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テレポーター  作者: SoLa
第7章 異能力者たちの饗宴編
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第11話 犠牲




 早々に協議会の敷地から脱出していたエマは、聖夜を背負ったまま一般企業のビルの上を疾走していた。背中から感じる聖夜の体温は、服越しであるにも拘わらず異常なほどに高い。荒い息を繰り返す聖夜を背負い直しながら、ビルからビルへと跳躍する。


 聖夜の持つMCについての説明をあらかじめ受けていたエマは、治癒魔法を完全にMCへと一任していた。エマがすべきことは、まず身の安全を確保できる場所への移動だと考えたためだ。


 目指す先は、青藍魔法学園。







「説明を求めます」


 姫百合美麗からの凍てついた視線に、剛は苦笑いを浮かべるしかなかった。協議会から外に出るなり、実験棟がスッパリ斬られて倒れてきたのだから驚くのも当然だろう。


 天上天下の気配は既に霧散している。無詠唱で発現した魔法は、詠唱したそれよりも威力や強度は劣る。しかし、あれほどの手負いであった天上天下が、剛が得意とする火属性の結界魔法を破って逃走したことは信じられなかった。


「『ユグドラシル』側に『絶縁体』を破壊できる奴がいる。そいつにやられた。幹部級であることは間違いないな」


 と言うよりも、あれが雑兵のレベルだと剛は思いたくなかった。


「……幹部級ではなく、それは天地神明の側近でしょう」


「何だと?」


 思わぬ点を指摘され、剛が眉を吊り上げる。


「岩舟の第一護衛から連絡を受けました。コードネーム『天上天下』の討伐要請です」


 剛は舌打ちした。


「最悪だ。道理で俺の結界魔法を破れるわけだ」


「つまりは逃がした。そう言うわけだな」


 剛と美麗のもとへ、岩舟龍朗がやって来た。その後ろには、彼の第一護衛・藤宮誠ではなく、蔵屋敷鈴音を背負った御堂縁がいる。それを見た美麗が目を丸くした。


「貴方、ここで何をしているの」


「詳細は後ほどで構いませんか。ちょっと余裕が無いもので」


 鈴音の身に纏っている魔法服はズタズタに切り裂かれており、血で真っ赤に染まっている。治癒魔法によって一命はとりとめたようだったが、あまり余裕が無いのは事実だった。


「こいつらは放っておけ。それよりも天上天下だ。『七属星』が追っている奴とは別なんだろう?」


 一礼してその場から消える縁には目もくれず、龍朗が美麗に問う。


「ええ。花園が協議会の屋上で天上天下らしき相手と戦闘している時には、既に間城と風見はその者を追跡していたから」


「面倒だな。花園、どちらに逃走したのか目星すらつかないのか」


 龍朗は、美麗から剛へと視線を移した。剛は首を横に振る。


「そんな余裕は無かった」


 龍朗が重いため息を吐いた。倒壊した実験棟を見せられては、龍朗も表立って文句は言えない。むしろ、新たな死者を出すことなくこの場を抑えた2人は賞賛されるべきだ。


 3人のもとへ協議員の1人が駆けてきた。


「お話し中、申し訳ありませんっ」


「どうした」


 剛の問いかけに、荒い息を吐きながら協議員が答える。


「総理大臣より連絡が! 街中での戦闘は控えるようにと」


「寝言は寝て言えと伝えろ」


 答えたのは龍郎。


「で、ですが、民に危険が及んでからでは遅いと申しておりまして……」


「馬鹿か? この状態で鼠を野放しにしろと言うのか」


「落ち着け、岩舟」


 頬をひくつかせながら暴言を吐く龍朗を剛が止めた。それに反論しようとした龍朗だったが、携帯電話の着信音によってそれは遮られる。画面に表示された文字に怪訝な表情を浮かべながらも、龍朗は着信ボタンを押した。


「この馬鹿げた指示はお前の差し金か、白岡」


 その第一声に、美麗が眉を吊り上げる。数度相槌を打った龍朗は、険しい表情を浮かべながら通話を打ち切った。


「何だって?」


「お得意の暗躍だ。逃走した『ユグドラシル』は、白岡が手配した者が責任を持って始末する、と」


「それは『七属星』に名を連ねる間城と風見を差し置いてでも、ですか」


「差し置いてでも、だ」


 剛と美麗の言葉に、龍朗は苛立ちを隠そうともせずに吐き捨てる。


「別の理由があるな」


 剛の呟きに龍朗は頷いた。


「つまり、手配した者とやらの素性を知られたくはないらしい。全くもって面倒な事だが……この件についての責任を奴が全面的に請け負い、かつ逃走者を確実に始末できるのなら文句は無い。……あくまで今のところはだが」


 龍朗が携帯電話を弄る。相手にはすぐに繋がった。


「間城、戦闘中にすまないな。総理大臣より指示が出た。直ちに戦闘を中止、協議会へ帰還しろ」


 協議員もまさかこの通達が通るとは思っていなかったのか、目を丸くしていた。


「よ、よろしいので?」


 通達を持ってきた身としては身勝手な考えではあるが、協議員としてはここでしっかりと反発して逃走者を一網打尽にして欲しかったのだ。その姿こそ、協議員の思い描くこの国最高戦力者の姿だった。

 協議員の動揺には目もくれず、通話を切った龍朗は言う。


「お前はお前のすべきことをしろ。鼠を徹底的に炙り出せ。花園、姫百合、先に会議室に戻っていてくれ」







「……本当に撤収したようね」


 人目の少ない場所へと誘導しつつ戦っていた間城と風見が『ユグドラシル』の前から姿を消したの見て、アリサ・フェミルナーが驚いたと言わんばかりにそう呟いた。その反応に、ジェームズ・ミラーは苦笑しながら携帯電話を懐に押し込む。


「『五光』に利用されているというのは癪だけど、手土産が増えるのは喜ぶべきことだろうね」


 追っ手に警戒しながらも『ユグドラシル』は逃走を再開した。


「条件は2つ。人目を避けること、そして一般人に危害を加えないことだ」


「了解」


「ある程度は泳がせておこうか。流石にこの国の都心でこれ以上暴れるのはまずいからな。空からの目にも注意を払っておけよ」


「もちろん」







 陽が落ちた。


 肌を刺すような寒空の下でも、報道陣は退かなかった。『ユグドラシル』の逃走によって一時騒然となった現場だったが、更に離れた場所に設置された規制線のギリギリから、数多くのリポーターが何かしらを叫んでいる。

 その中継を携帯電話で視聴していた二階堂(にかいどう)(はな)は、鼻を鳴らしながら携帯電話の電源を落とした。


「呑気なものですこと。一度命の危険を感じておきながら……。まるで新たに設置された規制線まで下がっていれば命の保証はされたも同然だと勘違いしているようではありません? いえ、この場合は立派なジャーナリスト魂を称えてあげるべきかしら」 


「既にこちらから終息宣言は出しているのよ。新しい情報を得ようと行動するのは致し方ないかと」


 美麗も口ではそう言ってはいるが、疲労の色がその表情に滲み出ている。剛や白岡(しらおか)(めぐる)も同じような表情だ。


「待たせた」


 そこに、岩舟龍朗が入室してくる。一斉に起立する『七属星』に座るよう手振りした龍朗は、足早に自らの席へと腰を落ち着かせた。


古宮(ふるみや)議長が会見の準備を終えた。間もなく始まるだろう。白岡、そろそろ説明してくれないか」


「何をだ?」


「これ以上とぼけるのは得策とは思えないのだが」


 視線すら合わせずに淡々と言う龍朗に、巡はにやりと口角を吊り上げる。そして『五光』が座る円卓に設置されている操作パネルを弄り、通信機器の一切を遮断した。その行為に眉を吊り上げる『七属星』の面々を無視し、巡が口を開く。


「USAの『断罪者(エクスキューショナー)』を極秘でこの国へ招致している」


 開口一番この発言に、『五光』の外側に配置されている円卓に座る『七属星』の一部から「何だと……」という呻き声に似た何かが発せられた。しかし、表立った反応はしていないとはいえ感情は『五光』の面々も同じだ。


「何を考えているんだ、白岡。売国行為だぞ」


「私はそうは思わない」


 花園剛からの苦言に巡は動じない。


「あくまでコネクションの一部を有効活用させてもらっているだけだ。現に、極秘と言いつつもこうして情報を共有しているではないか。後ろめたいことがあるならば、秘密のまま押し通すとは思わないかね?」


「情報共有することが身の潔白を証明することにはならないわ」


「これは手厳しいな」


 巡は美麗からの指摘に苦笑して見せた。華は仇敵でも見つけたかのような視線で巡を睨みつけている。龍朗は深いため息を吐いた。


「……なるほど。残党狩りを押し付けたわけだな」


「そういうことになる」


 悪びれもせずに巡は頷く。剛が渋い顔をして腕を組んだ。


「かなりでかい貸しになったんじゃないか?」


「そうでもない。相手方もそれなりのメリットがあってのものだ。徹底したギブアンドテイクというやつだな」


「相手方のメリットとはなんですの?」


 華からの質問に、巡は薄い笑いを浮かべる。


「この場に不届き者がいるかもしれない以上、これ以上のことは話せんな」


 場に沈黙が訪れた。


「……協議員のうち数名に操作魔法の痕跡が見受けられました。今回の一連の事件については、そういった者たちによる反乱から派生した攻撃として公表されることになるようです。責任を取り、協議会会長である古宮(ふるみや)小次郎こじろうは職を辞する、と」


 火車四朗が先ほど協議員から渡された資料に目を通しながら言う。会議室にいくつものため息が吐き出された。


「やむを得ないとはいえ……、惜しい人材だ」


 巡のその呟きに誰もが頷く。


「実験棟内の腐敗も目立つ。責任者は二階堂、お前だが何か弁明はあるか?」


 龍朗からの質問に華は答えなかった。視線すら合わせようとはせずに、手にした扇子を鳴らす。美麗が軽く手を挙げてから口を開いた。


「責任者として名を貸しているというだけで、実際の管理者は元『五光』の花菱(はなびし)だと私は聞いているのだけれど……」


「姫百合、それで二階堂には何の責も無いと?」


「いいえ、そうではなく。今回の件については、操作された協議員による犯行だけでは説明できないことが散見されているわ。責任を取る取らないの話では無く、原因究明を第一とすべきではという話よ」


「……道理だな。幸いにして、世間に流れている情報は協議会と実験棟が襲われたということのみ。なぜ防げなかったのかという問いに対して、操作魔法を用いられたという説明をするだけだ。実験棟内部についてはもともと公表していなかったのだし、その辺りはうまくはぐらかすか」


 巡のその言葉に、美麗は「そういう意図で言ったわけではないのだけれど」と呟いたが、決して大きな声では言わなかった。このタイミングで『五光』の一角が崩れることの意味を、美麗も理解していたからである。


 世間体は大事だ。

 何か組織がミスを犯した場合、早急に対策を立て責任者を切るという判断は間違ってはいない。責任者はそういったリスクも織り込み済みの上でその地位にいるのだから。しかしながら、『五光』の名を背負う者たちについては、少々事情が異なる。


 彼らはこの国の最高戦力。

 最大の抑止力。

 この国の矛であり盾なのだ。


 ただの権力者としてここにいるわけではない。

 文字通り、最大戦力の一角としてそれぞれがここにいるのだ。


「その辺りの機微は白岡に任せるとしよう。ただ、花菱の呼び出しは早急にするべきだ。場合によっては消えてもらう必要がある」


 腕を組みながら淡々と龍朗は言う。もちろん、消えてもらうというのは物理的な意味でだ。しかし、この場にいる者たちの中で、その発言に異を唱える者はいない。黒であるということは、『ユグドラシル』と繋がっていたということ。この件に関しては、擁護しようがないからだ。


「引き出せるだけ引き出してからだ。逸るんじゃないぞ、岩舟」


「当たり前の事を諭すように言うな。理解している」


 剛からの苦言に、龍朗は不機嫌そうに答えた。


「しかし、これも良い機会だったのかもしれんな。『五光』の管轄とされつつも、実験棟の管理は代々花菱の家系が請け負っていた。まあ、少し調べれば分かることだから、誰でもその隙を突こうと思えば突けるのだろうが……」


 巡がそう口にしている最中、龍朗が席を立つ。


「白岡、ちょっと来い」


 一回り以上年下の男からの乱暴な言葉にも、巡は肩を竦めただけで席を立ち上がった。


「花園、今後のメディアへの対応についても含めて話を進めておいてくれ」


「分かった」


 剛からの返答に頷いた龍朗は、巡を連れてこの場を後にした。







「……何を企んでいる?」


「おいおい、人を連れ出しておいて第一声がそれか? 随分なご挨拶じゃないか」


「御託はいい」


 協議員に別室を用意させ、入念に盗聴盗撮の電子機器の有無を確認した上で部屋の鍵を閉め、更に防音の魔法まで展開した龍朗は言う。


「まさかあの場で『断罪者(エクスキューショナー)』の名を出すとは思わなかったぞ」


「岩舟、お前が聞いてきたんだろう?」


「いくらでも良い言い回しはあったはずだ」


 肩を竦めて見せる巡に、龍朗は顔をしかめた。


「『断罪者(エクスキューショナー)』の雑兵では『ユグドラシル』側を秘密裏に処理はできまい。誰を呼んだ」


「“雷帝”アリサ・フェミルナーと“幻刃”ジェームズ・ミラー」


 巡からの端的な回答に、龍朗は天を仰いだ。


「……よく審査をパスしたな」


「コネは深く、そして幅広く持つべきだぞ。若造」


「講釈は結構だ。見返りに何を渡した? 隊長格を2人も借り受けるなど通常の手段では不可能なはずだ。あの“旋律”が駄々を捏ねるくらいしないと無理だろう。……いや、待て。お前まさか」


 何に思い至ったのか、龍朗の目が見開かれる。それを面白そうに眺めていた巡が口角を吊り上げた。


「まあ、リナリー・エヴァンスに貸しを作ると後が怖いのは事実間違っていないが……」


「『ユグドラシル』内に……、密偵がいるな」


 自分の言い分を無視して出された龍朗の結論に、巡が目を丸くする。


「なぜそう思う?」


「『断罪者(エクスキューショナー)』側の対応が迅速過ぎる。もともと都心で張っていなければここまで迅速には動けまい。首相官邸に、いや、総理大臣に追撃をやめさせるように口添えしたのはお前のようだしな。タイミングが良過ぎる」


 龍朗の言葉に肯定も否定もせず、巡は先を促した。


「どのような工程を経て『断罪者(エクスキューショナー)』との繋がりを構築できたのかは知らないが、お前が片手間に動かせる相手ではないはずだ。お前自身、先ほど『徹底したギブアンドテイク』と口にした。となると、奴らがお前の思惑に乗っても良いと思えるだけの餌が必要になる。それも、隊長格2名を他国へ密入国させるだけのリスクを負う価値があると思えるほどの」


 巡はまだ何も言わない。


「誰だ。そいつは今、どの身分にいる?」


 龍朗からの強い口調による質問に、巡は嘆息しながらも、ようやく口を開いた。


「コードネーム『沙羅双樹』」


 その答えに龍朗の両眼が見開かれる。


「彼女が私の送り込んだ起爆剤だ」


「……つまり、『権議会』中に起こった今回の一連の流れは、全て白岡主導の茶番劇だったと言うことか?」


 龍朗の身体から漏れ出した不穏なオーラに、巡が両手を振って降参の意を告げる。


「待て待て。鏡花水月からの報告からも分かる通り、沙羅双樹は組織の幹部を務めているんだ。上から与えられた作戦を彼女が捻じ曲げるのは不可能に近い」


「……だから何だ」


 巡の言い分は、龍朗の機嫌をより損ねるものだった。腹の底から発せられたような低い声が巡を威圧する。


「人が死ぬことに関して、俺は忌避感を抱かない。国の礎として命を散らしていく者に対して、それは失礼な感情だと考えるからだ。だがな……」


 一歩距離を詰めて、龍朗は言う。


「救える命を救わず達観した視点で物事を語るスタンスには、虫唾が走る程度にはイラつくんだ」


「……沙羅双樹は、まだ天地神明と直接会える立場にいない。命令は全て直属の側近から与えられると聞いている。彼女の地位を盤石なものとし、『ユグドラシル』という組織の内部から風穴を空けるためには、どうしても必要な犠牲だったのだ」


「実験棟の職員は全て死亡したと報告を受けている。それら全てが必要な犠牲だったと言うのか?」


「奴らの諜報能力を舐めるなよ、岩舟。お前だって気付いているはずだ。奴らの目はまだ消えてはいない」


 巡の言葉に、龍朗の表情が歪む。


「……言っておくが、お前もまだ容疑者から外れたわけではないぞ」


「その言葉は岩舟、お前にも返そう。残念だが……」


 巡は草臥れたため息を吐きながら口にした。


「確証がある。裏切者は『五光』と『七属星』、いずれかの中にいる。だから二階堂を外すわけにはいかないのだ」







 慌ただしく走り回る協議員と何度もすれ違いながら、龍朗と巡は会議室に戻る。扉を開けるなり、剛から声が飛んだ。


「少々まずいことになった」


「これ以上まずくなるような事態とは何だ」


 もはや呆れ声となった巡に対して、美麗が告げる。


「花菱家現当主、花菱(はなびし)喜助(きすけ)が何者かによって暗殺されたようです。同居していた血縁者、並びに使用人も含め生存者はゼロとの報告が入りました。邸宅はほぼ全壊、現段階で犯人の目的は不明とされてはいますけど……」


 動揺しているからか敬語で話す美麗に、それを指摘する者はいなかった。


「もはや黒であることを隠す必要も無かった、ということだな」


 龍朗の言葉は的を射ている。

 なぜなら、『ユグドラシル』は日本の実験棟から完全に撤退したからだ。


 昔。

 建設当初から根を張りめぐらせていた、日本の実験棟から。

 初代『五光』にして実験棟創設者、そして代々その管理者を勤め続けていた花菱家ごと根絶やしにして。







 沙羅双樹より報告。


 素体の回収は完了。

 また、次いで保護対象であった輪廻転生も出国を確認。


 難攻不落を始め、数名の死体は『断罪者』の手に落ちたものと予想。

 現在、詳細を確認中。


 実験棟に配置していた研究者を始めとする被検体の処理は完了。

 一攫千金と合縁奇縁の消息は不明。

 協議会作成の死体リストに存在せず。

 死体については回収失敗。


 以上の報告より、作戦成功と判断。







 暗い一室だった。

 自らの直属の上司相手に報告を終えた沙羅双樹は、この部屋唯一の光源であるパソコンの薄明りに照らされながら、両手で顔を覆った。


 肩を震わせて嗚咽を漏らす。

 彼女の心は今にも砕けそうだった。


 盤面で繰り広げられた惨劇は、全てが彼女の指示した結果。

 これだけの死者を出すことが、果たして正解だったのか。


 正解だったと言えるはずがない。

 だが、不正解だと言えるはずもない。

 不正解だと論じれば、彼女の心は本当に砕け散るだろう。


 弾けるようにして立ち上がり、パソコンの画面を殴りつける。

 魔法など施してはいない生身の女の拳だ。

 パソコンは壊れなかった。


 痛む拳をさする気にもなれない。

 再び糸の切れた人形のように腰を下ろす。


 彼女を慰める者はいない。

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