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テレポーター  作者: SoLa
第9章 修学旅行編〈上〉
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第5話 歓迎都市フェルリア

 公開が予定より1週間遅くなりました。

 ごめんなさい。




『フェルリア、ホテル・エルトクリア正面、フェルリア、ホテル・エルトクリア正面です。お出口は左側です。降りるお客さまは、お忘れ物なさいませんようご注意ください』


 そんな女性の声のアナウンスが流れて、電車が停車した。どこかで空気が抜けるような音が鳴り、ドアが開く。


 歓迎都市フェルリアと呼ばれるだけのことはあり、フェルリア(ホテル・エルトクリア正面)駅の構内はアオバとは比較にならないほど豪勢なものだった。思いの外、人込みも凄い。行き交う人の服装が、スーツや制服よりも普段着、それも魔法使い風のローブや戦士風な革鎧なんてのもいるあたり、そこはお国柄ということだろう。まあ、通勤ラッシュの時間はとうに過ぎているというのもあるだろうが。……というか、魔法世界って通勤ラッシュってあるのか?


 駅なのにこんな天井を高くする必要なんてあるのか、なんて下らないことを考えながらも人の波に乗って進む。改札機を抜けたところで全員いることを確認し、ホテル・エルトクリアへと足を向けた。


 ちらりとメイド服の女性が見えた気がしたが、きっと気のせいだろう。まさか「メイド服が戦闘服」とか言っていたのが本心だったとは思いたくはない。だから可憐がなんとなく複雑そうな表情をしているような気がするのも、きっと気のせいに違いないのだ。







 ホテル・エルトクリアはフェルリア(ホテル・エルトクリア正面)駅の真正面にある。大きな噴水を中心に据えたバスターミナルを迂回し、無事に辿り着いた俺たちは、チェックインを済ませて一度解散した。各自荷物を部屋へ持って行くためだ。ホテル内の警護は祥吾さんたちが手配した女性の護衛に任せているため、一緒に行動する必要は無い。今後も男が入りにくい、もしくは入れないエリアに行く場合は交代してもらう手筈になっている。


 よって、ここは完全に別行動となり、俺は俺が宿泊する部屋へと足を向けた。


 本来であれば2人1組で部屋を借りているのだが、俺の部屋に相方はいない。俺が『青藍の1番手(ファースト)』だから優遇されているわけではない。単にクラスメイトに同性がいなかったからだ。


 入室するなりキャリーケースを端に追いやった俺は、クリアカードを取り出す。あらかじめ知らされていた番号を入力した。僅か1コールで相手方が応答する。


『やあ、聖夜君。無事にホテルには到着したようだね』


 ホログラムによって映し出された祥吾さんが温和な笑みを浮かべながら言う。


「はい。おかげさまで」


 俺の言葉に、黒服に身を包んだ祥吾さんは苦笑いを浮かべた。


『まだ僕たちは何もしていないんだけど?』


「あれだけ手厚く警護して下さっているにも拘らず何を仰っているのやら……」


 俺の呟きに、祥吾さんは軽く目を見張る。


『あまり目立たないようにしていたつもりなんだけどね』


「流石にメイド服は目立ちますよ。どうにかならないんですか?」


『どうにもならないことは、君も十分に知っているだろう?』


 ですよね。

 あの人にとってメイド服はジャスティスらしい。

 意味が分からない。


『そちらで何か変わったことはないかい?』


 祥吾さんからの質問に、少しだけ考える。

 そして、すぐに思い出した。


「1つだけありました。入国の際、聖騎士からクリアカードを弄られたようで」


『……君のを、ということだよね?』


 首肯する。

 通話はそのままに、クリアカードを操作してメールの文面を表示した。


 ……これは。


『……聞いても構わない内容かな?』


「ええ、王城への招待状です」


『それはまた……』


 祥吾さんが言葉に詰まる。だが、心境としては俺も同じだ。送り主は王族護衛集団『トランプ』の1人、クィーン・ガルルガ。王城への招待と言っても、正確には王城の一角であるベニアカの塔と呼ばれる場所への招待のようだ。俺からしてみれば、だからどうしたくらいの違いしかないが。


『聖夜君、返答は少し待ってもらえないか。剛様に確認をしたい』


「ええ、もちろんです」


 形式上、舞や可憐の護衛として雇われている俺が1人でノコノコ単独行動するわけにもいくまい。というより、正直なところ俺としては行きたくない。祥吾さんがクリアカードには映っていない誰かに指示を出している姿を見ながら、1つため息を吐く。


 魔法世界内で、外界に連絡を取る手段は少ない。事情が事情だけに、花園家の権力を使えばその手段も利用できるのかもしれないが、どちらにせよ時間はかかるだろう。むしろ、祥吾さんたちもフェルリアにいるのなら、一度魔法世界を出てから連絡した方が早いかもしれない。


『一応確認なんだけど、アギルメスタ杯の一件以降、クィーン・ガルルガに限らず「トランプ」と接触したことはあったかい?』


『ありません』


 俺の即答に、祥吾さんは「だよね」と呟きながら頷いた。実際のところ、ウィリアム・スペードからの謝罪が電話であったが、一応の口止めはされているし、それは言わなくてもいいだろう。本当に謝られただけだし。お金はいっぱいもらったけど。


 正直に言わせてもらえれば、一生関わりたくない。

 というより、本来ならお近づきになりたくてもなれないような人たちなのだ。

 そう。……本来なら。


『了解した。それで、君からの報告は以上かな?』


『はい。そろそろ時間ですので失礼します。今日の予定は前以ってお伝えした通りです。万が一、別の場所へ観光することになれば、連絡をいれます』


『了解』


 通信が切れた。


「さて」


 クリアカードをポケットにねじ込む。

 行くか。







 集合場所のロビーに向かったところ、班員は既に全員いた。


「すまない。待たせた」


「構わないわよ。貴方が連絡していたことは皆知っていることだし」


 代表して舞がそう答えてくれる。

 班員全員が事情を知っているため、こういう時は非常に楽だ。


「先生に点呼はとってあるから。早速だけど、出発しましょうか」


 舞の視線の先に目を向けてみれば、遠くから白石先生がひらひらと手を振っているのが見えた。


 豪華なエントランスを抜けて、噴水のある広間に出る。


「それじゃあ、最初はインフォメーションセンターからでいいな?」


 俺からの問いに、各々肯定が返ってきた。


 日本にいる間に聞いた、班員たちの前以って行きたい街は計6つ。

 舞は、武闘都市ホルンと交易都市クルリア。お目当ては、エルトクリア大闘技場見学と掘り出し物散策。可憐は、宗教都市アメン。お目当ては、各神殿参拝。美月は、創造都市メルティと歓迎都市フェルリアと中央都市リスティルと交易都市クルリア。お目当ては、王立エルトクリア魔法学習院見学、それからウィンドウショッピング。エマは、T・メイカーグッズを扱っている店と言っていたので大闘技場があるホルンの店でも見ればいいだろう。


 今いるのは歓迎都市フェルリア。歓迎都市と呼ばれるだけあって、この都市でもそれなりにウインドウショッピングは楽しめるのだろうが、ここはどちらかというとエルトクリア大銀行や今出てきたホテル・エルトクリアなど、魔法世界内で観光する為の拠点としての役割の方が強い。お土産を見て回るには申し分ないラインナップなのだが、初日に見て回る必要はないだろう。


 次の駅となるのは中央都市リスティルとなるが、魔法世界において万能都市とも呼ばれるこの都市は、その特性上目立った何かがあるわけでもない。ただ、面積だけはやたらと広いので、のんびり散策していたらこの都市だけで1日消費しかねない。ということで、既に昼を回っている今日はこの都市もパス。


 よって、他の都市にしようということになったのだ。


 中央都市リスティルからエルトクリア高速鉄道で次の都市は、大闘技場がある武闘都市ホルン、そして交易都市クルリア、創造都市メルティ、近未来都市アズサ、宗教都市アメン、歓楽都市フィーナ、そして貴族都市ゴシャスへと続く。各都市それぞれ細かな駅はいくつもあるが、都市として大きく区切るなら駅の順番はこのようになる。


 しかし、エルトクリア高速鉄道は1本線の路線ではなく、単体で広い面積を持つ中央都市リスティルには環状線があるのだ。その環状線を利用すれば、中央都市リスティルに隣接する都市へ近道で向かうことが出来る。


 既に昼を回っている本日は、武闘都市ホルンにて大闘技場見学と下町散策ということで決定していた。ホルンは大闘技場を中心として栄えている都市であり、立ち並ぶ店もそれに関連したものが多い。かといって、見て回る店が多いかと聞かれると、実はそうでもないのがこのホルンという都市だ。魔法具などは創造都市メルティの方が品揃えは良いようだし、掘り出し物を散策したいのなら交易都市クルリアに軍配が上がる。ホルンの見どころはエルトクリア大闘技場と殿堂館、そしていくつかのグッズショップというところだろう。午後しか観光できない今日にうってつけの場所である。そして、もし時間が余るようだったら、軽く中央都市リスティルを覗いてみよう、ということになっていた。


 ちなみに明日以降の予定だが、2日目が交易都市クルリアにて掘り出し物散策と、創造都市メルティにて学習院見学(中は立ち入り禁止)と下町散策、その後宗教都市アメンを見学し、残った時間を全て中央都市リスティルに費やす。3日目に軽く歓迎都市フェルリアの散策をして帰国ということになっている。


 これから向かうインフォメーションセンターは、ホテル・エルトクリアの目と鼻の先にある。一応、日本で一通りの計画は立ててあるが、やはり現地での情報も欲しい。ということで、最初の目的地はインフォメーションセンターに決めていた。それぞれの都市の見どころなど、知らない情報が1つでも手に入れば儲けものだろう。


 春のような柔らかな日差しに目を細めつつ、手にした厚手のコートを持ち直し、俺たちはインフォメーションセンターの扉を潜った。







 インフォメーションセンターにて、各名所のパンフレットを貰ったり見どころを聞いたりと有意義な時間を過ごした俺たちは、さっそく武闘都市ホルンへと向かうべくフェルリア(ホテル・エルトクリア正面)駅へと足を向けた。


「聖夜」


 駅に向けて歩いていると、舞から声を掛けられる。


「なんだ?」


「少しは気を抜いたっていいのよ。距離はあるとはいえ、貴方がいなくても平気なように展開してるから」


「守ってもらう身である私がこういうこと言うのはアレかもしれないけど」と、舞は言う。あまり表には出さないようにしつつも警戒していたのだが、はっきりとバレていたようだ。


「気持ちは嬉しいんだけどな。けど、何が起こるか分からないだろう?」


「誘拐騒動を忘れたのか?」と聞けば、舞よりも話を聞いていた可憐が小さく呻いた。


「その節は、中条さんには大変なご迷惑を……」


「あー、すまん。別にそう言って欲しくて今の話を出したわけじゃないから」


 気にするな、と手振りで伝えて舞との話に戻る。


「学園だってあんなことがあったんだ。魔法世界の方が格段にリスクは上がる」


 舞とて、その辺りはしっかりと理解しているはずだ。にも拘らず、ああ言ってきたのは俺のためだろう。


「まあ、あまり気にするなよ。俺だってちゃんと楽しんでる」


 修学旅行という空気感もそうだが、やっぱり魔法世界というある種非現実的な空間に身を投じているせいだろう。こうして駅に向かって歩いているだけでも結構楽しい。建物も、通行人も、目に映る風景そのものが、日本ではお目にかかれないものばかりだ。


「……それならいいんだけど」


 言葉とは裏腹に、納得できていそうにない表情で舞は言う。そんな舞に、ふと思い出したことを聞いてみることにした。


「今更な話なんだけどさ。あの時、近頃誘拐騒動が多いからって理由で、剛さんは俺の師匠に護衛の話をもちかけたらしいんだが……、あれは青藍で他にも未遂があったってことか?」


「いいえ、青藍ではあの一件が初めてよ。普通科と併設されている学園で多かったらしいけど……、あ、でも確か、夏頃に紅赤(べにあか)でもあったのよね?」


 後半は可憐に向けて舞が言う。


「はい。8月の初めだったかと記憶しておりますが、その際に不審者の侵入を許したと」


「その時は誰が撃退したんだ?」


白岡(しらおか)家の護衛の方です」


 なるほど。

 ぼんやりとだが、以前会ったことのある双子の顔を思い出す。どうやら白岡は護衛を学園内にも展開しているらしい。まあ、その方が安全だよな。


 そんなことを話しているうちに、駅へと辿り着いた。ちらほらと青藍の制服を身に纏った奴らも見える。例外なく、きちんと片手に厚手のコートが握られていた。


 本日の予報は一日晴れ、但し春のち冬らしい。


 大気に充満する魔力が濃いせいか、魔法世界内の天候はめちゃくちゃだ。朝は暑苦しいほどの真夏だったのに、昼は一転して真冬となり大雪、そして夜には再び夏が戻ってくるなんて日もあるらしい。そんなの絶対に風邪引くわ。


「ねえねえ、そういう辛気臭い話はやめにしない? せっかくこれからT・メイカーのグッズ買い漁りに行くんだしさー」


「美月の言う通りかと。T・メイカー様の御威光にこれから触れるのです。もう少し建設的な話をしましょう」


 例えば、とエマがT・メイカー特集が組まれた雑誌を手提げかばんから取り出す。普通に流しそうになっているが違うからな。これから行くのは武闘都市ホルンで、エルトクリア大闘技場や殿堂館を見に行くのであって、決してT・メイカーグッズを買い漁りに行くわけではない。


「銀行はどうする? 私や可憐はもともとクリアカードにそれなりの金額を入れてるから問題無いんだけど」


 舞の言葉に可憐も頷いた。


「あー……、やっぱり一万円くらいじゃ足りないよね?」


 美月が自らのクリアカードを弄りながら言う。いったい何にいくら使うつもりなのか問い質そうとしたが、それよりも早くエマが口を開いた。


「安心なさい、美月。いざとなったら私が立て替えておいてあげるわ。T・メイカー様のグッズを買い占めるだけの金額は常に入れてあるし」


 ……。

 もはや何も言うまい。


 銀行に寄るなら俺もいくらかチャージしておこうと思ったが、最悪メイカーのカードがあるからなぁ。何が起こるか分からない分、できるだけ使いたくないカードではあるが。


 アホみたいな大金がチャージされているメイカーのカードであるが、この金額を銀行に預けるわけにはいかない。預けるということは、メイカー名義で手続きしないといけないわけで、ひと騒ぎ起きる予感しかしない。まあ、向こうもプロなわけだから、普通に考えれば何も起きないのかもしれない。ただ、万が一という可能性もあるのだ。俺が肌身離さず持っていればいいだけだし、修学旅行で来た学園生という立場のタイミングで危ない橋を無理に渡る必要はないはずだ。


 可憐や舞も交えてきゃーきゃーやっているのを眺めながら、俺は何とも言えない気持ちになりつつも、改札機に中条聖夜名義のクリアカードを押し当てた。

 次回の更新予定日は、12月4日(月)です。

 今度はちゃんと予定を守れるようにがんばります。

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