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テレポーター  作者: SoLa
第9章 修学旅行編〈下〉
312/433

第5話 実力




 フェミニア・アン・レンブラーナは、夜の街を疾走していた。


 翌日に昇格を控えている『赤銅色の誓約』。彼らがアジトとして利用しているリスティル・プレミアムホテルを包囲していた『白銀色の戦乙女』の面々は、シルベスターからの命令に従って各々その場からの離脱を図っていた。


 合流ではなく離脱を最優先したのは、ホテルの駐車場が天蓋魔法によって滅多打ちにされたからだ。これは、T・メイカーが目標としていた平和的解決は失敗に終わったことを意味している。


 すなわち。

 潰し合いしかない。


 人数で劣っている赤銅色が白銀色を潰す気ならば、散り散りとなっている今をおいて他に無い。特に、前以って罠を張ることが出来たアジトから離脱されたのなら尚更だ。


 白銀色と赤銅色は、公式の場でその戦闘スタイルを晒すことはほとんどない。赤銅色の数名が七属性の守護者杯に参戦したのも年単位で前の話だ。そのため、お互いがその実力の底を把握していないのだ。


 確かに、白銀色は赤銅色よりも早くギルドランクSに昇格した。しかし、それは『黄金色の旋律』の役に立つためには一刻も早く同じランクに辿り着かなければならない、と全員が最短経路で邁進した結果だ。


 赤銅色がどの程度の余力を以って今回の昇格試験を突破したのか。それは白銀色の誰にも分からないことだ。1対1で負ける気などフェミニアにはさらさら無い。それは同志である他の面々も同様だろう。しかし、1人で複数を相手取った場合はどうなるか分からない。


 現状は、赤銅色に流れを掴まれていると言わざるを得ない。このままずるずると赤銅色の土俵に引き摺り込まれることは避けなければならない。それでも合流ではなく離脱を最優先したのは、赤銅色のアジトがある場所での戦闘を避けるためだった。


 白銀色においてトップの戦闘力を誇るシルベスターと、黄金色のT・メイカー。この2人が揃っておきながら、あの場で赤銅色を仕留めることが出来ず、待機中だった白銀色の面々に離脱を命令せざるを得ない事態になった。それはつまり、赤銅色は迎撃する手段をあらかじめ用意していたからに他ならない。そんな場所で戦闘を継続するわけにはいかなかったのだ。


 走る。

 フェミニアは夜の街を疾走する。

 そして、行き着いた結論に思わず歯噛みした。


 赤銅色は、あらかじめ迎撃する手段を用意していた。

 それが何を意味するのか。

 答えは1つしかない。


 盗聴がバレていた。


 白銀色は、赤銅色によって踊らされた。

 白銀色は、それに気付くことなくT・メイカーを巻き込んだ。




 ――――その罪、万死に値する。




 遅かれ早かれ白銀色の誰もが同じ結論に至った。しかし、それよりも早くシルベスターからメッセージが届く。内容は、「メイカー様は自死を望んではいない」というもの。おそらく間一髪だったに違いない。後少しでも遅ければ、察しの良い者は舌を噛んで自害していただろう。現状、白銀色が誰1人として死んでいないのは、間違いなくメイカーのその言葉のおかげなのである。


 会ったことも無い者たちの行動すら読み切り、的確な指示が出せる。そんなことはフェミニアでは出来ない。シルベスターでも不可能だろう。フェミニアの中で、メイカーに対する信仰心がぐんぐんと上昇していく。流石は、黄金色に名を連ねる者。リナリー・エヴァンス直属の配下。命を捧げるに相応しい御方。


「わたくし共のちっぽけな思考など、あの御方の前では児戯に等しいということですわね……」


 熱の篭ったため息は、寒空の中で白い息として吐き出される。

 そんな時だった。


「――っ」


 突如として飛来する雷属性の魔法球。それを身体強化魔法を纏った腕で弾き飛ばしたフェミニアは、足を止めて撃たれた方角へと目を向ける。フェミニアが見上げた先、とある民家の屋根に2人組の男がいた。


「……何用ですか? 誤射であるのなら、謝罪を受け入れる用意が御座いますが」


 ワンテンポ言葉が出るのが遅かったのは、フェミニアの記憶に襲撃者の情報が無かったから。フェミニアはギルドに登録されたギルドランクBまでのグループの情報を全て記憶している。フェミニアの記憶にこの2人の情報が無いと言うことは、ギルドランクC以下であるか、ギルドに登録された者ではないかのどちらかになる。


「誤射? 馬鹿言うんじゃねーよ、犯罪者グループの一員が」


 手に眩い雷を纏った男は言う。その言葉に、フェミニアは眉を吊り上げた。


(……犯罪者グループ? わたくし達が? ……あぁ、なるほど。そういうことですか)


 その単語1つで、フェミニアは全てを理解した。

 全てが繋がった。


 赤銅色は、間違いなく白銀色を潰しに来ている。


 迎撃態勢が整っている自分たちのアジトで潰せるならそれで良し。仮に白銀色が逃走するならば、ギルドにこう告げ口するのだ。「白銀色が自分たちのアジトに乗り込み攻撃してきた」と。そうすればギルドが動く。赤銅色のアジトはリスティル・プレミアムホテル。公共施設だ。そこでの魔法戦を白銀色の破壊工作と言い張れば、ギルドは信じるだろう。赤銅色と白銀色、どちらの情報をギルドが優先するかは言うまでもない。日頃の行いのツケはこういうところで来るものである。


 散り散りになった白銀色をどう捕捉するのか疑問だったが、それも解消される。赤銅色は、自分たちが走り回る必要などないのだ。ギルドが用意したであろう大規模クエストに参加した他のグループが勝手に見つけてくれる。当然、白銀色は抵抗する。後は、騒がしいところへ駆けつければ良いだけの簡単なお仕事と言うわけだ。


 赤銅色はあくまで被害者で通る。

 そのために挑発するような会話をわざと盗聴させ、白銀色を動かした。赤銅色からは手を出していない、と言い張るためだ。その思惑通りに白銀色は動いた。


 黄金色のT・メイカーという、赤銅色にとって特大の餌を引き連れて。


 フェミニアは舌打ちする。温室育ちの彼女を良く知る者からすれば、思わず二度見してしまうような光景に違いない。自らがした下品な行いに恥じることなく、フェミニアは背負っていた円月輪へと手を伸ばす。


 フェミニアが愛用する円月輪は剣ではなく、分類するなら投てき武器の一種である。


 外見は、シンプルに言えば円状の刃。

 円月輪にも様々な種類があるが、一般的なものの直径は大きくても30cmほどで、中央に穴のあいた金属板の外側に刃が取り付けられており、それを投てきすることで敵を殺傷する武器だ。斬ることを目的とした投てき武器は、珍しい部類に入るだろう。


 これが一般的な円月輪の特徴である。

 フェミニアの愛用する円月輪は、少々次元が異なる。


 フェミニアは、両手を使って円月輪を頭上で回転させた。空気を斬る音と、鎖が金属を打つ音が馬鹿みたいに響き渡る。


 その円月輪の直径は、150cmを優に超えていた。中央に穴の開いた金属板の外側に刃が取り付けられていることは変わらない。しかし、その穴の開いた中央には十字型の持ち手が埋め込まれており、その中心部から伸びる鎖が嫌な音を立てる。


 魔法を使用しなくても、背負うことは出来る。

 しかし、こうも容易く頭上で振り回すには、身体強化魔法を用いなければ実現できない。


 円月輪の基本的な投げ方は2通り。

 1つは、円という形状を利用し、回しながら投てきする方法。

 そしてもう1つは、指で挟んで投てきする方法だ。


 しかし、フェミニア特注の円月輪はそのどちらも行うことが出来ない。

 ならば、どうするか。


「わたくし、今、虫の居所が悪いんですの」


 全身を使った投てき。遠心力を利用して得物を放るそのスタイルは、ハンマー投げに近いものがある。フェミニアの手から放たれた円月輪は、馬鹿みたいな轟音を鳴らしながら襲撃者2人を襲った。


「うおおおおおお!?」


「うええええええ!?」


 男2人は情けない声を上げながら迫りくる脅威を回避した。横っ飛びである。2人は左右ばらばらに全身全霊で飛び退いた。直前まで2人が立っていた場所へ暴虐の塊が着弾する。コンクリートの屋根がビスケットのように呆気なく砕け散った。


 回転しながら着弾した円月輪。

 その中央、十字の持ち手から伸びる鎖。

 その伸びた鎖の先端を掴み、円月輪の移動力を利用して一緒に飛んできたフェミニア。


「へ?」


 2人組のうち、片方が腑抜けた声を上げた。砕けたコンクリート片の一部に足を掛けたフェミニアが、手にした鎖に新たな力を加える。重量のある円盤はまるでヨーヨーのように操られていた。回避した2人の男のうち、片方へ狙いを定めたフェミニアに従い、円月輪が再び男を襲う。


 不意を突かれた男が続けて回避に成功したのは奇跡に近い。身体強化を纏っていた男は恐怖心から身体を捻り、たまたまそのすれすれを円月輪が奔り抜けた。


 円月輪はそのまま地面へと着弾する。地面が爆ぜた。鎖を掴んだままのフェミニアの身体は、その勢いを利用して落下する男よりも早く地面に足を付けた。


 フェミニア特注の円月輪の使い方は2通りある。

 中央に繋がれた鎖を利用して、ヨーヨーのように振り回す方法。


 そして、もう1つ。


 フェミニアは十字の持ち手を掴み、地面に抉りこんだ円月輪を引っこ抜く。そのまま十字の持ち手を両手で握り、落下してくる男を待ち構える。落下してきた男を斬り捨てるためだ。その光景に、男の表情が恐怖に歪む。


 だから、フェミニアは自分の得物を愛刀と呼ぶ。

 彼女にとって、これはただ投てきするための物だけではない。

 歪な形状をした、投てき可能な刀なのだ。


 仮にフェミニアに殺す気が無かったとしても、重量のあるソレを振り回せば腕の1本は平気で飛ぶ。そもそもギルドランクSとギルドランクC以下の戦いだ。この程度の戦力差など当たり前、善戦など以ての外である。男は間違ったのだ。攻撃ではなく、情報提供に努めるべきだった。


 致命的な選択ミス。

 その代償は――――。


 フェミニアからの一撃をその身で受けることになった男は、もはや確定した自らの末路から逃避するかのように両目を固く閉じる。しかし、思わぬところから男の救い手は現れた。


 金属と金属がぶつかり合う音。


 思わぬ衝撃に円月輪の軌道を弾かれたフェミニアが体勢を崩す。乱入者から仕掛けられた追撃は、踊り狂う鎖が牽制となって不発に終わった。


「おうおう、グループの頂点と謳われるギルドランクSの女が通り魔か? どこまで落ちぶれるのか見物だなァ、『大竜巻(オオタツマキ)』」


 ニヤリ、と口角を吊り上げて笑うのは『赤銅色の誓約』のブリンガル・ベン・ベルガリアン。無精ひげに獰猛な笑みを浮かべるその男の目は、獲物を捉えた虎のように爛々と輝いていた。その手には月明りを吸い込んでしまいそうな漆黒のダガーナイフが握られている。


「……どの口が」


 吐き捨てるようにしてフェミニアが言う。その視線が残念な体勢で墜落した男へと向けられた。


「ひぃっ!?」


「貴方の役目(、、)は終わったのでしょう? 早く失せてくださいます?」


「そういう言い方は感心しねぇな」


 絶対零度の視線を投げかけるフェミニアから庇うように、ブリンガルがフェミニアと男の間に割って入る。ブリンガルは倒れ伏す男へ軽く視線を投げてからこう言った。


「実力差を知っていながらも立ち向かう、お前ぇさんの男気を見たぜ。後は俺様に任せておきな」


「あ……、あ、ありがとうございますっ! ベルガリアンさん!!」


 男は慌てた様子で立ち上がると、ブリンガルに一礼し、最後にフェミニアを怯えた目で一瞥してから走り去った。そんな茶番(、、)を冷めた目で見つめていたフェミニアは、仕切り直しと言わんばかりに円月輪を一振りする。その動きに呼応して動いた鎖が、鞭のようにしなり地面を打った。


「英雄気取りはもうよろしくて?」


「気取りなんかじゃねぇ。英雄なのさ。俺様たちは(、、、、、)、な」


 ダガーナイフを逆手に構えたブリンガルは、そう言って嗤った。しかし、相対するフェミニアの視線は既にブリンガルには向いていない。上空を見上げていたフェミニアは思わず笑みを零した。


「……何が可笑しい」


「見れば分かりますわよ?」


 フェミニアの声に従い、ブリンガルの視線が上に向く。

 その先に広がるのは。


 ――――星々の脈動。







 俺とシルベスターは、歓迎都市フェルリアにて屋根から屋根へと飛び移り移動していた。

 行き先は中央都市リスティルだ。


「……不愉快です」


「……気持ちは分かるが落ち着け」


 言葉通り機嫌の悪さを滲ませるシルベスターを宥める。


 ギルドから出された大規模クエストを取り下げられないか、とウィリアム・スペードに連絡してみたのだが駄目だった。というのも、スペードに連絡したところ、途中からシャル=ロック・クローバーが出てきたのだ。


 曰く、無実が証明できない以上、力ずくで取り下げることはしない。


 黄金色、白銀色、赤銅色。この3色を並べれば、ギルドや『トランプ』からすれば問題児なのは黄金色と白銀色なわけで。赤銅色からもたらされた情報が優先されるのは当然のことだ。俺たちが公共施設を破壊したわけではない、と証明できるものは何も無い。最上階のフロアは赤銅色の貸し切りだったし、カメラ対策もしていたのだろう。むしろ、迎撃手段に爆弾を用いたのはカメラごと吹き飛ばすためだったのかもしれない。


 シャル=ロック・クローバーからは、これ以上罪を重ねる前に投降しろとまで言われてしまった。「無実が証明できない以上」と言いつつも、完全に容疑者の扱いだ。赤銅色の言い分通り、俺はシルベスターと行動を共にしてリスティル・プレミアムホテルまで赴いているのだから、疑われるのも当たり前なのかもしれない。ただ、「投降しろ」という言葉にはシルベスターも我慢ならなかったようで、思わず暴言が飛び出しそうになるところを寸前で制止し、慌てて通話を切ったのだ。


 でもね。

 切った後に思ったんだ。


 大人しく登城した方が自分のためだったって。


 もう遅い。こちらから一方的に通話を遮断したのだ。この行為をホテル襲撃を肯定したものだと判断されたら、いよいよ犯罪者として国から指名手配されるかもしれない。うわ、クソ面倒くせぇじゃねーか。


「む……、メイカー様」


「ああ」


 並走するシルベスターからの呼びかけに頷く。遠目からでも分かった。どうやら戦闘が始まったようだ。それも……。


「一箇所じゃないな」


「はい」


 そう言っている今も断続的に爆発音が聞こえてくる。結構派手にやらかしているみたいだな。


「メイカー様」


 どこから介入すべきか。

 そんなことを考えていたら、シルベスターから呼ばれた。


「これ以上、赤銅色の思惑通りに進ませるわけにはいきません。私の魔法で介入してよろしいでしょうか」


「同感ではあるが……、届くのか?」


 リスティルは目前というところまで来てはいるが、まだここはフェルリアだ。それに遠目で確認できた爆発も、リスティルとフェルリアの境目付近で起こったものではない。命中するかしないか以前に届くのかが問題だ。


「問題ありません」


 頭上に広がる星空を一瞥し、シルベスターは答えた。同時に、俺と並走していた足を速めて追い抜いたシルベスターは、付近で一番高い建物の屋上へと跳躍する。その後を追うようにして、俺もシルベスターがいる建物の屋上へと飛び上がり着地した。


「『星光の葬列スター・ライト・パレード』」


 その言葉と共に、シルベスターの身体から目を見張るほどの魔力が膨れ上がった。異変を感じたのは、その直後。思わず星空を見上げる。


 煌々と輝く星々の光が、ブレた(、、、)


 点在するだけだったはずの星の光が一筋の線となる。一本や二本ではない。頭上に瞬く星の光全てが眩い線となっていく。


 そして。


「行け」


 シルベスターの一言で、それが一斉に解き放たれた。数えきれないほどの光線がリスティルに向かって飛んで行く。間違いない。あれは届く。寸分の狂い無くシルベスターが狙いを定めたポイントに着弾するだろう。


 長い呪文詠唱をしたわけでもない。

 遅延魔法を使ったようにも見えなかった。

 天蓋魔法のように魔法陣が必要な魔法じゃない。

 にも拘らず、天蓋魔法クラスの弾数が一瞬で発現されていた。


 これが、真の実力でギルドランクSに登り詰めた魔法使いの魔法。


「――っ」


 その光景に、思わず仮面の下で息を呑んだ。その間にも、シルベスターは2回目、3回目と同じ魔法を発現し、次々と遠く離れたリスティルへと放っていく。ここから戦場までいったい何十キロあると思っているんだ。


 白銀色の面子は、皆が近接型でバランスが悪いと思っていた。とんでもない。使い慣れた得物が近接というだけで、やろうと思えば砲台にだってなれるってことかよ。大和(やまと)さんと選抜試験でやり合った時にも感じたことだが、魔法使いの戦闘スタイルというものは本当に当てにならない。なにせ、本当に強い魔法使いには、近接型や遠距離型の括りが通用しないからだ。


「お待たせ致しました。戦場になっているであろう場所に狙いを定めてランダムに撃ち込みましたが、同志は私の魔法を熟知しておりますので被弾の心配はございません」


「……それって他の人たちの被害は大丈夫なのか?」


「爆発が視認できた場所をピンポイントに狙いましたので。戦闘になっている場所に無関係の人間が留まっているとは思えません。それにメイカー様、ここは魔法世界です。魔法に対応できない一般人などほとんどおりませんよ」


 つまり、ゼロじゃないってことだよな。


「……今回は俺が許可を出したわけだから仕方が無いが、次回からは無関係の人間に被害が及ばないよう配慮してくれ」


「御意」


 恭しく頭を下げるシルベスターに頭痛を覚えながらも、俺たちは移動を再開した。何となく沈黙が嫌になったので、先ほどの魔法について話題に出してみる。


「それにしても、さっきの魔法は面白いな。星の光を魔法球に変換しているのか」


「その通りです。もっとも、実際に存在する星そのものから魔法球を発現させているわけではありません。あくまで私が視認している星の光を媒体としています」


 視認している星の光、って。

 思わず頭上に広がる美しい星空を見上げる。


「プラネタリウムを思い浮かべていただければ」


 そんな俺に、シルベスターが補足してきた。


「頭上に巨大なプラネタリウムを思い浮かべるのです。それが私の魔法球の射出地点となります」


「……ドーム状であるアレを思い浮かべたところで、射出地点を割り出すのは骨が折れそうだ。個々人によって認識に差があるだろうからな」


 魔法球の射出地点が分からなければ、実際に撃たれるまで距離感も分からないということになる。立ち位置によっては射線もだ。回避は困難になるだろう。おまけに弾数も馬鹿に多いし一斉に撃たれる。まさに雨のような光景だ。


「だが、そんなことまで俺に話してしまって良かったのか?」


 幻血属性特有のオリジナル魔法。

 その一番の強みは「何が起こるか分からない」ことだ。相手が初見であれば、それだけで有利な立場に立つことが出来るのだから。


 しかし、シルベスターは柔らかく微笑んで言う。


「黄金色の皆様に知られたところで、不都合なことなど何もありません」


 ……そうだった。

 この人はこんな人だったよ。


「では、ついでにこの魔法を破る方法もお伝えしておきます。まず」


「いや、いい」


 嬉々として自らの弱点を語りだそうとするシルベスターを止める。


 何が「ついでに」だよ。

 もっと自分の命を大事にしろよ。


 思わず呆れた様子を隠そうともしない口調で遮ってしまったのだが、シルベスターは不愉快な表情になるどころかとても嬉しそうな笑みを浮かべた。


「なるほど、流石はメイカー様。私が説明するまでも無く、この短時間で対抗手段に気付かれるとは。黄金色に名を連ねるに相応しい御方でございます」


 ……。

 壮絶な勘違いから勝手に俺の評価を爆上げしていくスタイルやめない?


「シルベスター、俺はな」


「勿論です。私がこの魔法を黄金色の皆様へ使うことは未来永劫ありません」


 お願い。

 会話噛み合って。

 次回の更新予定日は、12月24日(月)です。

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