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テレポーター  作者: SoLa
第9章 修学旅行編〈中〉
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第3話 『黄金色の旋律』T・メイカーvs『トランプ』アルティア・エース ③

「見事だ。我が血属性をここまで躱し続けるとはな」


 魔法服に付着した血のような液体を払いながら、エースはさらりと自らの幻血属性の正体を口にする。「やはり『血』か」と思いつつも、聖夜の思考の大半を占めていたのは別の事だった。上半身と下半身を真っ二つにされたにも拘わらず、エースのその身体は当然のように両断されておらず、それどころか魔法服に至るまで傷1つ見つけることは出来ない。


「いよいよ訳が分からないぞ……」


 それを遠目で眺めながら、メイカーは仮面の下で独り言のように呟いた。その声はエースには届かなかったのだろう。特に何の反応を示すこともなく、エースは右手の人差し指を口元へと運び、その腹を八重歯で傷つけた。鮮血が滴り落ちる。


「……傷をつけることはできている。それはつまり、全ての攻撃を無力化するわけではないということだ。自傷行為では発動しない魔法か? 何らかの条件に合致した時に限り攻撃が通る? 違うな、それだけだと自傷行為の説明がつかない。……自傷行為があの防御魔法の発現条件? それとも自傷行為とあの防御魔法は別々と捉えるべきか?」


 エースの背後に、『混血(ベニクレナイ)魔弾(マダン)』が発現されていく。その数、100。


「無詠唱であの数か。自重が無くなってきているという話では無いぞ」


 自重を無くすというより、遠慮は不要という結論に至った可能性の方が高いわけだが。

 メイカーはそう考えながらも、吐き捨てるように呟く。


「あまり安易に結論付けるのはまずいが……、あの自傷行為は血属性の方の発現条件かな?」


《可能性は高いわ。断言はできないけど》


 メイカーの呟きを拾ったウリウムが賛同する。


 幻血属性『血』。

 自らの血を代償に発現する魔法。


 これまでの自傷行為のタイミングからみてもその可能性は非常に高い、とメイカーは考える。エースが血属性を使い始めたのも自傷行為の後だ。後は定期的に自傷行為を繰り返し、血属性を発現し続けている。


 流石に、血属性を発現する前には必ず血を流しているわけではない。もしかしたら直前では無くても構わないのかもしれない。


 血を流した量で血属性の発現量が変わるとか。

 自傷行為を繰り返すことで継続的に血属性を発現できるようになるとか。


 やろうと思えば、条件などいくらでも考えることができるのだ。そもそも血属性発現前には必ず血を流さなくてはならず、エースはメイカーに悟られないよう、こっそりと自傷行為に及んでいた可能性だってある。


「……まだ情報が少なすぎるな。これ以上の考察は危険か」


 情報が少ない現状では、考察ではなく妄想の類で完結してしまい、結果として痛い目を見ることだってある。


「『混血(ベニクレナイ)凶釼(キョウケン)』」


 エースの右腕に禍々しい液体が纏わりつき、それが両刃の太刀のようなものを形作った。


「さて……」


 エースの呟きと同時に、背後で待機状態にあった魔弾全てが射出される。


「行くか!!」


 少し遅れて、エースも跳躍。


「『弾丸の雨(バレット・レイン)』!!」


 メイカーは魔力の礫で魔弾を迎撃しつつも後方へと跳躍した。エースの右手に構える太刀へ手のひらを向ける。


 瞬間。

 禍々しい色をした太刀が、エースの手元でどでかい風穴を空けてはじけ飛んだ。


 真っ赤な液体の入った水風船が破裂したかのような勢いで、エースの身体が更に赤く染まっていく。しかし、エースは止まらなかった。右の拳を振りかぶり、メイカーのもとへと肉薄する。


「くそっ! 当然のように血属性とやらは自分には影響無しか!」


 再びの近接戦。

 メイカーもそれに応じようとして――。


《っ!? マスター、駄目っ!!》


 突き込まれる拳を、強引に身体を仰け反らせることで回避するメイカー。ウリウムの言葉数は少なくとも、その意味は正確に理解できていた。


 そう。

 今のエースの(、、、、、、)拳は(、、)血のようなもので(、、、、、、、、)濡れている(、、、、、)


 鼻先数ミリのところを通り抜けた拳の行方を追う暇も無い。エースの足蹴りを、メイカーは仰け反ったままの無理な体勢のまま跳躍することで回避。宙で身体を回転させて、振り下ろされる手刀もぎりぎりのところで躱す。


 右手、それもタイルの汚れている部分に触れられないが為に、親指、中指、薬指の三本のみを地につけ、全身強化魔法の力を借りて、一気に宙へと舞い上がる。


 当然、エースはそれを逃さない。


「『混血(ベニクレナイ)怨槍(オンソウ)』」


 明らかに魔法による加速を得たと思われる勢いで投擲されたそれは、馬鹿みたいな轟音を鳴らしながらメイカーを一直線に貫かんと迫る。それを紙一重で回避したメイカーだったが、視線をエースへと戻した時には、既にエースが目前へと迫っていた。エースの手がメイカーへと伸びて――。




 空を切った。




 目標を見失ったエースは直ぐに探知魔法を展開。しかし、メイカーを捕捉するのとほぼ同じタイミングで放たれた一撃への回避は間に合わなかった。メイカーの『不可視の砲撃インビジブル・バースト』が、エースの脇腹付近をごっそりと抉り取る。


「先ほど俺の釼を吹き飛ばしたのもこの技法か……。発現スピードに対してこの威力……、面白いな」


 そう口にするエースの身体が原型を失くす。

 そこへ。


「『不可視の弾圧(クラック・ダウン)』」


 膨大な魔力による問答無用な叩き潰しが襲った。羽音を立て、群れとなっていた蝙蝠の大半が墜落し、3番通りのタイルごと押し潰されていく。


「まだだ!!」


 それを見下ろせる屋敷の屋根へ転移していたメイカーが、濃密な魔法世界の魔力すらも利用し、更なる魔力を練り上げていく。


 そして。


「『不可視の潰滅(オール・アウト)』」


 中条聖夜という規格外の発現量を有する魔法使い。

 そして、魔力濃度の高い魔法世界という環境。


 それら2つが合わさって初めて実現する大規模魔法が発現した。


 3番通りの先ほどまでエースが立っていた場所を中心として、全ての物が例外なく圧し潰された。大規模とは言え、メイカーはその発現範囲を極限まで絞っている。


 しかし、絞ってなお、隣接する屋敷の塀は巻き込んだ。凄まじいほどの轟音と共に、巨大なクレーターが形成される。


「っ、はぁっ!!」


 膨大な魔力を一気に解放したことによる脱力感がメイカーを襲う。片膝をついたメイカーは荒い息を吐きながら、惨状となっている現場を睨みつけた。


「……やったか?」


 自重無しの本気の一撃である。これでエースのあの防御魔法を抑え込めなければ、魔力による強引なダメージ貫通は不可能と見るべきだ。メイカーがそう考えるほどの一撃だった。


 しかし。

 背後から振るわれる手刀を首を反らすことで回避する。だが、その後の二撃目、三撃目は無系統無しでは回避不可能と判断し、『神の書き換え作業術(リライト)』を発現して回避した。


 3番通りを挟み、反対側の屋敷の屋根へと転移する。


「……あれでも駄目なのか」


 これで、エースの防御魔法は魔力によるゴリ押し戦法での突破は不可能であることが判明したことになる。


《マスター》


「ああ」


 ここが限界。

 メイカーはそう判断した。


「ついに使ったな。これが貴様の無系統魔法というわけだ」


 エースは左手の人差し指の腹を切りながら言う。鮮血が屋敷の屋根へと滴っていく。その行為を見て、なぜかメイカーは違和感を覚えた。先ほど安易に結論付けるのはまずいと思いつつも、血属性の発現条件であると考えた。それが間違いであると、脳裏から警鐘を鳴らされているような。


《マスター!!》


 跳躍。

 後方へ。

 4番通りへと姿を消す。

 

「ふん、逃げ切れると思っているの――、か!?」


 後を追おうと足に力を込めたところで、エースは死角となる場所から膨大な魔力が膨れ上がったことを察知した。


「何を――」


 跳躍して3番通りを飛び越え、先ほどまでメイカーが立っていた屋敷の屋根へと着地する。


「何を考えている!? よせ、ここがどこだか分かっているだろう!!」


 既に今更感はあるものの、それでもエースはそう言わざるを得なかった。死角となる4番通りから吹き荒れる魔力の暴風に逆らうようにして、エースが怒鳴る。しかし、それで結果が変わるようなことはない。


 見る者を慈愛の精神で包み込むような。

 色鮮やかな青の魔法陣が浮かび上がる。


 RankAの天蓋魔法。

激流の天蓋(アクセリアム)』が発現した。


「貴様、本当に正気を失ったと見える。まさか、よりにもよって天蓋魔法だと……!?」


 更に跳躍。

 屋敷の屋根から屋根へと飛び移り、4番通りが見下ろせる位置へと移動する。

 同時に。


「『拒絶(きょぜつ)招来(しょうらい)(てき)(こば)め』、『混沌の壁(ヴァミンレーア)』!!」


 闇属性RankBの障壁魔法『混沌の壁(ヴァミンレーア)』。エースによって詠唱破棄にて発現された100枚を遥かに超えた障壁が、天蓋魔法の射程を取り囲むようにして次々と展開されていく。


 エースを以ってしても、流石に不意を突かれた天蓋魔法を相手に、結界魔法を間に合わせることはできないと判断。障壁魔法発現へと思考を切り替えたわけだが、結果としてみればそれは正解だった。


「T・メイカー!!」


 今ならまだ間に合うぞ、と。

 そう呼びかけようとエースはその名を呼んだが、既に時遅し。


 メイカーが右腕を振り下ろし、天蓋魔法『激流の天蓋(アクセリアム)』は魔法球を吐き出し始めた。使用者の魔力が尽きるまで魔法球を吐き出し続けることが出来る、凶悪な砲台が唸りを上げる。


 エースの展開した障壁魔法は次々と破壊されていく。

 しかし、それはエースにとっては単なる時間稼ぎに過ぎなかった。次の詠唱をほぼ終えたエースが、最後のキーとなる言葉を口にする。


「『混沌の檻(ヴェルガリアン)』」


 天蓋魔法と同じく、RankAに位置する高等技術。

 闇属性の結界魔法『混沌の檻(ヴェルガリアン)』が発現した。


 当然、対象となるのはメイカーの発現した『激流の天蓋(アクセリアム)』。黒に紫を帯びた立方体状の結界が、メイカーの天蓋魔法を閉じ込める。


「『混血(ベニクレナイ)魔弾(マダン)』」


 その魔弾の数は200を超えていた。エースの跳躍と共に射出された魔弾は、弾丸の如き速さのエースを追い抜き、メイカーの下へと殺到する。メイカーが軽い仕草で左腕を振るった。その動きに呼応するようにして、水属性の障壁魔法『激流の壁(バブリア)』発現された。


 湿った水音を轟かせながら、魔弾の雨が次々と障壁へと着弾していく。障壁に阻まれて飛び散っていく血飛沫によって、メイカーは一瞬ではあるがエースの姿を見失った。


 それが命取りとなった。


「『混血(ベニクレナイ)怨槍(オンソウ)』」


 その声は、メイカーのすぐ傍から聞こえた。咄嗟に身体を捻る。


 しかし、間に合わない。

 エースの手にした禍々しい色をした槍が、メイカーの左腕を貫いた。


 否。

 メイカーの左腕に達した槍は、そのまま血飛沫を上げて砕け散る。直後、そのままメイカーの全身を汚すはずだったそれは、エースから見て不自然な方向へと弾き飛ばされた。


 しかし。


「触れたな!! T・メイカー!!」


 メイカーの回し蹴りをエースが回避する。その隙を突き、メイカーが一気に後退した。4番通りのタイルを滑るようにして着地し――。


 そのまま倒れ、4番通りを転がった。同時に、エースの結界魔法に閉じ込められていた天蓋魔法が音を立てて砕け散る。


 エースはその後を追わなかった。身体を捻りすぐに体勢を整えるメイカー。少なくとも、痛みは感じられず自覚症状も無い。猫だましかと思い、メイカーが新たな魔法を発現させようとして。




 魔力が上手く練れないことに気付く。




「……感染したな(、、、、、)


 メイカーの動揺が手に取るように分かったエースは、そう告げた。


「まったく……。この俺に幻血属性を発現させて、ここまで粘った者もそうはいないぞ」


 その口調は言葉通り称賛よりも呆れが混じったものだった。


「俺の血属性に直接的な攻撃力は無い。こいつの最たる能力は『感染』だ」


 立ち上がろうとしてふらつき、そのまま膝をついたメイカーへ、冷徹な視線を送りながらエースは言う。


「言っている意味が分かるか? 今、貴様の魔力にはその左腕を感染源として不純物が混じり始めているということだ。それは徐々に貴様の魔力を侵食し……」


 ニヤリ、とエースが嗤う。


「やがて、魔法が使えなくなる」


 全身強化魔法『激流の型(ブルー・アルマ)』を使っているにも拘わらず、聖夜の左腕からは徐々に魔力が放出されなくなってきていた。そして、その身体に纏わりついている水の膜にも、左腕から赤黒い液体が侵食しつつある。


 その現象は、エースの言葉がまさに真実であることを証明していた。


「想像以上に手こずらせてくれたものだ」


 エースは自傷行為によって傷ついた己の手を見ながら言う。


「これだけ俺が手の内を晒して、ようやく無系統魔法を2回使わせただけとは……。貴族都市ゴシャスへ生じた被害を考えると、完全に割には合わないわけだが……」


 エースの視線がメイカーへと戻る。


「T・メイカーよ、降伏しろ。そうすれば直ぐにでもその現象を解除してやる」


 エースの言葉に、自らの左腕を見下ろしていたメイカーの顔が上がった。仮面でその表情を窺うことは出来ないが、その心情はエースには手に取るように分かる。


「エルトクリアの軍門に下れ。なに、取って食おうというわけではない。お前なら『トランプ』の一角も狙えるだろう。これは名誉なことだぞ?」


 これは、エースの独断による発言だった。


 クィーン・ガルルガからは、中条聖夜の無系統魔法について探れと指示を受けていた。

 貴族たちからは、T・メイカーの実力を探れと指示を受けていた。可能ならT・メイカーを潰せとも。代わりに、貴族都市ゴシャスにて戦闘を行う許可が出た。


 しかし決して短くは無かった戦闘で、エースはこの魔法使いの実力を野放しにしておくのは惜しいと考えるようになっていた。


 まだ若くして既にこの実力。手加減有り、殺し合いではない試合の場とは言え、ウィリアム・スペードに競り勝つだけの体術と魔法。そして、『神の目録(インデックス)』に名を連ねているかもしれない無系統魔法。


 こちらの陣営に引き込んでしまえば、有用な駒となり得る人材だ。

 エースは、そう判断した。


 対して。

 メイカーの回答は。


「さあ、俺の手を取るがいい」


 エースが右手を差し出す。

 メイカーが立ち上がった。


 右手がゆっくりと上がる。

 そして。


 その手刀が(、、、、、)メイカー自身の(、、、、、、、)左腕を(、、、)切り落とした(、、、、、、)

 次回の更新予定日は、6月4日(月)です。

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