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テレポーター  作者: SoLa
第9章 修学旅行編〈下〉
318/433

第11話 後始末

 誤字報告をして下さっている皆さま、いつもありがとうございます。

 助かっています。


 後書きにちょっとした蛇足を載せています。

 普段はこういうことはあまりしないのですが、気まぐれでするツイッターでの呟きだけもなぁと思いましたので。でもやっぱり、こういうのは書き手である私が解説するより、読者である皆さまがふと気づいた時に、にやりとする程度が一番面白いですよね。




 激しい動きによってフードが脱げる。その露わとなった輪郭を見て、パイナップルのようだとジャック・ブロウは思った。果実の部分が顔で、葉の部分が髪だ。眼の部分はくり抜かれ、ガラス玉のようなものが埋め込まれている。しかし、その部分から異様な魔力が漏れ出ていることもジャックは感じ取っていた。


 すなわち。


魔法石(まほうせき)……、それとも魔石(ませき)か?」


 魔石と魔法石。

 似ているようでその特徴は大きく異なる。


 魔法石は、MCに用いられることが多い。

 魔法石に人工の魔法回路を繋ぎ、そこへ術者が魔力を通すと、魔法石はその魔力の流れを整える役割を果たしてくれるようになる。術者は、一度魔力を魔法石へ経由させ、均一の流れとなった魔力を再び身体へと戻し、魔法へと発現させるという仕組みだ。


 対して魔石は、純粋な意味での動力源としての役割を果たす。

 簡単に言えばバッテリーだ。あらかじめ魔力をチャージしておけば、使い切るまで魔石を動力源として魔法を使うことが出来る。


 魔法石なら、壊せば絡繰人形の動作を狂わせることが出来る。

 魔石なら、壊せば絡繰人形の動作を完全に止めることが出来る。


 ただ、ここで魔法石か魔石かを確かめたいのは、そういう理由からではない。


 魔法球の雨を掻い潜りながら、ジャックは観察する。2名は殉職したが、残りの3名は良く耐えていた。時に躱し、時に魔法障壁を張り、絡繰人形から放たれる魔法球を巧みに捌いている。


 絡繰人形の両手、その指が第一関節から外れ、そこが計10口の銃口となったのだ。飛び出してきたのは魔法球の雨。しかし、純粋な銃火器のように物理的な銃弾が必要無いとはいえ、魔法球にも必要なものはある。言うまでも無く、魔力だ。


 あの絡繰人形が魔石を動力源として動いているのなら、チャージされた魔力から魔法球に必要な魔力を割いて発現していることになり、それはすなわち寿命を縮めているに等しい。この猛攻を耐えられさえすれば勝手に自滅してくれると言うことだ。ただ、このパターンでは絡繰人形を仕留められても術者本体には辿り着けない。


 では、どんなパターンならば術者に辿り着けるのか。

 それは、この絡繰人形が魔石ではなく、術者本人から直接魔力を供給されている場合だ。


 魔力を送り続けて遠隔で操る方法ならある。事実、戦術は全く異なるが天蓋魔法だって術者と魔力をリンクさせて発現させているものなのだから。そして、この術者から魔力を送り続けることによって操るパターンなら、術者本体に辿り着ける可能性がある。


 送られてくる魔力を逆探知すればいいのだ。


 しかし、絡繰人形が同種の魔力を使用した魔法球を乱射することで、人形周囲の魔力は乱れている。この状態では難しい。絡繰人形との距離が近ければ近いほど精度は上がる。仮に魔石であっても遠隔操作されている以上は術者とのリンクはあるはずだが、そちらの場合はより少量の魔力で済んでしまうため、逆探知には不向きであり現実的ではない。


 やはり、絡繰人形の動力源は術者本体であり、魔力的にリンクしている状態がベスト。そう仮定して動くしかない。


 ならば、やることは決まった。

 絡繰人形の活動が完全に停止する一歩手前まで破壊し、術者がリンクを切る前に逆探知する。一歩手前までなのは、完全に破壊してしまえばリンクが切れてしまうからだ。


 ジャックはちらりとグーズへ視線を向ける。

 グーズは何も言わずに頷いた。


「撤退!!」


 グーズの咆哮に従い、残り2名の団員も絡繰人形から距離を空ける。身体強化魔法によって強化された脚力は、僅か一歩で瞬く間での後退を可能とした。魔法聖騎士団の3名が、戦場となっている屋上から別の建物へと消えていく。


「逃げるのかい?」


 ジグザグに動き回り、ジャックたちのかく乱を図っていた絡繰人形の動きが止まった。カタカタと音を立てながら顔が傾く様は、まるで敵を嘲笑するかのような挙動だった。


 そして、決着の時は予期せぬタイミングで訪れた。


 絡繰人形が高度を落とす。動力源が魔石にせよリンクした術者にせよ、浮遊魔法を使用し続ければ魔力の無駄遣いとなる。この戦闘の間に訪れた沈黙に、諸行無常がしたこの選択は決して間違ったものではなかった。特に、開幕のジャックの一閃を回避することに成功していたのだから尚更だ。


 しかし、高度を下げた場所が問題だった。

 奇しくも、そこは諸行無常が副ギルド長ラズビー・ボレリアとその他を監視していた場所であり、ジャック・ブロウに見つかり首筋に魔法剣をあてがわれた場所であり、あのジャックの一閃を回避した場所だった。


「自ら俺の攻撃範囲に入ってくるとは勇敢だな。……それとも愚か者、と表現するべきか?」


「あはは、攻撃範囲に入ったところで問題はないでしょ? だって、君の攻撃をボクは回避できるんだから」


 カタカタと笑う絡繰人形に、ジャックも軽く笑みを浮かべた。


「お互いの認識に齟齬が生じているようだな」


「どういうこと?」




「俺は既に、お前を斬っている」




 月夜に小気味のいい音が鳴り響いた。「え?」と絡繰人形が声を上げる頃には、絡繰人形の視界は反転していた。上半身と下半身が綺麗に両断された絡繰人形が、派手な音を立てながら屋上を転がる。ジャックは地面を蹴った。


 術者とのリンクが途切れる前に、調べる必要がある。

 しかし。


 絡繰人形を中心として、突如膨れ上がる魔力。


「――『疾風の檻(フーリルアウター)』!!」


 その発現までの一連の流れは、流石は魔法世界最高戦力という他ない。


 絡繰人形が自爆するのと、風属性RankAの結界魔法『疾風の檻(フーリルアウター)』が絡繰人形の周囲へ展開されるのは、ほぼ同時だった。轟音を撒き散らし、絡繰人形は内側からはじけ飛ぶ。


 その威力は、おそらく障壁魔法の重ね掛け程度であれば容易に突破されていただろう。そして、詠唱文を大幅に省略した直接詠唱でなければ間に合わなかった。RankAの結界魔法を直接詠唱で発現できるジャック・ブロウだったからこそ、周囲へ被害を及ぼすことも無く、自らに怪我を負うことも無く処理できたのだ。


「……やはり、そう簡単に尻尾を掴ませてはくれぬか」


 物的証拠は残さない。使い物にならなくなった人形を破棄するには良い手だ。この上なく有効な手段であると言える。ついでに敵対者も巻き込めれば儲けもの、ということだろう。


 魔法剣を鞘へと納め、ジャックは1つため息を吐く。


 折角掴みかけた『ユグドラシル』の手掛かりは、これで失われてしまった。術者本体である諸行無常は、おそらくまだ魔法世界にいる。しかし、『ユグドラシル』は魔法世界の玄関であるアオバを経由せずに出入国出来ているのだ。手は回すが追跡は困難であるに違いない。


 後は、副ギルド長ラズビー・ボレリアがどこまで情報を握っているのかというところだが。


「期待は出来ないだろうな」


 それは、諸行無常があっさりと殺害を諦めたことからも明らかだ。ジャックはクリアカードを取り出し、同僚のナンバーを呼び出す。


 考えるべきことが山積みだった。


 諸行無常特製の絡繰人形が全て自爆機能付きの物であるとするならば、絡繰人形を処理する人間は、相応の力量を持つ魔法使いでなければならない。そうしないと、絡繰人形を撃破出来たとしても、自爆されて相打ち以上の結果をもたらされるからだ。


 絡繰人形の動力源が魔石ならば、まだ可能性はある。先ほどの爆発の威力は、爆弾による単純な爆発力では説明できない威力が発揮されていた。つまり、自爆に用いられたのは魔力による魔法攻撃。それなら動力源である魔石にチャージされた魔力を使い切らせれば、自爆という手段はとれないことになる。


 しかし、動力源があくまで諸行無常本人ならば、この手段は難しい。

 そして、それを見分ける手段は、もう無い。


 ユグドラシルはまた闇の奥底へと消えて行く。

 新たな懸念材料を残して。


 ジャックの堪え切れないため息が、白い吐息となって消えた。


 それは、諸行無常との戦いで後れを取った自らの不甲斐なさからくるものであり。

 それは、救えたはずの命を救えなかった自らへの苛立ちからくるものであり。

 結局、自分は何も出来なかったのだ、という悔恨の情からくるものだった。







「これ、どういうことなのか説明してもらえるんだよね」


 白亜の頂。

 王城エルトクリアにそびえ立つ三本の塔。

 その1つであるベニアカの塔。


 塔の主、クィーン・ガルルガのプライベートルームの扉をノックも無しに乱暴に開いたクランベリー・ハートは、聖夜へ見せていた愛くるしい笑みなど欠片も浮かべず、開口一番でそう口にした。


 真っ赤なソファに身体を預けていたクィーンは、その様子を見て思わず零れそうになるため息を必死に押し留めて上半身を起こす。


「……何に対する説明じゃ?」


 本当は分かっている。

 それでもなお、クィーンはそう返した。

 ハートの出方を窺うために。


 結果は。




「――――あぁ?」




 ハートの体内に眠る莫大な魔力が一気に覚醒した。


 扉が弾け飛び、飾り付けられた調度品が砕け散る。足元の絨毯が生き物のようにのたうち回った。それを嫌ったアルティア・エースは、クィーンとは別のソファに座ったまま片足で波打つ絨毯を押さえ付け、飛び散った調度品の破片を片手で払う。


「クランベリー・ハ――」


「中条聖夜はあくまで王城への招待客。最初にそう言っていたのは誰」


 エースの呼びかけを遮るようにして、ハートは言った。そして、クィーンが答えるよりも早く再度その口を開く。


「それが、なに。これ。餌じゃん、ただの。ふざけないでよ」


 クィーンが「クリスのやつめ」と呟いた。


「まさか『ユグドラシル』の釣り出しに一般人を使うなんて。正気を疑うわ」


「……『黄金色の旋律』を一般人としてカテゴライズするのは無理が――」


 エースの言葉は再び遮られた。激しい切断音と共に、エースの座るソファが割けたからだ。ハートの周囲には、しなる鞭のように細く光る魔力が躍っている。


「大義名分があれば何でもしていいとか思ってる? 自分たちが神サマか何かだと勘違いしてない? 必要な犠牲っていう耳障りの良い虚言で煙に撒こうとしているのなら、自分たちの無能さを悔やんだ方が良いよ。私、本気で怒ってる。貴方たちを殺してもいいと思っているくらいには」


「俺たち2人を同時に相手にして、できると思っているのか?」


 エースはバランスを崩したソファから立ち上がり、ハートへと問う。その瞳には剣呑な光が宿っていた。


「よせ、エース。ハートも矛を収めよ」


 エースは舌打ちしてハートから視線を外す。しかし、ハートには矛を収める気はさらさらなかった。


「ふざけてんの? その言葉に私が従うとでも?」


「分かっておる。説明するから一度落ち着けと言うとるんじゃ。今回の件は、リナリー・エヴァンスも噛んでおる」


「……は?」


 クィーンの言葉に、これまでハートの周囲へ纏わりついていた濃密な魔力が嘘のように霧散した。


「どういうこと?」


「言葉通りの意味だ。『黄金色の旋律』として手を貸す、とリナリー・エヴァンス本人から聞いている」


 ハートの質問に、エースは不機嫌そうに答える。


「そ、それじゃあ聖夜クンを囮にする許可もエヴァンスが出したってこと!?」


「いや……、そこがちょいとややこしいところでのぉ」


 クィーンは重々しいため息を吐いた。そして、何かを悩むような仕草を見せた後、胸元から自らのクリアカードを引き抜く。手慣れた様子でクリアカードを操作したクィーンは、その券面をハートの方へと向けた。







「……つかれた」


 ホテル・エルトクリアの自室に戻ってきた俺は、シャワーもそこそこに濡れた髪のままベッドへ倒れ込んだ。


「もうむり。うごけない」


 今が何時かを確認するのも億劫である。


 ギルド本部での後始末については、全て縁先輩とクソババアに任せてきた。向こうから巻き込んできたのだから尻拭いをするのも当然向こうがやるべきだ。『ユグドラシル』など知ったことか。こっちは修学旅行で来てるんだよ。厄介事に巻き込むのはやめてくれ。折角無関係でいられるはずだったのに。これで美月が変に目を付けられたらどうしてくれる。


 ギルドからの報酬金(、、、)については、「リナリー・エヴァンスからの言い値で」と言ってある。これまで余裕の態度を一切崩さなかった老婆の顔が、ほんの一瞬ではあるが強張ったのを見れたので、まあ良しとしておこう。どうせならギルドの経営が立ち行かなくなればいい。師匠は国相手でも容赦しない人だからな。法外な金額を吹っ掛けてくれるに違いない。


 ざまあみろ。


 赤銅色の残党は息をしているのだろうか。シルベスター曰く「メイカー様からの命令は絶対ですから」とのことらしいが、実際のところはどうなっているかは分からない。シルベスターとチルリルローラとは連絡先を交換してあることだし、今度聞いてみることにしよう。最後に別れる際、「よろしければ私たちも一緒に」と言われた時は、どうしようかと思ったけど。エマ、ファインプレイだったぞ。


 あ……、でもそうか。クリアカードは、魔法世界内でないと通話機能は使えない、わけだし、修学旅行中に連絡、しない、といけないのか。3日目のスケジュールはどうだったっけ。うーん。連絡、する時間、あるかな。


《マスター、髪乾かしてから寝ないと風邪引くわよー》


 3日目は、そもそも班行動、の時間も少ないんだよな。


 そうだ。

 フェルリアで、おみやげめぐり、を。

 するんだった。


《マスター?》


 こんな中途半端に横になっていたらだめだ。

 はやく起きて、髪を乾かして、それから。


 それ、から。


《寝ちゃったかしら。あれ? マスター、目覚ましセットしたっけ?》


 ……、……。


 ……。

 次回の更新予定日は、2月25日(月)もしくは3月4日(月)です。


 スルーしたところで、本編を読み進めるのに支障はまったくない蛇足です。むしろ引っ掛かりを覚えてくれた人は読み込み過ぎ。ありがとう。蛇足1を答え合わせ前に見破った人がいた時は嬉しかったなぁ。本作には、こうした小ネタが大小盛りだくさんで散りばめられておりますので、お暇な方はぜひ読み直してみてくださいませ(宣伝 ※次回更新までの時間稼ぎ)


【蛇足1】聖夜の死亡ルート回避について。

・7章『饗宴編』での鈴音ととある人物の会話

・今章『修学旅行編』での聖夜たちの観光ルート並びにそこで発生した出来事

・今章『修学旅行編』幕間2での会話 ※誰の会話か、時系列も踏まえて

・前話での縁の発言 ※答え合わせ


【蛇足2】ドゾンのおかげの意味

・乱闘騒ぎがなければ、観光は続行でBAD END一直線

・乱闘騒ぎがあったのは、無音白色がT・メイカーを炙り出したから

・炙り出したのはドゾン

・聖夜が生きているのはドゾンのおかげ!!(^^)v


【蛇足3】縁が聖夜と諸行無常の関係性を知っていたわけ

・聞いた話では、蔵屋敷先輩も深手を負ったようだった。縁先輩曰く、君ほどじゃないよとのことだが。近いうちに顔を出してくれるそうなので、そこで話をしてくれるだろう。(『饗宴編』本文から抜粋)

 →ある程度の情報の照らし合わせはしたんだな、という理解。

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