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テレポーター  作者: SoLa
第10章 裏・修学旅行編
332/432

第1話 ■■■■




 大勢の人たちが歩く音。

 キャリーケースが転がる音。

 飛び交う言語の大多数は英語。

 笑い声に、どこからか泣き声。

 流暢な英語でアナウンスが流れる。


 その中で。


 俺は『脚本家(ブックメイカー)』から与えられた指令と警告を必死になってメモしていた。うっかり忘れようものなら笑い話では済まされない。紙とペンを取り出そうとして最初に手にしたのが修学旅行のしおりだったため、「もういいや」とそのまましおりに書き始めてしまったことからも、俺がどれだけ焦っていたのかが分かるというものだ。


 1つめ、初日に師匠と接触してはならない。2つめ、花園(はなぞの)姫百合(ひめゆり)へ救援要請を出してはならない。3つめ、3つめ、えっと、交易都市の奥地にある民家が……、あ、やばい。これ4つめじゃないか?


 知らぬ間にうっかり地雷を踏み抜いた、なんて馬鹿な真似はしたくない。一番酷いのは、地雷を踏み抜いたのにそのことにすら気付かないケースだ。いつの間にか最悪な選択をし続けたせいで修復不可能なルートへ突入していて、バッドエンドへ一直線に突っ走っていたら目も当てられない。


 そもそも、今の俺の行動すら正しいことなのかが分からない。


 人は大なり小なり常に取捨選択を繰り返して生きている。朝、予定通りに起きるか起きないか。朝ごはんを食べるか食べないか。学校や会社に行くか行かないか。家に忘れた携帯電話や弁当を取りに帰るか帰らないか。友人の誘いに乗るか乗らないか。気になっている新譜を予約するか予約しないか。床屋に行くのは今週か来週か。小さな選択肢を1つ間違えるだけで、それが数珠つなぎのように連鎖しびっくりするような結末を呼び込んでくることもあり得る。


 そう。

 そもそも。

 そもそも、だ。




 俺は、魔法世界エルトクリアへ入国するべきなのか?




 そこで俺は必死になって動かしていたペンを止めた。ふと頭に湧いて出た疑問が引っ掛かり、それ以外のことを考えられなくなったからだ。


 確かに、一見ここで入国しないという選択肢は無いようにも思える。


 しかし、しかしだ。『脚本家(ブックメイカー)』の神法(しんほう)とやらで無かったことになった前回のルートで、俺の何かしらの行動がトリガーとなって師匠やヴェラが死んだ可能性はゼロではない。いっそのこと入国しなければそのフラグは立たずに平和に終わることだってあったかもしれないのだ。


 魔法世界では色々やった。修学旅行だけではない。王城へ行ったし、エースと貴族都市ゴシャスで暴れもした。ギルドには2回も殴り込みに行ったし、T・メイカーとしての影響力は相当なものだっただろう。


 もし、それが無かったとしたら?


 俺が後先考えずに暴れていたのを危惧した師匠が、何らかの対応に追われたせいで会談が失敗した。そんな可能性は無いか……?


「……聖夜様?」


 微動だにしなくなった俺を不審に思ったのだろう。俺が預けたキャリーケースと自らのキャリーケース。その2つを脇に置いたエマ・ホワイトが声を掛けてくる。


「……エマ、俺は」


 考える。

 本当にこれが正しい選択なのか。


 分からない。


 少し。

 少しでいいんだ。


 考える時間が欲しい。


 先行して歩いている(まい)可憐(かれん)美月(みつき)はどんどん進んでいく。いずれ後を追ってこない俺たちを不審に思い戻ってきてしまうだろう。『脚本家(ブックメイカー)』の警告に従うなら真相は話せない。不審に思われたら終わりだ。


 どうする。

 せめてフライトまでにもう少し時間があれば……。


 ……。

 そうか。


「エマ、すまない。やっぱり調子が悪いみたいだ」


 俺の言葉に、エマが眉を吊り上げた。「お加減はいかがでしょうか!?」と再びボディタッチを敢行してくるかと思っていただけに、この反応はちょっと意外だった。


「少し休みたいから、俺だけフライトをずらせないか白石(しらいし)先生に聞いてみるよ」


 出来るかどうかは分からないが。


 しかし、出来れば時間稼ぎにはなる。魔法世界に入ってしまえばもうノンストップだ。出来る事なら、冷静に考える猶予が欲しい。


「……分かりました。そちらは私がやっておきます。聖夜様は……」


「ああ、分かった。それじゃあ俺は祥吾(しょうご)さんに連絡しておくよ。すまないがよろしく頼む」


 俺の返答に頷いたエマは、小走りで舞たちよりも更に先を歩いているはずの白石先生のもとへと向かっていった。その間に、俺は俺のやるべきことをやってしまおう。


 護衛の任務を引き受けているにも拘わらず、これでは職務放棄と同じだ。しかし、今の俺の頭では短時間で正解を導き出すことなんて出来やしない。少なくとも、遡る前の修学旅行1日目に舞や可憐、そして美月へ生じる危険は存在しなかった。武闘都市ホルンで盲目の男に絡まれたのも俺1人だったし。なら、護衛役の俺がいなくても問題は無いだろう。実際、遡る前の修学旅行中だって俺は面倒事を持ち込むだけで役には立ってなかったのだから。


 なんか自分で言ってて悲しくなってきた。


 携帯電話を取り出す。

 花園(はなぞの)家第一護衛である祥吾さんへの連絡には注意する必要がある。祥吾さんに話す内容は、花園家全てへ伝わるものと同義だ。『脚本家(ブックメイカー)』が名指しで救援要請を出すなと言ってくるくらいだ。それによって何らかの不都合が生じるのだろう。


 ならば、やっぱりこちらも仮病で通すしか無いか。







 雑踏の中で。


 ■は、手にしていた■■を内ポケットへと仕舞い込んだ。何が起こったのかは分からないが、聖夜は魔法世界に入国しないらしい。■■■■からは「■■■■へ■■する前に、■■へ■■を■■」と命じられていた。同時に、「周囲の人間から関係性を疑われないように」とも。


 ベンチで休む聖夜のもとへ、班員の女の子たちが集まってくるのを遠巻きに眺める。しばらくすると担任であろう引率の女性がやってくるのも捉えた。


 この状態で秘密裏に■■を■■ことは困難。


 そう結論付けた■は、■■の■■■■へ「■■■■へ■■する前に連絡をください」と■■■を送り、その場を後にすることにした。別件で待ち合わせをしているのだが、その待ち合わせ時間がもう間もなくだったのだ。


 雑踏の中を歩く。

 鞄に入れておいたニット帽とサングラスを着用しながら。


 待ち合わせ場所に指定されていたところには既に相手方が到着しており、壁にもたれ掛かって新聞を読んでいた。事前に教えられていた通り、グレーのコートに黒のニット帽、足元には有名な某チェーン店のロゴが書かれた紙袋が3つ。特徴は完全に一致していた。


 さり気なく近寄り、同じく壁にもたれ掛かる。

 鞄から新聞を取り出して口元を隠すようにして広げた。


 周囲に目を走らせる。

 こちら側へ意識を向ける者はいない。


「変更はありません」


「こちらもだ」


 ■は壁へと自重を預けていた背中を浮かす。


 互いの陣営に変更点は無し。

 それだけ分かれば『■■■■■■』側から新たに聞きたいことは無い。


「聞きたいことがある」


 さっさとこの場を後にしようとした■だったが、呼び止められてしまった。


 相手側はもともと変装した状態でここまで来たのだろうが、■は聖夜に■■■■■■■■■があったために空港内で一度素顔を晒している。そのままの足でここまで来ているのだから、防犯カメラで追えば少なくとも■の素顔には辿り着いてしまうだろう。聖夜たちの■■■■■■と、相手側が指定してきた時間がほぼ同じだったために仕方のないことだったとはいえ、これ以上リスクが増大するのは避けたい。


 そう思ったからこそ、一刻も早くこの場を後にしたかったのだ。


「先ほど、■■■■■■の■■と■■■の■■■を見かけた。その■■もな。■■の■■とやらで■■■■へ■■すると聞いているが、そちらも認識しているか?」


「そう伺っています」


「では、その飛行機に■■■■■■■■という青年も一緒に乗るのか?」


 その質問の意図することが、■には分からなかった。■■■■にしても、もう少し■■■■■■があるだろうと思ったからだ。


「さあ? その名を聞いたことすらありませんので。仮にその青年が同じ■■の■■であるならば同乗するのでは?」


「……回答いただき感謝する」


 ■は今度こそ、その場を後にした。







『乗らないようだぜ?』


 ■が去ってしばらくして。

 壁にもたれ掛かったままの男に入った電話の相手はそう言った。


「何かトラブルでも生じたのか?」


『さてな。少なくとも■■■■■■■■はまだ俺の視界にいる。件の■■■の便はそろそろ搭乗手続きが終わるぞ』


「……なるほど」


 好都合だ、と男は思った。


 ■■■■■■■■■■率いる『■■■■■■』と■■の■■■■『■■■■■■』の■■は■■。何が起こるか分からない■■の中で、■■においてトップクラスに扱いの難しい■■の人間が魔法世界内にいられると非常に動きづらい。万が一、自分たちの■■が傷つけてしまえば■■間の問題となってしまう。


 入国を諦めてもらうのが一番だが事情は話せない。■■の一環であるなら■■にも話を通す必要がある。飛行機のトラブルでフライトを止めても、別の飛行機で入国されてしまえば同じことだ。立て続けに飛行機側のトラブルを騙れば不審に思われる。


 なら。

 自分たちとは関係の無いところで死んでもらった方がマシだ。


 フランシスコ空港から魔法世界の玄関となるアオバ空港までを繋ぐフライトは、魔法世界側の企業が担っている。厳密に言えば魔法世界エルトクリアはアメリカ合衆国の一部だが、あちら側は自治権を主張して独立を謳おうとしていることだし、責任は全て向こうが被ってくれるだろう。




 ■■からも言われている。

 どの■■に■■■いようが■■■構わない、と。




「よし、墜とせ。助けは必要か?」


『いや、墜とすだけなら1人で十分だ。例外はいねぇんだろう?』


 考える間も無く男は答える。


「無い。痕跡は残すなよ」


『了解』


 通話が切れる。

 手にする携帯電話の画面をしばし見つめた後、男は自嘲気味に笑った。


「……慣れないな。いつまで経っても。■■のようにはいかんか」







 その日。

 日本の朝刊は、どの新聞社も例外は無く、全ての一面記事を同じ事件が彩った。

 細かな文言は違えど、内容はすべて同じだった。


 日本五大名家『五光』のご令嬢、死亡。

 飛行機エンジントラブルか。

 本日中、どこかのタイミングで後1回更新します。

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