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テレポーター  作者: SoLa
第8章 エンブレム争奪戦編
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第16話 "私の世界が変わる前日"




 青藍魔法学園における、新たな『番号持ち(ナンバー)』が発表された。


 1番手は俺、中条聖夜。

 2番手、豪徳寺大和。

 3番手、姫百合可憐。

 4番手、片桐沙耶。

 5番手、花園舞。


 教師陣はこの2日間、担当する授業の時間を除き、ほぼぶっ通しでこの序列について話し合っていたらしい。今朝のホームルームで結果を知らせてくれた白石先生の草臥れ具合といったらもう……、とてもではないが表現できない。


 結果を知らされるなり大和さんは教員室に駆け込み、「なんで俺がまた2番なんだよ」と文句を言いに行ったらしいが、あれだけの魔法を試験に投入しておいてなぜ2番にならないと思ったのか不思議でならない。聞いた話では、大和さんは正座で蔵屋敷先輩からのお説教を受けたようだ。縁先輩が腹を抱えながら教えてくれた情報なので真偽は定かでない。


 得意属性や完全詠唱を封じられた状態、かつ大した見せ場もなく脱落となったエマが入れなかったのは順当といえば順当か。安楽先輩が再び『番号持ち』入りしなかったことが首を傾げるところだが、片桐に撃破されたということ、そして可憐と舞はそれぞれRankAの魔法を発現していたので外されたといったところか。


 舞は全身強化魔法を完全に使いこなせていればもっと上が狙えただろう。俺は見ていないが、可憐はRankA相当の魔法をかなりの精度で使いこなしていたようだし、2人の順位の差はそれに違いない。むしろ、RankAの魔法を1つも発現していない片桐が4番に選ばれたことから、片桐がどれだけ実践慣れしており、それを学園がどれだけ大きく評価したのかが分かるというものだ。


 まあ、そんなことを考えてみたところで全ては俺の主観によるものだし、教師陣の真意については分かるはずもない。ただ1つ言えるのは、ようやく俺は裏技などではなくスタンダードな手法で学園公認の1番手になれたということだ。


 表立った反発も無いようだし、学園内における混乱についてはひと段落したとみていいだろう。


 エンブレムの正式な授与式は3日後。

 大和さんからおサボりの誘いが来たが既に断っている。冗談じゃない。貴方はもう少しで卒業だからいいかもしれないが、俺はまだこの学園の生徒なのだ。遺恨なく1番手であり続けるために、今度こそ俺は出るぞ。


 ぶつぶつと聞いてはいけない何かを垂れ流すエマの呟きをBGMに、自分の席から窓の外へと視線を向ける。


 平和だ。

 少なくとも、表側は。


 





 仲介役のメリー・サーシャへと軽く頭を下げた泰然(タイラン)は、その足を下山する道へと向けた。彼女がどれだけ複雑な心境であろうと、泰然には関係の無いことだった。無駄な動作を一切見せることなく下っていく泰然だったが、待ち構える人物に気付き足を止める。


 そこで佇む者が、もっとも意外な人物であったがためだ。


「……マリーゴールド・ジーザ・ガルガンテッラ」


 丸ぶちのサングラスの奥から覗く目が細められる。変装して身分を偽ったエマ・ホワイトを前にし、泰然はその本名を口にした。風に揺れるお下げを鬱陶しく思いながらも、マリーゴールドは言う。


「何しに来たの」


「さて。それを貴方に説明する義務があるか? 俺はやましいことをした覚えが無い」


「あぁ?」


 泰然のその物言いに、マリーゴールドの端正な表情が露骨に崩れた。


「私からすれば、貴方の身体に聖夜様の魔力の残滓が付着している時点で大罪なんだけど」


「おやおや……、それは手厳しい」


「随分と余裕な態度じゃない。……殺すわよ」


「よせ、月詠(ツクヨミ)


 殺意が滲み出したマリーゴールドに対してではなく、泰然は左手に広がる茂みの向こうへと注意を飛ばした。草木を搔き分ける音と共に、1人の少女が姿を見せる。


 身長140cmくらいの少女だった。

 明らかに、この場にそぐわない年齢の女の子である。


「えー。老師、なんで私のことばらしちゃったです? 絶対に仕留められると思ったです」


 艶やかな紫の着物に身を包んだ少女が口を尖らせた。そんな少女へ嘲りの声が飛ぶ。


「ははっ、ははは。仕留められる? 誰が誰を? 寝言は寝て言いなさい小娘。貴方の皮から剥いでやってもいいのよ」


「よしてくれないか、マリーゴールド。我々としては、このタイミングでここを戦場とするのは申し訳が立たない。属性奥義同士の衝突がどれだけの被害を生むかは承知のはず」


「はぁ? 私が属性奥義なんて発現できるはずがないでしょう?」


 月詠に向けられていた見下すような視線が泰然へと戻る。その反応に若干の落胆を示した泰然が軽く肩を竦めた。どうやら発言を誘導することは無理そうだと判断し、泰然は思考を切り替える。


「中条聖夜とは、どうしても接触を持っておきたかったのだ。貴方とて、同じ理由だろう?」


 その言葉にマリーゴールドは鼻を鳴らした。


「虫唾が走るから一緒にしないでくれる? 私にそんな意図は無い。たまたまあの御方が私にとって運命の人だったというだけよ」


 泰然が露骨に胡散臭そうな表情を作る。その心情をほぼ正確に理解したマリーゴールドは、頬をひくつかせながら満面の笑みを浮かべて言った。


「死ぬ?」


「いや、今はまだ遠慮しておこう。やるべきことが残っているのでね」


 泰然は強者としての返答ではなく、あくまで謙虚な姿勢でそう返す。その反応にマリーゴールドが舌打ちした。泰然はこっそりとため息を吐いた。


「我々は同じ者を敵と定めている。手を取り合う仲になる必要は無いが、せめて不干渉は貫けないのか」


「聖夜様に近付くのなら、それは不可能」


 即答だった。

 月詠がうえっと舌を出す。


「これが醜い独占欲というやつです?」


「人体標本にしてやろうか、この餓鬼が」


「あまりこちら側の戦力を削るような物言いはよしてくれ。扉の鍵を握られてしまえばこちらの負けは確定だ」


 仲裁に入る泰然をマリーゴールドが睨み付けた。


「あの男が手に入れるのは不可能でしょう? オサムイマイが堕ちるなら、対象をすぐに移動できるわけだし。マーカーが付いている以上、管理者がその挙動を見落とすはずもない」


「しかし、実際にあの男は自らの能力を奪われていない。それは制御できていない証明にならないか?」


 泰然の言葉に、マリーゴールドが押し黙る。

 説得は出来たと判断した泰然が話を纏めにかかる。


「そういうわけで、少なくともこちら側に戦闘の意思は無い。御堂縁と遭遇しても面倒なだけだ。退散させて……」


 そこでふと、泰然は引っかかるものに気付いた。


「ガルガンテッラ」


「なに」


「貴方は会ったことがあるのか? 今、あの男と言ったな」


「……あぁ」


 マリーゴールドは泰然が何を言わんとしているかを理解する。

 そして、答えた。


「あるわよ」


「いつ、どこで」


私の世界が(、、、、、)変わる前日(、、、、、)かしらね(、、、、)?」


 妖艶なる笑みと共に放たれた言葉に、泰然は眉を潜める他無かった。

 第8章 エンブレム争奪戦編・完


 あとがき的な何かは活動報告にて。

 次章の公開時期は不明です。

 詳細が決まれば改めて活動報告でお伝えします。


 それまでどうかお元気で!

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