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テレポーター  作者: SoLa
第9章 修学旅行編〈中〉

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第16話 中央都市リスティル

 誰か。

 誰か彼らを止めることが出来るやつはいないのか。


★




『まずはT・メイカーを潰すとしよう。それで白銀色も釣り上げられたら儲けものだ。ギルドランクSに数は必要ない。なにせ、一騎当千の集まりだからね。邪魔者から順次始末していくことにする。異論は無いな?』


「ですって」


 盗聴器からもたらされる会話を垂れ流しながら、ケネシー・アプリコットは笑顔で振り返った。笑顔で、とは言うものの目はまったく笑っていない。その眼光に宿っているのは、もはや殺意だった。


「想像以上に短絡的な思考回路だな。失笑すら出来ない」


 カップをソーサーに戻しつつ、シルベスター・レイリーは溜め息を吐く。今なお続く『赤銅色の誓約』たちの会話は、『白銀色の戦乙女』の神経を逆撫でする一方だ。


『魔法世界から出国される前に叩き潰さねぇと面倒だぜ。ギルドランクSに上がったとはいえ、俺様たちはまだ国外では無名に等しいんだ。融通は利かねぇぞ』


「あはは、面白ぉい。まるで魔法世界内なら色々と融通が利くと思ってるよ、この人たちぃ」 


 チルリルローラ・ウェルシー・グラウニアは、頬に付いたアイスを舐めとりながら大笑いしている。が、ケネシーと同じく目はまったく笑っていなかった。


「無音白色よりも優先順位が高くなったのは確定的だ。殺すよな?」


「それよりも、T・メイカー様にこの情報を伝える事の方が優先されるべきでは。無用な火の粉を払うという意味ではレッサーが正しいですが、もしかするとT・メイカー様はご自身の手で始末したいと考える可能性があります」


 無意識のうちに双剣へと手が伸びていくレッサー・キールクリーンを窘めるように、アイリーン・ライネスが今後の方向性について口にする。それにルリ・カネミツが賛同した。ルリはホログラムで制服姿の聖夜の写真を表示させる。


「違いない。ここまでコケにするとは、T・メイカー様も激おこ間違いなし。まずは指示を仰ぐべき。幸いにして、身元の特定は済んだ」


「中条聖夜様。日本の青藍魔法学園の2年生。その学園において最強の称号である『青藍の1番手(ファースト)』を所持。また、生徒会の副会長職に就いている模様」


 フェミニア・アン・レンブラーナがすらすらと詳細を述べていく。


「現在は、修学旅行でこの魔法世界を訪れているようですわ。宿泊施設は歓迎都市フェルリアにある、ホテル・エルトクリア。部屋番号は0514」


「短期間でよくぞそこまで調べてくれた。なら、お伺いすることは可能だな」


 お伺い、という単語をシルベスターが口にした瞬間、残りのメンバーは1人の例外も無く無言で挙手をした。


「……なんの真似だ?」


 分かってはいるが、幾分かうんざりしたような面持ちでシルベスターは問う。


「その役目、私に」


 そうして当然「分かってんだろ」と言わんばかりにケネシーが返した。他の面々も、声は出さないものの一層高く挙手をする。ルリに至っては座っていた椅子に乗り、ジャンプまで始める有様だった。


「皆、一度手を下ろせ」


 眉間を揉み解しながらシルベスターは言う。挙手をしていた面々は、各々視線で牽制しながら手を下ろした。


「結論から言おう。私が行く」


 不満が爆発する前に、シルベスターは手で制した。


「まずは理由を聞け。T・メイカー様の御考え次第では、すぐに行動することになる。場合によっては同伴を求められるだろう。ならば、もっとも強い者が行くべきだ」 


「数で制圧すればいい」


 真っ先にレッサーが反論した。


「クリアカードの連絡先を知らない以上、直接お伺いするしか手段がない。押しかける数が多ければ、それだけ周囲に悟られる危険がある。T・メイカー様は修学旅行で来ているんだったな。そちらに影響を及ぼすことは本意ではない。違うか」


「むぅ」


 ルリが唸る。


「それにこのお伺いは、交易都市クルリアで不用意に接触した面々の謝罪の意味も込めている。クルリアで接触した際、T・メイカー様はご学友と行動を共にされていたと聞いている。正体を明かしていなかった場合、お前たちの行動はそのご学友の目にどう映った?」


 アイリーンが気まずそうに目を逸らした。


「仮に問題が無かったとしてもだ。お前は無音白色を処刑中だったな。普通の学生ならそんな血生臭いシーンとは無縁のはずだ。楽しんでいた修学旅行に水を差された気分にならないか?」


 チルリルローラも気まずそうに目を逸らした。


「以上の理由を以って、『白銀色の戦乙女』を代表し私が行く。そして、この場にて約束しておこう。私はあくまでこのグループの代表として行く。よって抜け駆けは一切しない」


 なぜかケネシーも気まずそうに目を逸らした。


「ただ、先ほどレッサーが言った『数で制圧』も正論だ。T・メイカー様が我々で処理するよう命じられた場合は、万全を期して行動したい。どちらにせよ、T・メイカー様が『生かす』と言わない限り殺すことは確定だ。我々は外聞を気にする必要は無い。ならば、数で潰す。塵芥すら残さぬ。必要なのは『黄金色の旋律』にとって有用な駒であることだ」


 その言葉の意味を正確に理解したフェミニアは、立て掛けていた己の得物を一撫でする。


「よって、お前たちは完全武装で待機せよ。必要に応じて私から連絡を入れる。異論はあるか」


 異論は無かった。

 シルベスターは1つ頷くと、自らの胸元に拳をあてる。


「全ては『黄金色の旋律』のために」


「全ては『黄金色の旋律』のために!!」


 シルベスターに続くようにして、残りの面々も復唱する。

 彼女たちのアジトの片隅では、未だに『赤銅色の誓約』らの会話が垂れ流されていた。




☆




 宗教都市アメンでの観光を終え、中央都市リスティルまで戻ってきた。


「随分と賑わっているな」


 駅に降りた瞬間からそう感じた。観光客向けの商業施設が集中している都市でもあるし、こんなものなのだろうか。そう思っていたら、号外を配っている人を見つけた。


「どうやら、新たにギルドランクSへの昇格が決定したグループがいるようです」


 俺が情報を欲していると理解するや否や、エマは真っ先にその号外を押さえている。こんなところで身体強化魔法を使うんじゃない。魔法世界内だからよくある光景なのか、周囲がまったく騒がない状況がむしろ意外である。


 エマに差し出された号外を有難く受け取り、見開き1ページを見てみる。『「赤銅色の誓約」、ガルダーより堂々の凱旋』という文字が踊り、各メンバーの詳細が書かれている。


「槍と双剣の近接2人、天蓋魔法も発現可能な砲台1人、全体への支援役1人、防御と回復役が1人か。随分とバランスの取れたグループのようだな」


 寄せ集めに過ぎない『黄金色の旋律』とは違うな。

 おまけに全員が漏れなくイケメンである。


 爆発しろ。


 礼を言って号外を返すと、エマは受け取ったその手で号外をくしゃくしゃにした。その光景に驚いて思わず二度見してしまう。


「ど、どうした、エマ」


「どうした、とは?」


 俺の質問の意図が心底読めないといった表情で、エマが首を傾げる。その間もエマの両手は号外をくしゃくしゃにし続け、遂には紙で出来たボールになった。


「い、いや。何でくしゃくしゃにしたのかなって」


「私に必要な情報はありませんでしたので」


 あ、そう。


「どうせなら、早朝に配ったというT・メイカー様の号外をもう一度配って欲しかったです。それなら在庫ごと回収して大切に保管させて頂きました」


 そうっすか。


「これでギルドランクSのグループは3つめになるのね。素行良好なグループのようだし、ギルドもようやく落ち着けるんじゃない?」


 舞が笑いを噛み殺しながら可憐と仲良く号外を読みつつ言う。その点については、俺の方からはコメントを控えさせて頂く。そんなことを話しているうちに、お目当てだった魔法具を多く取り扱う巨大なショッピングモールが見えてきた。


 中央都市リスティルは、武闘都市ホルンの大闘技場や創造都市メルティの学習院、宗教都市アメンの神殿のように、他の都市と違って何かに特化した都市というわけではない。ただ、魔法世界の中心にある都市ということもあり、飲食店やら雑貨店やらと様々な店舗が揃っている。また、魔法世界にある10の都市の中で一番面積が広い。


 色々と回っているうちに良い時間になるだろう。




★




「これでいいな?」


 シルベスターは血で汚れた親指をハンカチで拭いながら言う。彼女の目の前にはまだ乾いていない血判が押された誓約書が広げられていた。


 クリアカードが普及し、魔力を利用したデジタル化が進んでいる魔法世界ではあるが、紙媒体の書類の普及率は未だに衰えてはいない。本当に大切な書類には直筆のサイン、場合によっては血判も添えることで複製を不可能とするのだ。


 だからこそ、ギルドのクエスト掲示板でも紙でクエストが貼られている。

 いたずらに必要の無いクエストを依頼されないようにするためである。


 難易度の低いクエストならば直筆のサインだけで済むし、難易度が低くかつ同じ内容のクエストを何度も依頼しているようなケースでは、サインすら省略できる場合もある。しかし、危険区域ガルダーでの素材採取等の高難度のクエストを依頼する際は、ほぼ確実に血判も必要となる。


 そして、その高難度クエストと同じレベルの重要書類として、今回の誓約書は作成された。それほどまでに、この誓約書は『白銀色の戦乙女』の面々にとって大切なものだったのである。


 すなわち、『私は今回の一件で、絶対に抜け駆けはしません』だ。


 誰もが、シルベスターが己の親指の腹をナイフで切り、血で濡れたその指を誓約書へ押し付けるまでの光景を凝視していた。不正など絶対に許さないと言わんばかりに、容疑者を尋問する警察官の如く1人椅子に座るシルベスターの周囲を取り囲み、この誓約書を作成させた。


 当然、破れば死である。


 それが当然だとしてシルベスターは誓約書の作成を認めたし、残りの面々も当たり前だとして一連の行動を見守っていた。そして、その誓約書が完成した直後である。


 誰かのクリアカードがコール音を鳴らす。


「……私です」


 アイリーンが懐から自らのクリアカードを取り出した。そして、そこに表示された名前を見て眉を吊り上げる。


「誰だ」


「ジャック・ブロウです」


 シルベスターからの問いに答えたアイリーンは、そのまま通話ボタンを押した。通話相手のホログラムがクリアカードの券面に表示される。無論、表示されたその姿はジャック・ブロウ本人だった。


『ライネス、聞きたいことがある』


 挨拶も何も無く、単刀直入にジャックは言った。


『今日、創造都市メルティに赴いたか』


「それが何か?」


 行った行ってないではなく「それがどうした」と返すアイリーンだったが、ジャックはそのようなことで怯むような存在ではない。


『白銀色と無音白色が乱闘騒ぎを起こしたという情報が入っている。事実か?』


 アイリーンは返答する前に視線をシルベスターへ移す。

 シルベスターは無言で頷いた。


「事実よ」


『……理由は?』


「それを貴方に説明する義務はない」


 言葉を飾らないアイリーンからの明確なる拒絶に、ジャックも思わず言葉に詰まる。しかし、すぐに気を取り直したのか、ジャックは頭を振りながら口を開いた。


『ライネス。お前たちはギルドランクSを与えられたグループなのだ。他のグループの模範となるよう心掛けてもらわねば困る』


「交戦の原因を作ったのは向こう。私に言われても困るわ。それに、こちらも被害者よ。先ほどアジトの1つを潰さざるを得なくなった。レッサーは街中で銃撃されるし、なぜこちらばかり文句を言われなければならないのかしら」


 アイリーンがジャックへ文句を言っている間に、フェミニアがシルベスターとケネシーのもとへと歩み寄る。そして、声を潜めてこう口にした。


「赤銅色の件、『トランプ』に話してしまった方がよろしいのでは?」


「『トランプ』に頼るくらいなら私たちで潰すわ」


 打てば響くような速度でケネシーがそう返答する。しかし、フェミニアが食い下がった。


「勿論、潰すだけならそれでいいと思いますわ。ただ、わたくしが『トランプ』を利用すべきだと考える理由は別にあります」


「言ってみろ」


 シルベスターが先を促す。

 ケネシーもしかめっ面を見せつつも聞く気はあるようだった。


「昨日、T・メイカー様の捕縛作戦をギルドが取り下げた際、それでも続けるグループは除名対象になると言っていましたわ。『赤銅色の誓約』の面々がその情報を仕入れていないとは思えません。それでもこのような愚行に走ろうとするということは――」


「なるほど。ギルドランクSのグループに与えられた特権のひとつを頼ろうとしている、ということか」


 シルベスターの呟きに、フェミニアが頷く。


「その通りですわ。ギルドランクSが与えられている者は、魔法世界の安寧を保つため、ギルドからの指示を受ける余裕がない場合に限り、独自の判断での行動が許されます。その規則を乱用すれば己の行動を正当化できると考えている可能性がありますわ」


「否定できないわね」


 ケネシーが顎に手を当てながらそう口にした。シルベスターはため息を吐くと、ジャックと半ば言い争いになりつつあるアイリーンの名を呼んだ。


「アイリーン、ジャック・ブロウへ赤銅色の件を報告しておけ」


 一瞬だけ視線をシルベスターへと向けたアイリーンだったが、すぐにクリアカードの券面に表示されているホログラムへと戻す。


『多少のことくらい、受け流せるだけの余裕を持ってくれ。お前たちが騒げばそれを見た他の――』


「ジャック、私の方からもひとつ報告したいことがあるのだけれど」


 図々しくも自分の口上に被せるようにしてそう口にするアイリーンへ、ジャックの口角が一瞬だけひくついた。


『……何だ。厄介事だけは持ち込んでくれるなよ』


「これが厄介事に発展するか否か。それは私たちでは分からないことよ」

 近いうちにもう1話更新します。

 それで修学旅行編〈中〉はおしまいです。



※作中、ルリの言っている「激おこ」とは「激怒している」の俗語です。

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