8章の本編に入れようか悩んだけど結局入れなかった駄文 その2
書き終えてから、ちょっとくどいなぁと思い取りやめにしたシーンです。
『8章争奪戦編 第7話 見栄』の場面なので、どう違うのかぜひ読み比べてみてください。
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綿密な打ち合わせのおかげで目立った問題も見られることなく、準備も順調に進み選抜試験は無事に始まった。
今回は俺もちゃんと生徒会として仕事を任されている。
前回は"出来損ないの魔法使い"やら大和さんとの喧嘩やら問題を起こしてしまったせいで、本館にある生徒会出張所に軟禁されてたからな。
俺が任されたのは『シューティング』と呼ばれる試験の補佐係だ。
10mほど離れた場所から、魔法球で的を倒していく。的は衝撃が加わると後ろに倒れる仕組みになっていて、倒れると1ポイント。倒されると勝手に起き上がるようになっているので、制限時間3分の間にとにかく倒しまくる試験だ。的には対抗魔法回路が施されているので、余程のことが無い限り砕けはしない。
また、的を倒した際の威力も算出されるようになっていて、詳しい基準は知らないが、そこでもポイントが加算される。一応簡単にポイント分けをすると、ただ倒しただけであまり威力が無い場合は0ポイント、ぼちぼち威力が高ければ1ポイント、かなり威力が高ければ2ポイントとなるらしい。2ポイントを獲得できる魔法球というものは中々無いらしく、教師の話によると「少なくとも属性付加させていないと無理」らしい。
威力の高い魔法を発現するには時間がかかる。詠唱する時間も必要だろうし、魔力を溜める時間もあるだろう。発現量が増えればコントロールも難しくなる。せっかくの高威力の魔法球だって、的に当たらなければ意味が無い。
制限時間内に、いかに多くの的を倒すのかと、どれだけの威力で的を狙うのかという駆け引きが重要だ。
この試験は魔法実習ドームの一区画で行われており、的5つが1セットで3セット用意されている。ボウリング場のように1セットずつ横並びで配置されていて、3人同時に試験をすることが可能だ。それぞれAレーン、Bレーン、Cレーンとされていて、俺はCレーンの記録係である。
やることは多くない。
体育館やいくつもある魔法実習室、別館など、各自異なるタイムテーブルに従ってあちこちを回りやってくる受験生から受験票を受け取り、こちらのスタートの合図で試験開始。3分間、受験生がひたすらに魔法球をぶっ放しているのをただ眺めているだけ。
倒された的は自分でポイント加算の計算をした上で勝手に起き上がるし、着弾した威力から勝手にポイント換算するし、それらは俺の手元にあるモニターで表示される。倒された回数、威力による加算ポイント、そしてその合計ポイントまで。
後はそれを受験票に記載し、受験生に返す。それでその受験生は終了。回って来た次の受験生から同じように受験票を受け取り次の試験を開始。ひたすらにその繰り返しだ。
たまに高威力の魔法球によって的が破損することがあり、その際はスペアと交換する作業があるが、本当に稀だ。その時も、破損と同時に機械が自動でタイマーを止めてくれるし、止まった瞬間からポイントの加算も一時停止する。その間に魔法球を何発受けようとポイントの変動は無し。こちらも落ち着いて受験生に「待った」を掛けられる。機械が本当に優秀すぎる。
テニスラケットでボールを打った時のような、パカパカいう音がただひたすらに鳴り響いている。
また1人、試験が終わった。
「お疲れ様でした。次は発現量と発現濃度の測定ですね。魔法実習室Gになります。場所を間違えないように気を付けてください」
合計ポイントとその内訳を記入し、シューティング試験官名の枠に生徒会のハンコと自分のサインを入れてシューティング試験を終えた受験生に手渡す。そして次の受験生から受験票を受け取る。そんな作業がひたすら続く。
選抜試験は2年生の2学期から。1年生の参加は無く、通常の期末試験のみが行われる。つまり、この選抜試験の受験生は2年生と3年生だけだ。異なるタイムテーブルに従って数々の試験を受けているので、ここに来るのも順番はバラバラ。
ただ、やはりというべきか。
結果を見れば2年生と3年生のポイント差は一目瞭然だ。
2年生になってようやく属性付加の練習をすることになるため、2年生で属性球を発現する人間はほぼゼロ。威力によるポイントを狙い始めるのはやはり3年生からだ。もちろん、3年生にもスピード重視で多くの的を倒す受験生はいる。ただ、そういった3年生は詠唱破棄による恩恵を受けている者だけだ。当然、完全詠唱で臨む2年生よりも倒す的の数は比べ物にならない。
1セット5つの的が用意されているのは、スピード重視の学園生のため。倒れた的は反動ですぐに起き上がってはくるものの、数が少ないと詠唱破棄して次々に魔法球を放つ受験生にはどうしても後れを取ってしまうからだ。
1回の詠唱で発現される魔法球が1発とは限らない。複数発を同時に発現できる受験生だって当然いる。そしてそれは3年生の方が格段に多い。
合計ポイントは3倍から4倍、5倍近くの差がつく時だってある。同じ作業の繰り返しではあるものの、各自様々な対策を立てた上で挑んでくるので、見ている分には面白い。
また1人、試験が終わる。
「お疲れ様でした。次は……、防御魔法の測定ですね。魔法実習室Bになります。場所を間違えないように」
気を付けてください、と。
そう続けて受験票を渡そうとしたらその声を遮られた。
「中条君もお疲れ様です!!」
「え? あぁ、ありがとう」
話したことも見たこともない女子だった。
「特別試験、見に行きますから! 頑張ってくださいね!!」
「あ、ありがとう。頑張るよ。吉田さんも頑張ってね」
逆に応援されてしまった。
なので、ちらりと受験票の氏名欄を確認してから手渡す。
俺の対応に満足してくれたのか、吉田さんは照れたようにはにかんでから「ありがとう。えっと、……あの、……何でもないです」と言いその場を去った。
「……、えーと、次の方、こちらへどうぞ」
何とも言えないむず痒い気分を味わいながら、順番待ちしていた次の受験生を呼ぶ。隣に座るBレーン担当の教師は何も言わずこちらも見ない。粛々と自らの担当している受験生を見ている。大人である。
受験票を受け取り、受験生に位置についてもらう。
「準備は良いですか? それでは……、スタートです」
手元のボタンを押し、試験開始。
お、うまい。今度は3年か。1回の詠唱で3発ずつ発現しており、狙いも的確。たまに属性魔法も織り交ぜている。これはかなりいい成績を取りそうだ。
あっという間に試験が終わる。
「お疲れ様でした。次は攻撃魔法の試験ですね。場所は魔法実習室Fになりますので、場所を」
間違えないように、と言うより早く受験票を持つその手を握られた。
「中条君、私、特別試験見に行くわ。カッコ良いところ期待してるからね?」
今度は大人の色香を振りまく先輩女子である。シューティング終了直後のため、呼吸も乱れ、しっとりと汗ばんでいるところもまた……。
「あ、ありがとうございます。頑張りたいと思います」
ピンク色の妄想を振り払ってそう告げる。
が。
「……私のことは名前で呼んでくれないのかしら」
「えーと、北条先輩も試験頑張ってください」
受験票の氏名欄をチラ見してそう答えた。先輩はにっこりと笑みを浮かべからその場を去る。あの寂しそうな表情が嘘のような笑顔だった。何という演技派。
「……、え、えーと、次の方、どうぞ」
身悶えしたくなるようなむず痒い気分を抑えつけ、順番待ちをしている次の受験生を呼ぶ。隣に座るBレーン担当の教師は何も言わずこちらも見ない。粛々と自らの担当している受験生を見ている。大人である。
「お、お願いします!」
握っているのはラブレターかと疑いたくなるような必死さで、次の受験生が受験票を差し出してくる。大人の対応を心掛け、それをスルーして受験票を受け取る。というか、さっきから俺の担当女子多くね?
「はい、お願いします。それでは位置についてください」
そう告げながら、ちらりと順番待ちしている受験生の列へ目をやる。そこでは、丁度次の番だった受験生の女子が、自分の後ろに並んでいた男子に順番を譲っているところだった。
おい。
その行為にはいったいどんな意味があるというのかね。
もちろんそんな問いかけに意味などない。案の定、その女子は俺が担当することになった。隣に座るBレーン担当の教師は何も言わずこちらも見ない。粛々と自らの担当している受験生を見ている。大人である。
俺が担当になるまで女子は男子に順番を譲り続ける。受験票を返すタイミングでお互いに激励を交わし合うことが形式化し始めた。最後に俺が女子の名前を呼ぶところまでがデフォルトらしい。名前を呼ばないとその女子は次の試験に向かわない。隣に座るBレーン担当の教師は何も言わずこちらも見ない。粛々と自らの担当している受験生を見ている。大人である。でもちょっとこめかみに青筋が立っているのが見える気がする。
俺が担当になるまで女子が男子に順番を譲り続けるせいで、シューティング試験の順番待ちをする男子と女子の比率がおかしくなる。というか、男子が枯渇する。順番待ちの列があるにも拘わらず、男子は割とスムーズに試験を受けられるようになる。更に男子が枯渇する。隣に座るBレーン担当の教師は何も言わずこちらも見ない。粛々と自らの担当している受験生を見ている。大人である。でもちょっと肩がぷるぷるしてきた気がする。
女子はひたすらに順番を譲り続ける。ついには同性同士で順番を譲り合うようになる。俺が担当するCレーン以外は、男子が来ない間は暇ができるようになった。それでも待ち続ける女子が現れる。隣に座るBレーン担当の教師は何も言わずこちらも見ない。粛々と自らの担当している受験生を見ようにも受験する生徒がいない。口元をわなわなさせながら俯いている。ちょっと怖い。
女子はひたすらに待ち続ける。AレーンとBレーンはほぼ稼働していない。たまに来る男子が首を傾げながらどちらかで受験する。しばらく暇をしていたAレーンの教師が、苦笑いを浮かべながら自分の担当するレーンの後片付けを始めようとした。
隣に座るBレーンの教師がついに切れた。
「いい加減にせんかァァァァ!!!!」
魔法実習ドームに怒りの咆哮が反響する。Bレーン担当の教師が「空いてるレーンに回らない奴は0点にするぞ」と吠えたところで、ようやくこの現象は終わりを告げた。
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遅めの昼休憩をもらい、昼飯は生徒会出張所で済ませた。午後からも特別試験ぎりぎりまでシューティング試験の試験補佐を務める。知り合いと呼べるほどの奴らは現れなかった。おそらく、俺が昼休憩をもらっている間に受験したのだろう。残念。
まあ、あのタイミングで舞や可憐が来なかったのは救いだったというべきかもしれない。色々と面倒なことになりかねない。
執筆中小説一覧がいつの間にか5ページまで増えてしまっていた。
解せない。
そんなわけで、昔書いて放置状態だったいくつかを掘り出してきました。
楽しんで頂けたのなら嬉しいです。