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テレポーター  作者: SoLa
第9章 修学旅行編〈下〉
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第9話 囮

 誤字報告して下さっている方々、本当にありがとうございます。


 更新、お待たせいたしました。





「あー、ここまでかー。扱いやすい駒だったんだけどなぁ」


 事態を静観していた小さな影は、肩を落としながらそう呟いた。







 副ギルド長ラズビー・ボレリアを呼びにギルド本部へと踵を返した受付嬢だったが、その歩みは僅か数歩で止まることになった。なぜなら、ラズビー自らがT・メイカーたちの前に姿を見せたからだ。


 もっとも、ラズビーは自らの足でこの場へ歩いてきたわけではなかったが。


 ラズビーは気を失い、ボロ雑巾のようになっていた。ラズビーは強引にこの場へと連れてこられたのだ。凍てつくような笑みを浮かべたマリーゴールド・ジーザ・ガルガンテッラから首根っこを掴まれ、引き摺られるようにして。


「ふ、副ギルド長ーっ!?」


 受付嬢から悲鳴が上がる。同時に、ラズビーを引き摺ってきたマリーゴールドを見て、T・メイカーが呻き声に似た声を上げた。


「マリー……、ゴールド」


 対して、マリーゴールドは満面の笑みを浮かべる。


「あら、T・メイカー様ではございませんか。奇遇ですね(、、、、、)


 当然、偶然ではない。


 マリーゴールドは引き摺ってきたラズビーを転がした。そして、駆け寄ってくる受付嬢へと鋭い眼光を向ける。


「ギルドとしての言い訳があるなら早いうちにすることを勧めるわ。正直、今の私は虫の居所が悪いの」


「ひっ」


「マリーゴールド」


 容赦なく受付嬢を威圧するマリーゴールドを止めようと、T・メイカーがその名を呼んだ。


「……、失礼しました」


 睨み付けたまま受付嬢から目を離さなかったマリーゴールドではあったが、T・メイカーからの無言の圧力に負け、渋々と視線を外し頭を下げる。その光景に思わずため息を吐きながら、T・メイカーが口を開いた。


「その男が副ギルド長か」


「その通りです。ラズビー・ボレリア。リナリー・エヴァンスの存在を快く思っていない反黄金色派の人間です。『無音白色の暗殺者』からの目撃情報と『赤銅色の誓約』からの誤情報を利用し、黄金色の皆様を窮地に陥れたかったのでしょう」


 T・メイカーの呟きに答えるように、傍に控えていたシルベスターがスラスラと答える。その回答に疑問を抱いたのか、T・メイカーが僅かに首を傾げた。


「……無音白色?」


「昨日、御身の捕縛クエストが出されるきっかけとなったグループの名前ですぅ。昨日はそのグループの1人をギルドで叩き潰したと伺っていますが~?」


「二丁拳銃を持つ男です。リーンの話では、ギルド本部でクエストを依頼した張本人だと名乗り出たと聞いています」


「……、あぁ、あの男か。いたな、そんな奴も」


 チルリルローラの説明では不足していると判断したシルベスターからの補足によって、T・メイカーはようやく昨晩のギルドでの出来事を思い出した。


「ご不快であれば赤銅色を潰した後、すぐにでも始末してまいりますが」


「不要だ。余計な真似はするなよ?」


「御意」


 恭しく首を垂れるシルベスターに、興味津々の視線を向けていたマリーゴールドが口を開く。


「随分と従順な犬に成り下がったわねぇ、レイリー。貴方の……、いえ、貴方たちの忠誠心は、リナリー・エヴァンスただ1人に向けられたものだと思っていたのに」


「……ガルガンテッ」


「よせ、チルリー」


 一歩を踏み出そうとしたチルリルローラをシルベスターが止めた。チルリルローラに向けられたマリーゴールドの視線が、シルベスターへと戻る。


「『白銀色の戦乙女』が、エヴァンス様のお役に立つべく結成されたグループであることは事実だ。しかし、エヴァンス様がお創りになった『黄金色の旋律』もまた、その対象となる」


「ふぅん」


 シルベスターからの回答に、マリーゴールドはにんまりと笑みを浮かべた。


「……つまり、私も貴方たちの信仰の対象になるということね?」


「……形式上は(、、、、)、そうなるな」


 絞り出すように告げられた言葉に満足したのか、マリーゴールドは1つ頷くと視線をT・メイカーへと向ける。


「状況を説明させて頂いても?」


「頼む、と言いたいところだが、お前だけでは偏りそうだ。えっと」


「あ、わ、私、ドロシーと言います!!」


 しゅばっと音が鳴りそうな勢いでなぜか手を挙げつつ、受付嬢が名乗った。そんな勢いに驚いたのか、少し間を空けてからT・メイカーは再度口を開く。


「そ、そうか。それではドロシー、ギルドの者を使って、そこに転がっている副ギルド長をギルドへ運び込め。ついでに赤銅色の面々もな。死んではいないはずだ。それから、今回の件に関して詳しい話を聞きたい。部屋を用意してくれ。そこへ現状の最高責任者を連れて来い」


「畏まりました!!」


 ドロシーは頬を染めつつ元気よく答えた。







 案内された一室は、ギルド長の書斎らしい。


 どうやらここ数日ギルド長はギルドを空けており、野暮用で危険区域ガルダーに赴いているんだとか。……野暮用で危険区域ガルダーかよ。なんてアクティブなギルド長なんだ。戦闘力皆無に見えた副ギルド長とは大違いだな。


 ギルド長専用と思われるデスクの前には、応接用のソファとテーブルが用意してあった。ドロシーと名乗った受付嬢に勧められるがまま、2人掛けのソファの片方に腰を下ろす。ほぼノータイムで俺の隣にはマリーゴールドが座った。俺の対面にシルベスター、その隣にチルリルローラが腰を下ろす。ドロシーは「お飲み物をお持ちします」と一礼して退室していった。


 正直、ようやく一息つける気分だ。

 まだ何も解決していないけど。


「血気盛んな奴らが集まっていると思ったが……、予想に反して誰も襲ってこなかったな」


 ドロシーに案内されるがまま、壊れたままのギルドの入り口を跨いでも、無防備な背中を晒しつつ階段を上っても、誰も何もしてこなかった。


「メイカー様の御威光の賜物ですね」


「御身の偉大さにようやく皆が気付き始めたようですぅ」


 対面に座る2人の発言にうんざりする。

 お前らその根拠の無いヨイショやめろよ。


「猿でもやっていい事とやってはいけない事の分別はついていたようですね。駆除の手間が省けただけ良かったと思うべきでは?」


 あ、だめだ。

 隣に座ってる紫頭も同じ感じだった。

 中立に考えられる奴がいないぞ。どういうことだ。


 思わず頭を抱えそうになったところで、外が何やら騒がしくなってきた。空耳で無ければ、今「お飲み物をお持ちするのは私の役目よ! なんて言ったって、私はT・メイカー様に名前を憶えて頂けているんだからね!」と聞こえた。


「流石はT・メイカー様。まさか敵対している状況下にあるギルドの受付嬢すら取り込むとは」


「その掌握術、お見事ですぅ」


「王子様、素敵です!」


 ……。

 これ全部やらせでドッキリだった、ってオチ無い?

 こんなに持ち上げられたこと、これまでの人生で一回も無かったんだが。








「動くな」


 ジャック・ブロウのその言葉に、魔法剣の刃を後ろから向けられた人物は僅かに肩を揺らした。


 ギルド本部前の広場を一望できるこの場所は、数十メートルほど離れた建物の屋上だった。しゃがみ込んでひっそりとギルドでの動向を監視していたであろうその人物は、気配を消して背後から近付いてきたジャックには気付かなかったらしい。


 その人物は漆黒のローブで小柄な全身を覆い隠していた。深く被ったローブのせいで、人相どころか性別すらもジャックには分からない。しかし、ジャックはその人物の正体に目星がついていた。目を細めつつ、その人物が羽織るローブの背に刻印されているシンボルを見据える。


 それは。

 葉の無い樹木。


「両手を後ろで組め。妙な動きを見せれば殺す」


 魔法剣を首元へ突き付けられたまま、その人物はゆっくりと両手を挙げ、そのまま自らの後頭部付近で組み合わせた。


「いくつか質問をする。正直に答えろ。黙秘すれば殺す。俺の予想と違う回答をしても殺す」


 魔法剣の刀身を軽く揺らしながらジャックは続ける。


「問1、お前の所属を答えろ」


「……、……『ユグドラシル』」


 小柄な体格からある程度予想は出来ていたが、ジャックの想像以上に幼い声色だった。自分の同僚のように、余命を代償とするような特殊な魔法へ手を染めていなければ普通に少年の声色だ。しかし、それで判断が鈍るほど緩い環境に身を浸してはいない。後ろに控えさせていた魔法聖騎士団へ手で合図を送る。


「問2、お前に与えられたコードネームを答えろ」


諸行無常(ショギョウムジョウ)


「……そうか。捕らえろ」


 そのコードネームには聞き覚えがあった。

 かつて、ここ魔法世界で中条聖夜に敗れ、命を落とした者の名だ


 しかし、その関係性を今問う必要は無い。それはこの少年を捕縛した後、ゆっくりと聞き出せばいい話だ。だから、ジャックは控えさせていた魔法聖騎士団に指示を出した。用意したのは、魔法聖騎士団の中でもジャックが己の裁量で自由に動かせるうちの手練れ5名。その5名が油断なく諸行無常へと殺到する。


 そして。







「……囮、だっただと?」


 ギルド長は不在。

 副ギルド長はノックアウト中。


 ということで、「次に偉いのはこのワシじゃ! イザベラさんと呼びな!」と堂々とのたまったお婆さんの話を聞いてみたところ、つまりはそういう結論に至った。……至ってしまった。


 そうなると、シャル=ロック・クローバーのあの言葉も、俺たちを泳がせるためのものだったということなのか? 大人しく登城したらどうするつもりだったんだよ。いや、確かに違和感を覚えてはいたんだ。これまでも『トランプ』は、少なくとも師匠と敵対しようとはしていなかった。にも拘らず、碌な調査もせずに一方的な物言いだったからな。


 しかし、今回の一件、師匠は知っているのか?

 一向に連絡が無いんだが。


 とりあえず、俺がまず言いたいのはこれだ。


「ふざけているのか?」


「もちろん、ふざけてなどおらんよ? ひゃひゃひゃ」


 このクソババアが。

 ご意見番だか何だか知らないが、寿命を迎える前に昇天させてやろうか。


 こっちは中条聖夜として修学旅行で魔法世界に来たのであって、T・メイカーとして暴れるために来たわけでは無い。まさかこのために、魔法世界は青藍魔法学園の修学旅行を受け入れたとか言わないだろうな。


 平気であり得そうで怖いんだが。


「まったく。年寄りに席を譲ろうともしないとは。最近の若い奴らは困ったものじゃ」


 老婆は「よっこらしょ」とか言いながらテーブルの上に胡坐をかいて座り、頬杖を突きながら俺へと向き直った。知らねーぞ。今、あんたが背を向けている2人は、俺の隣に座っているマリーゴールドよりイカれているかもしれない奴らなんだが。


「さーて、まどろっこしいのは嫌いでねぇ。端的に聞こうか」


 ずいっと顔を近づけてきた老婆は言う。


報酬金(、、、)、いくら欲しい?」


 賠償金の間違いだろう。

 まずは誠心誠意真心込めて謝罪しろやクソババア。







 ガキョン、と。

 聞き慣れない、何かが組み変わるときに鳴るような音がした。


 後ろで手を組み、しゃがみ込んでいた諸行無常の背中。漆黒のローブで覆われたその背中から、何か突起物のようなものが複数、突如として盛り上がった。


「お守りしろ!!」


 そう叫んだのは聖騎士団のうちの1人。

 ジャックがもっとも信頼する部下であるグーズ。


 直後、連射式の銃声が鳴り響く。


 誰を守るか。

 言うまでも無い。


 ジャック・ブロウだ。


 魔法球を生成して打ち出すタイプの魔法銃ではなく、純粋な銃火器だったようで、放たれた凶弾はけたたましい音と共にジャックの前に立ちはだかった魔法聖騎士団の鎧が弾き飛ばしていく。しかし、乱射だ。堅牢な鎧はへこみ、跳弾したそれが運悪く同僚へと向かう。凶弾は鎧ではカバーしきれない部分を穿ち、2名が命を落とした。


「馬鹿者が!! どけっ!!」


 グーズを押しのけ、ジャックが前へと躍り出る。完全なる不意打ちではあったが、ジャックなら回避できただろう。しかし、それはあくまで憶測であり絶対ではない。だから、万が一を考えたグーズの命令は正しかったし、そのために命を投げ出した魔法聖騎士団の面々をジャックは貶したりはしない。


 この罵声は、何も出来ずにそれを見送った自分自身へのものだ。


 弾切れとなったのか、ガチガチと音を鳴らすだけになった諸行無常へ、ジャックの一閃が放たれる。しかし、諸行無常は突如として宙に浮いた。ジャックの一閃は、轟と空を切るにとどまる。


「あはははは! 凄い剣筋だったね、ジャック・ブロウ。流石はかの剣聖の二番弟子だ!」


「各員、抜刀!!」


 グーズの咆哮に応え、ジャックの周囲に展開した2名の魔法聖騎士団が剣を抜いた。グーズも抜刀しつつ、ジャックへと声を掛ける。


「ジャック様」


「分かっている。予定を変更する。生死は問わん。ここで奴を止めるぞ」


「はっ」


 自らの掃射によって穴だらけになったローブが夜風になびいた。星空に浮かぶ諸行無常の身体が、ぐりんと正面を向く。その姿を見て、グーズは思わず両眼を見開いた。


「き、貴様っ」


「改めて自己紹介をしようか。親愛なる『トランプ』とエルトクリア魔法聖騎士団の諸君」


 カタカタ、と不気味な音を立てて。


「ボクは諸行無常……、が愛用する『十式ノ絡繰人形(トイ・ボックス)』の一体。自己紹介と言っても名前は無いんだけどね? 『其之三(ナンバー・スリー)』とでも呼んでくれたまえ」 


 諸行無常カラクリニンギョウは言った。

 次回の更新予定日は、2月11日(月)です。

 2月4日の更新は、おやすみさせて頂きます。


 11日以降は、週一更新に戻す予定です。

 ……現段階では。

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