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テレポーター  作者: SoLa
第9章 修学旅行編〈下〉
323/432

第15話 “舐めない方が良い”

 3月4日分、最初の更新は第13話です。

 読み飛ばしにご注意ください。


 現在、3時間毎に1話ずつ更新しています。リアルタイムで感想を書いてくださっている方々、ありがとうございます。良い反応をしてくださっている方のものはニヤニヤと読ませてもらっていますし、ご意見をくださっている方のものは今後の参考にさせて頂きます。


 この展開はちょっと辛いぜって方もいるとは思いますが、とりあえずは今回の章が完結するまでは読んで欲しいなー、なんて思ってます。




 中央都市リスティルの街並みを疾走する。


 属性奥義が街中で放たれたことによって、リスティルは大騒ぎとなっていた。危険区域ガルダーを持ち、死が比較的身近にある魔法世界とはいえ、これは流石にイレギュラーな事態のようだ。


 目的地は変わって創造都市メルティ。

 こちらへ向かっているというハートとエースと合流する前に、『ユグドラシル』と遭遇はしたくない。というわけで、建物の屋上から屋上へ飛び移りながらの移動から、通りを走っての移動に切り替えた。その分、移動力は下がるが仕方が無い。


 慌ただしい周囲へ視線を巡らせながらも、通りを走る。


 祥吾さんにはすぐに出国するようお願いしたが、どうなっただろうか。『五光』関連と言わなくても、青藍魔法学園の修学旅行は中止になったに違いない。問題なのは、ホテル・エルトクリアへ留まることを選ぶか、早急に魔法世界エルトクリアから出国することを選ぶかだ。


 どちらもリスクはある。

 出国するという選択をしても、アオバが閉鎖されている可能性もある。


 まさか『ユグドラシル』がここまで直接的な手段を取ってくるとは思わなかった。俺は『ユグドラシル』について、そこまで詳しいわけではない。しかし、それでも違和感を覚えてしまうほどの方針転換に思えてしまう。


 もはや、裏社会に潜んでいる必要が無くなったということか?

 だとしたら、なぜ。


 ……。


「……やっぱり、師匠なのか」


 現状、俺が知り得ている情報の中だけで判断するなら、そういうことになる。もしそれが真実だとするならリナリー・エヴァンスという抑止力が消えた以上、もう『ユグドラシル』は止まらない。『トランプ』がいる魔法世界内でここまで大きな騒ぎを起こしているのだ。挙句、『トランプ』へ宣戦布告まで送りつけている以上、『トランプ』が抑止力として機能していないのは明白だ。


 クィーン、エース、スペード、ハート、クローバー。

 俺は『トランプ』全員と顔を合わせたわけではないし、個々人の実力の底を知っているわけではない。それでも、魔法世界最高戦力と謳われるに相応しいだけの実力を有しているであろうことは分かる。


 その『トランプ』が抑止力として機能していない。『ユグドラシル』が有する戦力はいかほどのものだというのか。


《……マスター》


「……ああ、分かってる」


 足を止める。


 ここまで魔法の力を借りていたとはいえ、走りっぱなしだった。流石に息が切れている。頬を垂れる汗を拭いながら、前方の民家の屋根からこちらを見下ろしてくる男へ視線を向けた。


 漆黒のローブを身に纏い、深くまでローブを被った男の人相は分からない。手には、禍々しいまでの魔力を発している錫杖。軽く揺らされたそれは澄んだ音を鳴らした。


「久方振りだな。中条聖夜」


「……あ?」


 面識はない、はずだ。


 というより、こっちはお前がローブを被っているせいで顔が見えてないんだよ。分かって欲しければまず顔見せろ。


《マスター……、あいつ、まずいわよ》


「……なに?」


 男はすぐに距離を詰めてくるようなことはせず、屋根から飛び降りて俺がいる通りへと降り立った。距離はある。が、強化魔法を発現すれば一歩で潰せる距離ではある。


 男は、手にする錫杖をゆっくり地面と水平に向けた。


 そして。


《マスター!! 伏せてっっ!!》


 金切り声に似た咆哮。

 こんなウリウムの声を聞いたのは、もしかしたら初めてだったかもしれない。


 だからこそ、全力で伏せた。

 意味も分からず、言われた通りに。


 ギバッ、という、訳の分からない音が聞こえた。

 頭上からだけではなく、右からも左からも。


 そして、何かが擦れる大きな音。


「……、……は?」


 左右に建つ民家へ斜めに亀裂が入り、上半分がずれ落ちた。

 まるで、何かに切断されたかのような跡だった。


 更に。

 最悪だったのは――――。


「うそ、だろ……」


 響き渡る、悲鳴、そして怒声。


 男の攻撃範囲にいた一般人が、次々と倒れていく。上半分の無くした下半身が、ぐらりと傾いた。臓物を撒き散らし、人が死んでいく。咄嗟に障壁魔法を発現していた人もいたが、障壁ごと真っ二つに割かれていた。


 助かったのは、俺のように伏せた者。

 咄嗟に跳躍した者。

 そして、攻撃範囲外にいた者。


 ただでさえ属性奥義によってざわついていた通りは、この一撃によって阿鼻叫喚の地獄となった。


「……どうした、中条聖夜。余所見とは随分と余裕だな」


《マスターっっ!!》


 ウリウムが無詠唱で発現した複数の『激流の壁(バブリア)』は、紙切れのように斬り裂かれた。咄嗟に仰け反る。澄んだ音を鳴らしながら振るわれた錫杖が、俺の目と鼻の先を通り過ぎた。


 無詠唱で発現した全身強化魔法『業火の型(レッド・アルマ)』の力を得た右脚を振り上げる。追撃を加えようとしていた腕を弾き、バック転で地に付けた両手に力を込めて空中へと跳ね上がった。


「『毘沙門(ビシャモン)(テン)”・(カイ)』」


 男が錫杖を振るう。

 その先端についていた複数の輪っかが本体から外れて飛んだ。


 それで狙ってくるのかと思ったが、全てが見当違いの方向へ飛んで行く。それらは視界の端で音を立てて自壊した。太陽の光を浴びてキラキラと輝く光の礫のようになる。だが、見た目の美しさに反して発せられる魔力の禍々しさは変わらずだ。


「『不可視の装甲(クリア・アルマ)』!!」


 火属性の全身強化魔法『業火の型(レッド・アルマ)』を解き瞬時に魔力を展開する。ほぼ同じタイミングで光の礫が俺へと殺到した。


「ぐっ!?」


 何だこれ!?

 一発一発の威力が尋常じゃないぞ!?

 大きさは米粒にも及ばないほどに小さいのに!!


《マスター、これ、やばいわよ!!》


「分かってる!!」


 出し惜しみなんて出来る相手じゃない。『神の書き換え作業術(リライト)』で空中から通りへと転移する。俺という対象を見失った礫は、四方八方へと飛散した。


「お、おいっ」


 着弾した家々が馬鹿みたいに倒壊していく。しかし、その魔法の発現者である男は何ら動じた様子は無い。……駄目だ、こいつ。早く何とかしないと。


「行くぞ!!」


 腕を叩き、『疾風の型(グリーン・アルマ)』を発現する。


 それが合図となる。

 契約詠唱を終えたウリウムが、その名を口にする。


《『激流の型(ブルー・アルマ)』》


 俺の身体を拠り所にして、荒れ狂う風の奔流に激流の如き水が流れ込む。RankA全身強化魔法の2つが共存する。


「……ほう。属性共調か」


《風と水の共調を確認。『属性共調・疾風激流の型』の発現に成功》


 ウリウムの言葉を聞き終える前に地面を蹴った。地面が派手に隆起する。通りに漫然と立っていた男が、錫杖を振りかぶった。


 何をして来ようが、もう――――。


「『羅生門(ライショウモン)(タイラ)”』」


「――――っ!?」


 咄嗟に軌道を変えた。


 そのせいで、半壊した民家へと思いっ切り突っ込む。痛みは無い。むしろ属性共調を纏っているせいで周囲への被害の方が大きい。結局、民家を二軒ほど貫通し、三軒目でようやく転がる勢いが殺せた。そのまま三軒目も貫通して、別の通りへと転がり出る。


 顔を上げると、たった今貫通してきた民家の上半分がずれ落ちるところだった。


「……何なんだよ、これ!!」


 斬撃なのか!?

 どういう原理でぶった切ってるんだよ。属性共調を纏っているにも拘わらず、全力で回避することになるなんて思わなかったぞ。


《マスター、駄目よ! あの男と戦っては駄目!! 射線が切れた今がチャンスよ! このまま逃げて――》


「『羅生門(ラショウモン)(マガリ)”』」


 どこからか、聞こえるその声。


 それは、実際はほんの一瞬の出来事だったに違いない。それでも、限りなく引き延ばされた体感時間の中で、震えを抑えきれなくなるほどの悪寒が奔り抜けた。


 そして、直感する。


 この攻撃は、防げない。

 この攻撃は、避けられない。


 だから、転移するしかない。


 でも。

 それよりも早く。




 自分の身体が真っ二つにされる光景を幻視した。




 その、直後。


「『蒼天(ソウテン)より(ヒビ)光千華(コウセンカ)』!!」


 ――――っ!?


 その声は、聞いたことのある声だった。


 遥か上空。 

 頭上に広がる青空から、眩い光の雨が降り注ぐ。


 周囲の家屋が更に倒壊していく。そのおかげで硬直から解かれた思考が勝手に動いた。『神の書き換え作業術(リライト)』によってその場から離脱する。


 直後、今の今までいた場所が横一直線に抉れた。

 やはり軌道がズレている。今の攻撃のおかげだろう。


 俺が纏っていた属性共調が解ける。どうやら制限時間が来たらしい。溜まっていた疲労感が一気に押し寄せて来たせいで、思わず片膝を付きそうになった。肩で息をしながらも、通りに姿を見せた女性へ目を向ける。


「蔵屋敷先輩……」


「無事のようでなによりですわ」


 紙一重で助かったのは間違いない。

 だが、なぜここに。


 その手に握られているのはいつもの木刀ではない。

 人を殺傷することを目的とした日本刀だった。


 一歩で俺との合流を果たした蔵屋敷先輩は、とある民家の屋根へと目を向ける。そこに先ほどの男がいた。漆黒のローブに身を包んだ男は、手にした錫杖を2回、3回と回す。澄んだ音がしたと思えば、錫杖の先端には自壊したはずの輪っかがぶつかり合って音を鳴らしていた。


 男は言った。


「蔵屋敷鈴音か。まさか再びこの俺の前に姿を見せるとは……、な。剣の腕に自信を覚えたか? それとも、単なる自殺志願者か。いや……、そうか。お前の意思か」


 男の視線が別のところへ向く。

 そこにいたのは。


「……縁先輩」


「やあ、中条君。とんでもない事態になってしまったようだね」


 いつも通りの、あの不敵な笑みを浮かべる学園の先輩だった。

 その姿を見て、思わず気が抜けてしまいそうになる。


 自覚はしていた。

 完全に委縮してしまっていたことを。


 師匠が死んだと知らされ、ヴェラも死に、蟒蛇雀の狂気に触れ、そして属性奥義によって数多くの人が死んだ。加えて、目の前で行われた強大な一撃による一般人の惨殺。


 平常心とは程遠い心情。

 こんな状態で、ベストパフォーマンスなんて見込めるはずがない。


 今も決して良好であるとは言えないが、それに気付けただけでも、この2人がここへ来てくれて良かったと思えた。しかし、それはあくまで俺個人にとってのメリットだ。


 縁先輩が魔法世界に来たのは、紫会長を陰ながら警護するためだったはずだ。こんな異常事態となっている魔法世界で紫会長から離れてしまうのは得策ではない。


「縁先輩、なぜここに……」


「うん、ちょっとした知り合いから頼み事をされてね」


 こちらへ近付いてきた縁先輩は、錫杖を握る男への警戒を緩めることなく俺の耳元へ口を寄せた。


「『脚本家(ブックメイカー)』に会いに行くんだろう?」


 っ!?


 思わず縁先輩から距離を取ってしまう。


 なぜ、そのことを。

 と、思ったものの、すぐに答えは出た。


 つまり、縁先輩に連絡したのは『トランプ』ということだ。……いや、違うのか? 状況を知った『トランプ』から依頼を受けたところで、すぐに俺と合流できるとは思えない。となると、誰だ。いや、そんなこと、今はどうでもいいんだ。


 紫会長はどうしたのか、と聞こうとしたが、その前に男が口を挟んだ。


「御堂縁。貴様も来たか」


「やあ、天上天下(テンジョウテンゲ)。まさか君が出てくるとは意外だったよ。実験棟以来かな?」


 ……天上、天下、だと?

 美月の言っていた、天地神明の傍に控える3人の側近の中の1人。『ユグドラシル』が保有する最高戦力の一角じゃねーか!! 俺が実験棟で戦った奴ってことだよな!!


「意外とはこちらの台詞だな。実験体の傍にいてやらなくていいのか?」


「残念ながら、それよりも優先順位が高いんだ」


 縁先輩は、俺の肩に手を置きながら言う。

 そして、俺にしか聞こえないよう小声でこう言った。


「俺たちが囮になる。君は何が何でもエルトクリア大図書館へ行け」


 ……、囮って。


今井(いまい)(おさむ)から話は聞いているよ。君がエルトクリア大図書館へ辿り着けば、全てが解決する。逆に、君が辿り着けなければ『ユグドラシル』の完全勝利。全てがおしまいだ」


「……なるほど。やはりそうなったか」


 縁先輩の声が聞こえたわけでは無いだろう。しかし、全てを悟ったかのように錫杖を持つ男、天上天下は言う。


沙羅双樹(サラソウジュ)は言った。諸行無常を泳がせておけば、中条聖夜は乗ってくるだろうと。唯我独尊(ユイガドクソン)は言った。中条聖夜はギルドを頼るから、ギルドごと滅してしまえばいいと。どれも外れだ。やはり……、一番危険視すべきは貴様だったのだ!」


 錫杖を振るい、天上天下は吠えた。

 そして。


「――――『毘沙門(ビシャモン)()”』」


「無駄だよ。『神の契約解除術(キャンセル)』」


 縁先輩の無系統魔法によって天上天下の錫杖が砕け散った。


「行け、中条君!!」


 その声に従い、全身強化魔法を発現して全力で駆け出す。


「させるか!!」


 天上天下の咆哮に合わせて発現する。

神の書き換え作業術(リライト)』を。


 追撃を受けるよりも早く、俺はその場から姿を消した。







「……逃がしたか」


 天上天下は吐き捨てるようにしてそう言った。


 普通に走って逃げるだけなら追いかければいいわけだが、相手は転移魔法の使い手だ。連用されたら追走するのは非常に困難となる。どちらにせよ、相手の行き先は分かっている。手は打っているのだからわざわざ天上天下自身が向かう必要も無い。


 それならば、天上天下のやるべきことは、ここでこの不確定要素を足止めすることだった。


「追わなくていいのかい?」


 縁からの問いかけに、天上天下は鼻で嗤った。


「それはこちらの台詞だ。奴の目的地がエルトクリア大図書館であることはもう分かっている。奴1人ではエルトクリア魔法学習院に近付くことすら出来まい」


 天上天下が左手を軽く振るう。

 そこには、先ほど破壊されたはずの錫杖が握られていた。


「楽観的だなぁ、君たちは。リナリー・エヴァンスを仕留めたことで気が緩んだのかい?」


 相対する縁は余裕そうな笑みを消す事無くそう言う。指を鳴らせば天上天下の持つ錫杖が再び砕け散った。空になった手のひらを忌々しそうに一瞥した天上天下が舌打ちする。


「戯言を……。覚醒前の奴に傍若無人(ボウジャクブジン)は倒せん。輪廻転生(リンネテンショウ)のとっておきもある」


「そんなことを言っているから駄目なのさ」


 鈴音が前衛としての役目を果たすために前へと動くのに合わせ、僅かに後退しながらも縁は言った。


「彼の持つ魔法を、舐めない方が良い」


 天上天下が眉を吊り上げる。


「奴の前へ……、自らの師が立ちはだかっても同じことが言えるのか?」


 縁は答える。


「ただの操り人形だろう? 死者を冒涜する君たちのおままごとにはもう飽きた」


 直後に、激突。

 次回更新は、12時です。

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