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テレポーター  作者: SoLa
第8章 エンブレム争奪戦編
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第9話 エンブレム争奪戦 ①

アンケートその2にご協力頂きまして、ありがとうございました。




 試験開始のブザーが旧館に鳴り響いてから僅か1分足らず。

 エンブレム争奪戦の火蓋を切ったのは、意外にもこの2人だった。


「……姫百合可憐さんですか」


 昇降口。

 午後の日差しが差し込む廊下に、彼はいた。


「……安楽先輩」


 可憐のスタート地点は1階にある保管室A。試験開始と共に扉を開け、廊下に出た。その直後の遭遇である。安楽淘汰のスタート地点は昇降口。この2人が一番最初に出会うのは、もはや避けられない運命だった。


 可憐は既に起動済みであるMCの表面をそっと撫でた。それは意図したものではなく、あくまで無意識の動作。5mほど空いた先にいる、車椅子の男に対する警戒心からくるものだった。


 安楽淘汰は盲目。

 なのになぜ、可憐を可憐と判別できたのか。


 人が近くにいる、と察知できたことには驚かない。可憐は保管室Aの扉を開けた。その音が聞こえたはずだからである。しかし、それだけでは人物の特定はできない。安楽は可憐が声を出す前にその名前を告げていた。


 ならば、どうやって。


 警戒心を強める可憐に対して、安楽は深い笑みを浮かべる。


「肌を刺すこのピリピリとした緊張感。良いですね」


 車椅子に肘をつき、安楽は続ける。


「さて、ここで出会ったのも何かの縁でしょう。始めますか?」


「『氷の球(アイシス)』!!」


 直接詠唱。

 魔法名のみによって発現する高等技法により、可憐は自らの頭上に氷属性の魔法球3つを発現した。可憐の視界には、車椅子に座る男子学生。射出の際に生まれる、一瞬の躊躇。


 その覚悟の隙間を縫い、安楽の言葉が刺さる。


「3発ですか」


「っ!!」


 射出。

 可憐の振り下ろした腕に呼応し、魔法球が安楽へと放たれる。


 そして。

 それらはどれ1つとして安楽に届くことなく破壊された。


「『氷の球(アイシス)』!!」


 今度は5発。「次は5発。まだまだ様子見ということでしょうか」という安楽の言葉を無視し、可憐は放つ。


 しかし。


「まあ、それも届かないわけですが」


 左で頬杖をつきながら、右手は指揮者のように振るう。迫る5発の魔法球は瞬く間に破壊された。


「発現量、発現濃度、そして発現までのスピード。どれも2年とは思えないほど卓越していますね。素晴らしい技量だと思います。ただ……、現段階では、あくまでそれだけ(、、、、)ですが」


 安楽が言い切る前には、無詠唱で発現された『氷の球(アイシス)』2発が射出されていた。しかし、それすらも安楽には届かない。それらは破壊音と共に砕け散る。


 不意に、可憐の艶やかな黒髪が風でなびいた。

 どこか遠くから、窓ガラスの割れる音がする。


「――っ、『氷の盾(アイシス)』!!」


 RankC相当の氷属性が付加された防御魔法。RankB相当の障壁魔法『薄氷の壁(クーリリンア)』と違い、本当にただの氷の壁である。意表を突くタイミングと角度から放たれた攻撃を、可憐は最速の防御法で防いで見せた。


 氷が砕ける音と、ステップを踏みその場から離脱する可憐。その頬には冷や汗が流れる。


「今のは『風の球(ウェンテ)』!?」


「ご明察です」


「ぐっ!?」


 呻き声。

 可憐の脇腹に『風の球(ウェンテ)』が直撃した。


「咄嗟に身体強化魔法……、いえ、これは違いますね。魔力を纏いましたか。流石は姫百合のご令嬢。うまくダメージを軽減できている」


 走り抜ける痛みを堪えながらも、可憐は安楽から目を離さない。安楽がいつ魔法球を発現したのか、可憐には分からなかった。いつ射出したのか、どのような軌道を描き自分の脇腹を抉ったのかも分からない。


 だから目を離さない。

 いや、離せない。


 衝撃でよろめく足を払うかのように、地を這う『風の球(ウェンテ)』が可憐の足に直撃する。


「なっ!?」


 それは可憐の後ろから来た。現に被弾した左脚が前に突き出される格好となり、可憐の上半身が後方に傾く。


「『誘導弾(リモールタ)』!?」


 射出後もその軌道を操作できる魔法球。

 可憐の死角を突いた一撃。


「本当にそう思いますか?」


 追撃はさせまいとする可憐の攻撃を、軽やかな指の動きで全て迎撃する安楽は笑う。


 可憐も分かっている。

 仮に『誘導弾(リモールタ)』だとしても、発現されたのが可憐に分かるはずだ。いつ、どこで発現されたのかが分からない。


「ほら、次は上から来ますよ」


「くぅっ!?」


 身体を捻った。背中すれすれを『風の球(ウェンテ)』が通過し、廊下へと着弾する。無理な体勢からの更なる無理な動きで、可憐の身体が悲鳴を上げて廊下に倒れた。その衝撃に可憐が思わず咳き込む。


「せめて急所くらいは庇ってくださいね。『風の球(ウェンテ)』」


 直接詠唱。

 安楽の頭上に8つの魔法球が発現される。


 その瞬間を、可憐は初めて目撃した。ひょいと回される指の動きに従い、それらが可憐を襲う。


「『薄氷の壁(クーリリンア)』!!」


 先ほどまでの不意打ちと違い、今度のは若干余裕がある。だから、可憐は先ほどよりも硬度な魔法を発現した。RankB相当の障壁魔法は素早く立ち上がる可憐の正面に展開され、安楽からの攻撃全てを防いで見せる。


「素晴らしい。ですが、前だけ守っていても意味がありません」


「がっ!?」


 無防備な可憐の背中に『風の球(ウェンテ)』が直撃した。防御が成功した、と一瞬の気の緩みを突く死角からの攻撃。浮き上がる足に力を入れても意味は無く、可憐は自らが展開した障壁に激突した。


「ティルティ・クラリネ・モール・ウェルネス」


 軽やかに振るっていた人差し指を、障壁の中央へと向ける。

 そして。


「フィンフィル・ヒルマ・『疾風の貫通弾(ウェンターラ)』」


 完全詠唱によって放たれる疾風の貫通弾。

 魔法球に風属性と貫通属性を付加したRankB『疾風の貫通弾(ウェンターラ)』が、障壁ごと可憐を貫いた。


 轟音と共に砕け散る氷の障壁。

 そしてその氷塊と共に沈む可憐。


 轟音中、安楽は僅かに眉をひそめた。


「……ふむ。いくら『五光』の令嬢とはいえ、RankBの魔法は」


 やり過ぎでしたか、と。

 そう続けようとした安楽のもとへ、氷属性の魔法球が3発撃ち込まれた。それら全てを無詠唱で発現したRankCの風属性の障壁魔法『風の壁(ウェンテ)』で防ぐ。


「余計な心配でしたか」


 安楽は1人そう呟く。可憐は崩壊した氷塊に手を添えて立ち上がった。


「まあ、君もRankB相当の魔法を発現していたことですし。この程度は耐えて頂かなくては」


 不意打ちだったにも拘らず、安楽の表情には焦りの1つすら浮かばない。その様子に可憐が下唇を噛む。


(……、やはり私のことを完全に知覚できている。魔法球の数まで言い当てたということは、何らかの魔法を発現していると見るべき)


「あまり難しく考えない方が良いですよ」


 思考の海へと沈みかけていた可憐を、安楽が呼び戻す。


「私がこれまで使用してきた魔法は、全て君の知っている魔法なんですから」


 安楽が両手を広げた。

 その動作に呼応するかのように、彼の背後に魔法球が発現される。

 その数は5。


「さて、白石女史曰く、僕はお邪魔キャラのようですからね。らしい(、、、)台詞でも口にしてみますか」


 風切り音と共に飛来するそれを、可憐は直接詠唱で発現した『薄氷の壁(クーリリンア)』で防いでいく。それを正確に感知しながら新たな魔法球を発現し、安楽は笑った。


「番号を欲する者よ、この私が倒せるかな? ってね」


 茶目っ気溢れる台詞とは裏腹に、確実に仕留める一手が放たれる。可憐の前に発現されていた障壁を回り込む軌道を描き魔法球は飛ぶ。


「『氷の盾(アイシス)』!!」


 RankC相当の障壁魔法は、RankBの障壁魔法に比べて耐久値は格段に落ちるが発現されるまでの速度は速い。飛来する5発の『誘導弾(リモールタ)』に接触すれば、すぐに破壊されるが軌道は変わる。1発につき1枚。次々と破壊されていく。


 僅かに逸れる軌道を読み、可憐は身体を捻り、その猛攻を躱す。そして死角となる下駄箱の陰へと転がり込んだ。


「ふむ?」


 盲目の青年は眉を吊り上げてみせた。


 右手を指揮者のように振り回し、飛来してくる『氷の球(アイシス)』を『風の壁(ウェンテ)』で破壊していく。安楽から死角になっている場所に隠れているため、当然可憐にとっても安楽がいる位置は死角となる。かなり杜撰な攻撃だったが、安楽は敢えてそれを全て無力化して見せた。力量を見せつけるという狙いもある。


 僅かな静寂。

 遠くから爆音が聞こえる。


「死角に逃げれば僕の攻撃全てが防げるとお思いですかね」


「軽く見られたものです」と笑いながら、安楽は次々と『風の球(ウェンテ)』を発現していく。


「作戦タイムを与えるほど、僕は優しくないですよ」


 指の動きに合わせて『風の球(ウェンテ)』が射出される。それらは様々な軌道を描きながら、安楽から死角となっている下駄箱の裏側へと飛んで行った。最初に可憐が逃げ込んだ場所から反応は無い。着弾音が鳴り響くだけだ。『誘導弾(リモールタ)』。それを次々に発現し、あちらこちらに打ち込んでいく。


 やがて、氷を粉砕する音が聞こえる。


「ティルティ・クラリネ・モール・ウェルネス」


 自らの始動キーを唱えながら、安楽は苦笑した。


 人差し指を、とある下駄箱へと向ける。

 そこは、先ほど氷が砕けた音がした場所とは違うところだった。

 しかし、安楽は躊躇わない。


「フィンフィル・ヒルマ・『疾風の貫通弾(ウェンターラ)』」


 RankBの貫通弾が発現された場所は、安楽の近くではなかった。

 指し示した下駄箱の上。




 可憐が本当に潜んでいた場所の頭上だった。




「――――な」


 突如として自らの頭上に発現した高等魔法に、可憐が絶句する。


「お分かり頂けたかな」


 遠くから。

 安楽は笑う。


「僕を相手に、隠れるという行為は意味を成さない」


 安楽の人差し指が下に折れる。『疾風の貫通弾(ウェンターラ)』が打ち下ろされた。可憐が転がるようにしてそこから回避する。


 有無を言わさぬ攻撃に逃走した可憐を待ち構えていたのは。


「駄目ですよ。敵対する相手の前に、みすみす姿を見せてしまっては」


 魔法球5発を背中に背負う安楽。

 可憐の表情が驚愕に彩られた。


「番号を背負う者の実力の一端、感じて頂けたのなら幸いだ」


 射出。

 倒れたままの可憐を標的に、容赦なくそれらは飛来する。


 これから詠唱したのでは間に合わない。

 終わり。

 安楽がそう確信した瞬間。


「『遅延術式解放(オープン)』、『薄氷の弾丸(クリミネア)』!!」


 RankB相当の氷属性が付加された魔法球が5発。

 遅延魔法によって待機状態にあったそれらが瞬時に解放された。


 飛来する安楽の『風の球(ウェンテ)』を弾き飛ばし、尚も勢いは衰えることなく安楽のもとへと殺到する。初めて、安楽の表情が強張った。両手を振り、次々に『風の盾(ウェンテ)』を発現していく。これで迎撃できるとは思っていない。絶妙な角度で発現されたそれらが、可憐の魔法の軌道を少しずつずらしていく。


 結果。

 4発は見当違いの方向へ。

 僅か1発が安楽の肩を掠める軌道を描き、遥か後方へと着弾した。


 緩衝魔法の発動は無い。


「……やりますね」


 掠めた肩を撫でながら、安楽は素直に称賛の言葉を口にする。


 可憐が下駄箱の陰へと身を隠したのは、ただ逃げるためではなかった。遅延魔法の準備をするためだったのだ。待機状態にある遅延魔法がこれで終わりとは限らない。並行して遅延魔法を使うにはかなりの技量が必要となるが、それを可憐は習得していないと断定するのは早計だろう。安楽が詠唱するタイミングを狙ってそれを解放されたら、主導権を奪われる可能性がある。攻撃魔法ではなく、防御魔法であったとしても厄介だ。安楽の必殺の攻撃魔法を防がれた挙句、反撃される恐れもある。


 今の攻撃は、カウンターとしての役割だけではない。安楽が迂闊に手出しできないよう、牽制する意味合いもあったのだ。


 可憐がゆっくりと立ち上がった。


「元がつくとはいえ、ご自身で返上した身。『青藍の5番手(フィフス)』に相応しい魔法技量であるとお見受け致しました」


 可憐の言葉に、安楽は相槌を打ちつつ先を促す。


「これまでの非礼に謝罪を。そして……」


 可憐が腕を振るった。

 その動きに呼応し、小さな小さな氷の礫が飛散する。


「私も、全身全霊を以ってお相手させて頂きます」


 笑う。

 車椅子に坐し、ひじ掛けに体重を預けた青年。


 相対するのはこの国の最大戦力『五光』に名を連ねる次期後継者候補。

 にも拘わらず、迎え撃つ青年の態度に怯えは無い。


「いいですね」


 安楽は、笑う。


「『五光』に名を連ねる者として、相応しい貫禄です。もっとも……」


 手を振り上げて。


「現状では、あくまでそれだけ(、、、、)、ですが」


 無詠唱で発現されたのは3発の『風の球(ウェンテ)』。

 しかし、可憐の意識は別の場所に集中していた。


「そこ!」


 視線は向けない。

 だが、可憐が指を差した場所へ無詠唱で発現した『氷の球(アイシス)』が射出され、可憐の死角となる場所にて発現されていた『風の球(ウェンテ)』を打ち砕いた。


 その光景を感知した安楽は動揺しない。苦笑いと共に肩を竦める。


「まあ、気付きますよね。先ほど、分かりやすく発現してしまっていたわけですし」


 先ほど。

 それは下駄箱の死角に身を隠していた可憐を狙い、『疾風の貫通弾(ウェンターラ)』をその頭上へ発現した時のこと。


「安楽先輩。貴方は、魔法を発現させることができる範囲が非常に広いのですね」


 通常、魔法を発現するのは自分の周囲だ。発現する距離が近ければ近いほどコントロールしやすいからである。距離を空ければ空けるほど、難易度は跳ね上がる。先ほど安楽が実現した距離は、この技術に特化している魔法使いで無ければ不可能な技術だった。元『1番手(ファースト)』の御堂縁であっても不可能だろう。


 そして。


「その技量を探知魔法にも利用することで、常人では及びもつかない感知能力を実現した。先ほど、私が身を隠した際、『氷の盾(アイシス)』を発現した後、わざと別の場所に身を隠してかく乱しようとしましたが……、それを瞬時に見破れたのもこの能力のおかげということですね」


「正解です」


 可憐の言葉に、安楽は頷いた。


「あの1発で仕留めるつもりでしたからね。だからこそ隠すことなく発現したわけですが……。まさかあれでここまで見破られるとは。素晴らしい洞察力だと思います」


 手放しで称賛する安楽は、車椅子の背もたれに深く身体を預ける。


「ですが、勘違いしてはいけませんよ。ネタが割れたここがゴールではない。貴方は私と同じ土俵に上がり、ようやくスタート地点に立ったのです。その情報をこれからどう生かすかが――」


「お言葉ですが、安楽先輩。ここがゴールです。私が貴方の魔法の力を看破した。ここがこの戦いの終着点です」


「……なんですって?」


「『遅延術式解放(オープン)』、『薄氷の壁(クーリリンア)』」


 RankB相当の障壁魔法。

 氷の壁8枚が可憐の周囲に展開される。正面だけではない。横や後方、頭上にも。文字通り、可憐を守るために。発現範囲の広い安楽の魔法球からの不意打ちを避けるための布陣だ。


「スィー・サイレン・ウィー・クライアーク」


「む」


 頭上に展開していた3発の『風の球(ウェンテ)』を射出。さらに次々に新たな魔法球を生み出していく。しかし、『風の球(ウェンテ)』はRankCの魔法球。1発や2発では可憐が展開しているRankB相当の障壁魔法は破れない。


「ラス・ペスタ・ラ・クリエミスタ」


 迫りくる魔法球を迎撃する障壁に守られ、可憐の詠唱は続く。安楽の表情に焦りが見えたところでそれは完成した。




「『白銀の世界(フリージア)』」




 可憐が立つ足元を中心として、細氷が吹き荒れる。

 安楽の猛攻によって破壊された障壁は、8枚中僅か2枚。しかし、もはやそれすらも関係は無かった。


「……やられましたね」


 ひじ掛けに体重を預け、顎を撫でながら安楽は呟く。発現した浮遊魔法によって彼が坐す車椅子が浮いた。廊下一面が薄氷によって覆われていく。


 下駄箱や、窓も。

 側壁や、天井も。


 この場にあるもの全てが可憐が放つ圧倒的な魔力に支配されていく。


 空間掌握。

 青藍魔法学園屈指の掌握力を持つ少女が、ついにその能力を解放した。


 その魔法の難易度は、在学中では本来触れることのないであろうRankA。


 宙に浮いていた安楽の車椅子が、突如としてその高度を落とす。可憐の空間掌握によって、安楽の魔法が干渉され始めた証拠だ。これまで造作もなく発現できていた魔法が、突如として不安定となる。新たに発現した『風の球(ウェンテ)』も、同じ魔法使いが発現したとは思えないほどに弱々しいものだった。


「想像以上です」


 安楽は素直にそう口にした。微笑みかけるような態度は無い。


 なぜなら。

 笑みを浮かべるべき相手がどこにいるのか分からないから。


 安楽が展開している探知魔法が途切れたわけではない。しかし、可憐によって掌握された空間にいる以上、その効力は阻害されたものとなる。常にジャミングを受けている状態とでも言うべきか。相手の魔力を感知し、相手がいる場所や相手の発現した魔法の位置を常に補足して彼に伝えていた魔法が、正確な情報を入手できなくなっていた。


 息を吐く口が震える。

 それは、寒いからという理由だけではない。


 分からないという恐怖。

 一切の光が無い暗闇を彷徨っている感覚。


 その中で、安楽は自らの肌に別人の魔力が少しずつ付着していく感覚を覚えた。


「『青藍の5番手(フィフス)』に最大の敬意を」


 声が聞こえる。

 そして。


「貴方と戦えたことを、私は誇りに思います」


 その言葉の直後。

 安楽の身体を苗床として、氷の華が咲き誇った。

次回の更新予定日は、10月14日(金)です。

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