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テレポーター  作者: SoLa
第9章 修学旅行編〈上〉
279/432

幕間1

♡(*^^)o∀ ∀o(^^*)♡




「近々接触するようだ」


 何の脈略も無くいきなりそう告げられたにも拘わらず、たまたま提出書類を持ってきただけの不運なジェームズ・ミラーは、思わず手にしていた書類を取り落としそうになった。


 それはつまり、その少女から発せられた言葉の意味を正確に理解したということだ。しかし、理解できたからといって納得できるかと問われると、それは別問題であると言わざるを得ない。


「ボス……、それは『黄金色の旋律』と『ユグドラシル』が、ということですか」


 だから、ジェームズはそう聞き返した。自らの周囲に100個近い「知恵の輪」を浮かせている少女は、上質な革張りの椅子に深く腰を掛けたまま、そのスカイブルーの瞳を気怠そうにジェームズへと向ける。


「……他に何がある」


 もはや冷徹なまでの肯定に、ジェームズの表情が露骨に強張った。「知恵の輪」から放たれるカチャカチャという硬質な音だけが室内に響く。決して短くはない沈黙の後、少女は短くため息を吐いた。ジェームズは堪らず口を開く。


「いったいどこで」


「魔法世界エルトクリア、10の都市のいずれかになるだろう。それが情報屋の見解だ」


 100個近い「知恵の輪」を並行して解き明かしながら、少女はそう答える。しかし、少女からもたらされた情報に、数多の死線を潜り抜けてきた歴戦の猛者であるジェームズは、自らの声の震えを完全に殺せはしなかった。


「……馬鹿な。一般人からも死人が出ますよ」


「出るだろうな。都市の1つや2つが滅ぶことも念頭に入れておく必要があるだろう」


 呻くように話すジェームズとは対照的に、少女の口調は淡々としたものだ。ジェームズは想定し得る最悪のケースを思い浮かべたのだろう。苦い表情を浮かべるジェームズを観察していた少女が改めて口を開く。


「フェミルナーは行かせない」


「なぜでしょうか」


「奴はT・メイカーと比較的親しかったはずだな。なら、奴にこの役目はこなせないよ」


 少女の言葉が意味することは、つまり。


「二番隊隊長“幻刃”ジェームズ・ミラー」


 少女がジェームズの名を呼ぶ。


「お前に任せる。必要とあればお前が消せ」


 誰を、という指定が抜けている命令に、ジェームズは片眉を吊り上げた。


「それは、必要とあればその者がどちらの陣営に属していようと、ですか」


「違うな。どの陣営に(、、、、、)属していようと(、、、、、、、)、だ」


 少女の解く「知恵の輪」の音が耳障りに思えてくる程の静寂が支配する。


 ジェームズは標的を『ユグドラシル』と『黄金色の旋律』のどちらかだと考えていた。だから、自らのボスへの質問にも『どちらの陣営に属していようと』と表現した。しかし、それに対する回答は『どの陣営に属していようと』だ。


 その意味を、ジェームズは正確に理解してしまった。


「……相手によっては、私1人で対処できない可能性があります」


「そうか。なら“連鎖”を連れていけ」


 自分と同格である隊長の二つ名を出され、ジェームズの抱く警戒心が限界を突破した。『断罪者(エクスキューショナー)』において、同じ作戦に隊長格が複数投入されるのは稀だ。先日の日本で起きた『痛みの塔』の一件のように、相手方を立てるつもりで戦力を誇示するパターンか。




 もしくは。

 隊長格を複数投入しなければ殲滅できないほどの敵を相手取る場合か。




「案ずるな。どう転ぼうが責任は私が取る。但し、1人だけ……、中条聖夜にだけは手を出すな」


 今度こそ、ジェームズは本気で首を傾げる羽目になった。世界最強と名高いリナリー・エヴァンスでも、魔法世界の治安維持をする魔法聖騎士団の隊長でも、その上に立つ『トランプ』でもなく、ジェームズにとってはまったく関係ないように思える人物の名だった。


「ナカジョウセーヤ。ボスが目にかけているという少年ですね? なぜ、ここでその名が?」


「少年のプロファイルは頭に入れているな」


「もちろんです」


「ならばいい」


 話は終わりだとばかりに、少女は椅子を反転させてジェームズに背を向けた。こうなってしまえば、いくら質問を重ねようとも明確な回答は得られないだろう。少女の周囲に展開されている「知恵の輪」だけが、未だにカチャカチャと鳴り響いている。


 これはもう少し積極的に中条聖夜について調べておくべきだったか、と思っても後の祭りである。


 ジェームズは一礼してその場を後にした。

第9章 修学旅行編〈上〉・完




第9章 修学旅行編〈中〉 ※5月中旬より週一で更新予定

『黄金色の旋律』T・メイカーvs『トランプ』アルティア・エース。前回、アギルメスタ杯のスペシャル・マッチとして組まれておきながらも中止となったこの幻の一戦が、予期せずして実現する事となった。月光の下、エルトクリア大闘技場から貴族都市ゴシャスへと戦いの舞台を変えて。貴族と『トランプ』の間に交わされていた盟約とは? 魔法世界最高戦力が一角、エースの持つ恐るべき幻血属性が、T・メイカーへと牙をむく!! 中条聖夜は無事に修学旅行2日目を迎えられるのか……!?

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― 新着の感想 ―
[一言] 「消す」対象(その者)は誰なのか… 標的はユグドラシルか旋律か、どちら側かはっきりしていないみたいですし、旋律内にスパイがいる可能性? それ以外の陣営ってのも気になりますし。
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