表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テレポーター  作者: SoLa
第9章 修学旅行編〈下〉
307/433

第0話 来訪

 私のマイペースな更新にお付き合い頂きありがとうございます。

 今回もとりあえずは週一更新を目指して頑張ります。




 春の陽気が続く日中帯から一変、夜は一気に冷え込んだ。頭上に広がる星々の群れは、澄んだ空気のおかげかいつもより一層煌びやかに光っている。


 魔法世界エルトクリアにおける十の都市のうちの1つ、中央都市リスティル。そこでもっとも格式高いとされるリスティル・プレミアムホテルは、予期せぬ来訪者を迎えていた。


 大きな自動ドアを潜り、エントランスホールへ足を踏み入れたのは2名の魔法使い。


 1人は、腰に差した剣を赤のチェックが入ったお洒落なローブから覗かせる女騎士。

 もう1人は、白のローブですっぽりと姿を覆った白仮面。


 魔法使いが訪れる事自体は、珍しくない。なにせ、ここは魔法世界エルトクリアだ。そういった客を相手にすることは多いし、危険区域ガルダーに挑もうと国外の魔法使いが完全装備の状態でここへ訪れることだってある。


 しかし。


「お帰りなさいま……、せ?」


 フロントマンは、これまで何千何万と口にしてきたそれを、正確に言い切ることが出来なかった。


 天上から吊るされた煌びやかなシャンデリアにも。

 壁に立てかけられた見事な肖像画にも。

 床に敷かれた見事な絨毯にも。


 素晴らしい美術品の数々に目を引かれることも無く、真っすぐに向かってくる魔法使い2人の正体を知って。


 ギルドランクS。

 ギルドに登録された魔法使い達の頂点に立つ存在。


『白銀色の戦乙女』率いるシルベスター・レイリー。

『黄金色の旋律』所属のT・メイカー。


 まさかの組み合わせである。この2人の関係性など知るはずもないフロントマンは、来訪者の予想外の組み合わせに目を白黒させてしまった。


 そうしている間にも、2人はカウンターまでやってくる。フロントマンは、極力2人の関係を邪推しないよう意識しながら口を開く。


「ようこそいらっしゃいました。当ホテルへは宿泊でよろしいでしょうか」


 シルベスターが答えた。


「赤銅色へ会いに来た」


「へ?」


 フロントマン自身、間の抜けた声が出たなという自覚はあった。


「連絡は不要だ」


 そう言って、シルベスターはアメリカドルをカウンターへと置く。そして、フロントマンの反応を見ることなく、隣にいた白仮面の魔法使いをエスコートするようにエレベーターへと向かってしまった。


 突然の事態について行けないフロントマンだけが残る。視線を下に向ければ、たった今、シルベスターが置いていったアメリカドルの束が崩れたところだった。決して安い金額ではない。


 魔法世界エルトクリアにおける通貨はエール。しかしその正体は、身分証明書でもあるクリアカードのシステムの一部となっている電子マネーだ。よって、チップなど機械を通さずにお金を支払いたい場合は、アメリカドルが活躍することになる。魔法世界エルトクリアは、自治権が与えられているとはいえ、正確に言えばアメリカ合衆国の領地。換金しやすいのはアメリカの通貨というわけだ。


 宿泊を目的としていない来訪。

 機械を通さずに支払いたいお金。

 決して安くは無い金額。

 それが果たして何を意味しているのか。


 フロントマンは、ごくりと喉を鳴らした。

 そして。







 シルベスターとメイカーは、到着したエレベーターに素早く乗り込む。閉扉ボタンをタッチしたシルベスターは、扉が閉まり切る寸前まで、もう片方の腕を帯剣した剣の柄へと添えていた。扉が閉まり、2人を乗せた機体はゆっくりと上昇を始める。


 目的地は、このホテルの最上階である23階だ。


 沈黙が場を支配する。エレベーターの動作音が耳障りに感じるほどだった。高級ホテルならではの高性能なエレベーターは、静音の性能も当然高い。それでもなお、その音が耳に残るほどの沈黙だった。


 それを破ったのは、このホテルに着いてから一言も口にしていなかったT・メイカーだった。


「……嫌な予感がするな」


 その言葉に、シルベスターが眉を吊り上げた。


 澄んだベルの音が鳴る。エレベーターの扉がゆっくりと開いていく。

 その先にあるのは、等間隔で扉が並ぶ廊下ではなく、開けた空間だった。


 23階という最上階であるにも拘わらず、そのフロアの中央には噴水があり、規則的にきれいな水を吐き出し続けている。噴水を挟んだ対面には、中央都市リスティルの夜景が一望できる横長に広がるガラス窓。贅沢な空間の使い方だった。今は『赤銅色の誓約』の面々が貸し切っているが、もともとVIP用に造られた階層だったのかもしれない。


 シルベスターを先頭に、メイカーもエレベーターから降りる。足場は絨毯だったため、足音もほぼしない。2人の背後でエレベーターの扉が閉まる。シルベスターとメイカーは、特に申し合わせることもなく、ほぼ同時に同じ方向へと顔を向けた。


 エレベーターを降りて右手。

 開けたフロアの先。

 細長い廊下となっているその場所に。


 1人の男が立っていた。

 黒の生地に、紫の龍の絵が刻まれた中華系の民族衣装。

 編んで後ろに垂らした黒髪に、キツネのような細目。


「ノーツ・チェン・ウールアーレ言うネ。ソッチから来てくれるなんて嬉しいヨ、『流星』シルベスター・レイリーと、『属性魔法の覇者(アーティスト)』T・メイカー。歓迎するアルヨ?」


 ノーツがそう言って両手を広げた。


 瞬間。

 ノーツの姿が消える。


 直後――――。

 次回の更新予定日は、11月19日(月)です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ