第10話 エンブレム争奪戦 ②
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この2人が相対したのは、可憐が安楽からの猛攻を避けるために、下駄箱へと身を隠したタイミングだった。
「結局、私の最初の相手は貴方と言うわけですか。花園舞さん」
腰に差した木刀に手を添えながら、沙耶は言う。刺すようなプレッシャーに晒されても、舞に動揺は無かった。
「最初? 今、最初って言ったのかしら。私の聞き間違いかしらねぇ」
「……どういう意味ですか」
「言葉通りの意味よ」
階下から、断続的に炸裂音が鳴り響く。
ここは旧館の2階廊下。
勝気な笑みを浮かべ、舞は言う。
「貴方の最後の相手が、この私ってこと」
「ふっ……」
ゆっくりと木刀を抜き、沙耶が笑う。
「前回の選抜試験で、私たちの力量差をはっきりとお伝えしたはずですが」
「比較対象が前回の選抜試験という時点で、周回遅れしていることに気付いたらいかが?」
鼻で嗤っていた沙耶の端正な眉がぴくりと動いた。
「その減らず口……、すぐに閉ざして差し上げます」
「やって見なさいよ。ほら」
舞が沙耶を迎え入れるかのように、両手を広げた瞬間だった。
跳躍。
5m近く離れていた距離を一瞬でゼロにする沙耶。
その脚には、無詠唱で発現された身体強化魔法。常人ならざる速度を得た沙耶の身体は、瞬く間に舞のもとへと到達する。
木刀を袈裟に振り下ろそうとして――――。
「『遅延術式解放』、『業火の型』」
舞の全身から、紅蓮の炎が迸った。
「なっ!?」
舞は振り下ろされた木刀を左手のひらで弾き、右手で掌底を繰り出す。空中で身体を捻ることで、沙耶は辛うじてそれを回避した。
吹き抜ける熱風と轟音。
廊下の側壁に嵌め込まれた窓が軋んだ音を立てる。
「……良く避けたじゃない、片桐沙耶」
空いていた右手で床から跳ね上がることで距離を置こうとした沙耶に、冷ややかな声が響く。
「けど、それがどこまで持つか……。見物ね」
回し蹴り。
その動作1つでも、周囲にもたらされる被害は甚大だ。
舞の足先から噴き出す炎が側壁を焼き、窓を割り、衝撃波を生み出す。直撃は免れたものの余波で沙耶の身体は吹き飛ばされた。
舌打ち1つ。
崩された体勢を空中で整えながら、沙耶は天井に足を掛けることで吹き飛ばされた威力を殺す。その過程で1つ、2つと蛍光灯が砕かれていく。手にしていた木刀を振り、蛍光灯の破片を払った。
しかし、後退する勢いが完全に消える頃には、沙耶の視界には逆さまになった舞の笑みが眼前まで迫っていた。
「くっ!?」
咄嗟に木刀でガードする。叩き込まれた拳を受け止めた木刀が、軋んだ音を鳴らす。木刀に接触した舞の拳から業火が吹き荒れた。衝撃と共に、圧倒的な熱量が物理的な痛みとなって沙耶を襲う。
踏みしめていた足が天井板を突き破った。それでも威力は殺せない。結局、沙耶は再び吹き飛ばされた。砕けた天井板の破片が飛散する。
不規則な回転を生じながら飛ばされた沙耶が木刀を突き出した。それは天井を突き破り、縦に亀裂を生み出しながら、沙耶の身体に生じていた回転と吹き飛ぶ力を殺していく。
結果、沙耶は2階廊下の終端となる窓へ凄まじい音を立てて着地した。窓が割れなかったのは奇跡に近い。蜘蛛の巣のようなヒビが一瞬にして構成される。館外に一歩でも出れば即失格だ。空中ならセーフだが、その後どうするのかという話である。
しかし、安心するのはまだ早い。
「ルー・ルーブラ・ライカ・ラインマック」
舞の始動キーが、沙耶の耳に届く。
咄嗟に着地した窓を蹴り、跳躍しようとした沙耶だったが、流石にその負荷までは耐えられなかった。足場としていた窓が砕ける。おまけに、着地の際に生じていた衝撃に麻痺していたのか、沙耶の足がぐらついた。
ふわり、と身体が宙に浮く感覚。
不意に足場を失い、力の抜けた沙耶の身体が、重力に従って側壁から床へと落下する。
そのタイミングで、舞の完全詠唱が完成した。
「ヴィルリア・ルーガ・『業火の貫通弾』」
RankBにして、火属性と貫通性能が付加された攻撃特化の魔法球。
それが4発。
確実に仕留めに来た一手だった。
「過去の雪辱は、ここで晴らす!」
気迫の篭った咆哮と共に『業火の貫通弾』が射出された。それらは紅蓮の軌跡を描きながら、一直線に沙耶のもとへと到達する。
いや。
――――しようとした。
「『風車』!!」
浅草の奥義、風の型一式。
振るわれる木刀の軌跡から、かまいたちが発生した。
沙耶自身のもとへと。
舞の『業火の貫通弾』が射抜く前の僅かなタイミングで、沙耶の身体は自らが生み出したかまいたちによって吹き飛ばされた。吹き飛ばされた先は、舞の死角。廊下突き当り右の先にあるのは階段だ。
「小癪な真似を!『火の球』、『誘導弾』!!」
直接詠唱によって発現された『火の球』3発を、舞はすぐに射出した。『誘導弾』の性能を付加されたそれらは、吹き飛ばされた沙耶の後を追うようにして、廊下突き当りを直角に曲がる。
舞の立つ場所からでは結果は分からない。ただ、音は聞こえる。何かに着弾した音。そして、3発のうち1発だけ異質な音がした。おそらく斬り捨てられたのだろう、と、舞は当たりをつけた。『火の球』程度の火力では、沙耶の防御力を突破できない事などとうに分かっている。
「ふぅーっ」
ゆっくりと、力強く。
舞は大きく息を吐き出した。
それに呼応するようにして、舞の身体に纏わりついていた紅蓮の炎が消えていく。
「やっぱりしんどいわねぇー」
RankAの高等魔法。
攻撃特化の火属性が付加された全身強化魔法『業火の型』。
この選抜試験を見据えて練習してきたわけではない。
昔から、地道に努力してきた。
その集大成がこれだ。
たまたま実用化が選抜試験に間に合ったに過ぎない。
いや。
「まだまだね。持続時間は20秒いくかいかないか、ってところかしら」
じっとりと頬を濡らす汗を拭いながら、舞は肩で息をする。舞自身、ここでお披露目はしたものの、実用化できたとまでは考えていなかった。
なぜなら、詠唱にかなりの時間を要するからである。
既定の詠唱文にオリジナルの詠唱文を足すことで、実力不足を補う技術がある。オリジナルの詠唱文を付け足す行為を『繋ぎ』というが、舞はなんとかその『繋ぎ』無しで『業火の型』を発現するところまで漕ぎ着けた。
しかし、始動キーに加えて既定の放出キーをただ唱えるだけで魔法が発現できるのならば苦労はしない。言葉の1音ごとに身体の中では様々な工程を踏んでおり、それが最終的に魔法名の詠唱と共に魔法へと姿を変えるのだ。
舞の場合、始動キーを含めた完全詠唱でなければ『業火の型』は発現できない。そして、その完全詠唱にかかる時間は30秒を超える。
それでも今回の試験に持ち込んだのは、先週行われた聖夜と沙耶の模擬戦を見たからだ。
舞は心底驚いた。
なぜ、聖夜が魔法球を打てるのか。
それも属性が付加され、馬鹿みたいな数を一度に。
模擬戦後、聖夜に問い質してみたものの明確な回答は無し。聞き出せたのは、リナリーと一緒にいる時に何かがあったということ。そして、隣にいた可憐ではなく、舞にだけ放たれたあの一言。
『俺だって、いつまでも足踏みしているわけじゃない』
嗚呼、と。
舞はその時に気付いてしまったのだ。
自分は、勝手に聖夜の限界を決めつけていたのだと。
呪文詠唱が出来ないという体質を抱えて魔法を行使する聖夜に、魔法球など使えるはずがないと無意識のうちに思い込んでしまったのだ。そして、あろうことか舞はそれを聖夜自身に押し付けるような発言をしてしまった。聖夜の魔法に対するコンプレックスを誰よりも理解しているのは、自分であると思っていたのに。そして、それすらも自らの思い込みであったことに気付かされた。
ぼやぼやしていたら、どんどん先に行ってしまう。
既に、聖夜は自分の遥か遠くを歩いている。
このままでは、一生追いつけない。
それどころか、その背中すら見失ってしまう。
それが焦燥の正体。
本当は分かっていたはずだった。
アギルメスタ杯の映像を見て無邪気にはしゃいでいた舞を、一気に現実に引き戻した真実。
それは、世界最強と謳われるリナリー・エヴァンスにすら届きうるのではないかと思い、応援していたT・メイカーが、自分の良く知る中条聖夜だったという驚愕の真相。
聖夜は、無詠唱で全身強化魔法を発現するという人間離れした技量を見せつけた。魔法世界の王族護衛集団『トランプ』の一角やアメリカ合衆国の抱える戦闘集団の一隊長、没落した天道家の跡取りやかの『七属性の守護者』の末裔など。あの名だたる猛者たちを押しのけ、T・メイカーはアギルメスタ杯で優勝した。
模擬戦で見せたあの数の魔法球が発現できたところで、本当は今更なのだ。同じ数の魔法球が発現できる魔法使いをあの大会に放り込んだところで、優勝は出来ないだろう。聖夜はそれ以上の実力を既に舞へ見せつけていた。
端的に言って、舞は大層焦った。
自分と同い年の魔法使いが、自分では手の届かない遥か高みに到達したという現実。自分の持つ『五光』次期後継者という肩書きすら霞んで見えてしまう実力差。
だから、舞はこの試験にRankA『業火の型』を持ち込むことに決めた。もちろん、これが自分の強がりだということは理解している。こんなことをしたって、聖夜に追いつけるわけではない。学園の、それも高校の試験に持ち込むレベルの魔法ではないということについても理解しているつもりだ。
それでも、舞は退けなかった。
使う相手を選べばいい。
もっとも、今回試験に参戦しているメンバーはその全てが最低でもRankB以上の魔法を発現できる実力者たちだ。聖夜を除き、この中で唯一学園にその実力を明かしていないエマですら、かのガルガンテッラの末裔であるというネタを舞は握っている。正直、もはやだれがRankAの魔法を発現しても舞は驚かない自信がある。
ただ、持ち込むといっても戦闘の最中に『業火の型』は発現できない。
今回、沙耶相手に発現できたのは、相対する前にスタート地点となった旧2年D組の教室で遅延魔法を利用して準備を整えていたからに過ぎない。戦闘中に詠唱しようものなら、その間に滅多切りにされているだろう。
今も、戦闘の間に生まれた準備時間であるにも拘わらず、舞は『業火の型』の詠唱はしていない。しかし、これは「きっと間に合わない」という考えだけではなかった。
「連続発現はまだ無理かぁ……」
魔法を詠唱しようと口を開きかけたところで、舞の身体はふらついていた。こんな状態では、初歩的な魔法ですら安定した発現はできないだろう。今回は『業火の型』の発現中、こちらも高等魔法であるRankB『業火の貫通弾』まで発現している。おまけに4発も。『業火の型』解除後の脱力感も凄まじいものだった。
幸いにして、沙耶は直ぐに反撃に移る気はないらしい。姿を消した階段から襲ってくる気配はない。舞の現状を知らない以上、舞の『業火の型』は脅威だと感じていることだろう。対策を練っているのか、はたまた一度距離を置くべきと判断し、既に逃走しているのか。
本当は後を追いたい。
そんな自分の考えを押し殺し、舞は一時撤退を決めた。
舞も分かっているのだ。
全身強化魔法『業火の型』が無ければ、沙耶の体術にはついていけないと。先ほどの舌戦で強気な発言はしたものの、舞はきちんと理解している。
舞と沙耶。
両者間に生じる実力差。
圧倒的なまでの対人戦への経験差。
前回の選抜試験で、舞はそれを痛感していた。
★
眼前。
ほぼスレスレのところを、紅蓮の軌跡が奔り抜けた。轟音と共に割れ残った窓ガラスを粉々にし、残っていた窓枠すらも呑み込み、館外へと吹き飛ばしている。
その光景を、自らの魔法によって生じた激痛に涙目になりながらも、沙耶は目撃していた。
悲鳴を上げる身体に、鞭を打って跳ね上がる。碌な受け身も取れずに階段から転げ落ちたのだ。沙耶の身体は至る所に激痛が生じていた。膝をつき、木刀を正面に構える沙耶の身体には微塵の震えも無い。強い意志の力でそれをなんとか抑え込んでいた。ただ、荒い息と共に肩が僅かに上下するのみ。
「……、……来ない」
ひっそりと呟かれた一言。
無意識のうちに安堵の色が混ざった自らの言葉に、沙耶は苛立ちを覚えた。
まさか、RankAの全身強化魔法を発現してくるとは。
それは完全に沙耶の想定外だった。
舞の言っていた「比較対象が前回の選抜試験という時点で周回遅れ」という発言が、挑発のためではなく事実だったということを思い知らされる。沙耶は思わず歯噛みした。
ここが特別試験の会場で無ければ、流石は花園家のご令嬢だと絶賛したことだろう。火属性魔法の発現にかけては素晴らしいの一言に尽きる。RankB『業火の貫通弾』の発現スピードとその威力には目を見張った。
しかし、そんな余裕は今の沙耶には無い。
「……立ちなさい」
ここで動かないと、負けるから。
「立ちなさい、片桐沙耶」
木刀を構えたところで、下準備が無ければあの全身強化魔法の前には成す術が無いことを知っているから。
「大丈夫だから。立ちなさい」
だから鼓舞する。
自らを鼓舞する。
「……立てっ」
未だに感覚が鈍っている足に小声で喝を入れ、沙耶が立ち上がる。
同時に駆け出した。
階下に。
褒められたものではない。これは敵前逃亡だ。しかし、無鉄砲にただ立ち向かえばいいわけでもないことを、沙耶は理解していた。結果が伴ってこそ、経過に意味がある。
沙耶は雪辱を誓いながら、その身体を階下へと躍らせた。
そして。
その先で目撃したのは――――。
★
青藍魔法学園における頂点、『青藍の1番手』。
この試験において、唯一現役の『番号持ち』である中条聖夜は、ゆっくりとその重い腰を上げていた。
試験開始から、約5分が経過していた。
のんびりと傾き始めた太陽を眺めていた聖夜だったが、ここに辿り着く前に他の出場者全員が潰し合ってしまう可能性を踏まえ、やはり動くことにしたというわけだ。最初は待っていようかと考えていたものの、窓は割れる音がするわ遥か階下からはやばそうな炸裂音が断続的に鳴り響いてくるわで、有体に言って不安になったのである。
豪徳寺大和や安楽淘汰のように、単純なお邪魔キャラとして参加しているのならそれでもいい。しかし、聖夜自身も試されている場である。先日の片桐沙耶との一件である程度の実力は示せたのだろうが、ここでもうひと押ししておけば更なる理解に繋がるだろう。聖夜が『青藍の1番手』に相応しい人物であるかどうかについて。
「坐して待つってのも結構リスク高いんだよなぁ」
そんな独り言を呟きながら、屋上の扉に手を掛ける。
校舎内をのんびりと散策しつつ、どこかしらの戦闘に介入すればいいだろうと適当な当たりを付けながら、聖夜は校舎内へと足を踏み入れた。
瞬間。
表情が引き締まる。
静かな校舎内に響き渡る、打撃音。
そして、階下から徐々に近づいてくる足音。
聖夜は無言で一歩を踏み出した。ゆっくりと階段を降りていく。断続的に響き渡る打撃音は、接近戦によって生じているものだ。音は近い。旧館3階だろう。若干篭って聞こえるのは、自分のいる階段に近いがどこかの教室の中だからかもしれない、と聖夜は考える。
そして、徐々に大きくなる足音はその戦闘とは別物だ。
聖夜は階段を降りていく。その過程で、近接戦を行っている者が豪徳寺大和とエマ・ホワイトであると確信した。
安楽淘汰と姫百合可憐の戦闘スタイルは近接ではない。残るは花園舞、豪徳寺大和、片桐沙耶、そしてエマ・ホワイト。その四者は全員近接戦闘が可能ではあるが、片桐沙耶の使用する木刀によって生じるような音は聞こえない。更に片桐沙耶は近接戦の中でも随所に浅草の奥義を織り交ぜてくる。片桐沙耶が戦っているのなら、打撃音以外にも聞こえてこなければおかしい。
そして、その理屈は花園舞にも適用される。花園舞の近接戦の腕前は、四者の中で一番劣ると聖夜は分析している。花園舞が他三者と渡り合うには、強化系以外の攻撃魔法の使用は必須だ。よって、花園舞も除外。
残っているのは豪徳寺大和とエマ・ホワイトのみ。
聖夜は、介入するかどうか悩みはしなかった。
即決。
介入しない。
なぜなら、聖夜が何と言おうがエマは自分へ攻撃しないと分かっていたからだ。出会った場所が2人きりなら強引に戦闘に持ち込むこともしただろうが、そこに大和が加わるのならば話が変わる。どこで何を悟られるか分かったものではない。
聖夜の矛先が大和へ向けば、エマは完全に聖夜をチームと見做して動くだろう。それでは聖夜が大和と交わした約束の形にはならない。
だからこそ、聖夜の意識は自らへと近付いてくる足音の主へと集中した。
階段を下りる。
足音の主は近付いてくる。
かなり慌てているのか、足音は時折もつれるようにリズムが変わる。
階段を下りる。
足音の主は近付いてくる。
やがて。
屋上と旧館3階を結ぶ廊下の踊り場に辿り着いたところで、聖夜はその足音の人物を階下に発見した。
「よう、舞」
2階から駆け上がって来たのは、花園舞だった。聖夜の存在には気付かず、そのまま3階の廊下へと姿を消すところだったその背中に、聖夜は敢えて声を掛ける。
びくりと肩を震わせたものの、舞は足を止めて振り返った。
そして、階段の上。踊り場から自らを睥睨する『1番手』の名を口にする。
「……せ、聖夜」
その顔に浮かんでいたのは、標的を発見したという獰猛な笑みではない。よりにもよってこのタイミングでと言わんばかりの、端正な顔立ちを歪めた悔しそうなそれだった。
汗を流し、肩で息をする舞を見て、聖夜が目を細める。
「既に一戦交えた後か。まあ、こんな試験形式だ。思い通りにはいかないよな」
脱落の放送は流れていない。
つまり、舞の戦いは決着がつかなかったということ。相手が逃げたか、それとも舞が逃げ出したのか。はたまた戦闘は継続中で、一時的に距離を置いているのか。
様々な可能性が脳裏をよぎるが、どれが正解だろうが、例え今考えた可能性の中に正解が無かろうが、聖夜にとっては関係無かった。
階下。
舞がいる3階よりも、遥か下。
そこから、断続的に響き渡る近接戦の音すら塗りつぶすほどの轟音が響き渡った。
それは、ガラスのような何かを叩き割るような。
そんな甲高い音だった。
しかし、聖夜の視線は舞から外れない。
無論、舞の視線も聖夜から外れなかった。
両者の間にのみ訪れた沈黙を破り、聖夜が言う。
「じゃあ、やるか」
直後。
聖夜のもとへ、紅蓮の炎が襲い掛かった。
次回の更新予定日は、10月21日(金)です。
ギャラリーはレベルの違いに呆然「( ゜Д゜)…エ?」