』


 アイリスはわざとらしく手を一度叩いてから表情を引き締めた。


『中条聖夜は無事、ということでいいのだな? 簡単で構わないから状況を説明してくれ』


「ええ。逃走奴隷アリス・ヘカティアの護送中を『ユグドラシル』から狙われ、奴隷含め白銀色2名が人質に取られたらしいの。それで、天地神明(アマチカミアキ)の誘いに乗って歓楽都市フィーナで接触。人質の奪還は成功し、追跡も躱して今は歓迎都市フェルリアにいるそうよ」


『……ん? それだと最初から警告を破りに行っているように聞こえるが?』


天地神明(アマチカミアキ)の誘いだと分かったのは、実際に対面してからだそうよ。メールは送り主が分からないように細工されていたらしいから」


『なるほど』


 リナリーからの説明に、アイリスが頷いた。


『それで、奴隷は?』


「白銀色が貴族都市ゴシャスまで護送したらしいわ」


『ん? ……ああ、今こちらにも報告が来た』


 アイリスが一度断りを入れてから、近くに控えているであろう誰かに指示を飛ばしている。リナリーはその様子をホログラムで眺めながら待った。ホログラムとして映ってはいないが、控えている人物が誰かはリナリーも見当がついている。クランベリー・ハートだ。王城関係者の中で、アイリスを除いて唯一遡りの記憶がある者。そうでなければ、リナリーとアイリスの会話内容を聞かせることは出来ない。


『待たせたな。逃走奴隷の身柄はほとぼりが冷めるまでこちらで預かろう。まさか正規ルートに乗ればこうも容易く逃走奴隷を確保出来るとは』


「聖夜の話を聞く限りでは、『容易く』とはお世辞にも言い難いのだけれど……。記憶持ちは大変ね」


『その記憶持ちの話に平然とついて来れるお前には、いつも驚かされてばかりだよ』


 アイリスは首を振りながらそう答えた。

 そして、真剣な眼差しでホログラム越しにリナリーを見据える。


『これでライアー・レイ・ライオネルタの予言に必要な条件をまた1つ満たした、と考えていいのだな』


「メイジが耄碌して()()を聞き間違えていなければ……、ね」


『滅多なことを言うものでは無いぞ、リナリー。真に驚嘆すべきはお前の傍若無人さだったことを失念していた』


「このくらい言ってもバチは当たらないわよ。命がいくつあっても足りないんだから。貴方の記憶上では、私はいったい何回殺されているわけ?」


『100を越えた辺りで数えるのは止めたんだ。詳細は「脚本家(ブックメイカー)」本人に聞いてくれ』


 肩を竦める仕草を見せたアイリスに、リナリーは鼻を鳴らすことで応えた。


『では、残すところは会談のみということだな』


「そうなるわね」


『……リナリー』


 アイリスは、少し言いにくそうにしながらも口を開く。


『先ほど私は正規ルートと口にしたが、中条聖夜が警告に抵触したのなら、お前が言う通り今後がどうなるかは分からん。逃走奴隷はもう手中にある。これ以上、その身を危険に晒す必要は――』


「アイリス女王陛下」


 アイリスの口上をリナリーが止める。本来ならば打ち首にされても文句は言えない所業だが、リナリー・エヴァンスという存在からしてみれば、それはもはや今更のことだった。


「これが恐らく、最後のチャンスなの」


 リナリーは言う。


天地神明(アマチカミアキ)は、頭が良くて用心深い。私の前に姿を見せる機会なんて、あの時から一度も無かったのよ。ここしか無いの」


『……中条聖夜の前に姿を見せたという話を聞いたばかりなのだが? どちらかと言えば大胆不敵という言葉の方が似合うと思うぞ』


「本物である保証が無い」


『ならば警告に抵触したという確証も無いではないか』


「残念。私の弟子は天地神明(アマチカミアキ)との面会の後、天上天下の追跡を受けてひと騒動起こしているわ。天上天下も接触禁止対象だからどちらにせよ警告は破られているわね」


『天上天下……、天地神明の側近か。本当に良く中条聖夜は無事だったな』


「同感よ」


 アイリスの呆れ混じりのため息に、リナリーは疲れ果てたかのように頷いた。


「とにかく、天地神明(アマチカミアキ)の素顔を知っているのは、こちら側のメンバーでは私だけなの。本人だと断定出来たら、ここで確実に殺すわ」


『……予言の通りにいくならば、「ユグドラシル」の壊滅条件はまだ揃っていないぞ。それはお前も分かっているだろう? だからこそ、逃走奴隷まで気に掛けていたはずだ』


「あれはあくまで保険よ。万が一失敗した時のためのね」


『その失敗でお前が死ねば全てがご破算だぞ!!』


 跳ね上がるようにして立ち上がったアイリスが叫ぶ。


「馬鹿ね。私が死ぬはずがないでしょう」


 それを跳ね除けるようにしてリナリーは笑った。


『言うでは無いか。3ケタを越える回数死んできたお前が』


「何の話かしら。記憶に無いんだけど?」


 頬を引くつかせながらアイリスも笑う。


『随分な自信だな? どこからそれほどの虚勢が生まれてくるというのか……』


「虚勢では無いし、根拠もちゃんとあるもの」


『ほう? 面白い。至らぬこの私にご教授願えるか? お前の言う根拠とやらを』


 ホログラム越しの相手に向けて、リナリーはいつも通りの不敵な笑みを浮かべて告げる。


「私が世界最強だからよ」


 何の気負いも、見せることなく。







『今は宗教都市アメンにいます。ガングラーダの神殿へ移動中です』


 宗教都市アメンか。

 ということは、創造都市メルティの観光は終わったということになる。


 前回ルートでは、創造都市メルティでウィンドウショッピングを楽しみながら王立エルトクリア魔法学習院を見学し、ティチャード・ルーカスの工房に立ち寄ってから宗教都市アメンへという流れだったはずだ。魔法世界において唯一の教育機関がある都市だけあって、建ち並ぶ店も学生が利用したくなるようなものが多かった記憶がある。文房具店や小物を扱う雑貨屋、MC専門店などだ。


 学習院の中には入れないし、学習院前で顔を合わせたウィリアム・スペードは逃走奴隷アリスを連れて王城に向かったはずなので不在。その時にいたアルティア・エースがなぜ学習院に姿を見せたのかは不明だが、そのアルティア・エースとの関係も今回ルートでは良好。おまけにその場には俺がいない。わざわざあそこで顔を合わせたとこで、何かが起こるはずもない。


 創造都市メルティでは、何の問題も無く観光を終えたのだろう。


 唯一の心残りと言えば、ティチャード・ルーカスの工房か。もっとも、そこでの出来事もウリウムとの会話と精霊王の話を聞いたくらい。会話内容は憶えているし、ウリウムの記憶も失われなかったから、あの時のやり取りをやり直す必要は無い。強いて言うなら、ウリウムを貰ったことへのお礼が無かったことになってしまっているので、もう一度お礼を言っておきたいということくらいか。


 いや、後はこれか。

 アマチカミアキから受け取ったMCを見る。


 どのような細工がされているかが分からない以上、迂闊に魔力すら流すことが出来ない。これを使う前には一度調整(チューニング)のプロに診てもらった方が良い。現状、俺が知る中で一番腕がいいのはルーカスさんだ。行けるなら行っておきたいが……。


『……聖夜様?』


 エマからの呼びかけで、我に返った。


「いや、済まない。おそらく合流は出来ないだろう。時間を潰して、このまま近未来都市アズサへ向かうことになる」


『……そうですか。分かりました。くれぐれも無茶はなさいませんように』


「了解。また連絡する」


 通話を切る。

 視線に気付いて顔を上げれば、栞がこちらをじっと見つめていた。


「どうした?」


「私がティチャード・ルーカスの工房へ向かうというのは如何でしょう」


「何?」


 栞が?


「私ならば、『ユグドラシル』側に顔が割れていません。お兄様から刻印魔法が施された魔法具を預かり、私がティチャード・ルーカスの工房へ赴きます。連絡をしますので、お兄様は無系統魔法で移動してきてください。そこで用が済み次第、お兄様はリナリーのもとへ。その際も無系統魔法を使用すれば、工房の外で何者かが監視していたとしてもバレることは無いでしょう」


「き、危険なことでしたら私が……」


 口を挟んできたケネシーを、栞は手で制した。


「一度人質として取られていることからも、『白銀色の戦乙女』の皆様は『ユグドラシル』側から目を付けられているでしょう。行くなら私しかいません」


 そう言って栞が改めて俺を見る。


「どう致しますか」


「……やめておこう」


 栞が首を傾げた。


「気になっているのでは?」


「まあな。ただ、この場面で無理にティチャード・ルーカスの工房へ近付く必要は無いだろう。師匠とアマチカミアキの会談はもう目前だ。俺としては、事前にやるべきことはやったと考えている。お前はどうだ?」


 俺が『脚本家(ブックメイカー)』から与えられた警告は7つ。




『1つ、初日にリナリー・エヴァンスへ接触するな』


『1つ、花園(はなぞの)(ごう)姫百合(ひめゆり)美麗(みれい)へ救援要請を出すな』


『1つ、保護したアリス・ヘカティアを王城へ連れていく際、ついていくな』


『1つ、交易都市クルリアの奥地に廃れた民家がある。そこには近づくな』


『1つ、如何なる理由があったとしても、エルトクリア現女王アイリス・ペコーリア・ラ=ルイナ・エルトクリアは王城から連れ出すな』


『1つ、如何なる理由があろうとも、エルトクリア大図書館へ近付くな』


『1つ、この修学旅行期間中は、どのような事態になろうとも次に挙げる人物とは接触するな。その人物とは、天地神明(テンチシンメイ)天上天下(テンジョウテンゲ)唯我独尊(ユイガドクソン)傍若無人(ボウジャクブジン)盛者必衰(ジョウシャヒッスイ)、そして沙羅双樹(サラソウジュ)を指す』




 1つめの師匠への接触禁止は初日の話だ。

 既に期限は切れているし、守られている。


 2つめの花園剛と姫百合美麗に救援を求める事を禁じる警告についても納得出来ている。

 護衛もしくは舞、可憐の中に内通者がいるというところまでは掴んでいるからな。剛さんや美麗さんに救援要請を出すということは、その内通者にも情報が流れてしまうということ。それを防ぐための警告だったと考えることが出来る。


 3つめの逃走奴隷アリス護送の同行禁止は消化済み。

 アリスは既に貴族都市ゴシャスの中だ。


 4つめの交易都市クルリアにある民家への立ち入り禁止も消化済み。

 ラズビー・ボレリアを死なせてしまう結果になったが、この後再び民家を訪れるような展開にはならないだろう。奴らの自爆人形のせいで、既に全壊してしまっているし。


 5つめのアイリス様を連れ出すなという警告も消化済みと考えていいだろう。

 俺が会談終了までの間、もう一度登城するとは思えない。「連れ出すな」という表現は、俺がアイリス様と同じ場所にいて初めて成り立つ言葉だと思う。そう考えるなら、もう心配は無いと言える。もっとも、会談が終了するまでは、念のためにアイリス様には王城に引きこもっていてもらいたいが。


 6つめの大図書館へ近付くなという警告。

 これについては、栞の考察が正しいと思う。仮に警告へ抵触してしまっても助けを求めにくるな、ということだ。そう考えるなら、この警告もある意味で消化済みだと言えるだろう。


 そして、7つめ。天地神明(テンチシンメイ)天上天下(テンジョウテンゲ)唯我独尊(ユイガドクソン)傍若無人(ボウジャクブジン)盛者必衰(ジョウシャヒッスイ)、そして沙羅双樹(サラソウジュ)との接触禁止の警告。

 残念ながら、唯一抵触してしまった警告だ。天地神明が別人であることを期待したが、結局その後に天上天下と遭遇戦になってしまったので、もはや抵触してしまったことは確定してしまっている。天地神明が別人であったかどうかなど、もはや関係は無い。あとは、いかにして他の接触禁止の面々と会わないようにするか、だ。


 以上7つ。

 これで、まったく触れられていない警告は無くなったということになる。


「確かに……、警告を見る限りではそうでしょうね」


「工房に持ち込みたい気持ちは山々だが、問題無しと判断されたとしても即戦力として使用できるかは分からない。ウリウムとの兼ね合いもあるからな。そうなると、今無理する必要はないだろう。ほとぼりが冷めた頃にでも、また改めて持って行くさ」


 普通のMCは2つ所持する意味は無い。MCの存在意義とは、あくまで術者の魔力循環を円滑にすることで魔法発現を補佐することだ。2つ所持することで魔力循環に乱れが生じるケースだってある。ウリウムのように『自我持ちインテリジェンス・アイテム』なら意味合いは変わってくるかもしれないが、そもそもウリウム自体がイレギュラーの存在だ。妖精樹を材料として造られたMCを2つ所持することでどうなるかは見当も付かない。


 何より、大前提としてアマチカミアキから受け取ったこのMCと俺が対話できるかどうかも不明だ。ウリウムのように対話ができないのなら、わざわざ携帯する必要は無くなる。MC本来の役割としてもウリウムは優秀だ。出すところに出せば億はするというこのMCを、意味も無く携帯する必要は無い。


 そう考えるなら、このMCをすぐに工房へ持ち込む必要は無くなる。


 栞とケネシーも巻き込み、3人がかりでチェックしてみたが、表面上に問題は無い。リナリーと共に学生時代に製作されたものだとすれば、MCの内側に何か物理的な仕掛けを施すことも不可能だろう。妖精樹の素材自体が並外れた頑丈さを誇る以上、完成後に手を加えられる可能性も低い。


 残す可能性は、魔術的な呪いだけ。それも、こうしてここまで無傷で運んでこられた以上、呪い発現のトリガーとなるのは魔力を流すことだけと考えていい。ならば、無理してこいつを運用しようとしなければ問題は無いだろう。


 俺の考えを黙って聞いていた栞が頷いた。


「もっともだと思います。それでは、MCの件は一旦保留としておきましょう」


 栞の肯定は心強いな。

 自信を持って保留にできるというものだ。

 なんだか、そう思うとちょっと悲しくなってきたが。


 得意分野が違うのだ、と頭を振って切り替える。


「それで、合流はされないので?」


 栞からの質問に頷く。


「今更合流してもリスクを高めるだけだ。ふらふら出歩くだけで接触禁止の奴らと遭遇するリスクは高まる。天上天下に手傷を負わせてしまっているし、次に遭遇すれば即戦闘だろう。それに、何か別件で席を外さないといけなくなった時、また護衛の人たちの監視を掻い潜って抜け出すのも億劫だ」


 修学旅行を成功させる、という本来の目的を考えれば少しでも班に戻るべきだと思う。舞や可憐、美月の思い出作りに貢献できなかったことは本当に悔やまれる。申し訳ないとしか言いようが無い。ただ、安易な選択1つで全員が死ぬ可能性があるのだ。優先順位を取り違えてはいけない。


「……リナリーのもとへ向かうことの方が、よっぽどリスクが大きいと思いますが」


 栞の言葉に、思わず苦笑してしまう。


「それはその通りだが、行かないという選択肢は無いよ」


 ここだけは譲れない。


 何かあった際、もっとも安全な離脱手段は俺の無系統魔法だ。『神の上書き作業術(オーバーライト)』を使えば、どれだけ厳重な包囲網が敷かれていようが強引に突破できる。逃走ルートが無いから、尾行される心配も無い。


 転移用の刻印魔法を施した1円玉をベッドの上へと放る。


 この『神の上書き作業術(オーバーライト)』は、あらかじめ用意していた刻印魔法が施された魔法具のもとへと転移する無系統魔法だ。そのため、座標演算をする必要がなく、目視で確認できないところにも転移できる。どの魔法具の場所へ転移するかを思い浮かべてしまえば、すぐにでも使える。


 登録しておける魔法具は5つまで。


 1つはここ。

 1つは師匠。

 1つはルーナ。

 2つが予備だ。


 師匠の持つ1つは、俺の近未来都市アズサへの移動用で消費してしまうため、予備の1つを渡す予定になっている。そのためには、俺は会談前に近未来都市アズサにある会談予定地へ行かなければならない。まだ時間があると思っていたが、そんなことは無かったか。これではどちらにせよ修学旅行組と合流することはできなかったな。


 見れば、カーテンの隙間から差し込む光が赤みを帯びていた。結構な時間を栞と話し込んでいたようだ。道理で頭がぼうっとするわけだ。慣れないことはするものではない。頭脳担当は俺の柄では無いのだ。


 立ち上がり、窓際へと移動する。

 カーテンを指でずらして外を見た。


 綺麗な夕焼け空が見える。

 揺蕩う雲を照らし、近くの建造物へと差し込む紅の日差し。


 それがなぜか、真っ赤な血液に見えた気がした。




 ――――会談の時は、近い。

 次回の更新は2月14日(金)を予定していますが、もしかすると21日(金)になるかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[一言] リナリーのこの性格が災いして3桁になる程殺されたんだとしたらそれは自業自得なのでは?と思ってしまった。「慢心せずして何が世界最強か」を地でいってそのまま殺されたということか。それで0話の様な…
[一言] うーん、この第二のMCについて リナリーに聞いてみるのが正解なんじゃないのかなぁ
[一言] ん、あれ、要はこのリナリーの傲慢さと油断のせいで脚本家は何百回もやり直す羽目になってるってこと?っていうかそういうことだよね
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