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テレポーター  作者: SoLa
第7章 異能力者たちの饗宴編
224/432

第1話 再会

 今回は2話同時投稿です。




『鼠の狙いは実験棟の最上階』


 要点のみが簡潔に記された文面を読む。


「……何だこりゃ」


 簡潔過ぎて逆に分からない。だが、悪戯と割り切れない内容にも見える。

 どうすべきか……。


「女の臭いがします」


「うおっ!?」


 にゅっと顔を出したエマから肩越しに呟かれたため、思わず飛び退いてしまった。


「……びっくりさせるなよ」


 考え事をしていたとはいえ、接近にまったく気付けなかったんだが。


「それに、女の臭いって何だ」


 エマは人差し指を俺の携帯電話へと向けた。


「そこからします」


 表示されているのはもちろん謎のメールである。


「送り主不明のメールなんだが」


「なるほど。つまり女ですね」


 なぜそう断言できる。データに臭いなんてあるわけないだろう。

 うんざりしている俺を余所に、エマは勝手に画面を覗き込んでこう言った。


「実験棟……。この国で言う実験棟ならば、魔法協議会の隣に建つ魔法開発特別実験棟のことでしょう」


「魔法開発特別実験棟……」


 師匠から聞いたことがある名だ。日本五大名家『五光(ごこう)』の息が掛かった魔法開発の施設。『鼠』と表現するからには、招かれざる客ということだろう。他国のスパイでも現れたのか?


「聖夜様、この施設に何かご縁が?」


「いや、無関係だ」


 エマの問いに即答する。俺の答えに、エマは怪訝な表情を浮かべた。


 それも当然。

 ならばなぜ、この正体不明の送り主は俺にこの事実を伝えたのかということだ。


「ならば如何いたしましょうか」


 この問いには即答できなかった。

 何らかのアクションを起こすか、それとも見て見ぬふりをするか。


「率直に申し上げまして、無関係だというのならば関わり合いにならない方がよろしいかと。良くない噂も耳にしますし」


「良くない噂?」


「人体実験とかです」


 人体実験とかです、とかけろっと言うんじゃねーよ。


「協議会のすぐ傍でそんな非合法なことができるのか?」


「バレなければ問題は無いということですね」


「バレてるから噂が立ってるんだろう?」


「訂正します。証拠さえ掴まれなければ何とでもなるということですね」


 ニッコリ笑顔で訂正された。

 その訂正内容にどん引きである。


 そんな俺の心情を悟ってか、エマはわざとらしい咳ばらいをしてみせた。


「そういうわけで、無関係ならば放っておきましょう。差し支えなければ、これから私の寮室で部屋デートなんて如何です?」


「差し支えることしかねーからお前はさっさと会議室に戻れ」


 ぐいぐい来るエマを押しのけ、携帯電話を操作する。


「どちらへお掛けになるのです? はっ!? ま、まさかおん」


「うっさいなお前は!! どさくさに紛れて抱き着いてくるんじゃねーよ!! (ごう)さんに連絡するだけだ!!」


「ゴウ? もしや花園(はなぞの)家現当主様へ?」


「そうだよ。……いや、駄目か。もう始まってるよな」


 我が生徒会における唯一の1年生、姫百合(ひめゆり)咲夜(さくや)が本日欠席している理由。それは『権議会(けんぎかい)』と呼ばれる、この国の魔法に関わる権力者たちの集会に参加しているからに他ならない。本人曰く「実際に会議に出席しているわけではない」とのことだが、連絡するのはやめておいた方がいいだろう。連絡が取れない状態にある可能性だってある。むしろその可能性が高い。


 ……ちょっと待て。

 この『鼠』とやらが、それを踏まえた上で行動しているのだとすれば。

 その先まで思考を巡らせたところで、俺は無意識のうちにため息を吐いた。


「聖夜様?」


 その様子を怪訝に思ったエマから名前を呼ばれる。


「残念ながら、無視するわけにはいかなくなった」


 日本五大名家と呼ばれる『五光』。花園と姫百合は俺にとって無縁ではない。魔法開発特別実験棟は、『五光』の息が掛かった施設。そこで何か問題が起これば、その責任を取らされるのは当然『五光』の面々になるだろう。どうやっても厄介事としか考えられないが、それでも見て見ぬふりができるほど、俺はドライでもなかった。


 花園や姫百合は権議会の真っ最中。俺のような一市民が会議中のお偉いさんに連絡を取れるはずもない。その他で唯一知っている関係者の連絡先と言えば、花園家のSPの1人である鷹津(たかつ)祥吾(しょうご)さんくらいだ。


 しかし。


「やはり駄目か」


 電波が届かない旨のアナウンスを受けて通話を切る。やはり祥吾さんには繋がらないか。以前、花園家の送迎の際に車内で剛さん専属のSPに昇進したという話を聞いている。つまり、祥吾さんも花園家の第一護衛として権議会に出席していると見ていいだろう。

 駄目もとで舞や可憐にも連絡してみたが、結果は同じだった。


 こうなると、もはや俺が行くしかない。

 魔法警察に連絡することも考えたが、実験棟というグレーな場所に警察を呼び寄せることが、どのような結果を『五光』にもたらすのかが分からない。そもそも、何と説明すればいいのかという話だ。


 送り主不明のメールで危険を知らされたから。

 そんな理由だけで何とかなるとも思えない。


「エマ、俺は出る。後は頼んだ」


「駄目です。私も行きます」


 俺のお願いは速攻で拒否された。


「エマ」


「お願いします。お連れ下さい。この国の実験棟に纏わる噂は異質です。何があるやも分かりません。最悪、中で何かあった場合、その情報を外に持ち帰る役割の人間も必要かと」


 エマが言っている内容に間違いはない。確かに正論だ。


「だが」


「お願いします」


 俺の口上を塞ぐようにして、エマが頭を下げた。

 言葉に詰まってしまった俺が、どうしようかと視線を彷徨わせたところで。


「おやおやおや~、何やら物騒な会話をしているカップルがいるとは思わないかい? 鈴音(リオン)


「っ!? ……貴方は」


 条件反射で戦闘態勢に入ったエマの肩を叩いてなだめる。

 その声は、生徒会の面々が集まっている会議室からではなく、エマの背後。今いる生徒会館2階へと繋がる階段から聞こえてきた。


 声の主は不敵な笑みを浮かべて言う。


「実験棟に行くなら足を貸そうか? 強化魔法で走っていくのも面倒だろう?」


 元生徒会長である御堂(みどう)(えにし)の後ろ、ため息を吐きながら姿を見せた蔵屋敷(くらやしき)鈴音(リオン)は、「その足とやらを実際に用意するのは誰だとお思いですの」と呟いた。







 元会長の「ちょっと中条君とエマちゃんを借りていくね」という鶴の一声により、俺とエマは難なく生徒会の集まりから抜け出すことに成功した。

 しかし、だ。


「俺たちがこれから何をしようとしているのか、理解してます?」


 言われるがままに浅草の門下生が運転する車に乗せられた俺は、元会長へと問う。車の行き先は当然、魔法特別実験棟がある東京都新宿区だ。


「もちろん。君たちの話は盗み聞きさせてもらっていたからね」


 爽やかな笑みで元会長はそう答える。

 本当に理解しているのか。

 場合によっては戦闘になるかもしれないんだぞ。

 というか盗み聞きって。生徒会辞めて何やってんだこの人。


「差し入れを持っていくだけだったはずですのに、どうしてこのような事になるんですの?」


 助手席に座る蔵屋敷先輩はご機嫌斜めである。


「困っている後輩の為じゃないか。先輩が一肌脱ぐことがおかしいかい?」


「学園レベルのスケールでは無いですけどね……」


 俺たちのフォローをしてくれている元会長ではあるが、言っている内容が正しいのは蔵屋敷先輩だ。


「どちらにせよ、彼らが動くような事態なんだ。むしろ知ることができて良かったと思わないかい、鈴音」


 元会長は白いローブに身を包んでいる俺やエマを見ながら言う。どの立ち位置で介入すべきかは悩んだが、そもそも学生の身分である中条聖夜として突撃するのは論外。ならば開き直ってしまえとこの格好で来たのだ。思わせぶりに暗躍しているように見せられるだろう。

 会長たちも身元がばれないよう学生服から私物のローブに着替えを済ませてある。ちゃっかり木刀から真剣に交換してきている辺りが、流石は蔵屋敷先輩と言わざるを得ない。とても頼りになるだろう。

 そうこうしているうちに、車は新宿区に入った。


「ん?」


 最初に異変に気付いたのは元会長だった。


「遠くからサイレンの音が聞こえるな」


 耳を澄ましてみれば、確かにエンジン音の中にサイレンの音も混じって聞こえてくる。それも1台や2台じゃない。結構な量だ。ハンドルを握る門下生が、カーナビをニュースに切り替える。答えは直ぐに出た。


「この近くで魔法が使用された乱闘騒ぎがあったようです。当の本人たちは、すぐに雲隠れしているようですが」


 映し出された画面の中で、ニュースキャスターが叫ぶようにしてリポートしている。それなりの怪我人が出ているようだ。

 皆が映像に気を取られた瞬間だった。


「ブレーキ!!」


 吠えたのは蔵屋敷先輩。

 状況を把握するよりも早く、蔵屋敷先輩の命に従った門下生が急ブレーキをかける。その車のフロントガラスに、何かが凄い音を立てて着弾した。


 いや、着弾じゃない。

 着地だ(、、、)


 ――――“神の書き換え作業術(リライト)”発現。


 そう感じた直後には、俺は無系統魔法を発現し、乗っていた車のボンネットの上へと転移していた。フロントガラスに着地した謎の人物は、いきなり背後に人の気配がしたことで驚いたらしく、勢いよくこちらへと振り返る。この不審者が着用しているローブには、見覚えがあった。


 その深い藍色をしたローブの奥。

 爛々と輝く目。

 視線の交差。

 一瞬の空白。


 そして。


 ――――“不可視の弾丸インビジブル・バレット”。


 相手側が何かするよりも先に、こちらから打って出た。呪文詠唱も、そもそも魔法発現のプロセスも必要無い、俺の最速の攻撃法。

 不可視の衝撃が不審者を打ち抜こうとして。


「何っ!?」


 その衝撃波が吸い込まれるようにして消え失せた。舌打ち1つ、不審者がローブをなびかせながら跳躍する。俺との戦闘を避けたいのか、不審者は道路へと転がりながら勢いを殺している。

 そこへ追い打ちをかけたのは、俺では無かった。


「はああああああああああああああ!!!!」


 女の声。

 突如空中から降ってきた真っ黒なローブに身を包んだ魔法使いが、踵落としを不審者へと見舞う。それを紙一重で躱した不審者が、強化魔法を発現した脚で大きく跳躍した。高層ビルの側壁を伝い、見る見る上へと上っていく。黒い魔法使いも躊躇いなく不審者の後を追跡している。

 両者共に身のこなしが一般人のものではない。


「中条君!!」


 路上駐車した車から元会長たちが飛び降りてきた。


「あれを追います!!」


 元会長へ怒鳴るようにして告げる。


「実験棟はどうする!?」


「あの身のこなしは一般人のものではありませんでした!! 俺には無関係とは――」


 口を閉じ、咄嗟に身体を捻る。首元すれすれをナイフが通り過ぎた。眼前には、深い藍色のローブを来た不審者。先ほどの奴とは違う。新手だ。


「っ、よくも聖夜様を!!」


 後方から怒り狂ったエマの声が聞こえる。

 銀色に煌く切っ先を躱しながら、執拗に俺を狙う不審者へと目を向けた。先ほどの者とは違うようだが、この状況下でわざわざ姿を見せて攻撃を仕掛けてくる意味が分からない。数の上で圧倒的に有利なこの状況下で――。

 そこまで考えた時だった。


「っ!?」


 本当にこちらが(、、、、、、、)有利なのか(、、、、、)


 なぜか、そう思った。

 こちらには俺の他にもエマ、元会長、蔵屋敷先輩、そして浅草の門下生もいる。袋叩きにしてしまえば、ほぼ負けは無いだろうと思える状況。にも拘わらず、なぜかこちらが劣勢に追い込まれているかのような――。


「はぁっ!!」


 気合い一閃。

 蔵屋敷先輩の一太刀を紙一重で躱した不審者が舌打ちする。直後に、俺を襲っていた謎の不安が消失した。


 この状況下で負けるはずがない、と。

 しかし、そう思った頃には不審者は俺の眼前から姿を消していた。逃亡を図ったらしい。それを追跡する蔵屋敷先輩も姿を消す。


「中条君、一度別れよう。俺と鈴音は今の奴を追う」


 元会長が俺の肩を叩いて言う。その頃には門下生の姿も消えていた。おそらく、蔵屋敷先輩の後を追ったのだろう。


「この騒ぎだ。直ぐに警察が来る。事情聴取なんて御免だろう? 遠巻きに野次馬も増えてきているしね」


 面倒な事だ。エマに仮面を被るように指示してから、俺も仮面を被る。深くローブを被っているからとはいえ、これだけ多数の目があれば1人くらいは素顔の撮影に成功してしまうかもしれない。


「一緒に向かわなくて大丈夫ですか?」


「平気さ。君の方こそ気を付けろよ?」


 すれ違う間際、会長は囁くような声色でこう言った。


「あいつらは『ユグドラシル』の一員だ」







 身体強化魔法を発現し、最初に姿を見せた不審者の後を追う。少し時間が経ってしまっていたので見失ったかとも思ったが、杞憂だったようだ。

 正確には手遅れだった、という表現が正しいようだが。


 上り切ったビルの屋上。

 摩天楼の中心付近。

 そこで深い藍色のローブを身に纏った不審者は、血まみれになって転がっていた。


「警告するわ。それ以上こちらに来ないで」


 英語で警告が飛んできた。血まみれになって転がっている不審者の横、こちらに背を向けて立っている黒いローブに身を包んだ魔法使いのものだ。ここら一帯で一番高いビルの摩天楼であるだけに、風が強い。深く被ったローブが脱げないように手で押さえながら、敢えて一歩を踏み出す。


 瞬間。


「っ!?」


 視界に収めていたはずの黒い魔法使いが消えた。気配を感じ取った時には、既に肉薄されている。俺の腕に装着されているMC・ウリウムの障壁魔法も間に合わない。反射で身体を捻り、その手刀を躱した。


 右腕からローブが割ける音。

 直後にエマの蹴りが黒い魔法使いを捉える。


「闇魔法!? 吸収っ!?」


 クロスさせた腕から、ごっそりと魔力が無くなったのに気付いた黒い魔法使いが叫んだ。その驚いた表情が、一瞬だけローブの奥から姿を見せる。

 そこで気付いた。


「待て!! アリサ・フェミルナー!! 俺だ!!」


 強く地面を踏み鳴らした黒い魔法使い――アリサ・フェミルナーが、ぎりぎりのところで次の一手を踏み止まる。


「……嘘」


 放電しかかっている拳を俺の眼前で止めたアリサ・フェミルナーは、震える声で呟いた。


「その声、その仮面、その、ローブ……。もしかして、T・メイカー?」


 忌々しい、その名前を。







 鈴音がその場に駆け付けた時にも、聖夜たちと同じような状況に陥っていた。

 狭い路地裏だった。周囲に人の目が無いことから、この黒い魔法使いはうまく人目につかないように処理したらしい。


「すまない。できれば見なかったことにして立ち去って頂きたいのだが」


 黒いローブを身に纏った魔法使いは、不審者を足元で転がしながらそう口にする。対して鈴音は、無言で姿勢を落とし刀の柄に手を掛けた。黒い魔法使いの提案を最初から蹴ろうとしているわけではない。臨戦態勢でいなければ、すぐに殺されてしまうと察したためだ。共に並んでいた門下生も、得物に手を添える。

 その様子を隙の無い姿勢で眺めていた黒い魔法使いが嘆息した。


「やれやれ。あまり厄介事を増やしたくはないのだが……」


「それにはこちらも同意するところだけどね」


 鈴音と門下生が勢いよく振り返る。そこにはようやく到着した縁が、ローブの奥深くで不敵な笑みを浮かべていた。


「……君は?」


 英語での問いに、縁は英語で応える。

 但し、質問に対する答えでは無かった。


濫竽充数(ランウジュウスウ)をここまで短時間で仕留めるとは驚きだ。彼は、対象者に『絶えず不利な立場にいる』と錯覚させる異能を使うからね。1対1では中々に苦戦する魔法使いなんだけど。この分じゃ、明鏡止水(メイキョウシスイ)の方も呆気なく処理されたかな」


「……ほう?」


 縁の言葉に興味を示した黒い魔法使いが、ローブで隠れた眉を吊り上げる。それには反応を示さず、縁は転がされている不審者へと目を向けた。不審者は目を背けたくなるほどズタズタに切り刻まれ、血みどろになって真っ赤な海に沈んでいる。

 その光景を見て笑みを浮かべた縁は、おもむろに自らのローブを下ろした。


「……エニシ・ミドーか」


「俺の名前を『断罪者(エクスキューショナー)』、それも隊長殿が知っているとは光栄だね」


 息を呑む浅草の門下生を無視し、縁は言う。


「二番隊隊長、ジェームズ・ミラー。この国にはいったいどのようなご用件で?」


 ジェームズは、苦虫を噛み潰したかのような表情をした。

 次回の更新予定日は、5月6日(金)です。

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