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テレポーター  作者: SoLa
第10章 真・修学旅行編〈上〉

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第8話 武闘都市ホルン ④ / 交易都市クルリア ②

 更新間に合いました。

 ※問題の先延ばしは、おそらく今回で打ち止めです。




「……残念だ。あの様子では、気付いては貰えなかったかな。折角、内通者へと繋がるヒントをあげたというのに」


 残念と言いつつも、アマチカミアキの顔に浮かんでいるのは笑みだった。気付かないなら、それはそれ。アマチカミアキにとっては何らデメリットは無い。敢えてわざとらしくヒントを与えたのは、彼にとってはちょっとした余興のつもりだった。


 そんな彼へ、その質問は唐突に放たれる。


「ご自身の立場、理解出来てます?」


「勿論、理解しているとも」


 挟んでいた栞を頼りに文庫本のページを開きながら、アマチカミアキはそう返答する。ただ、視線は文庫本へと向けられたままだった。流れるような黒の長髪を後ろで編んで垂らした青年、祇園精舎(ギオンショウジャ)は、わざとらしくため息を吐いた後、体重を預けていた壁から背中を離してアマチカミアキの横に並んだ。


「勧誘は……、失敗したみたいですね」


「うん、そもそもしていないからね」


「はぁ?」


 話が違う。


 何のためにわざわざ必要の無い危険を冒してまで、この男を敵対勢力の目の前に連れて行ったというのか。側近の誰もが反対したと聞いている。その場に祇園精舎がいれば同じく反対しただろう。それでもなお、この男は「必要な事だ」と言って強行したのだ。おまけに、警護に指定されたのはこの男と初対面である祇園精舎ただ1人。直属の上司にあたる唯我独尊(ユイガドクソン)から警護の指令を下された時の、あの上司の表情は今でも忘れられない。


 こんなクレイジーなことを強行する野郎がどんな外見をしているかと思えば、上司の紹介で祇園精舎の前に現れたのはこの線の細い優男である。魔法戦になることなどまったく想定していないであろう白のワイシャツにジーパン姿、そして片手には文庫本。


 舐めてんのか。

 と、祇園精舎は言ってやりたかった。


「……それじゃ、収穫は何も無しってことですね?」


 どう上司に報告するべきか。

 それとも、これは自分の失態では無いのだし、隣で呑気に文庫本へと目を落としながら歩いているこの男へと報告は全て丸投げするべきか。


 そんなことを考えながら投げかけた質問に対して、アマチカミアキは言う。


「収穫はあったさ。『脚本家(ブックメイカー)』が動き出した可能性がある」


「……は?」


 突然の告白に、祇園精舎の足が止まる。


 しかし、アマチカミアキは止まらない。視線すら向けることはない。文庫本のページを捲りながら、アマチカミアキは歩き続ける。我を取り戻した祇園精舎は、慌ててその背を追いかけた。


「ちょ、ちょっとちょっと! そりゃまずいんじゃないですか!!」


 何を呑気に本なんて読んでるんだよ、と祇園精舎は怒鳴り散らしてやりたかった。が、そんなことをしてそれが直属の上司の耳に入ろうものなら祇園精舎は一瞬で血祭りに上げられるだろう。そんな祇園精舎の葛藤を余所に、アマチカミアキは言う。


「何がまずいんだい?」


 相変わらず、視線は文庫本に落としたまま。

 穏やかな口調での質問に、祇園精舎は返答できなかった。


「僕からすれば、むしろご褒美みたいなものだけれど」


 返答など元から期待していなかったのか、アマチカミアキは続ける。


「だってそうだろう? 『脚本家(ブックメイカー)』が動き出したということは、事象を改変せざるを得ない事態になったということだ。それはつまり、僕たちの行動の延長線上には、間違いなくあのリナリー・エヴァンスの死が待っている」


 栞を挟み、文庫本を閉じて。

 ようやく視線を上げたアマチカミアキは、隣で絶句する祇園精舎へと目を向ける。


 朗らかに笑い、そして告げる。


「リナリー・エヴァンスが死ぬか、それとも僕が死ぬか。楽しみだ。あぁ……、楽しみだよ」







「……そうか。あのリナリー・エヴァンスが死ぬのか」


 素早く簡潔に。


 そう思いつつも、他人に説明するには難しい話だ。既に一度エマへ話しているだけあって、多少はスムーズに説明出来たはずだが、やはり拙さは残る。加えて、今回はこれまで行った俺の考察まで付け加えてある。要所要所で上手くまとめたつもりだが、それなりに時間が掛かってしまった。


 それでも。

 縁先輩は一度も質問することなく、目を閉じたまま黙って俺の話を聞いていた。


 全てを語り終えた後で。

 縁先輩が最初に口にしたのが、その言葉だった。


 ゆっくりと縁先輩の目が開かれる。


「……すまない。少々下らない感傷に浸ってしまったようだ」


「いえ……」


 その言葉の意図するところが。

 縁先輩の胸中に渦巻く感情が。


 俺には分からない。


「切り替えよう」


 まるで自分に言い聞かせるようにそう呟いた縁先輩は、頭を振ってから視線を俺へと向けた。


「君が覚えたその違和感は正しい。恐らく当たっていると思うよ。『脚本家(ブックメイカー)』は、常人では気が狂うほどのトライアンドエラーを繰り返して、ようやく突破口を見つけたに違いない」


「それが今回のルートだと?」


 縁先輩は頷く。


「トライアンドエラーの生け贄になったのは、今井修かエマ・ホワイトか、それとも記憶を保持しない君だったのか……。まあ、大穴で俺って可能性もあるけど」


 そうか。

 縁先輩という可能性もあるんだよな。

脚本家(ブックメイカー)』の存在は知っていたわけだし。


「その辺りは今必要な情報では無いし、考えたところで結論は出ないから置いておこう。とにかく、記憶を保持させた状態で遡らせるなんて、絡繰りを知らない俺でも察してしまうほどに差が出るはずだ。使用する魔力にね。トライアンドエラーを繰り返すにしても、本当なら記憶を保持出来るならその方が効率がいい。同じ失敗をしなくて済むんだから。にも拘らずそれをしていなかったことからも、この仮説への十分すぎる根拠となる」


《確かに》


 縁先輩に聞こえるはずがないのに、ウリウムが声に出して同意した。


「そして、今回の一件に警告の1つが適用されるという説も非常に有力だ。となると、この一件を上手く利用すれば事象改変の突破口に繋がるわけだ。警告、と言いつつも改変して欲しい事象へのナビとしての役割も果たしているのかもね。他の警告についてもおいおい考えていこうじゃないか。時間が進めば手掛かりが得られるかもしれないし」


《……この男、本当に味方に引き入れておいて良かったわね》


 俺もそう思う。

 何なら、もう考える役割は全部この人とエマ、そして栞に丸投げしていいと思う。


「現状での協力者を確認させてくれ。俺と中条君、そしてエマ・ホワイトに、後で説明する鈴音。他にいるのかい?」


「こちらも後で事情を説明する候補として、『黄金色の旋律』の構成員が1人。ただ、今は魔法世界の外にいるので……」


「この一件には間に合いそうにないな。『アオバ』行きの正規ルートは一日に二便しかない。君たちが利用した飛行機に乗っていないなら、入国できるのは夜になる」


 縁先輩がそう言った直後、俺のクリアカードが振動した。

 断りを入れてから券面を操作する。


 まさかの、相手はT・メイカー名義のクリアカードだった。


「……ホテル・エルトクリアに到着したそうです」


「正規ルートを使わなかったのかい?」


「いえ、あいつにそんな伝手は……」


《『断罪者(エクスキューショナー)』ってやつじゃないの? もともと栞ちゃんはメッセンジャーを頼まれていたんでしょ?》


 ……ウリウムの言う通りだ。


 アメリカが動いているなら、臨時便の用意など朝飯前だろう。魔法世界を含め、アメリカの領地なのだから。秘密裏に用意する事だって可能に違いない。


 俺が沈黙したのを見て、言いにくい事であると判断したのかもしれない。

 縁先輩が話題を変えた。


「戦力としてカウント出来るのかな?」


「いいえ。前線に立って戦うタイプではありませんので……」


「なるほど。とは言え、この人数だ。遊ばせておくには惜しいな……」


 縁先輩は、顎に手を当てて考え込む素振りを見せる。


 実際その通りだ。

 現状で遡りの話を知っているのは、俺とエマ、そして縁先輩の3人。そこへ栞と蔵屋敷先輩を加えても5人しかいない。相手は『ユグドラシル』という超級の危険人物たちが集う集団である以上、出来るなら単独行動は避けたいところだ。しかし、魔法世界は広い。たかが5人ではどうしようもない事態になってしまう可能性は大いにある。


 だから、考えていた。

 遡りの事情を説明しなくても、協力してくれるであろう奴らへコンタクトを取る方法を。


「縁先輩、俺は『白銀色の戦乙女』を仲間に引き込もうと考えています」


 俺の言葉に、縁先輩は眉を吊り上げた。


「どうやって?」


「たった今、魔法世界に到着した黄金色の構成員。そいつにギルド本部へ向かってもらいます」


「確かに、『黄金色の旋律』として要請すれば『白銀色の戦乙女』は動くだろう。だがそれは、その構成員が自らを『黄金色の旋律』だと証明することが出来れば、だ。世間一般に『黄金色の旋律』だと知られているのはリナリー・エヴァンスとT・メイカー、そしてマリーゴールド・ジーザ・ガルガンテッラの3名。リナリー・エヴァンスは警告故に接触不可、T・メイカーは君、そしてガルガンテッラ嬢はご令嬢たちの護衛代わりに置いてきているんだろう? 可能なのかい?」


 俺は、メールを受信したクリアカードを縁先輩へと見せる。

 そこに書いてある名前を見て、縁先輩は目を丸くした。


「……驚いた。君、クリアカードを2枚所有しているのかい?」


「そうです。もちろん、偽造では無いですよ」


「だろうね。そんなことは不可能だし……。まあ、T・メイカーのクリアカードを持って行けば、少なくとも『黄金色の旋律』と繋がりのある人物だとは信じてもらえるだろう」


 問題なのは、これからT・メイカーの捕縛クエストがギルド本部から出される予定になっていることだ。祥吾さん達の警備網から抜け出すため、盲目の男への接触は済ませてしまっている。『無音白色の暗殺者』は既に動いているだろう。


 栞がいるホテル・エルトクリアの0514室には、あらかじめメモを用意しておいた。


 そこには、着いたらまずは中条聖夜名義のクリアカードへ一報を入れる事、ギルド本部へ向かって欲しい事、ギルドでは黄金色に近しい者という立場で白銀色へ面会の取り付けを依頼して欲しい事、ギルドではT・メイカー捕縛クエストが出されている可能性がある事、そのため依頼を出す際は必ず個室を用意させてギルド御意見番相手に行う事、そして、状況が変わるかもしれないのでギルド本部へ赴く前には必ず俺へ確認を取る事などが書かれている。


 前回ルートで話した限りでは、御意見番なら協力してくれるだろう。ただ、全てを話すわけにはいかない。『脚本家(ブックメイカー)』からは権力者に近しい者へ話す事は勧めない、と言われているのだ。だからこそ、遡りの事実に気付かれない程度の情報を与えることで上手く協力を仰ぐつもりでいた。


 今T・メイカー名義のクリアカードから来たメールには、栞がホテル・エルトクリアへ到着した事と、ギルド本部へ向かってもいいかの確認ついて書かれている。


「なるほど。それで身分証明にその構成員のクリアカードを使っても役には立たないから、T・メイカー名義のクリアカードをホテルに置いてきたというわけだ」


「その通りです」


 やり過ぎなところは多々あるが、それでも白銀色の戦力は欲しい。魔法世界に2つしかないギルドランクSのグループの1つ。構成員それぞれが一騎当千を地で行く強者たちだ。おまけにリナリー・エヴァンスへの忠誠心は疑いようもない。詳細を聞かずとも協力してくれるだろう。面会の際は、師匠と『ユグドラシル』が会談を行う予定であることを明かすつもりだ。師匠の身に危険が迫っていると知れば、こちらが頼まなくても力を貸してくれるに違いない。


 むしろ、手綱をしっかり握っていないと勝手に殴り込みに行かれそうだ。


「ふむ……」


 俺の考えを説明したところで、縁先輩が口角を吊り上げた。


「折角なら、赤銅色にも声を掛けてみたらどうだい?」


「『赤銅色の誓約』に……、ですか?」


 俺の質問に縁先輩が頷く。


「泳がせておくと面倒になる連中だ。ならば、いっそのことこちらでコントロールしてしまえばいい」


「……出来ますかね?」


 プライドが高くて、黄金色をとことんまで嫌う連中だ。あいつらが根城にしているホテルへ話し合いの為に赴いても、ホテルのワンフロアごと爆破されたくらいだからな。こちら側が黄金色だと打ち明けた瞬間に殺し合いへと発展する未来しか視えない。


「その辺りは君の交渉術次第かな。彼らの存在は前々から知っているけど、英雄願望が笑ってしまうくらいに強い連中だからね。そういう人間は操りやすいものさ。自尊心をちょっとくすぐってやれば問題無い」


 ……。

 そんな器用な真似、俺に出来るかよ。


 俺の考えが伝わったのか、縁先輩が苦笑した。


「難しく考える必要は無い。『ユグドラシル』とは世界共通の悪だ。黄金色のトップであるリナリー・エヴァンスが『ユグドラシル』との会談に応じている。バックアップのために協力して欲しい。貴方たちの強大な力を見込んで、とか」


 よくもまあ思ってもいない事をさらさらと言えるなこいつ。

 思わず唸り声を上げてしまう。


「確かにこちらでコントロール出来るならそれに越したことは無いですけど……。一応、赤銅色にも声を掛けるようにとは指示しておきますが、期待はしないで下さいよ? そもそも、あいつらは昇格試験の真っ最中なので危険区域ガルダーにいるはずです。いつ戻ってくるか分からない以上、対応出来ないかもしれないんですから」


「君かその構成員の方が連絡を取れる状況でギルドに来るのなら問題無い。そちら2人の手が空いていなければ、俺か鈴音が対応しようじゃないか。顔を隠して『黄金色の使い』とでも名乗っておくよ」


 前回ルートで赤銅色の昇格を知ったのは、2日目の宗教都市アメンでの観光を終えて中央都市リスティルへ戻ってきた時だ。号外を作る時間を加味したとしてもあいつが帰還したのは2日目……、いや、その思い込みは危険か。1日目の深夜には帰還していたが、満身創痍でギルドに報告したのが2日目だったという可能性もゼロじゃない。


 そうなると、俺が王城へ向かっている間に帰還する可能性もあるわけだ。


「赤銅色に声を掛けておくべきだと言っている理由は他にもある。黄金色が白銀色に救援要請を出すことは、いくら極秘にしようとしても赤銅色には伝わるはずだ。赤銅色は黄金色や白銀色と違って、ギルドとの関係が強いからね。世間話程度のノリで話されても不思議じゃない」


 確かに。

 それは十分にあり得る話だ。


「それで彼らの機嫌を損ねても面倒なだけだよ。彼らがこちら側の誘いに乗るかどうかは別として、黄金色と繋がりのある依頼者が、赤銅色の実力を認めた上で自分たちにも声を掛けてきたという事実が大事なんだ」


 なるほど。


 栞に返信するための文章を打ち込んでいく。

 メモに記載していた通りにギルド本部へ向かう事、そして、依頼の対象グループに『赤銅色の誓約』も含める事。白銀色との面会は深夜に、赤銅色については戻り次第ギルド側からこちらへ連絡するように指定しておく。


 栞にはまだ遡りの話をしていない。『ユグドラシル』との会談の件については俺より詳しいだろうが、それだけでは上手く対応できない可能性もある。戦力として期待している白銀色には、俺もしくは最低でもエマで対応したい。そうなると、白銀色と面会出来るのは王城の一件が終わった後だ。少なくともホテルに帰るまでは舞たちと行動を共にしていないといけないし、その後は直ぐに王城へ向かわなくてはならない。ギルドに行っている暇などないのだ。


 打ち込んだ文章を確認し、見落としが無いか確認してから送信した。


「赤銅色の件、こちらの手が足りない時に帰還の報せが来たら頼らせてもらいます」


「うん、構わないよ。俺から言い出したことだからね」


 縁先輩が頷く。

 そのタイミングで、今度は縁先輩のクリアカードが着信音を鳴らした。


 思わず縁先輩と目が合ったものの、お互い特に会話を交わすことは無かった。縁先輩が通話ボタンを押す。


『探知魔法に反応がありましたわ。場所は先ほどと同じ門から出てきたようですわね。現状、反応は1つ。但し、視認出来る距離にはいませんので、ラズビー・ボレリアかどうかは分かりませんわ』


 蔵屋敷先輩の声だった。

 その内容は、つまり――。


「了解。こちらは中条君と合流した。手伝ってくれるそうだ。詳細は追って話す。まずは俺が先行するよ」


『承知しましたわ。探知魔法を継続します』


「よろしく。……さて、確認しておこう」


 縁先輩は通話を切ってから、改めて視線を俺に向ける。


「君が接触を禁じられているのは、『ユグドラシル』のトップである天地神明、その側近の3名である天上天下、唯我独尊、傍若無人、そして最高幹部から2名、盛者必衰と沙羅双樹で間違いないね?」


「そうです」


「では、まずは鈴音に伝えた通り、俺が先行しよう。副ギルド長ラズビー・ボレリア捕獲の際に対象となる構成員が現れた場合、君は即座に撤退したまえ」


「……それは少々危険では?」


 そもそも、縁先輩と蔵屋敷先輩の2人では手に負えないかもしれないから、と言う理由で監視するだけに留めていたはずだ。仮に接触を禁止されている構成員が相手側にいた場合、俺が撤退すれば結局は縁先輩と蔵屋敷先輩の2人で対処せざるを得なくなる。


「『脚本家(ブックメイカー)』の警告文がどの範囲まで影響を及ぼしているのかを確認しておきたいんだ。接触を禁じられているのは、警告を与えられた中条君本人のみなのか、それとも君の陣営に属する者全てなのか」


「……確かに気になるところではありますが、リスクが高過ぎます。それは今確かめなければいけないことですか?」


「今だからだよ」


 クリアカードをポケットへとねじ込み、伝票をつまみ上げた縁先輩は淡々と口にする。


「おそらく本番は明日以降……、今日のところは前哨戦だ。だからこそ、今のうちに確かめられるのなら確かめておいた方が良い。白銀色を抱き込む予定なら戦力としては申し分無いだろう? 君はここで見極めろ」


「……紫会長はどうするんですか」


 俺の言葉に、縁先輩の動きが止まる。

 しかし、それは僅か一瞬のことだった。


「……そうだね。俺に万が一のことがあったら、紫は君に託そうかな」


「縁先輩、俺は真面目に――」


「中条君」


 縁先輩は、言葉を遮るようにして俺の名を呼ぶ。


「俺は真面目さ。前回ルートのまま進めば、どちらにせよ俺たちは終わりだよ。なら、少しでも多くあがこうじゃないか。勿論、簡単に首をくれてやるつもりもないけどね」


 見慣れたあの不敵な笑みを浮かべながら。

 縁先輩は、そう告げてレジへと向かっていった。

 次回の更新予定日は、7月15日(月)です。

 ※奇跡が起きない限り、7月は隔週更新とさせて頂きます。

 ※ここで言う奇跡とは、オスの三毛猫が生まれるくらいの確率で起こるものを指します。

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― 新着の感想 ―
やっぱ縁先輩頼もしすぎる
[気になる点] おまけに、警護に指定されたのはこの男と初対面である祇園精舎ただ1人。 って書いてあるのに龍の過去話だと、子供時代に天地神明に会ってるよね?ミス?それとも… てか、龍の過去話に出てきた…
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