表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テレポーター  作者: SoLa
第10章 真・修学旅行編〈上〉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

338/434

第2話 玄関口アオバ ①

 いつも読んでくださる皆さま、感想や誤字報告をくださる皆さま、ありがとうございます。




 違和感はあった。


 そう。

 違和感は確かにあったんだ。


 過去へと遡る際に『脚本家(ブックメイカー)』から与えられた指令と警告の数々。それらの中に、前回のルートだけでは絶対に出てこないであろうものが含まれていたこと。


 例えば、警告のひとつ。

 花園剛と姫百合美麗へ救援要請を出してはならない。


 花園家第一護衛である鷹津(たかつ)祥吾(しょうご)へ救援要請を出したのは、修学旅行最終日の朝で『黄金色の旋律』メンバーの1人であるルーナ・ヘルメルがやって来た後のこと。つまりは、既に取り返しがつかなくなった後の話だ。それまでは、何ら今回の一件とは関係の無い護衛に関するやり取りのみだった。そう考えるとこの警告はおかしい。


 例えば、警告のひとつ。

 保護したアリス・ヘカティアを王城へ連れていく際、同行してはならない。


 奴隷だったアリスを保護したのは宗教都市アメン。そこで俺は『トランプ』の1人であるウィリアム・スペードを呼び出して、アギルメスタ杯で勝ち取っていた権利を使用し王城へと連れて行かせた。同行などしていないし、考えてもいなかった。だからこそ、同行することによって何が起こったかなど分からない。分かるはずがない。まさか、あの時近くに『ユグドラシル』の構成員が控えていたなんてことは無いだろう。周囲は花園と姫百合の護衛が展開していたのだし、何か異変があれば連絡があったはずだ。


 例えば、警告のひとつ。

 如何なる理由があろうとも、エルトクリア現女王アイリス・ペコーリア・ラ=ルイナ・エルトクリアは王城から連れ出してはならない。


 連れ出すような展開になど、前回のルートでは欠片もなってはいない。まるで、女王陛下を連れ出したくなるような展開になったことがあり、それを知っているかのような警告だ。7つある警告のうち、これは特に異常なものだと思っている。


 そして。

 そもそもの指令が、リナリー・エヴァンスを修学旅行最終日まで生かせ、だ。


 なぜ師匠を最終日まで生かすことが出来れば今回の一件が解決すると知っているのか。師匠は最終日まで生き延びる事は出来なかったというのに。それこそ、様々なルートで様々な結末を見た上で出された結論にしか思えない。


 人知を超えたその在り方とあの神の如き魔法のせいで、まさに超常の存在だとして片付けてしまった違和感。あの目の前の存在ならなんでも知っているんだろうな、と思い込まされたのだ。しかし、後になって考えれば違和感はどんどん大きくなる。


 まるで。

 何度も、何度も。

 ただひたすらにトライアンドエラーを繰り返してきたかのような。

 そんな感想を抱いてしまう警告たち。


 そして。

 明らかに俺が経験したルートだけでは生まれてこないであろう指令。


 その違和感の原因。

 あの指令や警告がどのようにして生まれてきたのか。


 まさか――――。







 美月には、舞や可憐の護衛について話しておきたいと説明し、エマと席を変わってもらった。今はアオバ空港へと向かう飛行機の中。俺の隣にはエマが座っている。前回のルートではT・メイカー関連のグッズについてひたすら語られていた記憶しかないが、今回はそうではない。舞や可憐、美月は相変わらずの会話をしているようだが、エマはそちらには微塵も興味を示さなかった。流石、真面目モードのエマは一味違う。


「聖夜様。私と初めてお会いした日のことを憶えていますか?」


 開口一番。


 エマから放たれた質問は、俺の予想の範疇を越えていた。「それは、今聞かなきゃいけない質問か」と問い返そうとしたが思い留まる。今はのんびり思い出話に浸れるような暇など無い。それはエマにも分かっているはずだ。ならば、この質問は必要なことなのだと理解する。


 エマと初めて会った時のことか。

 エマが言いたいのは、アギルメスタ杯の時のことではないのだろう。


「ああ、憶えている」


 魔法世界に潜伏しているとある組織を壊滅させる。本来、魔法世界に入国するには複雑な手続きを踏まないといけないが、それでは向こう側にバレる恐れがある。でも大丈夫。貴方の魔法を使えば何の痕跡も残さずに魔法世界へ侵入できる。私を信じなさい。


 師匠の言葉をまんまと信じた俺は、魔法世界へ不法侵入するために無系統魔法を使用した。しかし、見事に魔法世界の警備網に引っ掛かり、王族護衛『トランプ』を相手取った大立ち回りを演じたのだ。そして、ウィリアム・スペードから逃げ回っている最中に、エルトクリア魔法学習院から抜け出したエマと偶然出会うことになった。


「あの出会いは、偶然なんかではありません」


「……何?」


 思わず隣に座るエマの顔をまじまじと見つめてしまう。

 エマは真面目な表情を崩さずに言う。


「私は、貴方と出会うためにあの場所にいました」


「ちょっと待ってくれ」


 いきなりの展開に頭が追い付かない。


「俺と出会うためにあの場所にいた、だと? それはつまり、俺がスペードから逃げるために、あの場所を通過することを予見していたということか?」


 エマがなぜ『脚本家(ブックメイカー)』のことを知っているのか。

 なぜ俺が遡って来たことに気付いたのか。


 俺はそういった話を聞きたかったはずだ。エマもそれは分かっているはず。にも拘らずこの話題を出したということは、これが俺の知りたいことを説明する上で必要なことだからということになる。しかし、疑問は増えるばかりだ。


 混乱する俺を余所に、エマが首肯する。


「そういうことになります。もっとも、予見していたのは私ではありません。『脚本家(ブックメイカー)』です」


 ……そこで出てくるのかよ。『脚本家(ブックメイカー)』は。


「私がガルガンテッラを勘当されたのは、聖夜様とお会いする前日のことです。屋敷のある貴族都市ゴシャスを離れ、あてもなくうろついていた時に今井(いまい)(おさむ)が現れて私に言いました」




 死ぬなんて勿体ない。

 君の世界は、明日から彩を取り戻すというのに。




「何を馬鹿なことを、と最初は鼻で嗤いました。私はこれまで生きていて良かったと思った瞬間なんて無かったからです。第一、その私のことを何でも知っているように語る言葉が好きではありませんでした。だから、殺すことにしたのです」


 は?


「しかし、殺せませんでした。手にしたナイフも、使い慣れた魔法も。何1つあの男を傷つけることは出来なかった。信じられますか? あの男、私が攻撃するたびに『そう来ることは知っていたよ』なんて言うんですよ?」


 俺が信じられないのはお前だよ。


 エマは上品に口元を手で隠しながら笑っているが、俺は引き攣った笑いしか出てこない。出会い頭で気に食わないから殺すとか。いくら勘当されて自暴自棄になっていたとはいえ無茶苦茶だろう。


「まるで未来を見通す力があるかのような物言いをする男でしたが、それを私に確信させる言葉がありました」




 次は、先ほど覚えたばかりの契約詠唱でも使ってみるかい?




「私がガルガンテッラを勘当されるきっかけとなったのは、屋敷に保管されていた契約詠唱の魔法具を勝手に使用したからなのですが、それを部外者であるあの男が知っていることに違和感を覚えたのです」


 なぜ契約詠唱に手を出すだけで勘当されることになるのかも聞きたいところではあるが、エマが説明しないのならば今回の一件には必要ない知識ということか。お家柄というやつかもな。


 おそらく、今井修は遡りを使用したに違いない。何度も何度もエマとの出会いをやり直すことで、ようやく突破口を見つけたということだ。


「そこで今井修が『脚本家(ブックメイカー)』の使いであることを知りました」


「『脚本家(ブックメイカー)』の存在自体は知っていたのか?」


「はい。公にされていない存在ではありますが、王族や『七属性の守護者』の末裔である第一級貴族なら知らぬ者はいないでしょう。流石に、直接その姿を見たことがあるのは王族くらいでしょうが」


 なるほど。


「で、次の日に俺と会うところへ繋がるわけか」


「はい。犯罪組織『ユグドラシル』を止めるために協力して欲しい、と。そして、その出会いが私の世界を変えるものになる、とも言われました」


 つまり、その頃から『脚本家(ブックメイカー)』は今日の遡りのことを知っていたのか。エマと今井修の接触が、俺とエマを引き合わせるためだとするならば、そういうことになる。


「道理で初対面だったのに必死で俺たちと一緒について来ようとするはずだよ……。そういう事情があったのなら仕方が無いな」


「えっ」


「ん?」


 何、その『え』って。


「一応言っておきますけど、私があの時聖夜様に言った言葉は全て本心ですよ? 当時は本気で世界が滅べばいいと思っていた人間ですので、『ユグドラシル』がどうなろうが知ったことではなかったですし。出会ったのが聖夜様でなければ、そしてあのような出会い方をしていなければ、私は今井修に協力しなかったでしょう」


 ……。

 絶句する俺へ、にっこり笑顔でエマは続ける。


「ちなみに、2回目の出会いとなったアギルメスタ杯もあの男の入れ知恵です」


 そっちは驚かないぞ。

 むしろ納得したよ。


 1回目の出会いの時、エマは師匠の正体に気付いていた。エマが本心で俺たちについて行きたいと思っていたのなら、アギルメスタ杯までの間でいくらでも接触する機会はあったはずなのだ。なにせ、師匠の顔は世界規模で売れているからな。特に、『黄金色の旋律』はアメリカや魔法世界を拠点としているのだから、接触は容易だったはず。


 にも拘わらずアギルメスタ杯まで動かなかったのは、今井修に止められていたから。おそらく、そうしなければいけない理由があったのだろう。しかし、今の話を聞く限りではエマがそれに従うとは思えない。そこで今井修が口にしたのが、『脚本家(ブックメイカー)』の神法ということだ。


 繋がった。

 エマが遡りの魔法を知った理由を。


 同時に、もう1つ理解した。

 エマが遡り前の記憶を持っていないにも拘らず、神法を知っている理由だ。


 これは仮説となるが、『脚本家(ブックメイカー)』の神法には2種類ある。それは、記憶を保持した状態での遡りか、保持しない状態での遡りかだ。前者なら無かったことになったルートの記憶がある俺の状態に、後者なら遡ったポイントまでの記憶しかないエマの状態になる。今回のケースで言えば、修学旅行初日のサンフランシスコ空港が遡りのポイントだ。俺は空港以降の無かったことになった修学旅行の記憶があるが、エマは空港までの記憶しかない。


 そして、エマが神法の存在を知ったのは今回遡ったポイントより遥か昔のこと。だからエマは前以って持っていた情報として遡りの知識を有しているというわけだ。


 ある程度俺の考えがまとまったことを悟ったのか、エマが改めて口を開く。語られる内容は、俺が脳内で整理していたものと同じものだった。ほぼ答え合わせをするような状態でエマの話を聞いていく。


 しかし、エマと俺が出会ったあの日から今日まで、全てが『脚本家(ブックメイカー)』の思惑通りに進んでいるのだとするならば疑問が残る。『脚本家(ブックメイカー)』は言った。『遡る時間が長ければ長いほど、そして対象者がその対象日に持ちえなかった記憶量が多ければ多いほど、神法へと捧げる魔力量は増大する』と。年単位での遡りが可能なら、今回の遡りで使われた魔力など微々たるものだったはずだ。


 何か別に条件があるのか? 神法のリスクを減らすような何かが。例えば、『脚本家(ブックメイカー)』の使いである今井修が遡りの対象なら使用する魔力が減る、とか。可能性はありそうだ。そもそも別の神法という可能性だってゼロではない。この辺りは、エマと話したところで結論は出てきそうにないな。


 この移動時間が、魔法世界入国前の最初にして唯一の準備期間となる。


 まだ聞きたいことは山ほど残っているが、この辺りで一度止めておくべきだろう。優先順位を考えれば俺が持つ情報を共有した方が良い。エマの話は落ち着いたタイミングで改めて聞かせてもらうことにして、俺が知っている全てを話すことにする。


 そう全てだ。

 これから先、何が起こったのかを。







「御堂縁には話しても構わないでしょう」


 全てを聞き終えた後。

 エマは言う。


「妹第一主義者のあの男がどこまで協力してくれるかは不明ですが、邪魔になることはないはずです。会話内容から敵対する可能性はこの件ではほぼ無し。むしろ、聖夜様が知らない情報をまだ握っている可能性すらあります。早い段階で接触しておくのがよろしいかと」


 だよな。


「花園、姫百合は危険として捉えておく必要がありそうです。護衛の者にも話すことは得策ではありません。違和感を持たれることすら危険だと考えていた方がいいでしょう。隠し立ては出来ないでしょうから、護衛に伝わることはイコールで花園(はなぞの)(ごう)姫百合(ひめゆり)美麗(みれい)に伝わると思った方が良いはずです」


 ですよね。


「美月に話すこともやめておいた方が賢明です。『ユグドラシル』の上位陣が相手であれば、戦力としてカウントできません。それは私や失礼ながら聖夜様にも当てはまってしまいますが当事者ですので……。未だ全貌が分からない組織のナビ、聖夜様が顔を合わせたことの無い警告文にあった者たちの素性を知っているのであれば使い道もありましたが、そういった知識は有していないようですし」


 辛口ではあるが正論だ。

 美月に危険が及ばないのなら、俺としても望むところなので口は挟まない。


泰然(タイラン)に救援要請を出さなかったことについても賛成です。戦力的には申し分ない……、というより、是非とも欲しい者ではありますが、個人的に好きではありません」


 おい。

 俺の視線に気付いたのか、エマは小さく咳払いをした。


「忠告にあった、権力者に近しい者に話すことは勧めないという言葉が引っ掛かります。国の中枢にいるあの者に声を掛けるのは躊躇せざるを得ません。リターンは大きいですが、同時にハイリスクです。一発アウトの可能性すらあるほどに」


 一発アウト。

 エマの口からさらっと出たその単語に、思わず身体が震えあがるのを自覚した。一度見てしまった以上、惨劇を思い浮かべるのは容易になってしまったからだ。


「聖夜様」


 エマの手が俺の手へと添えられた。

 思わず隣に座るエマの顔を凝視してしまう。


「大丈夫です。何があろうと、聖夜様のことは私が命を懸けて守り通します」


 決意を秘めた眼だった。

 決して口先だけではないと、心の底から思わせてくれるような口調だった。


 思わず、苦笑してしまう。


「大丈夫だ」


 湧き上がる震えを押し殺し、気丈に振る舞う。


「お前に守ってもらうほど俺は弱くないよ。俺は誰も死なせないために戻ってきたんだ。俺さえ守れたら自分は死んでもいい、なんて言い方はやめてくれ」


 目を逸らすエマの名を呼び、その視線を俺へと向けさせる。


「約束してくれ。どんな理由があろうと、絶対に俺の目の前で死ぬな」


 エマの両目が大きく見開かれた。


 その反応を見て思う。やっぱりこいつ、いざという時は死ぬ気だったんだな、と。言っておいて良かった。俺を守るためにエマが死んだとして、それで俺が生き残れたとして。本当に俺がそれで喜ぶとでも思っているのだろうか。良くやったな、と。エマの墓前でそう言ってやれると思っているのだろうか。


 エマが首肯するまで、俺は視線を逸らさない。エマは呻いた挙句、ようやく小さくではあるが頷いてくれた。そこでエマの手を握りしめていたことに気付いて離す。周囲を窺ってみるが、こちらに意識を向けている学生はいない。


 良かった。

 会話を聞かず、今の光景だけ見ればただのバカップルだよな。

 爆ぜればいいとまで思ってしまうやつだ。


 頬を染めて俯いたままのエマを見るのが無性に気恥ずかしくなり、視線を逸らしつつ話題転換を試みた。


「……まあ、ビビってるのが丸わかりな奴から言われても困っちゃうよな。でも約束は約束だからそこのところはよろしく」


「はい……、困ります」


 小さな声でエマは言う。


「恐怖を抱くのは当然です。それでもなお、貴方は戻ってきた。逃げずにまた、立ち向かおうとしている。そんな貴方にあんなことを言われたら……、困ります。ときめいてしまうではないですか」


 ……全然、話題転換出来てなかった。

 強烈なカウンターを喰らうまでそれにすら気付けていなかったあたり、俺の頭も中々にパニックに陥っているらしい。凄く悶えたい。


 そんな俺を見て、エマは笑う。


「約束します。貴方の目の前で、私は絶対に死にません」


 死なない。

 ただの口約束。


 それなのに。

 その言葉を聞いて。


 少しだけ、救われた気になってしまった。







 飛行機は順調に魔法世界の玄関となるアオバ空港へと到着した。


 遡り前の記憶でも、この段階ではこれから先トラブルに見舞われることなんて微塵も感じていなかったから当たり前だ。そもそも俺が『ユグドラシル』と接触したのは3日目の朝、蟒蛇(うわばみ)(すずめ)から連絡が来てからだ。実際には2日目、交易都市クルリアでの観光を俺たちが取りやめた際、その都市の中で縁先輩たちが『ユグドラシル』を発見していたようだが。


 その話も既にエマにはしており、その段階まで何ら進展が無いようであれば縁先輩たちと合流してみてもいいのではないか、という結論に至った。『黄金色の旋律』と『ユグドラシル』の会談がその日に行われたのだとすれば、それに関係した動きだと考える事も出来る。現状『ユグドラシル』の動きが最初に明るみとなるのはその段階からだからだ。


 縁先輩は元『ユグドラシル』ということもあり、内部にはある程度明るいはずだ。副ギルド長ラズビー・ボレリアと密会していた相手が警告内容に無い構成員だと分かれば、俺が直接相手取っても問題は無い。むしろ、正解に近いルートを歩んでいると考える事も出来る。


 ただ、それだと『脚本家(ブックメイカー)』が修学旅行初日に俺を遡らせた理由が分からなくなってしまうんだよな。やはり何かあったのだろうか。今日、前回の記憶では気付けなかった何かが。


「聖夜ぁ、行くわよー」


「おう」


 舞の呼びかけに応じて、小走りに班員達へ近寄る。


 手続きが済んだ者から順に先導されて、空港外で待機しているハイヤーに乗り込んでいくのだ。乗ってしまえば5分ちょっとでアオバの大門前だ。「さっきの飛行機は隣に座ったんだから」だの「電車では隣にいた」だの平和なやり取りをしている班員どもをハイヤーに押し込み、俺も乗り込む。


 ここが一番手薄になる。空港では遠巻きにこちらを警護している人間を発見できたが、ここではあからさまな配置をしていない。学生の修学旅行のハイヤーの周囲に黒塗りの車で固めるわけにもいかないだろう。


 ただ、ここでは何も起こらないことは既に証明されている。


 ……いや、駄目だな。そうやってここは平気、あれも平気だったと考えるのは良くない思考回路だ。既に前回とは違う行動を俺はいくつも起こしている。栞に声を掛けたこともそう、エマに事情を話したこともそう。前回の経験を生かすことは大切だが、それで油断しないようにしなければならない。


 情報は持っているだけでは自分を守ってくれない。

 それを有用に使えてこそ、初めて自分を守る武器となるのだ。


 そんなことを考えているうちに、ハイヤーの速度が落ちていく。視線を前に向けてみれば、大門はもうすぐそこだった。


「……まさかまたここへ戻ってくることになるとはな」


 それもこんなに早く。

 それもこんな理由で。


 ハイヤーから降り、目の前にそびえ立つ馬鹿でかい門を見上げながら、俺はそう呟いた。

 次回の更新予定日は、5月27日(月)です。


 ちょっとした独り言。

 1位に選ばれてなかったら、伏線は泰然に放ったあの一言だけになってたんだよなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ