AとB=収束
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伝達。
玉石同砕、並びに一刀両断との通信が途絶えました。
各実働部隊の隊長は、メンバーの所在を至急確認し、沙羅双樹へ報告してください。
死体回収班はこちらで手配します。
一攫千金、並びに合縁奇縁の逃走を確認。
発見した者は即時排除を。
但し、これは最優先事項ではありません。
運び屋より、素体回収を確認。
日本魔法開発特別実験棟での活動はこれにて終了。
以降、この運び屋の日本脱出を最優先事項とします。
現場指揮官には難攻不落を指名。
これは天地神明の名の下による厳命です。
各実働部隊隊長は、その命に速やかに従うようメンバーに徹底してください。
確認済みの情報。
監視対象が保護区外へ。
“旋律”が出てくる可能性は極めて低いと考えますが、交戦の際は細心の注意を。
『五光』『七属星』に現状の動きなし。
交戦は極力避けてください。
未確認の情報。
アメリカ合衆国『断罪者』が秘密裏に入国しているとの情報有り。
交戦は極力回避してください。
以上。
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都会の雑踏に溶け込むようにして、彼らは居た。
「動いたようだ」
通信機から手を放してからそう言った男に、隣を歩く眩い金髪を肩まで伸ばした女性、アリサ・フェミルナーは直ぐには返答しなかった。目を閉じ、息を吸い込み、意図的にゆっくりと吐き出す。
まるで、何かのスイッチを入れるかのように。
開いた双眸から覗くのは、冷徹な光。
「よせ。フェミルナー」
完全なる戦闘態勢に移行しそうになるアリサに、男は苦言を呈した。射殺すような眼光が男を射抜く。
「何が」
「俺たちの立場を忘れるなよ。やる気を出すのはいいことだがな」
何かを口にしようとしたアリサだったが、結局は何も言わなかった。鼻を鳴らして目を逸らす。ご丁寧に唇まで尖らせたアリサに、苦笑した男はこう続ける。
「日本政府に勘付かれたくはない。正規の手段で入国していない以上、容易に国際問題にまで発展するだろうからな。ボスのようにはいかなくても、努力はしろ」
ボスという単語に、アリサの表情が露骨に歪んだ。
「あの子みたいになれる自分が想像できないんだけど」
「だから言っただろう。努力はしろ、とな。俺だってボスの領域まで辿り着けるとは思っていないさ。あれこそ、人間が到達できる極地だろう」
もはや崇拝に近い眼差しを空へと向ける同僚に、アリサは「アナタ実はロリコンだったの」という軽口を飲み込んだ。
「アナタがそこまで言い切るのは珍しいわね」
「最高の頂きまで上り詰めた者は、人を殺す際に殺意を覚えない。なぜなら、それは単なる作業と化すからだ。だから驚くほど静かに処理できる。あくまで俺の持論だがね」
肩を竦めるようにして男は言う。
「人を殺すという覚悟や罪悪感もどこかへやってしまうということ?」
「殺すのではない。この世界から消すんだ」
その表現に、アリサは眉を吊り上げた。
「同じじゃないの?」
「さて。その違いが分かることこそ、あの頂きに足を掛ける一歩になるのではないか?」
質問に質問で返されてしまった。これ以上、有意義な意見は聞けないと判断したアリサが前を向く。男もそれに倣った。
「目標はあくまで捕縛だ。但し、逃がすくらいなら殺害しても構わないと許可も下りている」
「了解」
「それと、殺害した場合は必ず死体を持ち帰れ」
その命令に、アリサが視線だけを男に寄越す。
「分かっている。荷物になるということだな。ただ、ボスは相手側に死体を回収されたくないようだ。理由までは教えて貰えなかったがな」
「……了解」
少し考えれば、いくらでも理由は思いつく。それを敢えて言わないということは、あくまで命令は厳守であり、その理由まで開示する必要は無いと上が判断したのだろう。
そう割り切ったアリサは、少し間を空けた後にそう答えた。
第6章 純白の円卓と痛みの塔編・完
次章は、4月下旬頃からの公開を予定しています。