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テレポーター  作者: SoLa
ばれんたいん2016
221/432

【バレンタインss】エマちゃん編

 このssは、以前「ツイッター」にて公開したものです。

 内容は変更されていません。

『エマちゃん印のチョコレート』




「はいっ!! 聖夜様!! 受け取ってください!!」

 それは、良く晴れた12月のとある日のことだった。

「あん?」

 とびっきりの笑顔で押し付けられた薄い直方体の箱は、ハートマークが大量に印刷されたピンク色の包装紙で綺麗にラッピングされていた。

「……えっと?」

 突然のプレゼントに言葉に詰まる。いったいなんだこれは。答えを求めるために、マリーゴールドもといクラスメイトであるエマの顔を見る。

「えへへ」

 俺の視線をどう勘違いしたのか、照れたような笑顔を見せるエマ。

 うっ!? 笑顔が眩しい!! 直視できない、だと!?

 そんなことを思っていたら、教室の扉が勢いよく開いた。

「おはよー! うっわなにこれ眩しい!? 光魔法!?」

 美月がわざとらしく仰け反る。エマの光のエフェクトにやられたらしく、目をしょぼしょぼとさせながらこちらへとやってきた。

「おはよー聖夜君。それにエマちゃんも」

「あら美月、おはよう」

「おはよう」

「うん。2人とも登校するの早いねー。んん? 聖夜君のそれなに? プレゼント?」

 エマから押し付けられたまま俺の両手に収まっている箱を、美月が指さす。

「もしかして聖夜君、今日誕生日だったの?」

「いや、違うけど」

 確かに今月ではあるのだけれど、それは美月にもエマにも言っていない。

 だとしたらこれはなんなのか。

 俺と美月、2人の視線がエマへと向く。

「日本には好きな人にチョコレートを渡す文化があると聞きました」

 神に祈りを捧げるように手を組むエマはそんなことを言う。思わず俺と美月は顔を見合わせた。

「それってバレンタインデーのこと?」

「そうよ、美月。それそれ」

「バレンタインって2月14日なんだけど」

 カレンダーに視線を向けながら美月が言う。

「そんなことは知っているわ」

 そして当然だとばかりにエマが答えた。

「えっと……、それ、バレンタインのチョコなんだよね?」

「そうよ?」

 話が噛み合っていない。そう感じたのは俺だけではないだろう。思わず言葉に詰まる美月に、エマはやれやれと肩を竦めた。

「……美月、少しは頭を使いなさい。2月14日という同じ日にチョコを渡してしまっては、私の聖夜様に対する愛が有象無象共と並べられてしまうじゃない」

「う、うん?」

「もちろん並べられたところで私の愛が埋もれてしまうようなことは決してないわ。それはそうよね。だって山のように積まれた塵芥の中に埋もれていたってダイヤモンドの輝きは決して失われることはないのだから。そう思うでしょ?」

「あ、はい」

「けどね、同じ土俵に立てたと勘違いされることすら私は不快なわけ。だってそうじゃない? そもそも小説において名前すら登場しない通行人Aに、ヒロインの座が回ってくるはずがないの。それは絶対の真理。この世の理なのよ。そう思うでしょ?」

「あ、はい」

「そもそも、決められたその日に足並みを揃えて愛を告白するというイベント自体が間違っているのよ。恋はノンストップ、愛は無限大よ。抑えきれないこの気持ちをなぜその日まで溜め込まなければいけないわけ? おかしい。おかしいわ。そう思うでしょ?」

「あ、はい」

「馬鹿なの? 阿呆なの? これが正しいと思っている奴の頭はからっぽなの? バレンタインまで気持ちを溜め込めるような女はね、その男性のことを本当に好きなわけじゃないのよ。それはまやかし。幻想の類。恋に恋しているだけよ。そう思うでしょ?」

「あ、はい」

「私はそんな馬鹿な女とは違うわけ。だから今日渡すのよ。理解できたかしら?」

「あ、はい」

 そう答える美月の視線は、完全にエマとは別のところを向いていた。それでも美月の答えに満足したのか、エマはとびきりの笑顔で俺に向き直る。

「そんなわけです」

 どんなわけだよ。

 なげーんだよ説明が。最後の方とか完全にバレンタインという習慣をディスってただけじゃねーか。何とも言えない表情をしているはずの俺を見て何を思ったのかは知らないが、エマはエフェクトの光量を更に増し、どや顔で言う。

「つまりそれは一足早い私の本命チョコなのです!!」

 ……今が12月だということを分かって言ってるのか。

 一足早い?

 12月と言えば、まだ年越しすらも終えていない月である。むしろ、それがこの月の最大のイベントと言ってもいい(クリスマスが最大のイベントとか考えているリア充は滅べ)。遅れてきた今年のバレンタインと捉えるか、それとも先走り過ぎた来年のバレンタインと捉えるか微妙なところだ。

「あぁ、聖夜様。私の愛しい愛しい聖夜様!! 私の“全て”を込めましたので、ぜひご賞味くださいませ!!」

 両手を広げ、エマはそう謳い上げた。そこで気付く。左手の薬指が包帯でぐるぐる巻きになっていた。

「おい。大丈夫か? その指」

 包帯の巻き具合からして軽傷では無さそうだ。

「あぁ、聖夜様!! 私のことを心配してくださるのですか!? あぁ、あぁ!! その言葉だけでこの私!! 報われます!! 大丈夫ですよ大丈夫ですとも!! これは必要なことだったのですから!!」

「ん? 必要なこと……? お、おい!! くっつくな!! 腕を抱き寄せるな!!」

 突如始まったエマとの取っ組み合いは、紫会長たちが登校してくるまで続いた。



「それにしても……、バレンタインか」

 去年、アメリカで迎えたバレンタインのことを思い出して、思わず苦笑してしまった。

「来年はどうしようかなぁ……。送ってやった方がいいんだろうか。あぁ、いやいや。まずはエマが作ってくれたこれだよな」

 12月にバレンタインのチョコというのはどうかと思うが、嬉しいことは嬉しいのだ。去年は俺があげてばっかりだったからな。

 ラッピングされた包装紙を丁寧に剥がして箱を開ける。中からは予想通りハート型のチョコレートが姿を現した。

「うーん。お約束を裏切らない」

 手作りのようだが、いったいどこで作ったと言うのか。学園の調理室って私用で借りれるんだっけ?

「いただきます」

 一口齧る。

 ……。

 ……、……んん?

 まずいわけではない。そう。まずいわけではないのだ。ただ、なんというか……、ん? 何か入ってる。異物を取り出そうと口に指を突っ込む。それは俺の指に引っ張られてにゅーっと正体を現した。

「……長い髪の毛」

 誰のかなんて考えるまでもない。エマのだ。

「それに……、なんだろう。ちょっと鉄臭いような気もするな。なんだろう、これ」

 カカオから来る苦味とはちょっと違う気がする。知らない風味だ。いや……。

「なんとなく知っているような……?」

 口に残った風味を確かめながら頭を捻る。初めての風味のような、知っているような。そんな微妙な感じだ。

 まあ、もしかしたら俺が知らないだけで高価な調味料みたいなものを入れている可能性もあるか。なんて言ったってあのエマである。勘当されているから元が付くとはいえ、名門ガルガンテッラ家のご令嬢さんだ。きっと俺が聞いたことも無い何かが隠し味になっているに違いない。

「とりあえず、ホワイトデーにはちゃんとお返ししないとな」

 お返しまでかなりの期間が空いてしまうのが悩みどころだが。俺は苦笑しながらエマ特製のチョコにかぶりついた。




Fin

【謎の声】

 Web上に、3つのバレンタインssをばら撒いたぞ!!

 君は全てのssを見つけることができるかな?


 ……という謎の無茶ぶりから突如として始まった『テレポーター』のバレンタインssでした。リアルタイムで探し出して盛り上がって下さった方、ありがとうございました。多分、来年はしません。だって隠す場所もう無いし(笑)


※追記

 一応、時系列の紹介。


『舞ss』と『ルーナss』は同時期。※聖夜の帰国前。

 本編第1章~本編第4章

『エマちゃんss』※本編第5章中のどこか。

 本編第6章へ。

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