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テレポーター  作者: SoLa
第10章 真・修学旅行編〈上〉
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第18話 残念




「ご苦労様」


 一言。


 道中危険に曝されたわけでも無い。

 ただただ、この男の後ろをついて歩いていただけだ。


 視線すら向けられることもなく、社交辞令のように投げかけられた労いの言葉を受けて、祇園精舎は無言で深く頭を下げた。おそらく、そんな祇園精舎の仕草にも、男は気付いていないのだろう。


 圧倒的なまでの、無関心。

 路傍の石としてすら認識されていない。


 扉の奥へと消えて行く男の背中を見て、祇園精舎は言葉にならない感情を誰に気付かれる事も無く嚥下した。そんな祇園精舎の背中へ、別の男から声が掛けられる。


「ご苦労だったな」


 祇園精舎は、身体ごと視線をそちらへと向ける。

 聞き慣れたその声は、まさしく自らの上司のものだった。


 全身を漆黒のローブで覆い隠した、ガタイの良い男。

 深く被ったフードの奥には、泣き笑いの表情を浮かべた仮面が覗いている。




 傍若無人(ボウジャクブジン)

 祇園精舎が所属する『ユグドラシル』において、最強クラスの実力者である。




「……俺は何もしちゃいませんよ。ただ、あのお方の後ろをついて回っていただけです」


「何もしなくて済んだのは、お前が余計な事をしなかったからだ。俺はそれに対して労いの言葉を掛けている。ご苦労だったな。下がって良いぞ」


 これ以上は不必要。

 許可では無く、命令。

 ここから先の会話に、祇園精舎は必要とされていないという意。


 祇園精舎は黙って一礼し、その場を後にした。


 最低限の照明しかない廊下で。

 傍若無人は、祇園精舎の姿が角を曲がって見えなくなるまで見届けた。


 そして、部屋へと入る。


「座りなよ」


 後ろ手に扉を閉めたところで、声が掛かる。にこやかに上座に座るアマチカミアキへ軽く頭を下げ、傍若無人は先に座っている2人の同僚とは離れた場所に腰掛けた。


「では、報告を聞こうかな」


 手慣れた手つきで栞を挟んだアマチカミアキは、テーブルの上に文庫本を置くと、その視線を天上天下(テンジョウテンゲ)へと向けた。アマチカミアキの対面に座る3人のうち、向けられたその視線に頭を下げた天上天下が、険しい表情で口を開く。


「諸行無常が死にました」


「……確かなのか」


 天上天下と1つ席を空けて座っていた唯我独尊(ユイガドクソン)が、視線だけを天上天下と向けて問う。


「画像付きの報告書で確認した。間違いない」


「死因は」


「爆殺だ。クルリアで所有していた民家ごとやられている」


 唯我独尊の追求に対して淀みなく答えた天上天下の言葉に、傍若無人は気になるワードを見つけた。


「『トランプ』が出張ってきたのか?」


「それならまだ話は早かった。説明しろ、沙羅双樹(サラソウジュ)


 天上天下の言葉に、彼の手元にあるノートパソコンが応答する。


『おそらく、監視対象である中条聖夜によるものと思われます』


「何だと? どうしてここでその名前が出る」


 大きな音を立てて傍若無人が立ち上がった。

 それを制するようにして、アマチカミアキの手が挙がる。 


「座りなよ。まずは報告を聞こうじゃないか」


 湧き上がる怒りを飲み込み、無言で一礼した傍若無人が改めて椅子に腰を下ろした。しばらくの沈黙の後、再度ノートパソコンから沙羅双樹の声が響く。


『青藍魔法学園の行事で魔法世界を訪れていた中条聖夜ですが、一度彼の班から離れ、別行動をしたと報告を受けています。追跡したところ、交易都市クルリアへ辿り着いたようです。残念ながら、交戦の様子を直接視認出来たわけではないので確定ではありませんが、関係している可能性は高いかと。以上です』


「なぜ確認出来なかった。クルリアへ潜り込むところまでは追っていたのだろう」


 唯我独尊が問う。


『そこで、粛清対象の御堂縁と合流したそうです。それによって、気付かれる可能性を考慮し、距離を取ったと』


「奴まで噛んでいたのか!!」


 傍若無人が吠えた。


「……何か気付いていたのでは?」


 天上天下の問いかけに、皆の視線がアマチカミアキへと向いた。


「さあ、どうだろうね。とりあえず、沙羅双樹君。報告ご苦労様。もう下がっていいよ」


『……ありがとうございます。失礼致します』


 その言葉を最後に、沙羅双樹との通信が切れる。天上天下がノートパソコンの電源を落とすのを確認してから、アマチカミアキは再び口を開いた。


「さて諸君。何が問題なのか、どうすべきなのかはもう分かっているね?」


 朗らかな笑みを浮かべながら、アマチカミアキは続ける。


「何の情報も与えられていないはずの中条聖夜が、交易都市クルリアへ向かった。『脚本家(ブックメイカー)』が介入してきた可能性がある」


「あの裏切者が情報を流した可能性を失念しているのでは?」


 手を挙げて発言した唯我独尊に対して、反論したのは天上天下だった。


「いや、あの男に会談の情報は流れていないはずだ。流れていれば、『自分も同席させろ』と言ってくるか、今頃会場となる近未来都市アズサのホテルに爆薬を仕込んでいる頃合いだろう」


「確かに」と頷いた唯我独尊は、手を引っ込めた。


「傍若無人」


 アマチカミアキにコードネームを呼ばれ、傍若無人が顔を上げる。


「君の手の者を何人か沙羅双樹につけてくれ。先ほどまでの会話でも、聡い彼女なら『脚本家(ブックメイカー)』の介入を疑うだろう。そうなれば、是が非でも会談の情報を欲するはずだ。それでも彼女が動かなければそれで良し。それを以って、彼女をシロと認めよう」


「動いた場合は?」


「奴は俺の部下だ。俺が始末をつける」


 傍若無人の問いに天上天下が即答した。傍若無人の視線がアマチカミアキへと向くが、アマチカミアキはにこやかに頷くに留まった。その代わりとばかりに唯我独尊が口を挟む。


「簡単に殺してくれるなよ。死とは救いだ。なぜなら、それ以上の拷問を受けずに済むのだからな」


「分かっている」


「本当に分かっているのだろうな。元はと言えばお前の部下が――」


「なんだと。それを言うなら、貴様が歓楽都市フィーナで――」


 唯我独尊からの突っかかりに天上天下が応戦する。それに傍若無人も加わってわいわいやり始めた。この3人が言い争うのはよくある事だ。それが殺し合いに発展しないうちは介入する必要も無い。蚊帳の外へと放り出されたアマチカミアキは、手元に置かれた報告書の束をパラパラと捲っていく。 


 そして。


「残念だなぁ……」


 とあるページで捲る手を止め、他の3人に聞こえないようにひっそりと呟く。


「折角、色々と仕込んでおいたのに。彼が目を通してくれていれば、会談も実りあるものになったはずなんだけど。ねぇ、リナリー・エヴァンス」


 そのページには、保有している民家の1つが全壊したこと、ラズビー・ボレリアが爆発に巻き込まれた可能性があること、爆音を察知した配下の者はすぐに駆け付けたが、敵対者の姿を捉えることは出来なかったことが、時系列ごとに写真も交えて記されていた。

 第10章 真・修学旅行編〈上〉 完



 10月がくっそ忙しくなりそうなので、次回更新はもしかしたら11月になるかも。

 決まり次第、ツイッターや活動報告でお知らせします。

 皆さま、体調管理には気を付けてくださいね。

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