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テレポーター  作者: SoLa
第9章 修学旅行編〈上〉
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第13話 T・メイカー捕縛クエスト ④




 魔法球を撃ち込んでくる元凶を吹き飛ばし、再出発したもののまたすぐに次の追っ手に行く手を阻まれる。それを蹴散らして進もうとすると次がやって来る。それも潰して進むと次が。また次も。そのまた次も。


「……ねえ、せい、じゃない、T・メイカー。なんかだんだん遠慮が無くなってきてない?」


「そうか?」


 どでかいクレーターの中央で呻く襲撃者を一瞥し、先に進み始めたところでクランからそんなことを言われた。実に心外である。


「だって、最初の頃はあんなクレーターができるような攻撃してなかったじゃん」


 ……そう言われるとそうかもしれない。


「気を付けよう」


 そもそも魔法世界に充満している魔力が日本のものとは比較にならないため、威力の調節が難しいのだ。アギルメスタ杯の時はエルトクリア大闘技場の防護結界維持に周囲の大半の魔力が吸われていたため、日本での魔法発現とそれほど大差はなかった。そういった要素が無いと、やはり勝手が違うと言わざるを得ない。魔法世界で諸行無常(ショギョウムジョウ)と戦った時は加減なんて必要なかったし。


「……また次か」


 飛来してくる魔法球を叩き落としながらぼやく。こうも連続で来られると流石にうんざりするというものだ。どうやらギルド本部で見せたあの程度の脅しでは通用しないらしい。


 おまけに好き放題やっているとはいえ、こちらは後遺症など残らないよう気を配ってやらないといけないのだ。なんで理不尽に追われている身であるこの俺が、襲撃者に加減してやらないといけないのか。向こうはほとんど殺す気で来ているというのに。


 なんかむしゃくしゃしてきた。

 まあ、こんな感情がちょっとずつ表に出てきた結果が先ほどのクレーターなのだろうが。


「……やるか」


「ほーい」


 気の抜けるようなクランの返事を聞きつつ、魔力を練る。

 さあ、さっさと終わらせますか。







「ギルドランクS『白銀色の戦乙女』所属、"黒雷狼(コクライロウ)"アイリーン・ライネス。そして、ギルドランクB『猛き山吹色の軍勢』リーダー、"武帝(ブテイ)"牙王。これはいったい何の騒ぎだ?」


 ギシギシ、と。

 荒れ狂う黒き雷と、淡い緑を孕む風。


 アイリーンの魔法剣を己が剣で受け止め、牙王の拳は手のひらで。

 両サイドから吹きつけられる魔の暴風など嘘のように、その魔法使いの周囲は涼やかなものだった。


「ジ、ジャック……」


「……、ブロウ」


 左右からの喘ぐような声に、名を呼ばれた魔法使いは僅かに鼻を鳴らす。


 ジャック・ブロウ。

 魔法世界エルトクリアにおいて、最高戦力と称される王族護衛『トランプ』が一角。


 手にした魔法剣をぐるりと回す。同時に拳を受け止めていた手のひらにかける力を絶妙に変化させた。アイリーンと牙王が、ジャック・ブロウの足元に片膝をつく構図となる。


「共にギルドにおいて模範となるべき存在であるにも拘わらず、表通りで乱闘とは……。感心しないな」


「っ、貴様には関係――」


「無いと思うか?」


 飛びかかろうとした牙王の視界が回る。牙王が気が付いた時には、既に地面へと転ばされていた。


「収めろ、アイリーン。剣の道を往く者であるのなら、理解できているだろう?」


 アイリーンの端正な顔が僅かに歪む。それを見たジャック・ブロウは、その口元を少しだけ緩めてから歩き出した。


 丁度、そのタイミングでボロボロとなったギルド本部から副ギルド長が顔を出す。


「ジャ、ジャック・ブロウ様……」


「やあ、ラズ。しばらく見ないうちに、ギルド本部は随分と酷い有様になったようだ」


 涼やかな笑みを浮かべるジャック・ブロウが、今の副ギルド長にはたまらなく恐ろしかった。


「も、申し訳ありません。現在、その、少々立て込んでおりまして……、おもてなしが」


「結構。私は茶を嗜みに参ったのではない」


 ジャック・ブロウは副ギルド長の真正面で立ち止まった。


「で、では、どういったご用件で……」


「私がここを訪れた理由は2つ。1つは、ギルド長が我が師匠を訪ねに行ったと聞いてな。詳細を聞きに参った。もう1つは……」


 副ギルド長の背中越しには、崩壊したギルド本部のフロアが覗く。そこへ視線をやったジャック・ブロウの眼光が細められた。


「T・メイカー捕縛クエストが発注され、それをギルドは受理したな。説明を要求する。拒否は許さん」







「どうぞ、お通り下さい」


 白を基調とした、華やかな金の装飾が施された門。中央都市リスティルの最奥にある、貴族都市ゴシャスとの境界を隔てる門だ。当然、一般庶民では開かれることなどないし、そもそもここに近寄りもしないだろう。現に、この場所の付近に住宅街は無く、ここはエルトクリア魔法聖騎士団の駐屯地だ。


 今、ここが開くのは俺の隣にクランがいるから。本来ならば俺など見向きもされないような場所に違いない。


「じゃ、行こっか」


「ああ」


 クランに敬礼する聖騎士団の面々を盗み見しながら返事をする。仮面を被っていることだし見ているところを見られてはいないだろうが、気配は感じ取られているはずだ。魔法聖騎士団とは、この国の花形とも呼べる職種の1つだからな。端的に言ってエリートたちの集まりだ。


 豪華な門をくぐった先に広がる光景は、真っ白な建造物の群れ。それは山の麓から頂上に至るまで、ずっと続いている。


 貴族都市ゴシャス。

 別名、白亜の頂。


「こんなところ……、来ることは無いと思っていたのにな」


「ん? 何か言った?」


「いや、なんでもない」


 思わず呟いた一言に反応されてしまったので、そう返しておく。


 そんなことは無いはずなのだが、吸い込む空気も別物のように感じてしまうのだから不思議だ。静謐な雰囲気は、青藍の教会で感じたものに似ているが同じというわけでは無い。


 神々しいということではなく、単純に人気が無いからだろう。

 人気と言うか、活気、かな。不気味なほどに静まり返っている。

 夜ということもあり、街灯がぼんやりと照らすその光景は、どこか幽霊でも出てきそうな雰囲気だ。


「T・メイカー、こっちだよ」


 クランの先導に従って歩く。

 建造物と建造物の間には、白い道が伸びている。おそらくこれは山頂まで続いているのだろう。これをこれから上っていくのなら、もはや登山じゃねーかと思っていたのだが、どうやら違うらしい。


 クランが向かう先には、馬車のようなものが何台も停められていた。しかし馬はいない。つまり馬車ではないのだが、馬が引くアレにしか見えない。


「これは?」


「見たことない? クレイドルって言うんだよ。ゴシャスでの移動手段」


 ゴシャスオンリーの移動手段なら見た事あるはずないだろう。

 クランは数台のクレイドルの中から一番近いノブに手を掛けた。扉が開く。鍵は掛かっていないようだ。クランの動きを見ると、自分の物というよりは近いからこれにしたようだ。それで鍵も掛かっていないのか。


「不用心だな」


「……何が?」


「いや、何でもない」


 クランに次いで乗り込む。

 よく考えてみれば、ここは麓とはいえ貴族都市ゴシャスの中。窃盗を働くような者はいないのか。これがクランの所有物では無く、公共の物だとするのなら、鎖錠されていないのも頷ける。


 内装は中央にテーブル、両サイドに3人掛けのソファ。小さな階段を上って入る入り口の対面にはカーテン付きの窓だ。ただ、どれも細やかな装飾が施されており、裕福な者たちに好かれそうな室内であると言える。


『クリアカードを挿入してください』


 俺が腰を落ち着けたところで、車内に女性のアナウンスが流れた。クランが自らのクリアカードをテーブルの裏側に差し込んでいる。こちらからでは見えないが、おそらく読み込み用の機械があるのだろう。


『認証完了しました。クランベリー・ハート様、行先登録してください』


「王城エルトクリア」


『王城エルトクリア、確認中です。確認完了しました。発車します』


 ゆっくりと、クレイドルが動きだした。

 坂道を上り始めたはずなのに、車体はまったく傾いていない。現に、窓の外の景色を見ても、坂道を上っているのは分かる。クレイドルが傾斜を計算して室内を常に水平に保っているのか。走行中の振動もほぼ無し。流石は貴族都市限定の乗り物と言うだけある。


 ただ……。


「これ、走った方が早いよな」


 貴族にでもなった気分を味わえるのは新鮮だが。

 そう口にすると、対面に座るクランが笑った。


「身体強化魔法を使えばそりゃあねー。けど、このゴシャスで不用意に魔法を使うのはお勧めしないかな」


「禁止されているのか?」


「ううん? されてないよ。けど、何が原因で難癖つけられるか分からないよ? 向こうは大抵の我が儘は自分で叶えることができる権力者ばかり。面倒くさくない?」


 間違いない。

 どうやら大人しくしていた方が良さそうだ。

 なら、気になっていたことを聞かせてもらうか。


「ひとつ聞きたいのだが」


「ん、なぁに?」


 魔法服にくっついた猫グッズを愛おしそうに撫でていたクランがこちらを向く。


「俺に対して聞きたいことはないのか?」


 俺の質問に対して、クランは目を丸くした。まあ、聞いてもいいかって言っておいて、質問は無いのかだからな。言い回しが悪かったのは認める。だが、どうしても聞きたかったことだ。


「随分とこちらの都合に合わせてくれていると感じているだけだ。俺の魔法について何も聞かないのか?」


 ホテルの最上階へ向かう際、俺は『神の書き換え作業術(リライト)』を使用した。あの時の反応から本当に使用したのを気付かれていなかったのではないかと思い、ギルド本部から抜け出す時に敢えてもう一度使用してみたのだ。他の奴らがあの現象を見たところで、そこは元から謎が多いT・メイカーの魔法だ。どうせ俺の無系統魔法への特定には繋がらないと考えて使用した。


 クランは間違いなく俺の無系統魔法を見たはずだ。

 にも拘らず、何の反応も示さない。


 以前の師匠の反応からすれば、間違いなく喰い付いてくると思っていたのだが……。


「聞いたら答えてくれるの?」


 クランは小首を傾げながらそう言った。


「さあ、どうだろうな」


 こちらとしては、転移魔法として断定させて終わりだ。

 それとも『トランプ』側では既に結論が出ていたのか?


 そんな俺の疑問を感じ取ったのかは定かではないが、クランは口元に手をあてて笑った。


「メイカーへの無用な詮索は禁止。そう言われているからね」


「誰から」


「クィーン」


 なるほど。

 どうやら俺の知らないうちに師匠と何かあったようだ。


 なら、こちらから墓穴を掘る必要も無いだろう。


「もちろん、君から打ち明けてくれるなら私は喜んで聞くよ?」


 ウインクしながらそんなことを言ってきた。


「いや、先ほどの質問は忘れてくれ」


「ちぇー」


 クランはわざとらしく口をとがらせながらその身を背もたれに預けた。その子どものような仕草に苦笑を浮かべつつ、窓の外へと視線を向けて――。


「ちょっと止まってくれ」


「クレイドル、ストップ」


 俺の言葉に直ぐに反応してくれたクランがクレイドルに命令を出す。なるほど、そう言えば良かったのか。クリアカードを挿入した本人じゃないと反応しないかもしれないが。……いや、クリアカードには音声認証の機能は無いか。


「どうしたの?」


 衝動などほぼ無い。緩やかに停止したクレイドルの中で、クランが俺に聞いてくる。


「路地裏に子どもがいたような……」


 貴族都市に路地裏という表現もどうかと思うが、それ以外に表現しようがない。先ほどまでいた中央都市リスティルならまだ気にしなかったかもしれないが、ここまで通行人など皆無な貴族都市である。おまけに時間が時間だ。子どもが独り歩きするような時間ではない。


「こども~?」


 窓にくっつかんばかりの勢いでクランが身を乗り出すが、表情から察するに見つけられなかったようだ。


「少し見てくる」


「あ、ちょっと」


 クランの返答を待たず、クレイドルのドアノブを捻り外へと躍り出る。クレイドルの反対側へ急いで回り込むと、路地裏の奥の方にいた少女とばっちり目が合った。なぜか背を向けて全力で逃走される。


「あ、待て!」


 見失わないよう追いかけた。後ろから「待つのは君だよ!」という叫び声を聞いた気がしたが今は無視した。あれ、本気で走っているのに追いつけない。むしろ見る見るうちに差が広がって……、嘘だろ、身体強化か!!


神の書き換え作業術(リライト)』発現。


 振り切られても面倒だ。

 一気にカタをつけるべく、無系統魔法で逃走する少女の頭上、その少しだけ前方に転移した。


「へ!?」


 気配で察知したのだろう。俺を見上げる少女の双眸が大きく見開かれた。


「はい、確保」


「ふぎゅ」


 着地し、少女を正面から受け止める。

 全力ダッシュの少女が俺に向かって激突した、という表現の方が正しいかもしれないな。







『そうか。まさかギルド本部へ直接殴り込みに来るとはな』


 クリアカードによって映し出された男は、そのオールバックの髪を掻き毟りながらそう言った。


「済まない。交渉の余地無くやられてしまったよ」


『ははっ、有望だな。そっちで何があったかについては、ギルドが寄越した撤回宣言の文面を見れば大体予想がつく。想定以上に好戦的だ。「旋律」よりは理性的かと思っていたんだがな』


「違いない」


 咳き込みながらもベルリアンは同意した。周囲へ視線を向ける。ギルド本部1階の風景は、つい先ほどまでとは様変わりしている。風通しが良すぎて寒いくらいだ。


「で、どうする」


『確保に向かいたいところだが、こっちも面倒なことになっていてな』


「たかが奴隷1人がまだ捕まらないのか。首輪にはGPSが付いているはずだろう」


 ベルリアンの指摘に、男は草臥れた笑いを漏らした。


『故障してるんだとよ』


「それは……、面倒なことになっているな」


 アメリカの領地の一角とは言え、魔法世界は広い。その中から逃げ回る奴隷1人を探すのは骨だろう。


『こっちはまだ時間がかかりそうだ。お前は有志で結成されるであろうT・メイカー捜索隊にでも加えてもらえ。ただ、深追いはするなよ』


「了解」


 通話が切れる。

 ため息と共に、ベルリアンは立ち上がった。


 副ギルド長とジャック・ブロウが上って行った階段を一瞥した後、ベルリアンはギルド本部から立ち去った。


 次回の更新予定日は、3月19日(月)です。

 もうちょっとで修学旅行編〈上〉も終わりですので、終わるまでは週一更新に戻します。

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