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テレポーター  作者: SoLa
第9章 修学旅行編〈上〉
265/432

第4話 玄関口アオバ

 レビューを書いてくださった方、ありがとうございます。


 2017/11/03 改稿。

 聖夜の持つクリアカードの描写を修正。





 空の旅は順調そのもので、悪天候に見舞われることもなく、大幅な遅延もなく、青藍魔法学園2年生の集団はサンフランシスコ空港での乗り換えを済ませ、アオバ空港行きの臨時便は定刻に離陸した。このまま予定通りなら、あと1時間ほどでアオバ空港に着くはずだ。


「いよいよだね~」


 俺の隣に座る美月は、わくわくしている様子を隠すことなくそう言う。手に持つ魔法雑誌は、T・メイカーの特集が組まれているページが開かれていた。


「それ見て楽しい?」


「うん! 聖夜君も見る? このライターって結構辛口評価することで有名な人みたいだけど、べた褒めだよ?」


 なんでだよ。そこはちゃんと辛口評価してくれよ。


「いや、遠慮しておく」


 どれだけ高評価になっているかなんて想像すらしたくない。T・メイカーはアギルメスタ杯参加に必要な捨て駒で、知らず知らずのうちに忘れ去られる存在にしたかったんだけどなぁ……。


「これが……、だなんて……とても複雑な気分だわ」


 通路を挟んだ席に座る舞が、眉間に皺を寄せながらそんなことを呟いていた。どうせT・メイカーが俺というネタを知っているからこその呟きだろう。ほぼ聞こえない音量だったから問題はないが、できれば口にしないで貰えると有難い。後で一応言っておくか。まあ、舞も当然理解しているはずだし、無意識のうちに口を突いて出ただけだろうが。


 手には美月が読んでいるものとは違う魔法雑誌。しかし、見開きのそのページで特集が組まれているのは、やはり俺ことT・メイカーについてだった。舞と相席している可憐も、心なしか目をきらきらさせてその特集を覗き込んでいるようだった。


 ……俺が何の関係もない第三者だったら、T・メイカーのことを見てどんな反応をしたのだろうか。そんなことを現実逃避気味に考えていた時だった。


 後方の席から、にゅっと手が伸ばされて、眼前に雑誌の見開きが広がった。

 ……そこには、魔法世界にある殿堂館のショップにて限定販売されているT・メイカーグッズの特集が展開されていた。


「聖夜様、聖夜様。ここ見てください、ここ、ここ」


 後ろの席から乗り出すようにして、エマがある一点を指さす。当然、そこにもT・メイカーグッズである。というより、この見開きページにT・メイカー以外のグッズ情報は存在していない。


 エマが指さしたのは、デジタルデータの販売についてだった。どうやら殿堂館のショップでは、ストラップや缶バッチ、タペストリーといった現物の販売だけでなく、シリアルコードを入力することで壁紙やボイス、動画などをダウンロードできるデジタルデータの販売も行っているようだ。


「この壁紙絶対に欲しいです。待ち受けにしたいです。毎日見ます朝昼晩眺めます寝る前使います食事の最中だってお風呂だって授業中だっていついかなる時であろうと肌身離さず持ち歩き表示することを誓います。だから絶対寄りましょう。殿堂館」


「分かった分かった、絶対寄ってやるから落ち着け」


 最終的には俺の背もたれから上半身を乗り出してこちらに迫ってくるものだから、色々と柔らかいものが当たってきて反応に困る。何とか押しのけた俺は、ふと静かになった隣に目を向ける。


 ……そこでは読んでいた雑誌を膝に置き、無言で自らの胸をまさぐっている美月の姿があった。なだらかというか控えめというか、とにかくそういった理由が故にその手が掴んでいるのはほぼ自らの制服である。目には少しだけ涙が滲んでいるように見えた。


 気まずい。


 窓の外に目を向けた。そこには一面の青空と白い雲が広がっている。俺は無意識のうちに握りしめていた手紙から、そっと手を離した。







 アオバ空港には定刻に到着した。

 空港の職員に従い飛行機から降り、いくつかのグループに分かれて手続きを済ませる。クラスメイトたちは、そこでクリアカードも渡されていた。俺たちのグループは、既に自分のものを持っているために並ぶ必要は無い。舞や可憐は家柄もあってか、もともとクリアカードを持っており、俺も先日の魔法世界のいざこざのおかげでかの『トランプ』から専用のクリアカードをもらっている。エマや美月についても、それぞれエマ・ホワイトと鑑華美月名義であらかじめ用意されていた。


 クリアカードとは、魔法世界で入国の際に必要な身分証明書であり、中で買い物をする際に使用する電子マネーの媒体であり、電話やメールをする際に使用する携帯電話の代わりとなる万能カードのことだ。


 日本でいう保険証のようなものなので、偽造は出来ないと聞いているが、エマといい美月といい本当にこの世は金と権力なんだなと思い知らされる。まあ、俺も例外ではないわけだが。美月やエマと同じく、俺も2枚持ちだ。


 今回使用するのは、当然ながら「中条聖夜」という名前と「青藍魔法学園2年生」という所属が記載されている方である。間違っても『T・メイカー』の方ではない。実際のところ、「中条聖夜」名義のクリアカードを使用するかどうかはわりと真剣に悩んだ。なぜなら、このクリアカードにはとある事情で日本円にして10億円という馬鹿げた金額が入金されているからだ。


 もっとも、この件については出国前から確認済みだ。


 一応、師匠に相談したところ「問題ない」と返って来たので意味が分からず問い質したところ、どうやら『トランプ』側と掛け合ってくれたらしく、クリアカードのデータバンクを操作し、T・メイカー名義のクリアカードへその10億円を移してくれていたそうだ。師匠に確認する前にクリアカードの残高を確認していなくてよかった。10億円が消えていたら目を疑うに違いない。


 ちょっと弄ってみたところ、魔力濃度が濃い魔法世界内でないと使えない制限でもあるのか、クリアカードが持つ大半の機能は使えないようだが、カード内の残高については確認できた。


 カード内の残高だけは確認できるようで、「101E」と表示された。(エール)とは魔法世界独自の通貨単位だ。前回T・メイカーとして訪れていた時は「1E=100円」くらいだったと記憶しているが、学園側にあらかじめ支払っていた金額から考えると、今は円高のようだ。


 良かった。

 とりあえず、正常だ。


 まあ、学園側にクリアカードを一度提出する時点で、残金は嫌というほど確認していたわけだが。

 学園側から修学旅行代として請求された金額の中には、クリアカード発行費も含まれていた。俺たちのように持っている奴はどちらかというと例外で、持っていない学園生がほとんどなのである。その際、チャージ料金として日本円で1万円が上乗せされていた。


 俺の場合はここで新しく作ったわけではないが、学園側に一度クリアカードを提出しており、チャージ代金は支払っていたので学園と魔法世界で何らかの調整があったのだろう。


 一応、念の為にT・メイカー名義のカードも持ってきてはいるが、残高が「10000000E」なので、間違ってこちらを出さないように注意しなければならない。その場でT・メイカーだとバレたらおしまいだし、仮に名義を見られなくても、修学旅行生が持つカードに10億円が入っていたらかなりのスキャンダルである。魔法世界内で買い物をして渡されるレシートの残高を店員が見たら印刷ミスかレジのバグを疑うに違いない。


 手続きが済んだ者から順に先導され、空港外で待機しているハイヤーに乗り込んでいく。乗ってしまえば5分ちょっとでアオバの大門前だ。「さっきの飛行機は隣に座ったんだから」だの「電車では隣にいた」だの理解不能なやり取りをしている班員どもをハイヤーに押し込み、俺も乗り込む。


 ここが一番手薄になるのだ。空港では遠巻きにこちらを警護している人間を発見できたが、ここではあからさまな配置をしていない。学生の修学旅行のハイヤーの周囲に黒塗りの車で固めるわけにもいかないだろう。


 視線を前に向けてみれば、大門はもうすぐそこだった。


「……まさかまたここへ戻ってくることになるとはな」


 それもこんなに早く。

 ハイヤーから降り、目の前にそびえ立つ馬鹿でかい門を見上げながら、俺はそう呟いた。


 大門。

 魔法世界エルトクリアへ入国する唯一の手段となる場所だ。


「なぁに辛気臭い顔をしてるのよ。もうちょっとテンション上げたらどうなの? 魔法世界よ魔法世界」


 カラカラとキャリーケースを転がしながら、舞がやって来た。その後ろには、可憐、美月、そしてエマが続いている。


「中条さん、あちらが入り口のようです。後続の方々が来ますし、よろしければ行きましょう」


「そうだな」


 可憐に促されて足を動かす。

 そこでは、俺たちより早く着いた面々が通行証を提示して次々と入国していた。


 大門は第8門まであり、入出国する人数や物資の数、大きさなどによって開く門の大きさが変わる。今回の一学年の修学旅行程度なら、一番小さな第1門で対応するようだ。関所に在中しているエルトクリア聖騎士団と思われる男2人で、次々と入国手続きを済ませている。


 前回、師匠と一緒に来た時にいたゴンザという名の隊長さんはいないようだ。良かった。向こうから何かをしてくるとは思えないが、黄金色の旋律として行動していた自分を知る人間とは極力遭遇したくない。何がきっかけで何がバレるか分からないのだ。


 列に並んだ学園生は次々に捌かれていく。クリアカードを専用の機械に読み取らせているようだ。担当している聖騎士も手慣れたもので、あっという間に俺の番がくる。にこやかに挨拶してくる聖騎士へ挨拶を返し、クリアカードを手渡した。同じように機械にクリアカードを通して……。


 一瞬ではあるが、聖騎士の顔が顰められた。

 ……おい。


 聖騎士は無言のまま、こちらから死角になっている机の下で何かをしている。微かに機械の動作音が聞こえることから、何やら別の機械に通されているようだ。そして、何事も無かったかのようにクリアカードを差し出してくる。受け取る際、小声で「メールはお時間のある時に一人でご確認ください」と言われた。……取り繕えているつもりなのかは知らないが、笑顔がひきつっている理由を教えてもらえませんかねぇ。


 促されるがまま、人が1人通れる程度の扉を抜ける。

 その先に広がるのは、堅牢なる大門の内側。


 その正体はアオバ駅の構内だ。

 駅の窓口や券売機、改札機、喫茶店なんかもある。


「遅かったじゃない」


 先に審査をパスしていた舞が声を掛けてきた。というより、俺が最後だった。2人体制で検問をしていたため、何人かに抜かれていたらしい。


「あー、ちょっとな。とりあえず、何も問題は無いから」


 そう返している間に、手にしていたクリアカードが電子音を鳴らした。どうやら魔法世界内に入り、機能のロックが解除されたらしい。




名前 :中条聖夜

職業 :学生(日本)

職業位:B

所属名:―

所属位:―

所持金:101E

備考 :【着信中】

伝達 :【未読】未読メールが一件あります。




 クリアカードを確認して、一番最初に目に留まったのは着信を知らせるアイコンではなく、未読メールのお知らせだった。先ほど聖騎士が言っていたのはこれのことだろう。意味合いとしては間違っていないのだろうが、着信を知らせる内容が備考に入っているのに、未読を知らせる内容が伝達に入っているところに胡散臭さを感じる。後で美月かエマにでも空メールをこのクリアカードに送ってみてもらおう。それでその未読メールを知らせる内容が備考欄に入っていたら、メールを開く前から厄介事かどうかが確定するという寸法だ。


 ……まあ、開く前に確定したから何なんだ、という話だが。心構えができるくらいか? 後は既読情報が入らないとか。そんなシステムがあるのかは知らないけど。


 厄介事を臭わせるメールにうんざりしながらも、音声のみを許可にして通話ボタンを押す。そして、あらかじめ打ち合わせしていた通りの台詞を口にした。


「入国しました。ホテルに到着次第、ホログラムシステムもオンにして連絡を入れます」


『了解』


 通話は直ぐに切れた。

 それを黙って見つめていた舞が、申し訳無さそうな顔をする。


「今の祥吾さんでしょ? 色々と気を遣わせて悪いわね」


「気にするな。ちゃんと対価は貰っているし、基本的にやるのは連絡係のようなものだしな」


 むしろ貰った額に対してそれしかしないのは逆にこちらが申し訳ないと感じるレベルだ。なおも表情を曇らせる舞の肩を軽く叩き、大げさなジェスチャーでこちらを呼ぶ美月たちのもとへと向かう。舞もすぐについてきた。美月に問う。


「どうした?」


「一日フリーパスがあるみたいだから、それ買わない? ホテル着いたらすぐ観光するんでしょ?」


 美月が差し出してくるパンフレットに目を通す。10Eでエルトクリア高速鉄道が1日乗り放題らしい。アオバの次の駅であるフェルリアまでが2Eであることを考えれば、すぐに元は取れそうだ。それに、万が一大して利用しなかったとしても、100円単位の損失なら誤差の範囲内だろう。


 ずらりと並ぶ券売機の上には、魔法世界の簡易的な地図と路線図が掲示されている。ここ玄関口アオバから伸びるエルトクリア高速鉄道は、各都市平均で2~3つほどの駅を経由しつつ終点へと向かう。その他、魔法世界の中心都市であり、一番大きな土地面積を持つリスティルには環状線も存在しているようだ。リスティルの左回りに展開されている各都市の駅とも乗り換え可能らしい。イメージとしては東京の山手線に近いというかほぼそのままだ。もっとも1周にかかる所要時間はこちらの方が上のようだが。


「そうだな。そうしようか」


 班全員の承諾を得て、皆がクリアカードを券売機へと挿入する。タッチパネルを操作し、一日フリーパスを購入した。それに加え、俺は更に切符でアオバからホルンまでの乗車券を購入する。フリーパスはクリアカード内にデータとして書き加えられたらしい。別に購入した切符はちゃんと磁気タイプのもので出てきた。それはそのまま握り潰してポケットにしまう。


「何をなさっているのです? 聖夜様」


「いや、別に」


 一部始終を見られていたのか、怪訝な表情をしているエマにはそれだけ返しておいた。




名前 :中条聖夜

職業 :学生(日本)

職業位:B

所属名:―

所属位:―

所持金:87E

備考 :【エルトクリア高速鉄道】一日フリーパス

伝達 :【未読】未読メールが一件あります。




 クリアカードをタッチし、改札機を通る。

 その先は高速鉄道が行き交うホームだ。運の良い事に発車時間までもう間もなくの電車が停車している。キャリーケースを転がしながら乗車した。向かうのはアオバから一駅のフェルリア(ホテル・エルトクリア正面)駅。旅行中お世話になるホテル・エルトクリアが目的地だ。まずはホテルへ直行し、先生たちが点呼を取る。その後は班ごとに自由行動となる。


 発車ベルが鳴り、扉が閉まる。

 ホームではギリギリで乗れなかった学園生たちが笑い声をあげていた。


 電車がゆっくりと走り出した。アオバ駅を抜けると一面の青空が見え、強い日差しが車内へと差し込んでくる。エルトクリア高速鉄道は、モノレールのように比較的高い場所を走っているため見晴らしが良い。遥か遠くには傾斜に造られた建物によって構成される貴族都市ゴシャス、いわゆる『白亜の頂』が見える。隣に座るエマが舌打ちしたのはきっとそのせいに違いない。


 玄関口アオバの駅を抜けると、歓迎都市フェルリアまでは本当に何もないただの平原が広がっている。アオバには空港と砂漠、大門、そして駅しか存在しないという宣伝は決して誇張ではないということだ。魔法世界内の人口が増えるようなら、今後はここも都市開発とか進むのかな。


 そんなことを考えているうちに、車窓の先に賑やかな街並みが広がり始めた。電車のスピードが徐々に落ちていく。やがて電車は1つの建物に吸い込まれるようにして停車した。


 歓迎都市フェルリアに到着だ。

 2017/11/03

 次回の更新予定を、11月20日(月)に延期させて頂きます。


  

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