表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テレポーター  作者: SoLa
第9章 修学旅行編〈下〉
320/433

第13話a 着信

 この章が完結するまで、基本的に感想やコメントへの返信は控えようと思います。

 でも、ちゃんと読ませてもらっています。反応してくだっている方々ありがとう。




 まりもにも連絡してみたものの、栞と同様に繋がらなかった。


 それが余計に不安を掻き立てる。


 これまでは、繋がらないならクリアカードの通話範囲外、つまりは魔法世界にいないという判断が出来た。しかし現状では、魔法世界にいないから繋がらないのか、それとも相手側のクリアカードが損傷して繋がらないのかが分からない。


 少なくともコール音は鳴っていない。

 圏外であるという案内だけだ。


「せーや」


 不安そうにこちらを見上げるルーナの頭を乱暴に撫で、次に誰へ連絡するべきかを考える。


 そもそも、今回のゴール地点はどこだ。

 流石に、このまま『ユグドラシル』へ報復を行おうとするほどの短絡的な思考回路はしていない。どのような手段を用いたかは分からないが、少なくとも師匠を無力化できるほどの相手だ。俺では手も足も出ないだろう。まりもと栞の安否は気がかりだが、現状では確かめる術もない。


 ルーナはこう言ってはいるが、師匠やヴェラだって生きている可能性がゼロになったわけではない。ヴェラから聞いたことをルーナは教えてくれただけだし、ヴェラが死んだところをルーナが直接見たわけではない。楽観的に考えるわけにはいかないが、あらゆる可能性は考慮しておく必要があるだろう。


 そう考えて師匠のクリアカードへ連絡してみようとしたが思い留まった。『ユグドラシル』と接触した可能性が高い師匠とヴェラへ連絡を入れるのは危険すぎる。それなら状況が分からない栞やまりもへ連絡することも控えるべきだった。くそ、結局一番動揺しているのは俺かもしれない。


 今は安否を確認できる状況ではない……、か。


 そもそも、俺は雇われの身だ。

 最優先で考えるべきは。


 T・メイカー名義のクリアカードをテーブルに置き、ポケットから中条聖夜名義のクリアカードを取り出した。そのクリアカードで鷹津(たかつ)祥吾(しょうご)のナンバーを探す。


 まずは、花園家第一護衛である祥吾さんと、姫百合家戦闘メイド筆頭の大橋(おおはし)理緒(りお)に知らせる。舞や可憐の安全を確保し、一刻も早く魔法世界から逃がすことが最優先だ。現状では『ユグドラシル』の標的は『黄金色の旋律』だが、『五光』に向く可能性もゼロではない。舞や可憐の人質としての価値はそれだけ高いということだ。


 祥吾さんの番号をタッチしようとして、それよりもはやくもう1枚のクリアカードが着信を告げた。言うまでも無い。先ほどテーブルの上に置いたT・メイカー名義のクリアカードだ。


 思わず、ルーナと目を見合わせる。

 T・メイカー名義のクリアカードに連絡できる人間は限られている。


 中条聖夜名義のクリアカードは祥吾さんの番号を表示させた状態でそのままとし、T・メイカー名義のクリアカードを拾い上げる。軽快な電子音と、着信中の文字。クリアカードに表示された相手方の名前を見て絶句した。


 表示されていたのは、『ヴェロニカ・アルヴェーン』の文字。


 馬鹿な。

 ルーナの話では……。


 無事、だったのか?


「……せーや?」


 ベッドに座ったままのルーナからは、俺のクリアカードの券面は見えない。だから、クリアカードを持ったまま硬直してしまった俺の真意が分からないのだろう。


 抱いてしまう。

 淡い期待を。


 いや。

 やめておけ。

 こういう時は、最悪を想定しておかないと立ち直れなくなる。


 震える自分に心の中で喝を入れた。念のため、ホログラムシステムがオフになっていることを確認してから、通話ボタンをタッチする。


 直後。


『はぁあぁあぁい? きっこえてるかなぁ~、「白影(ホワイトアウト)」ちゃぁあぁあぁん?』


 その声は言った。


『あれぇ~? 反応が無いなぁ。聞こえてないってことはないでしょお? あんまりお姉さんを怒らせてもいいコトないぞっ。あははははははははは!!!!』


 この……。

 この頭のネジが外れたような喋り方は――。


蟒蛇(うわばみ)……、(すずめ)!?」


『はい、せいかぁーい! よく声だけで分かったねぇ。あはは、だからどうしたって話なんだけど! 何にも出来なかった「白影(ホワイトアウト)」ちゃん! はははははっ、ははははははは!!』


 蟒蛇雀。

 忘れもしない。対峙しただけで死の恐怖を植え付けられた、あの文化祭の夜の事。師匠の攻撃を掻い潜り、逃走を成功させる程の実力の持ち主。


 なんでそんな奴の声がヴェラのクリアカードから聞こえる!?


「おい、てめぇ!! ヴェラはどうした!? 師匠は!?」


『師匠ぉぉぉぉ? あぁ、あの世界最高戦力の事かぁ。あははっ、傑作だったよ? 死に追いやられた最後の最後にさ! なんて言ったと思う?』


 なんだよ、最後の最後って。


 やめろ。

 やめてくれ。


『他のメンバーには、聖夜には、手を出すなってさ!! あははははは、はははははははあああああぁぁぁぁぁ!! さいっこう!! 出すに決まってんだろ守れなかった分際で何を吠えてんだっつーの!! くはははははははははっ!!!!!』


「てめぇ!!」


 握りしめたクリアカードが軋んだ音を鳴らす。


 うるさい。

 自分の鼓動がこれほどまでに耳障りだと思ったことは無い。


『ねえねえ、今どんな気持ちなの? だーい好きな師匠に庇われて、なんにも出来ずに殺されちゃった今の貴方、どんな気持ち? ねえねえ、お姉さんに教えてよぉ。ぷふっ、ははははははっ!!!!』


「蟒蛇雀ぇぇぇぇ!!!!」


『あはははははははははははははっ!! いいねぇいいねぇ!! そうそうそうそう!! そういう声!! 欲しかったのはそういう声なんだよねぇ!!!! ははははは!!』


 俺の中で、何かが切れた音がした。


「……殺す」


 呟きに等しい音量で口から出たその言葉を、蟒蛇雀が拾う。


『ん~? なんだって?』


「……せー、や」


 クリアカードが拾わない小さな声で俺の名を呼ぶルーナを振り払い、叫ぶ。


「殺してやる!! 場所を言え!! 今どこにいる!!」


『あははははははは!! 殺す!? 誰が誰を!! お前みたいな糞餓鬼にアタシが()れるわけねーだろ!! あはははははは!!』


「てめぇ!!」


『じゃあさ、ゲームしよーよ』


 俺が次の言葉を吐く前に、笑い声をピタリと止めた蟒蛇雀が言った。


『アタシがいるのはねぇ、交易都市クルリアのどこか。30分以内に辿り着けたら、このクリアカードの持ち主の死体を返してあげる。もちろん、そこでアタシに勝てなかったら死体が2つ転がることになるんだけど』


 持ち主……、ヴェラの死体!?

 交易都市クルリア!?


 しかも、30分以内って……。


 魔法使って向かってもギリギリだぞ!!

 そこからさらに場所まで特定しろっていうのか!?


『それで、もし辿り着けなかったらぁ~』


 んふふ、と嗤って蟒蛇雀は続ける。


『この子の死体は有効活用させてもらっちゃいまーす。具体的にはぁ、きゃはっ! アタシの口からは言えなーい』


 ――――っ!!!!


 もはや言葉にならなかった。

 この女の頭はどこまで狂っているというのか。


『それじゃ、よーいスタート。ちなみにお邪魔キャラがいるから注意してね?』


「待っ――」


 通話が切れた。

 クリアカードの画面が通話中から切断に変わる。


「ふざけんなっ!!!!」


 駈け出そうとして、腕を掴まれた。


「だめ!! いっちゃだめ!!」


 躊躇わず、その首に手刀を落とす。力の抜けたルーナを抱き上げてベッドへ寝かせた。


「悪い。問答をしている暇はねぇんだ」


 靴を履き、ローブを纏う。


 1回目の『神の書き換え作業術(リライト)』でベランダへ。2回目でホテル・エルトクリアの屋上へ転移した。


「まずは中央都市リスティルだな」


 交易都市クルリアと隣接しているのはリスティルだ。まずはリスティルへ向かう必要がある。身体強化魔法を発現し、機動力を上げてから駈け出した。


 ポケットにねじ込んでいた中条聖夜名義のクリアカードを取り出す。その画面に表示されている番号をタッチした。


『……何があったんだい?』


 朝の定期連絡は済んでいる。このタイミングで連絡してくるということは、何かが起こった。そう判断したであろう祥吾さんの第一声がこうだった。流石だ。


「お願いがあります。俺の部屋で女の子が1人ベッドで気を失っています。『黄金色の旋律』の関係者です。その子を回収しつつ、舞、可憐、美月、エマを連れて今すぐ魔法世界から出国してください」


 ……。

 どう答えるべきか咄嗟に判断出来なかったのか、祥吾さんからの反応が無かった。


 だから、俺の方が続ける。


「リナリー・エヴァンスが殺されました。相手は『ユグドラシル』です」


『……、なん、だって?』


「時間との勝負です。お願いします」


『……君は、君はどうするつもりなんだい。分かっているはずだよ。今回の護衛対象には君も含まれている。逃げるのなら君も』


「相手の狙いは俺です」


 蟒蛇雀の対応を見るに、現状標的となっているのは俺だ。


「舞と俺。優先順位はどちらが上か。貴方に聞くまでもありませんね?」


『それはっ』


 日本にいる(ごう)さんと連絡を取るには、魔法世界から出なければならない。祥吾さんが独断で対応できない以上、この質問に対する答えは決まり切っている。


「時間を稼ぎます。だからお願いします。美月とエマを、そして俺の部屋にいる女の子を、一緒に出国させてください」


 本来なら、これも頼めるような立場ではないのだ。

 最悪、祥吾さんは舞を、理緒さんは可憐さえ守れたら仕事はクリア。余計な荷物は背負いたくないに違いない。加えて、美月は『ユグドラシル』の抹殺対象、ルーナは『黄金色の旋律』の関係者だ。特大の爆弾である。


「祥吾さん」


『……いいだろう。君の要求を受け入れる』


 良かった。

 こちらは報酬を提示できない。


 口座に多額のお金が入っているT・メイカー名義のカードを置いていきたかったが、これは連絡用だ。中条聖夜名義のカードでは登録できない面々の連絡先が大量にある。無償で爆弾を抱え込んでくれる祥吾さんには感謝しかない。


「祥吾さん、ありがとうございます。貴方に託せて、本当に良かった」


 この人なら信じられる。

 幼い頃から良くしてくれた、この人なら。


 信じて、行ける。


『聖夜く――』


 通話を切る。

 もはや、会話は不要だ。


 時間は無い。


 祥吾さんと会話したことで多少、頭が冷えた。

 蟒蛇雀ただ一点に向いて固まり切っていた思考が、徐々に解れていく。


 当然、蟒蛇雀は殺したい。

 ヴェラだって助けたい。


 例えもう死んでしまっていても尊厳はある。具体的な話は無かったが、ろくでもないことだけは確定だ。そんな境遇にはさせたくない。しかし、俺が今本当にするべきことは何なのか。俺の無理を聞いてくれた祥吾さんに報いるにはどうすればいいのか。舞を、可憐を、美月を、エマを、そしてルーナを無事に魔法世界から逃がすにはどうすればいいのか。


 分かっている。

 エマを戦力として連れて行こうとしていない時点で、俺は気付いている


 俺がすべきことは時間稼ぎ(、、、、)


 このまま行方を眩ませてしまうのが一番良い。

 しかし、蟒蛇雀が痺れを切らして、舞たちの方へ向かってしまうのが怖い。


 あの女ならやりかねない。

 俺が出てくるまで舞たちの首を1人ずつ刎ね飛ばす、なんて平気でやってきそうだ。


《マスター》


「……びっくりさせるなよ」


 ウリウムか。

 ルーナや、蟒蛇雀との通話中では存在を悟られないように黙っていたのか。


 おかげですっかり頭から抜けてしまっていた。


《死ぬ気なの?》


 ……。

 単刀直入に聞いてくるな、と思った。


 分かっている。

 俺では、蟒蛇雀には勝てないことなんて。


 思考が冷静になればなるほど、分かってしまう。

 それでも、俺は。


《マスター、1つ提案があるんだけど――》


 着信音。


 中央都市リスティルに向けて走る足は緩めずに、クリアカード取り出す。券面にはシルベスター・レイリーと表示されていた。『白銀色の戦乙女』か……。ギルドランクSの実力者たち。戦力としては申し分ない。事情を話せば協力してもらえるだろうか。


 分からない。

 最悪、俺と一緒に死ねと言っているようなものだ。俺の中で蟒蛇雀の存在がでかくなりすぎていて、白銀色の面々がいれば勝てると断言できなくなっている。


 頭を振って通話ボタンを押した。


『急な連絡、申し訳ございません』


「構わない。どうした」


『同志が、メイカー様がベランダから出て行く姿を目撃致しまして。我々に何か出来ることがあれば助太刀しますが』


 ……。

 俺がベランダに姿を見せたのは、転移する一瞬だぞ。

 何なんだよ、こいつら。


 しかし、申し出自体はありがたい。


「助かる。出来れば手を貸して欲しいんだ。実は……」


 そこまで言いかけて言葉が止まった。


 そうだ。

 先に言うべきことがある。


『……メイカー様?』


「シルベスター、昨日はありがとう。本当に助かった」


『勿体ないお言葉。同志も皆、喜びましょう』


「それで、あの後、ちゃんと残りのメンバーとは合流できたか?」


 シルベスターの反応があまりに普通だったから。

 だからこそ、特に身構えることなくそう聞いた。


 だから。


『いえ、1人行方が分からなくなっている者がいます』


「……、……は?」


 シルベスターがこれまで通り、普通にそう答えたことで意味が分からなくなった。そして、シルベスターは変わることなくそのままの口調で言う。


『申し訳ございません。残りの同志がその分、身を粉にして働きます。無論、私も。メイカー様のご期待は裏切りません』


 そういう問題ではないだろう。


「行方が分からなくなっている? 昨日からずっとか」


『はい。ですが、そんなことよりもメイカー様の用件です。お聞かせ願いますか』


「……そんなことより、って何だよ」


『……は?』


 分かっていた。

 冷静にならないといけないことくらい。

 行方不明になった原因が、俺だってことくらい。


 それでも。

 一度は抑えられていた気持ちが、もう一度爆発した。


「ふっざけんなっっっっ!!!!」


 気付けば。

 クリアカードに向かって怒鳴りつけていた。


「仲間が1人行方不明になってるんだろうが!! それを『そんなこと』だと!? ふざけてんのかてめぇは!!」


『メ、メイカー様!? い、一度冷静に』


「お前らがすべきことは、俺のストーキングなんかじゃねぇ!! 仲間の安否を確認することだ!! 無事が確認できるまでは二度と俺に連絡してくるな!!」


 通話を切る。

 呼吸が荒れる。


 それでも、足は止めない。


《……マスター》


 ウリウムの静かな声が聞こえる。それが余計に俺の神経を逆撫でした。


「分かってるさ!!」


 分かってる。

 冷静にならなきゃいけないってことは。


 本当なら、ここでなりふり構わず助けを求めることが、舞たちの安全をより高めることになるってことくらい。分かってる。分かってるんだよ。


《……そうじゃなくて。あたしが言いたいのは》


 着信音。


 つい今しがたポケットにねじ込んだクリアカードをもう一度取り出す。もし、シルベスターだったらまた怒鳴りつけてしまうかもしれない。そう思いつつ、券面を見る。


 そこには、『ウィリアム・スペード』と表示されていた。

 次回の更新予定日は、同日3月4日(月)6時です。

 以降、章完結まで3時間毎に更新します


 今回の話はaとbの2つを用意してあります。

 bが本来の13話ではありますが、bには明確な表現は避けているものの聖夜サイドの人間が殺される描写があります。aは苦手な方の為に一部を省いて投稿された13話となります。ですので、そういった描写を好まない方にbを読むことはお勧めしません。前回の後書きでも言いましたが、読まなくても今後の展開に支障はありません。


 実際に読んでしまえば、「こんなものか」と感じる方もいらっしゃるとは思いますが、感じ方は人それぞれだと考え、今回の話はこのような手段を取らせて頂きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ