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テレポーター  作者: SoLa
第2章 魔法選抜試験編〈上〉
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第11話 『エンブレム』




「ま、待て!! 舞、一旦落ち着け!!」


「つべこべ抜かしてんじゃないわよ、あんたって奴はァァァァァ!!!!」


 月夜に、青白い閃光が瞬いた。


「一回死んでしまええええええええ!!!!」


「がぶべっ!?」


 水中で爆弾でも破裂したのではなかろうか。

 そんな疑問を抱かせるほどの豪快な水柱と共に、聖夜は約束の泉へと沈んで行った。


「はぁ……はぁ……」


 肩で息をしながら、舞は右手に纏った身体強化魔法を解く。そのまま鼻息荒く踵を返して皆の元へと戻って来た。


「……こ、怖ぇ」


「聖夜、大丈夫かな」


「いや、むしろ今のが止めになったんじゃないか」


 その光景を遠巻きに眺めていた将人・とおる・修平が、各々の感想を口にする。その傍に立っていた可憐と咲夜は、ふと我に返ったかのように慌てて駆け出した。


「中条さん!?」


「中条せんぱい!!」


 泉へと駆け出す。

 が、聖夜は豪快に吹き飛ばされた上、泉中央付近で沈んでしまった為に手が出せない。2人は波打ち際で聖夜の名前をひたすら叫び始めた。


「あのくらいで死ぬような奴じゃないわよ」


 殺す気で殴り飛ばした舞は、苛立ちを隠そうともせず乱暴に自らの髪を掻き揚げる。

 怒気はそのままに。

 射殺しそうな目つきで、乱暴に足を投げ出してその場に座り込む男を睨み付けた。


「随分と好き勝手やってくれたみたいじゃない、“2番手(セカンド)”。こんな人気の無い場所に下級生呼び出して喧嘩なんて、思っていたより小さい男だったみたいね」


「あ?」


「ちょっ!? 花園さん!?」


 舞の学園で2番目に強い男を恐れぬ暴言に、とおるが思わず口を挟む。しかし、舞も大和も外野は知らんとばかりにその存在をスルーした。


「……お前は、確か」


「花園舞。聖夜の友達よ」


 あの時、あの教室で。修平が大和に対して言い放った単語を、舞はあえてこの場で口にした。

 それに意表を突かれた大和が、目を丸くする。

 しかし、直ぐに堪らないといった表情で笑い出した。


「くくく、ははははは」


「何がおかしいのかしら。暴れたりないってんなら、今から私が相手してあげましょうか」


「おいおいおいおい」


 将人が間に割り込む。


「花園さん?それは流石にちょっと――」


「退きなさい」


 全身の毛穴が逆立つような戦慄が走る。日本五指に入る名家・花園。その血縁たる舞の持つ威圧感は、大和が放つそれと同格レベルの重圧を醸し出していた。


「私はねぇ……頭にキてるわけよ」


 修平に腕を引かれ、成すがままに引き摺り戻される将人を視野の外に、舞は大和を正面から見下ろしそう告げる。


「大した事情も知らない貴方が聖夜をこんな場所に呼び出して、挙句好き放題やらかして。あいつ、ぼろぼろじゃない。満足した? 自分の思い通りに事が運べたかしら、“2番手(セカンド)”。やり足りないのなら、今度は私とやる? 今の貴方なら、私でも十分吹き飛ばせそうだわ」


 舞の言葉に呼応するかのように、バチリと電気が彼女の身体を駆け巡った。それを大人しく聞いていた大和は、ため息を1つ付いて両腕を上げる仕草をした。それはつまり、降参の意思表示だ。

 舞の眉が吊り上がる。


「どこまでもナメた真似を……。“2ば(セカ)――」


「まず、そこから間違ってんだよ、てめぇは」


「……どういう意味よ」


 大和の言葉に、舞が不機嫌なオーラを隠さずに尋ねる。


「俺はもう“2番手(セカンド)”じゃねぇ。俺はあいつに負けた。今日から……“2番手(セカンド)”の名はあいつのモンだ」


「え?」


「なっ!?」


「は?」


 とおる・将人・修平が驚いた声を上げる。大和からのその言葉を聞いて、舞も数秒間フリーズした。


 今回の勝敗を知らなかったのも無理はない。舞たちがここへ辿り着いた時、聖夜と大和は揃って地面に大の字でぶっ倒れていた。お互いに戦闘の反動でガタが来ていたからだろう。その光景を見て、舞は聖夜がうまく立ち回り、決着は有耶無耶にできたのだと思ったのである。


 だからこそ、舞は特に疑念を抱かず、真っ先に聖夜を吹き飛ばしたのだ。……色々な恨みを込めて。


「……貴方、負けたの?」


「あぁ……。それに、これ以上どうこうするつもりはねーよ」


 視線を舞から外しながら、大和は言う。その視線を追い、舞もそちらへと目をやった。聖夜が泉の中央から可憐たちの方へと泳ぎ始めたところだった。


「聖夜!!」


 それを見た将人が、聖夜の名前を叫びながらそちらへと駆け出す。次いでとおるが、最後に舞と大和の様子を気にしながらも、修平がその後に続いた。

 取り残された2人。大和がその光景を見つめながらそれとなしに口を開く。


「実力を隠す事に意味があるのか? 『水面歩法』くらい、まだ使えるだろうによぉ」


「貴方には関係ないでしょ」


 バッサリと切り捨てた舞のセリフに驚いた大和だったが、直ぐに頬を緩めた。

 舞のその一言で、彼女が聖夜の“本当の理解者”である事に気付いたからだ。


「お前らが、正しかった」


「……はい?」


 流れも何も無い。いきなりの発言に、舞は毒気を抜かれてそう返した。


「お前が言った通りだ。俺は、あいつの事を何も知らなかった。適当な事吹き込まれて、あいつの人格ってのを分かった気でいた。少なくとも“お前らより付き合いが短い”にも拘わらず、な」


「根に持つ男はモテないって噂よ」


「んな意味で言ったわけじゃねーよ」


 本当に面白い奴だな、と大和は続ける。


「あいつを誘った良家の奴ってのは、お前の事か」


 その言葉に、舞は敏感に反応した。


「……貴方、何を聞いたの?」


 幾分か、舞の口調が大人しくなる。その変化も関係無いと言わんばかりに、大和は特に追及する事も無く答えを提示した。


「あいつは、お前らが馬鹿にされてんのが耐えられずに手を出したんだろ」


 聖夜の起こした暴力事件。その真相。聖夜の口からは一切語られる事の無かった事実。

 大和の言葉に、舞は言葉を失う。対して大和はこの事実については既知のものだと思っている為か、舞の反応には目もくれず自らの行動を恥じていた。


「ったく、男じゃねーか。俺は完全に殴る相手を間違えてたぜ」


「……あの、バカ」


「あ?」


「何でも無いわよ」


 素っ気なくそう答え、舞は大和に背を向けて歩き出した。


「おい」


「……なに」


 立ち止まり、振り返る。大和はポケットを漁り、金属が擦れ合う音がする“何か”を取り出した。


「聖夜に渡しておいてもらえるか。俺にはもう、そいつを持つ資格が無くなった」


「っと!?」


 放り投げられたそれを、舞は両手で受け止めた。怪訝な顔で放られたものを見詰める。


 瞬間、息を呑んだ。

 掌で月明かりを反射する“何か”の正体が分かったからだ。

 金色の鎖。それに繋がるのは1枚のコイン。コインには、青藍魔法学園を指し示す校章が描かれている。

 そして、その中央。

 一際目を引くその部分には、こう文字が掘られていた。


 『Second』。


 学園が正式に認めし、上位5名の魔法使い。その2番手を意味する、証。


「……『エンブレム』」


 見たのは、初めて。当然だ。これを所持する資格があるのは、この学園に5人しかいない。いや、『Second』と記されたエンブレムを持てる者は1人しかいないわけだが。


「俺には過ぎた代物だ」


 元からあまり興味はなかったがな、と呟いて大和は立ち上がった。ズボンに付いた草や汚れを払い、泉に背を向ける。


「聖夜の奴に、よろしく伝えといてくれ」


 驚愕し固まったままの舞をそのままに、大和は素っ気なくそう告げた。


「じゃあな」


 舞からの返事は待たずに、大和は闇夜へ消えた。







「『学園に選ばれし5名の魔法使いは、如何なる場合においてもこれを所持し続けなければならない。故に、無断での貸与・譲渡を固く禁ずる』」


 闇から届くその声に、大和は廃れた階段を下りる足を止めた。


「あ?」


「渡したのかい、『エンブレム』を。これは厳罰ものだよ」


 厳罰。

 それを告げるにしては不釣り合いなほどの明るく楽しそうな声色に、大和の機嫌は目に見えて悪くなる。


「黙れ、クズ野郎が。黙って見てたなら、最後まで黙ってろ」


 声の方へは振り返らず、大和は不機嫌そうな声色を隠そうともせずそう答えた。


「あらら、気付いてたのか」


「気付かないはずがねーだろう。大袈裟な結界まで用意しやがって」


 ははは、と声は笑う。


「けど、感謝して欲しいものだ。俺がこの指示を出していなかったら、君と彼は満足に戦えなかったんだよ?」


 正論に対して、大和は舌打ちした。

 確かに、あのバカ騒ぎへ最後まで水を差されなかったのは奇跡に近い。あれだけの魔力や音を撒き散らしていれば、普通なら教員が駆けつけてくる。最悪警察沙汰だ。


「いいのかい?」


「あ?」


 舌打ちして以降、反論して来ない大和に痺れを切らしたのか。再び声が話しかけてきた。


「非属性を明かした割に、君はその性能の半分も引き出さなかったじゃないか」


「てめぇには関係無ぇだろ。喧嘩売ってんのか?」


「ははっ、おっかないおっかない。けど止めておいた方がいいんじゃないかな。今の君の状態で負ける程、俺は弱くないつもりだよ」


 その白々しいセリフに、大和は再び舌打ちした。


「……あいつも本気で来なかった。立場は一緒だ」


「おや、そこにも気付いてたのか」


「馬鹿にしてんじゃねーよ。あの野郎、要所要所で織り交ぜてくる非属性ではどれ1つとして本気で俺を狙って来なかった。全て牽制にしか使用しない、とはな。舐めた真似しやがる」


 吐き捨てるように言う大和に、話しかける声は若干トーンを落としてこう聞いてきた。


「その非属性、どう思う?」


 その問いに、大和の口が閉じられる。


「君は“斬撃(スラッシュ)”と予測したみたいだけど、俺にはどうにも――」


「ふん」


 話の流れをぶった切るように鼻を鳴らして、大和は歩き出した。


「お前の与太話に付き合うつもりはさらさらねぇ。二度と話しかけてくんな、クズ野郎」







「ん?」


 寮室。

 部屋に戻りシャワーを浴びたところでタイミング良く携帯電話が鳴った。


「……誰だよ、こんな時間に」


 時計は既に深夜の2時を指している。結局、2番手……もとい大和さんは何も言わずに立ち去ってしまった。

 まあ、あの人との繋がりなんて今回の勘違いだけなんだからそんなモノだろう。

 ただ、「じゃあ帰りましょうか」にはならなかった。岸に着くなり可憐や咲夜に抱き着かれて泣かれるわ、それを見た将人が暴走するわ、舞が憤怒の形相で飛び掛かってくるわで時間を浪費し過ぎたのだ。


 尚も鳴り続ける携帯電話を開いて見た。

 そこには。


『着信 花園舞』







 重い音を立てながら、扉を開く。吹き込んでくる夜風が気持ち良かった。


 寮の屋上。

 来るのは初めてだったが、綺麗に整備された場所だった。手間のかかりそうな花壇や芝生。ベンチも備えてあり、休憩に訪れる為の環境としては悪くない。

 舞は、既に来ていた。手すりに寄りかかり、遠くに建つ校舎を見つめている。


「……来たわね」


 扉の開け閉めの音で気付いてはいたのだろう。舞は、こちらに振り返る事無くそう口にした。


「何の用だ、こんな時間に。とはいえ、俺のせいでもあるんだがな」


「自覚はあるようで安心したわ」


「言ってろ」


 軽口に軽口で返しながら、舞の方へと歩を進める。舞の隣に立った。

 お互い、無言のまま校舎を見据える。


「……悪かったな」


「え?」


 呼び出した以上何かしらの用件があったのだろうが、一向に切り出す気配が無かったので、まずはこちらから用件を伝える事にした。


「悪かった。色々と巻き込んじまってさ」


 頭を下げる。


「お前たちを巻き込みたくないって言っときながら、結局面倒事に巻き込ませちまった。だから、悪かった」


 舞は、俺の謝罪に応える事なく俯いた。横目でチラリと様子を窺って見るも、その赤い髪が顔を隠しており舞の表情は分からない。


「……馬鹿」


「は?」


「貴方は、大馬鹿よ……」


「……ひでぇ言われようだな」


「事実じゃないっ!!」


「っ!?」


 舞が叫んだ。急な出来事に思わず一歩下がる。

 舞は顔を上げると、潤んだ瞳で俺を睨み付けてきた。


「……ま、舞?」


「聞いたわわよ……、貴方がつまらない事で教員に呼び出された理由!!」


「――っ」


 何を知られたのか、何が言いたいのかは、直ぐに分かった。

 そうだ、俺は――――。




 大和さんに真実を話しておきながら、口止めをする事を忘れていた。




「何、やってんのよ!? 貴方が今、どんな立場にいるかくらい分かってるでしょ!? 何でこんなつまらない理由で――」


「つまらなくなんてないだろ!!」


「っ」


 舞のセリフを掻き消す様に響いた俺の声に、舞が肩を震わせた。


「お前こそ、自分の立場が分かってねぇだろうが!! “出来損ないの魔法使い”ってフレーズが!! どれだけお前たちに害を与えるのか分かってねーんだ!!」


「そんなこ――」


「俺とお前の立場をもう一度よく考え直せ!! お前は、花園家のお嬢さ――」


「考え直すのは貴方の方でしょうがァァァァ!!!!」


「がっあ!?」


 不意に放たれた回し蹴りを喰らい、芝生を転がる。


「ごほっ!! げほっ……て、てめぇっ」


 鈍く痛む脇腹を抑えながら、もう片方の手でベンチに手を掛けて立ち上がる。

 本来ならば、簡単に察知し避けられる攻撃だった。だが、今は大和さんと一戦を交えた後の身体。思いの外蓄積されていたダメージは、俺の身体に鉛のような重さをもたらしていた。


「はぁーはぁー」


 頬を涙で濡らしながら、舞がこちらを睨んでいる。

 イラッとした。


「……俺の、方が……考え、直すだぁ?」


 ふざけんな。


「誰の為だと思ってやがる!! お前らの名前に傷が――」


「その考えを改めろって言ってんでしょうがァァァァ!!!!」


「うおっ!?」


 身体強化魔法を纏った舞の踵落としが、今の今まで俺の体重を支えていたベンチを粉々に蹴り壊した。逃げるのがあと少しでも遅ければ、俺の身体も粉々になっていただろう。


「何しやがる!?」


「避けてんじゃ無いわよ!!」


「避けなきゃ死ぬだろ!!」


「分からず屋の貴方なんか、一遍死んでしまえばいいのよ!!」


「危なっ!?」


 問答無用で振り抜いてくる拳をいなし、避ける。バックステップで距離を取った。

 舞は追って来ない。


「貴方は、いつもそう……。私の為可憐の為って言っておきながら、結局自分の親切を押し付けてるだけじゃない!!」


「なっ!? 何だよそれ!! 俺はお前らの家系の事を思って――」




「それは、貴方が一番口にしちゃいけない事でしょうがっ!!!!」




 一際大きく張り上げた舞の叫びが、寮の屋上に響き渡った。


「……貴方、もう忘れたの。可憐や咲夜ちゃんが、貴方に何を期待してたのか」


「……あん?」


 期待? 何の話だ。あいつらにそんなものをされた覚えは……。


「あのコたちはね、貴方に友達になって欲しかったのよ」


「それとこれとは話が別じゃねーか!!」


「別じゃないっ!! あの時!! あの日あの場所で!! 可憐や咲夜が何て言ったのか!! 貴方は何を言ったのか!! もう一度思い返してみなさいよ!!」


「ふざけ――」


『……私たち姉妹にこうやって話しかけてくれる方なんて、いませんでしたから』


 っ。

 不意に、初めて会った日に咲夜から言われた事を思い出した。


『貴方とは、対等なお付き合いがしたいから』


 誘拐騒動にて、敵の本拠地に乗り込む前。頬を揺らしながら話された、可憐の本音。

 そして、俺の言葉。


『赦されるのなら、友達になりたいとも思ってる』


 記憶の奔流。舞の言葉をきっかけに、あいつらの言葉が頭の中を駆け巡る。

 友達、という言葉。


『も、もしかしたらって……思って……し、しまったんです』


 俺は、“出来損ないの魔法使い”で。


『貴方と出会って、も、もしかしたら……私も友達が作れるのかなって』


 根絶を謳っておきながら、日本は差別問題の根強い国で。


『も、もしかしたら。 私も他の方々と同じように、特別なんかじゃない。 普通の……ただの姫百合可憐として……見てくれるのかなって』


 俺と組むって事は、あいつらが欠陥品と付き合ってると思われてしまうことで。


『ここで貴方に甘えてしまえば! 結局私は、何も変わらない!』


 あいつらの将来を考えるのなら、それは間違いなく汚点になる事で。


『せっかく、私の事を見てくれる人が現れてくれたのにっ! その人からも特別扱いを受けてしまえば! 結局、私は姫百合一族の令嬢でしか無くなってしまう!』


 だから、ここは俺が身を引くことが最善の――――。


『お願いします。私はどうしても、ここで引きたくない』


 俺は、出来損ないだから。


『中条せんぱい。1つだけ、良い事教えてあげます』


 記憶の中の咲夜が、笑う。


『出来損ないじゃ、お姫様は救えないんですよ』


「っ!?」


 自分の頬に違和感を覚えて、現実に引き戻された。


 舞から叩かれたわけじゃない。舞は、依然として先ほどの立ち位置のまま一歩も動いていない。

 ただ、舞が“ぼやけて見えた”。口の中が、異様にしょっぱい。不自然に感じて、手で拭う。濡れていた。


「後は、貴方次第」


 舞がゆっくりと歩き出した。

 何か、金属が擦れる音が聞こえる。

 舞は俺の元へ来ると“何か”を俺の胸に押し付けた。


 固い感触が伝わる。

 無意識の内に手が伸び、それを掴む。舞は俺が受け取った事を確認すると、そのまま踵を返して寮への入り口の方へと足を向けた。


「今日は、お疲れ様」


 俺の掌から零れ落ちた鎖が、ブラブラと揺れる。


「私の、可憐の、咲夜ちゃんの。“友達としての”聖夜の答え、期待してるわ」


 背を向けたままで。

 俺にそれだけ告げると、舞は俺の返答を待つことなく屋上から姿を消した。

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