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テレポーター  作者: SoLa
第8章 エンブレム争奪戦編

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第14話 エンブレム争奪戦 ⑥

 前話の件の台詞を「宣言しよう。ここから先、俺は身体強化魔法以外、魔法は使わない。好きにかかって来いよ」に修正しました。




 試験再開のアナウンスが耳に届くのとほぼ同時。

 大和さんと片桐がほぼ同じタイミングで突っ込んできた。


 挟撃される立ち位置にいた俺は、右腕と左脚に改めて身体強化魔法を発現し直す。片桐の半分に折れた木刀を右腕で、大和さんの拳を左脚で受け止め、右脚で廊下を蹴る。強化魔法の恩恵を受けていないため、高く飛べるわけではない。片桐の木刀を受け止めた右腕を軸に空中で身体を捻り、そのまま右脚を片桐の頬へ叩きつけた。


「っ、この程度!!」


 うまく魔力でカバーした片桐が手刀を薙ぐ。届かないのは分かっていたが、身体を反らすことで回避した。直後、耳を(つんざ)くような斬撃音。僅かに視線を向けてみれば、薙いだ手刀の延長線上にあった廊下の壁へ横一直線に太刀筋が生じている。


 そして。


「想像以上にすげぇ威力じゃねーかよ!! 片桐」


 俺を残し、後方へと吹き飛ぶ大和さん。腕を交差して片桐の『風車(カザグルマ)』を受け止めたようだが、その魔法服の袖が見事に斬り裂かれている。俺1人分の間合いがあったとはいえ、至近距離には変わりない。負傷するのは当然……、と思っていたらどうやら腕自体は無傷のようだ。防御壁が堅すぎる。


「隙あ――ぷっ!?」


 大和さんに気を取られているとでも思ったのか、追撃を仕掛けようとした片桐の顎を右拳で打ち抜いた。回転する力に身を任せることで体勢を立て直し、廊下へと右脚で着地する。身体強化魔法の発現箇所を両足に変更した。左脚で突進してきた大和さんを受け止める。


「へっ!! 随分と足癖が悪くなったもんだなァ、聖、うおっ!?」


 衝撃に負けて後ろへと吹き飛ぶ力が掛かったが、それには逆らわなかった。そのまま上半身を反らしバック転で右手のみを廊下につく。それと同時に右脚を振り上げて大和さんの顎を打ち抜いた。


 左手は片桐へ。


「"魔力の弾丸(マジック・バレット)"」


 ふらつく足を気合いで整え、攻勢に出ようとしていた片桐の腹部に直撃した。ふんばる力を出せなかった片桐が廊下と教室を隔てる側壁に激突する。


「ぐっ、このっ!! 身体強化魔法以外の魔法は使わないって言ったじゃないですか!!」


「魔力飛ばしてるだけだろ? お前は身体に魔力を纏っただけで魔法の発現と言うのか?」


「屁理屈!! それは屁理屈です!!」


 首を反らす。轟音と共に大和さんの拳が耳元を突き抜けた。流石は大和さん。あの程度の魔力では、顎を打ち抜いても効果は薄いか。


「ははっ!! 喧嘩中に女と話す余裕があるってかァ!? 舐めやがって!!」


 大和さんからの拳のラッシュを躱していく。そこへ片桐が突っ込んできた。

 右手を向ける。


「"魔力の弾丸(マジック・バレット)"」


「『陽炎(カゲロウ)』!!」


 片桐の脚が振り上がる。俺が放出した魔力の塊に叩きつけられた。

 あ、その迎撃の仕方はまずい。


 炸裂。


 制御不能となった魔力の塊が嵐のように吹き荒れた。


 辛うじて残っていた窓ガラスが派手な音を撒き散らしながら校外へと吹き飛び、側壁は抉れ、衝撃波が拡散される。


「うおおおおおおおおおお!?」


 一番の被害者は大和さんだったようだ。無秩序に荒れ狂う魔力によって身体が浮き上がり、もはや吹き抜けとなっている廊下を上へ上へと飛んでいく。


「ほら見なさい!! 普通は魔力を飛ばした程度じゃこんな惨状にはならないんですよ!!」


「うっせぇ!! 今のはお前が中途半端に迎撃したからだろうが!!」


 大和さんの身体が3階天井に突っ込む音をBGMに、瓦礫だらけの2階廊下にて片桐と激突した。


「前々から貴方のことは気に食わないと思っていたのです!!」


「それは知ってた!!」


 こいつなんで「今まで黙ってたけど実は」的な口調で話してんだよ。割と全面的にそんなオーラを出してたじゃねーか!!


 手刀を避け、拳を払い、蹴りを弾く。

 突進を躱し、足払いを跳躍で避け、回し蹴りを打ち落とす。


「この数秒で、何回私の攻撃を受けましたか!? チェックメイトです!!」


 片桐の言葉と共に、衝撃。

 視界が青白い光で埋め尽くされる。


「喰らえ!! 『群青雷花(グンジョウライカ)』!!」


 浅草流雷の型二式。

 触れた場所全てに自らの魔力を植え付け、合図と共に爆散させる技法。


 だが。


「前回ので何も学習してないのか?」


 迸る雷を一身に受けるも、ダメージは無し。

 舞の時と同じだ。コントロールできていない魔法は威力が分散される。この程度の魔法攻撃なら、もはやあの"不可視の装甲(クリア・アルマ)"を使う必要も無い。


 素の魔力だけでなんとかなる。


「な、化け物ですか!?」


 そう言われても、ウリウムの魔力伝達の効率が優秀すぎるとしか。

 まあ、いいか。一番の原因は背伸びし過ぎて空回りしているこいつにある。


 回し蹴りが片桐の脇腹に抉りこみ、そのまま吹き飛ばした。

 しかし、その直後に察知する。


 頭上から降り注ぐ膨大な魔力を。


 廊下を蹴る。

 1歩で2階廊下の終端まで後退した。


 直後、眩い光の矢が廊下に次々と着弾する。


「あれ、この威力わりとまずくない?」


 そう口にしたタイミングで、ガクンと足場が下がる感覚。

 2階の廊下がぶち抜かれた。







 カタカタと揺れるデスクに、青藍魔法学園の理事長である姫百合泰造は、書類にサインする手を止めて眉を潜めた。見れば、ティーカップに注がれた紅茶に広がる波紋もその余震の強さを物語っている。


「ふむ……、白熱しているようだな。後から映像で見れるとはいえ、私も生で観戦するべきだったか」


 窓から差し込む夕日に目を細めながら、泰造は朗らかな声色でそう呟き、書類へと視線を戻した。



 




 煙を払い、立ち上がる。

 見上げれば1階廊下にいるはずなのに、なぜか3階の天井を見ることができた。

 おかしいなぁ。なんでだろうなぁ。


 ジト目で目の前に立つ男を見る。


「ったく、聖夜が好き放題やりやがるから脆くなってたじゃねーか」


「責任転嫁はカッコ悪いっすよ先輩!!」


「あーん? 本来俺の魔法球程度じゃ壊れねーんだよ。俺だって2年の時はここで戦ってたんだぜ? 廊下ぶち抜かれて無かったろ?」


「いや、それはあんたが真面目に試験を受けていなかっただけっていう」


「あ? ンだとこら」


「……本当に仲の良い2人ですね、けほっ」


 2階にある教室の1つから、片桐が降ってきた。


「どうするんですか、これ。1階から吹き抜けで最上階の天井が見えるんですが」


「廊下の1枚や2枚が抜けたところで今更だろ」


 大和さんの男前な回答に片桐がため息を吐く。半眼で睨みつけられたので、爽やかな笑顔を返しておいた。


 知らなかった。

 廊下って1枚2枚で数えるんだ。


 まあ、冗談は置いておいて、だ。


「大和さん、光属性使えたんですね」


「おう。滅多に出さねーけどな」


 自らの背後に待機させている光属性の魔法球3発を一瞥しつつ、大和さんが答える。


「光属性は花宮の特権だと思ってましたけど」


「はは、あいつはあいつでレアだと思うぜ? 前回の選抜試験で戦ったってことは、あいつの使ってる魔法名も聞いたんだろ?」


 ……あー。

 あれ、やっぱり『繋ぎ』じゃなかったのか。まあ、既存の詠唱とは違ってたしなぁ。

 オリジナルだとしたら呪文大全集に載るんじゃないのか? いや、あいつ個人しか発現できないのなら対象外か。


「お二方、そろそろよろしいですか?」


 片桐の声が割って入ってきた。


「私としては、そろそろ決着をつけたいのですが」


「おう、そうしようぜ。本来の受験生は既に落ちてんだ。俺らで時間をあまり使うってのも……、な!!」


 飛来する魔法球を、身体強化魔法を纏った拳で叩き落とす。やや遅れて突っ込んできた大和さんを迎え撃った。2発、3発と拳を打ち付けあっていく。俺の回し蹴りを大和さんが後退することで躱した、その一瞬の間に片桐が割り込んだ。


「『水衝(スイショウ)』」


 その両手は、俺と大和さんそれぞれの肩口に。

 衝撃音と共に視界がぐらつく。


 これは、効いた。


 見れば大和さんも顔をしかめている。水分に衝撃を与える奥義。内側から襲う衝撃に防御壁の効きが鈍ったか。だが、この程度で止まる大和さんではない。伸ばした手が片桐の胸倉を掴む。


「っ!?」


 そのまま引き寄せてとどめを刺そうとする大和さんの脇腹に、わりと本気を込めた回し蹴りを叩き込んだ。片桐の身体が目隠しになっていたおかげで、すんなりと攻撃が通る。


「ごっ、あっ!?」


 硬い。

 が、突破した感覚。


 やはり非属性無系統魔法、"装甲(アーマー)"を展開していたか。していなければ緩衝魔法が発動するであろう程度の魔力は込めていたのだ。しかし、実際には僅かに大和さんの両足が浮き上がる程度だった。


 大和さんの腕から解放された片桐が、空中で一回転し遠心力を得た踵落としを大和さんの頭へ打ち下ろした。うっわ、あれは痛い。


 着地と同時に、片桐が俺のもとへと肉薄してくる。振るわれる手刀を躱し、蹴りを弾き返す。


「『光の球(シャイン)』」


 示し合わせることなく、俺と片桐は戦闘を中断。横っ飛びにその場を離れる。光属性の魔法球が、眩い軌跡を残して走り抜けた。転がった先へと回り込むようにして大和さんが動く。飛んでいる力を利用し、手を半壊した下駄箱に添えて上へと跳ね上がった。大和さんの拳が空を切る。


 空中には既に片桐がいた。


「『風車(カザグルマ)』!!」


 咄嗟に身体を反らす。スレスレをかまいたちが通り抜けた。天井に亀裂が走る。片桐の腹へ膝蹴りをぶち込んだ。


「ぐ、あっ!?」


「吹っ飛べ!!」


 思いっ切り振り抜く。腕を添えることで威力を殺していたようだが、空中では全ての威力を殺すことは出来ない。そのまま半壊している下駄箱へと片桐は突っ込んだ。


『緩衝魔法の発動を確認しました。片桐沙耶、脱落です。試験を一時中だ、って、ちょっと!?』


 縁先輩のアナウンスを聞いている余裕もない。既に眼前まで迫っている大和さんの拳を払い、受け、弾き、逸らし、受け流していく。お互いに半壊した下駄箱の上に着地するが、それも一瞬だ。すぐに距離を詰め、拳を打ち付け合う。


「ははっ! 楽しいなぁ、聖夜!! やっぱりお前は最高だ!!」


「光栄ですよ!!」


 殴り、殴られる。

 蹴り、蹴られる。


 大和さんの拳が俺の頬を捉え、派手に吹き飛ばした。

 あとちょっと魔力の移動が間に合わなければ緩衝魔法が発動していただろう。空中で回転することで吹き飛ぶ威力を殺し、瓦礫の上に着地する。


 大和さんの後ろで、慌てた様子の蔵屋敷先輩が片桐を回収していた。


「お前となら、最後に殴り合いで決着ってのも良かったんだけどよ」


 片桐を担いだ蔵屋敷先輩が姿を消すのを見据えながら、大和さんは言う。


「あの時は本気じゃなかったんだぜ、って言い訳を後でしたくねーんだよ。俺は」


 ――――っ!!


 その言葉から感じ取れたのは。

 悪寒。


 跳躍。

 身体強化魔法によって底上げされた俺の一歩が、爆発的な加速を以って大和さんとの距離を詰める。


「『遅延術式解放(オープン)』、『浄化の天蓋(プリシパリティ)』、そして」


 頭上に展開される天蓋から放たれる、神々しい光を浴びながら。

 大和さんが穏やかな表情で笑う。


「チェックだ、聖夜。『遅延術式解放(オープン)』、『浄化の乱障壁(プリシアミナス)』」


 激突。

 大和さんまであと僅か、というところで俺は大和さんが展開した障壁に激突した。


「がっ!?」


 割れない!?

 まさか障壁にも装甲魔法!?


 みしり、と。

 空間が歪む感覚。


 この圧は……!?


「俺の必殺コンボってやつだ、聖夜。障壁で守り、無系統で封じ、天蓋で穿つ。まあ、対人戦で使うのは初なんだけどよ」


 純白の天蓋が唸りを上げる。


「降参するなら今のうち、……おぉ?」


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 咆哮。

 全身に纏わりつくような圧に、魔力だけで全力で対抗する。


「おいおいっ!? 嘘だろっ!!」


 らしくもない、大和さんの焦り声を思考の外へと追い出し、今の俺ができる最大量の魔力を放出した。大和さんの拘束を強引に破壊、俺の周囲を幾枚もの障壁が覆うが、それすらも吹き飛ばす。魔法球の雨が着弾する頃には、俺は地を蹴り全力でその場を後退していた。


 大和さんと俺の間に、雨のような魔法球が降り注ぐ。辛うじて形を保っていた下駄箱もミキサーにかけられたように粉々になっていく。


「使えよ!! 聖夜!!」


 大和さんが指揮者のように腕を振るう。その動きに呼応して天蓋魔法の照準が俺へと向いた。


「お前も使えるんだろ!? 撃って来いよ、魔法球を!!」


 使わねぇよ。


 跳躍。

 後ろにではない。


 前へ。


「何っ!?」


 弾幕が到達するよりも早く、前へ前へと地を蹴る。頭上を走る魔法球の雨が、遥か後方で着弾する。


「『浄化の乱障壁(プリシアミナス)』!!」


 急ブレーキ。

 大和さんと俺を隔てるようにして展開される障壁を避けるため、横に逸れる。移動する俺のすぐ後をマシンガンのようにして魔法球が着弾していく。


「どうした!? 使えよ、聖夜!! 片桐ンときも使ったんだろ!?」


 使わねぇ。

 使わねぇよ。


 身体強化魔法を両足に掛け、移動速度を限界まで底上げする。進路を邪魔するようにして展開される障壁を躱し、天蓋魔法からの弾幕を回避し続ける。


「ちぃ、ちょこまかと動きやがって!!」


 大和さんの両腕が指揮者のように振り回される。

 それに呼応し、天蓋魔法が、乱障壁が唸りを上げる。


 魔法のコントロールは流石の一言に尽きる。舞や片桐のように、覚えたての魔法を使っているわけではない。完全に大和さんの支配下に置かれたRankAとRankBの魔法が、的確に運用されている。近接戦を得意とする前衛の魔法使いができる次元を遥かに超えていた。最初の喧嘩でこの戦法を取られていたら、後衛の魔法使いだと判断しただろう。


 というか、この人の本職どっちだよ!!

 魔法使いが目指すべき極地じゃねーか!!


 壁に風穴が次々と空いていく。そのたびに何かが砕け、煙が噴き上がる。

 そろそろか。


 ちょうど、そう思ったタイミングだった。

 俺への射線が遮られたのは。


 爆音と共に足場を蹴り上げる。

 気付いた時にはもう遅い。

 いや、反応できるだけ流石と言うべきか。


 障壁も弾幕も間に合わないと判断した大和さんの拳を払い、右拳を握りしめる。


「すみません、大和さん」


 確実に緩衝魔法が発動するであろう魔力を込めて。


「貴方だけは、どうしても、俺の拳で倒したかったんです」


 そう告げた時、大和さんは。

 僅かな間で笑ってくれた気がした。

 






《ほーんと、オトコってバカよね》


 その声は、とある少年にしか聞こえない思念で呟かれた。







「まあ、こんなわけだ」


 静まり返った旧館の廊下で肩を竦めてみる。

 解体工事中ほど、と言われても差し支えない状態だった。


 下駄箱と呼べるようなものはどれ1つとして箱の形を保っておらず、木くずとなってあちらこちらに散らばっている。窓ガラスは枠ごとどこかへと消え失せ、そもそも壁も風穴が無数に打ち込まれていて、もはや壁ではなく前衛的なアートのようになっていた。隔てる壁が消えて隣の保管室の姿は剝き出しだし、柱も何本か消えている。というか、その柱が支えるべきはずの天井が無い。


 目を逸らしたくなるような有様である。


 ため息を堪えながら、やることはやらなきゃなと周囲へと目を走らせた。運よく生き残ったカメラに近寄りながら口を開く。


「大切なのはどれだけ高難度の魔法が使えるかってことじゃない。自分が使える魔法をどれだけ活用できるかってことだ。高難度の魔法が飛び交った試験だったが、結果はどうだ。勝ったのはRankAではなくRankBの魔法。つまりは、俺だ」


 このカメラよく生き残ってたなぁ、なんて思いながらレンズを覗き込んだ。


「片桐との模擬戦では、実力の一端を見せるために魔法球も使ってみたわけだが……。これで俺の実力は証明されたと考えてもいいかな?」


 通話機能が付いていない以上、当たり前だが返答は無い。


「当然、異論反論は受け付ける。認められないようなら正規の手続き踏んで決闘でも何でも挑んで来い。ただ、1つだけ言っておく」


 今回、俺が一番言いたかったことを言う。


「俺と本気で戦いたければ、最低でも今くらいの戦闘ができるだけの実力は引っ提げて来い。以上」


 よし。

 これで無意味な決闘祭りが開催されることはないな。


 自分から言い出したこととはいえ、ウリウム無しの縛りは意外ときつかった。

 学生レベルの戦闘じゃなかったからね。舞は全身強化魔法、大和さんは天蓋魔法、片桐も奥義の二式を使いやがったからな。


 ただ、その分のリターンはあったと考えてもいいだろう。その中で俺は身体強化魔法だけで勝ち残ったのだ。若干の小細工はあったけれども、魔力を放出するのは皆やっていることだしな。防御する時に魔力込めたりしているわけだし。


 十分なインパクトを与えられたと判断しよう。

 そんなことを考えた時だった。


『まあまあ、そう腐るな。お前なら平気だ』


 ふと。

 なぜか昔の記憶が呼び起こされた。


『よく考えて見ろ。エンブレム争奪戦なんてクソつまらねーもの、何で起こると思う?』


 ぼんやりとした記憶の中で、質問者である大和さんに俺が答える。「……そりゃあんたの言う箔が欲しいからでしょう」と。


『それは動機の方だな。もっと単純な回答さ。つまり、“現エンブレム保持者が、相応しくない”と思われてるからだよ』


 あぁ、これはあの時か。

 大和さんと喧嘩して、無理やりエンブレム握らされて……。


 記憶の中の大和さんが、意味深にトーンを1つ落としながら言う。


『お前はこの俺を倒した。ただの出来損ないが簡単に倒せるほど、俺は弱かったか?』


 弱くない。

 貴方は弱くない。

 そんなのとうの昔に知ってますよ。


 あぁ、いつからだろうなぁ。

 この人に、憧れに近い気持ちを抱くようになったのは。


『俺の実力は、ある程度とはいえ野次馬共も当然知っている。それをお前が倒したんだ。お前に対する認識は、当然変わってる。まあ、それでも襲ってくるバカがいるとするならば、だ』


 大和さんは、記憶の中で思いっ切り口を歪ませて。


『潰せ。それもなるべく派手に、な』


 言ってた。

 そういえばそんなことも言ってた。


 記憶の中の会話に思わず苦笑しながら、カメラから手を離してゆっくりと立ち上がる。

 もう一度、周囲を見渡した。


 瓦礫の崩れる音がしたと思ったら、大和さんがしかめっ面で這い出てきたところだった。その姿に、思わずもう一度苦笑してしまう。あの時は、まさかここまでの実力者だとは思いもしなかった。縁先輩や蔵屋敷先輩とは違って、この人は普通の学生だったはずだ。


 それでこの実力ってどういうことなの。

 魔法に関する適正でいうなら、この学園随一じゃないか?


 薄れていく記憶の中で、大和さんは言う。


『最初のインパクトはでかい方がいい。お前にゃ絶対敵わないんだと、身体の芯まで叩き込んでやれ。そうすりゃ晴れてお前は自由の身だ』


 自由の身、ね。

 まさかあの時は、本当にそれをすることになるとは思ってもみませんでしたけど。


 煙で咳き込んでいる大和さんに、手を差し伸べる。


「大丈夫ですか?」


 俺の質問に、大和さんはあの時のように口を歪めて。


「後輩に心配されるほど、ヤワじゃねーよ」


 俺の手を取り、立ち上がった。


 大和さん。

 あの時、貴方から2番を頂いた俺が、今では1番まで上り詰めました。

 俺は、貴方にとって番号を託すに足る後輩になれたのでしょうか。

教師A「どいて! どいてどいて!!」

教師B「急患です! 理事長!!」

教師C「旧館が急患です!!」


泰三「え?」


 次回の更新予定日は、11月18日(金)です。

 次回の更新で、8章はおしまいです。


 この章が終わったらしばらく更新を停止します。

 忘れた頃に帰ってくるよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 無属性の身体強化ってランクCじゃなかったっけ?
[良い点] よい…神…尊い…
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