第???話
3月4日分、最初の更新は第13話です。
読み飛ばしにご注意ください。
☆
「大丈夫ですか? 聖夜様」
「ん?」
急に喧騒が聞こえてきたような感覚だった。
気付けば、俺は人混みの中に立っていた。
片手にはキャリーケース。
流暢な英語でフライトの案内をするアナウンスが聞こえてくる。
ここは。
「聖夜君?」
エマとは逆隣に立っていた美月が俺の名を呼んだ。
「あ、ああ。すまん、ちょっとぼーっとしてたみたいだ」
思わず頭を振る。
ぼんやりとした思考を無理矢理起こすように。
長い長い悪夢を見ていたような、そんな気持ちだった。
キャリーケースを握る手とは反対の手のひらを広げてみる。傷跡が無い。爪が喰い込むほどに拳を握りしめた際に出来ていたはずのものが。服装も青藍魔法学園生徒会御用達の学ランで、ローブは羽織っていない。本当にこれまでは夢を見ていたのではないかと思うほどだった。
「聖夜ー、迷子にならないでよー」
少し前を歩いていた舞がそんなことを言う。
舞の隣にいる可憐は口元を手で隠して笑っていた。
――――その様子を見てふと我に返った。
俺は慌てて携帯電話を取り出す。
そして。
画面に表示された日時を見て。
思わず目が潤んでしまった。
この日は、修学旅行初日。
戻ってきた。
本当に戻って来たんだ。
「ど、どうしたの、聖夜君。急に!」
「聖夜様!? どこかお加減が」
「あ、ああ! いやいや、大丈夫。ちょっと目に埃が入っただけだから」
両サイドで慌て出す2人を宥めながら、目元を拭う。
まだ死んでない。
師匠もヴェラも。
まだ、死んでないんだ。
「ほ、本当に大丈夫なのですか!? もしお加減が悪いようでしたら」
「本当に平気だから! どさくさに紛れてボディタッチしようとするんじゃねぇ!!」
手をわきわきさせながら迫ってくるエマを強引に止める。
頭の中でこれまで得た情報を整理しながら。
視線を制服の下に装着したMCへと向ける。それが分かったのかどうかは分からないが、ウリウムが反応してくれた。
《大丈夫。憶えているわ》
良かった。
心強い。
神法とやらは本当に発現した。『脚本家』の存在は本物だった。それなら、俺は俺のすべきことをしなければならない。
与えられた指令はただ1つ。
『修学旅行最終日まで、リナリー・エヴァンスを生かすこと』
それに伴い、与えられた警告は全部で7つ。
『1つ、初日にリナリー・エヴァンスへ接触するな』
『1つ、花園剛と姫百合美麗へ救援要請を出すな』
『1つ、保護したアリス・ヘカティアを王城へ連れていく際、ついていくな』
『1つ、交易都市クルリアの奥地に廃れた民家がある。そこには近づくな』
『1つ、如何なる理由があったとしても、エルトクリア現女王アイリス・ペコーリア・ラ=ルイナ・エルトクリアは王城から連れ出すな』
『1つ、如何なる理由があろうとも、エルトクリア大図書館へ近付くな』
『1つ、この修学旅行期間中は、どのような事態になろうとも次に挙げる人物とは接触するな。その人物とは、天地神明、天上天下、唯我独尊、傍若無人、盛者必衰、そして沙羅双樹を指す』
まだ何も終わったわけではない。
むしろ、頑張らなければいけないのはこれからだ。
それでも。
「本当に大丈夫なのですか、聖夜様」
「無理しないでちゃんと言ってよ?」
エマと美月へ、もう何度目か分からない「大丈夫だ」という台詞を告げる。だから大丈夫だと言っているだろう。なんでエマはそんなしかめっ面をしているんだ。
「何? 貴方、具合悪いの? 飛行機酔い?」
「まあ、お薬差し上げましょうか?」
何があったのかと戻って来てしまった舞や可憐にも「平気だよ」と返しながら、思う。
変えてやる。
変えてやるぞ。
師匠。
ヴェラ。
絶対に、死なせやしないからな。
第9章『修学旅行編』・完
完、とか言いつつ折角終わりかけていた修学旅行がもう一度始まるよ(震え声)
第10章『裏・修学旅行編(仮)』は、4月~5月上旬くらいから更新を始めようと思います。
ラストスパートにお付き合いくださりありがとうございました。章完結までは一気に読んで欲しいという思いと、一部タイトルが完全にネタバレになってしまっておりそれでは面白く無いという葛藤から、今回の投稿スタイルを取らせて頂きましたが、いかがでしたでしょうか。リナリーやヴェラが好きでもやもやしちゃって純粋に楽しめなかった、という方はごめんよ。
後書き的な何かは活動報告にて。
リアルタイムでお付き合いくださった皆さま、お疲れ様でした。
少しでも楽しんで頂けたのなら嬉しいです。