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テレポーター  作者: SoLa
第9章 修学旅行編〈下〉
309/433

第2話 誘い

 いざないって読んでね。


 11月19日に、第1話の一部を修正しました。

 創造都市メルティにてスペードと遭遇した際、エースと貴族都市ゴシャスで戦った一件は聖夜が口にしていました。エマ達は聖夜とエースが戦ったことを知らない状態で話を進めていましたが、その部分を「知っているけど触れていない」という流れに変えています。それに加えて、エマとの会話の流れも修正。


 混乱させてしまい申し訳ございませんでした。

 指摘して下さった方々、ありがとうございました。逆に「何かがあるはずだ」と深読みして下さった方々には、期待させてしまい申し訳ございません。




 昨日はT・メイカーの捕縛作戦を決行したギルドへの殴り込みから始まり、王城でのあり得ない展開の数々に加え、締めにアルティア・エースと貴族都市ゴシャスでの死闘と大盤振る舞いの夜だった。


 だからこそ、睡眠不足の俺はさっさと寝たかったのだが。


「どうぞ、お座りください」


「それは……、いえ、失礼させて頂きます」


 銀髪の女性、シルベスター・レイリーさんは俺からの申し出に一瞬躊躇した様子だったが、一礼してから椅子に腰かけた。その際、全身をすっぽり覆う赤いチェックが入ったローブの下から剣を取り出し床に置く。一瞬身構えそうになったのは許して欲しい。俺はその対面にあるベッドへと腰を下ろす。


 訪問先を間違えていることを期待していたが、残念ながらこの方の目的地はここだった。扉越しに「T・メイカー」と口パクされてしまえば中に入れざるを得ない。エマ達を自室へ戻した後で本当に良かったと思う。それだけがせめてもの救いだ。


「改めまして、自己紹介をさせて頂きます。ギルドランクS『白銀色の戦乙女』のリーダーを務めております、シルベスター・レイリーと申します。夜分、急な訪問をお許しください。シルベスターとお呼び捨て頂ければ。……メイカー様とお呼びしても?」


「……はい、それでお願いします」


 どうするべきか悩んだが、直接足を運んできたということは根拠があってということだ。しらばっくれても良い事は無いし、もはや意味も無いだろう。


「様は付けなくても」


「そうは参りません」


 ……食い気味に否定されてしまった。

 アイリーン・ライネスといい、『白銀色の戦乙女』の面々はこれが普通なのだろうか。


「それで、どのような用件なのでしょう」


 これ以上この話題を続けても平行線を辿るだけだと判断し、さっさと本題に入ってもらうことにした。どうせ長い付き合いにはならない。今後名前を呼ばれる回数もそう多くは無いだろう。ならば、小さいことだと割り切ることにする。


「はい。私がここを訪れた理由は2つ御座います。まず、1つめですが」


 そういうと、シルベスターさんはいきなり椅子から立ち上がったかと思えば、そのまま跪いてしまった。


「え」


 思わず呆けた声が漏れる。シルベスターさんは構わず続けた。


「我が同胞であるアイリーン・ライネスとチルリルローラ・ウェルシー・グラウニアが、交易都市クルリアにて不用意にメイカー様と接触したと聞き及んでおります。修学旅行中、それもご学友と行動を共にされているタイミングであったにも拘わらず、誠に申し訳ございませんでした」


「……頭を上げてください」


 正直、言いたいことは沢山ある。タイミングが悪いとかそういう話じゃない。そもそも、なんで俺が修学旅行中だと知っているのか。え、本当にどういうことなの。もう俺の素性って丸裸にされているの?


 シルベスターさんは頭を上げてくれない。


「頭を上げてください」


 T・メイカー(イコール)中条聖夜という図式に辿り着かせないために、わざわざ捕縛クエストを展開するギルドへと殴り込みにも行った。あの行動すら意味は無かったということなのか?


 シルベスターさんは、まだ頭を上げてくれない。


「……頭を上げてくれませんか?」


 3回目で、シルベスターさんはようやく頭を上げてくれた。


「座ってください」


 シルベスターさんはもう一度頭を下げてから椅子に座る。


「色々と思うところはありますが、謝罪は受け入れます」


 再度シルベスターさんが頭を下げようとするのを手で制した。年上の女性からこうも下から来られるのはちょっと落ち着かない。


「それで、もう1つの用件は何でしょうか」


「はい。メイカー様は『赤銅色(せきどうしょく)誓約(せいやく)』という名のグループをご存知でしょうか」


「……ギルドランクSへの昇格が決まったグループですよね」


 ここでそのグループの名前が出てくるとは思っていなかったので、返答が一拍遅れてしまった。シルベスターさんが頷く。


「それが何か関係が?」


「メイカー様の暗殺を企てております」


 ……。


「……、……はあ?」


 暗殺?

 俺の?

 何で?


 意味が分からない。


「心中お察し致します。あのような虫けら共が尊き御身を汚そうなど言語道断」


 何言ってんのこの人。

 全然察せてねぇよ。


「俺を殺す、と言っていたのですか?」


「殺す、という明確なワードが出たわけではありませんが、無力化しようとしているのは間違いありません。昇格が決まり、ギルドランクSの位置にいる我々『白銀色の戦乙女』と『黄金色の旋律』の皆様が疎ましいと思っているようです」


 何でだよ。

 みんな仲良くやっていこうぜ。


「それを公衆の面前で堂々と公言していた、と?」


「いえ、奴らは公言してはいません。むしろ、奴らはこの企みが我々に気付かれていることを知らないでしょう」


 ……ん?

 ちょっと待って。


「ならば、どうやってその情報を入手したのですか?」


「奴らのアジトに盗聴器を仕掛けております」


 思わず周囲を見渡してしまった。


「……メイカー様。念の為に申し上げますが、我々は『黄金色の旋律』の皆様を害する意図は一切御座いません」


「え、あ、はい。なんかすみません」


 心外な、とでも言いたそうな口調で話すシルベスターさんへ、反射的に頭を下げてしまう。敵のアジトに盗聴器とか。すげぇな、『白銀色の戦乙女』。やることが違う。……何か既視感を覚えるな、と思ったらエマだ。この感じはエマだ。間違いない。『白銀色の戦乙女』ってエマが複数人集まって出来たようなグループってことか。マジ?


「……とりあえず、言いたいことは分かりました。狙われるかもしれないから気を付けろ、と」


「それもありますが、提案に参りました」


「提案?」


「メイカー様さえよろしければ、奴らの処理は我々『白銀色の戦乙女』にお任せください」


「……処理とはどういうことでしょう」


 説得とかなら分かるが、処理という単語に不穏な気配を感じずにはいられない。


「どういうことも何も……、メイカー様に被害が及ぶ前に皆殺しにします」


「ちょっと待って。お願い、一回タイム」


 何言ってんのこの人。ミナゴロシ? ミナゴロシってあの皆殺し?

 驚いている俺に対して、シルベスターさんも驚いていた。


「何か問題がありますでしょうか」


 そんなことを言ってくる。


 問題しかないでしょう。

 何なのこの人。本当にエマそっくりじゃねーか。


「もうちょっと穏便な感じになりませんか」


「……あのような虫けらにすら慈悲をかけられるとは。流石はメイカー様です。それでは、腕を1、2本切り落とす程度に致しましょう」


「えっと、そういう問題では無いです」


 どうしよう。

 会話が噛み合っているようで噛み合っていない気がする。


 ……噛み合っていないのは価値観か。

 命に対する。


 第一、腕を2本切り落としたらその人は腕が無くなる。


「具体的にはどう動くおつもりなのですか?」


「お任せ下さるのなら、この後すぐに動きます。同志は既に完全装備で待機しておりますので」


「……どこに?」


「リスティル・プレミアムホテル。奴らのアジトを包囲させております」


 ……。

 あ、これ駄目だ。

 任せちゃ駄目なパターンだ。


「……俺も行きます」


 この人達を野放しにしていたら、絶対に腕2本じゃ済まない気がする。寝ている間に皆殺しにされているとか寝覚めが悪すぎるだろう。


 そう思って口にした一言だったのだが、シルベスターさんは「やはりな」という顔をしている。


「……リーンの言い分は正しかったということですか。お手を煩わせることなく、と思っていましたが、やはり自ら血祭りに上げたいということですね」


 お願い。

 会話噛み合って。


 エマそっくりというかエマそのものだ。

 こんな人達を野放しにはしておけない。


「それでは、我々『白銀色の戦乙女』はメイカー様を全力でサポートさせて頂きます」


「あ、それは結構です」


 思わず即答してしまった。

 なまじ力があるせいで、この人達が全力を出したら結局皆殺しにされかねない。


「しかし、メイカー様をお独りで行かせるわけには参りません。いくら虫けらとはいえ、相手は数がいます。万が一が無いとも限りません」


「……なら、シルベスターさんが付いてきてください。それで十分です」


 正直なところ、1人で行くのは万が一を考えるとまずいなとは思っていた。こう言ってくれるのなら協力してもらおう。


「……分かりました。一命に代えましても、メイカー様をお守りします」


 そんな大袈裟な。


「それに、俺が向こうのアジトまで行くのは喧嘩をするためではありません。平和的に話し合いで解決するためです。極力、武力行使は避けて頂きたいと思います」


「メイカー様の繰り返しの慈悲には、感服する他ありません。奴らに人としての知性が備わっているのなら、咽び泣いて喜ぶことでしょう」


 ……。

 この無責任にヨイショしてくる感じ、本当にエマだわ。

 神経がゴリゴリ削られる。


 綺麗系のお姉様に慕われているという素晴らしい状況のはずなのに、嬉しさよりも疲労感が凄いのは何でだろうね。


「念の為、ホテル周辺に待機させている同志はそのままで構わないでしょうか」


「それは……、そうですね。念の為、あくまで念の為ですね?」


「無論です」


 ……ならいいか。

 正直、ギルドランクSへ昇格が決定している面々に会いに行くとか、ちょっと怖いし。こっちはただの学生なんだぞ。ギルドランクSに所属しているとはいえ、それは全て師匠の功績によるものだ。特例だったらしいから、師匠の功績と言う表現が正しいのかは分からないけど。


「ならば、早速行きますか?」


「……そうですね」


 明日には日本へ帰国してしまうわけだし、行くならもう今しかない。

 眠いけど仕方が無いか……。


 あ。

 そう言えば、仮面とローブどうしよう。


 そう思った時だった。


 シルベスターさんが急に立ち上がったかと思ったら、床に置いていた剣を拾い上げて構えを取った。突然過ぎて俺は立ち上がることもせずに、呆然とシルベスターさんが睨み付ける方へと目を向ける。それは、カーテンによって閉め切られた窓だった。


「メイカー様、来客の予定が?」


「いえ、ありません」


 そもそも、窓からやってくるなんて碌な奴じゃないに決まっている。

 ここ何階だと思っているんだよ。


 シルベスターさんがこちらに視線を寄越す。完全に「殺していいですか」と聞いてきている。勘弁してくれ。


「貴方のお仲間という可能性は?」


「あり得ません。私からの指示を待てと伝えてありますし……、他の『黄金色の旋律』の皆様から命じられればそのように動くでしょうが……。その可能性は御座いますか?」


「……ないと思います」


 裏で師匠が動いていれば可能性はゼロではない。

 が、どうだろうか。


 そんな会話をしているうちに、窓が控えめにノックされた。思わずシルベスターさんと顔を見合わせる。気配を消しているようだが、強襲の意図は無いらしい。こちらの油断を誘う作戦であることも否定は出来ないが……。


「いきなり武力行使は無しでお願いします」


「了解しました」


 ベッドから立ち上がりながらそう言うと、シルベスターさんは頷いてくれた。鞘に仕舞われたままの剣を伸ばし、カーテンの隙間へと差し込む。そして、ゆっくりと横に動かした。


 その先にいたのは。


「……クラン」


 魔法世界最高戦力と謳われる者。

 王族護衛『トランプ』に名を連ねる者。

 ハートの称号を預かる者。


 クランベリー・ハートだった。







「えっと、お邪魔します……」


 シルベスターさんに顔見知りだと伝え、窓を開けてクランを中へと入れてもらう。すぐに窓を閉めてカーテンを閉ざしたシルベスターさんは流石である。


 クランと言えば、いつものにこやかな雰囲気はどこへやら、おどおどした調子で俺とシルベスターさんへ交互に視線を移している。


「とりあえず座ってくれ」


 女性が2人に増えてしまったので、ベッドを2人に譲って俺は椅子に座る。2人ともなぜか顔を赤らめながら拒絶していたが、椅子は1つしかないからと言ったら神妙な面持ちで腰を下ろした。


「えーと。とりあえず、クランの用事はそれか」


 クランが持ってきた物へ視線を向ける。手にしているのは見覚えのある純白のローブと仮面。ローブはボロボロになっているが着れないほどではない。ウリウムの話では、エースによって血まみれにされたはずだが、赤い染みは見受けられなかった。あくまで魔力によって生成された『血』であって、魔法を解けば消えるのかもしれない。


 正直、タイミングが良すぎて怖いくらいだが助かったのは間違いない。『赤銅色の誓約』のアジトへ赴くのに学ランでは行けないからな。


「う、うん。それもあるんだけど」


 椅子から立ち上がって受け取ろうとしたら、クランはローブと仮面を自らの胸元へ抱きしめながら思いつめたような表情を俺へと向けた。


 え、ちょっと待って。

 なんで泣きそうなの?


「……ごめんなさい」


「え?」


「ごめんなさい、ごめんなさい! 私、あんなことになるなんて思わなくて。クィーンはちょっと話をしたいだけだからって言ってたし、それを信じていて……。まさか、あんな手段に出るなんて思ってなくて。ううん、これはただの言い訳だよね。本当にごめんなさい。まさかエースが――、ひうっ!?」


「わーわーわー!!」


 濁流のように解き放たれるクランの謝罪を大声で塞き止める。思わずクランの両肩を掴んで揺さぶってしまった。でも駄目。それはいけない。待って待って。本当に待って。ここでその話は絶対に駄目。


「……エース? アルティア・エースがいかがされましたか?」


 少し間を空けて座るシルベスターさんが、怪訝そうな表情でこちらを見ている。そして、その視線が俺からクランへと移り、そしてクランが抱きしめるローブと仮面へと向いた。


「メイカー様、まさかそのローブが損傷している理由は」


「これはね! アギルメスタ杯の時に着ていたやつなの! ほら、決勝戦でスペードと戦った時に着ていたやつ! ね、クラン! そうだよね! 今まで保管していてくれて本当にありがとう! 返してもらうね!!」


「え……、あー、うん。そうだね……。そうそう、お返しするね」


 涙が溜まった目を白黒させていたクランだったが、俺の意図が掴めたのか話を合わせてくれた。ファインプレイだ。素晴らしい。


 ほぼエマと同じような思想を持つ面々が揃っているであろう『白銀色の戦乙女』にこの情報が漏れたらどうなるのか。最悪、今晩攻城戦が開始されても不思議じゃない。


「本当ですか?」


 クランから俺へと手渡されるローブと仮面を、じーっという音が聞こえてきそうなほど凝視しつつシルベスターさんが聞いてくる。


「本当だよ?」


 声が震えていないのは奇跡に近い。


「私、メイカー様のアギルメスタ杯での活躍は存じております」


「あ、ありがとうございます」


「その一挙手一投足までこの眼に焼き付けんと、繰り返し繰り返し大会での様子は拝見しております」


「きょ、恐縮です」


「そのローブの損傷個所……、私の記憶にあるアギルメスタ杯ではあり得ない場所にあるのですが。私の記憶違いでしょうか?」


 ……。

 ぞわっとした。


 何と言うか、こう。

 言葉に表現できない感じ。


 シルベスターさんの目が細められる。


「メイカー様、これで最後にします。本当ですね?」


 ……。

 シルベスターさんの無表情の問いかけが怖すぎる。


「本当だ」


 ……。

 声、震えました。


 しばらく俺と視線を合わせ続けていたシルベスターさんだったが、軽く息を吐くと視線を外した。


「分かりました。メイカー様の御言葉は全て正しい。信じます」


「……どうも」


 助かった。

 女王陛下、やりましたよ。

 王城は無事です。


 助かったのは素直に嬉しいんだけど、その妄信だけは本当にやめて欲しい。思わず漏れそうになった安堵のため息を必死に抑え込む。


「あぁ、これは今の話とは無関係なことなのですが」


「何ですか?」


 無関係と言われたので、幾分か気持ちが落ち着いた状態で続きを促した。


「今後、もしメイカー様にとってアルティア・エースという存在が疎ましく感じることがあれば、どうぞ遠慮せず『白銀色の戦乙女』へご連絡ください」


 完全に不意を突かれたその言葉に、思わず「ひゅっ」と声が出てしまった。

 次回の更新予定日は、12月3日(月)です。

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