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テレポーター  作者: SoLa
第6章 純白の円卓と痛みの塔編
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【A-5】 評価




「お姉さま、お疲れ様です」


 別室にて静かに会議が終わるのを待っていた咲夜(さくや)は、入室してきた可憐にそう声を掛けた。


「ありがとう。とは言っても、特に何をしたわけでもないのだけれど」


「あんな場所、立っているだけで十分疲れるわよ」


 はーっ、と息を吐きながら肩を回す舞に、可憐が苦笑する。


「休憩ですか?」


「そんなところよ」


 魔法協議会会長が唱える冷却時間はついに6回目を数え、「いい加減頭を冷やせ」と少々長めの休憩時間もとい冷却時間が与えられたのだ。咲夜の問いに答えた舞は、咲夜の2つ隣の席に腰を下ろした。真ん中には可憐が座る。


「『七属星』の選定から始まり国内パワーバランスの調整、諸外国との連携・牽制の強化手段、魔法開発研究費の割り当て、今後の魔法教育方針、などなど。何よりも面倒くさいのが、どれを話題にしてもそれぞれが足を引っ張り合うってこと」


 うんざりした口調で舞はそう吐き出した。「私は絶対こんな大人になりたくない」と。


「それぞれが土地を持ち、それぞれに権利と義務、責任があるとはいえ、見ていて気持ちが良いものではありませんよね」


 テーブルに突っ伏した舞の背中を撫でる可憐も苦笑いである。


「ほうほうほーう。何やらお疲れのご様子ですなぁ、花園のご令嬢さんは」


 そこへニヤニヤ笑いの白岡(しらおか)紗雪(さゆき)がやってきた。後ろには双子の妹である美雪(みゆき)もいる。


「……今はほっといて頂戴」


「あらら、舞っち本当にダウン? つまんなーい」


「騒々しいな。もう少し静かに会話できないのか?」


 開口一番。

 入室した岩舟禊はそう言うと、舞たちとは距離の離れた場所へ乱暴に腰を下ろした。その姿に紗雪はべーっと舌を出す。そんな調子の姉にため息を吐きながら、美雪は舞の隣へ腰を下ろした。


「……姉さん知らない?」


「ん? 優樹菜さんなら、当主様とお話されてたわよ。同じく菫さんもね」


 前半部分は質問をしてきた美雪に、後半部分は沈黙を保ったままだった二階堂(にかいどう)(かなで)に向けて舞は返答した。隣に座る美雪からは「ありがと」と、奏からはお淑やかな一礼を返される。


「ふん。あの会議内容では、二階堂は気が気ではないだろうな」


「どういうことです」


 嘲りを含んだ禊の言葉に、奏が眉を吊り上げる。


「後で親愛なる姉上様にでも聞いておけ。まあ、二階堂家の心配など無駄な事だ。衣笠家が台頭してくることはないだろう」


「あー。やっぱり話題に出たんだ、衣笠」


 禊と奏、両者間に緊迫した空気が流れた瞬間、それをぶった切るが如く紗雪が口を挟んだ。


「なかなかユニークな功績を積み上げてるもんね、あの家。にしし、やっぱああいう面白い事する家が無いと盛り上がらないよねー、権議会って」


「紗雪、不謹慎」


「あはは、ごめんごめん」


 双子の妹からの苦言に、紗雪は反省の色が欠片も見られない謝罪の言葉を口にする。そんな紗雪に舞はジト目を向けた。


「ユニークな話題がご希望なら、今季一番のホットな話題があるわよ。とある名家の馬鹿娘が、爆弾を抱えながらにこやかに領分を侵したって話なんだけどね」


「あーっ!! 舞っちその話はストップ!!」


 慌てて舞の口を塞ごうとする紗雪だったが、一足遅かった。その話題にピンときた禊が冷笑を浮かべる。


「今更取り繕おうが無駄だ。その馬鹿娘とやらの愚行については全て報告が入っている。二階堂もそうだろう?」


 禊からの問いかけに、奏は不快感を露わにしながらも頷いた。それを見た紗雪が口を尖らせる。


「えー、だってあの『黄金色の旋律』だよ? 欲しくない?」


「だからといって、聖杯を持ち出すのは如何なものかと」


「聖杯云々の前に、俺としては欠陥品にそこまで入れ込む神経が分からん」


 紗雪の質問にも、両者の反応は冷ややかだった。しかし、その反応に黙っていなかったのは舞だ。前者の奏はいい。問題なのは、後者。


「岩舟。言葉選びには細心の注意を払いなさいよ。あんたはもう次期当主として指名を受けてんでしょう」


「立場を踏まえた上での発言だが?」


 激昂し、立ち上がろうとしたのは可憐。しかし、それを手で制したのは舞だった。


「本当に踏まえた上での発言なら、あんたに当主としての資格があるとは思えないわね」


「あ?」


 今まで視線すら合わせようとしなかった禊の目が、初めて舞へと向く。


「お前に岩舟家の何が分かるってんだ」


「さあ? 少なくともあんた程度の思考回路の持ち主でも岩舟家次期当主の選考基準を満たすなら、岩舟家の水準ってたかが知れてると言うか」


 鼻で嗤いながら舞は言う。岩舟の眼光が舞を射抜く。


「安い挑発だな」


「そうかしら。むしろかなりの高値で売れそうなんだけれど」


 一触即発。

 その空気を変えたのは。


「誉れある権議会の裏で何をヒートアップしているのですか。両者とも、矛を収めなさい」


 手を打ち鳴らしながら入室してきた白岡優樹菜だった。


「あ、お姉ちゃん。お疲れ~」


 何とも言えない空気が室内に漂ったところで、ひらひらと手を振るのは紗雪だ。にこり、と向けられた側は少しも安心できない笑顔を浮かべる優樹菜。


「言葉遣い」


「お、お疲れ様でございます。姉上様!!」


 その微妙な愚妹の口上に頭を押さえつつ、優樹菜はため息を吐く。


「それで、どこまで報告は受けましたか?」


「なにも」


「は?」


「まだなにも聞かされていない」


 美雪の淡々とした口調に、優樹菜は頬をひくつかせながら室内を見渡す。権議会に出席していた面々は、揃って視線を明後日の方角へと向けた。







「なるほど。正直、岩舟が争いの姿勢を見せなかったのは意外だったな~」


 優樹菜から会議の内容を聞き、紗雪はそう漏らした。


「リスクとリターンを天秤にかけるのは当然だろう」


 禊は面白くなさそうに言う。


「その割には私の行動にケチつけてたじゃん」


「『黄金色の旋律』の有用性によってお前の愚行が正当化されると思うな」


 禊からの辛辣な言葉に頷いたのは、なんと紗雪の隣に座っていた美雪だった。


「確かに、紗雪はばか」


「ちょっと!?」


 思わぬところからの追撃に、紗雪が目を白黒させる。ただ、美雪の言葉には続きがあった。


「しかし、中条聖夜の有用性については、貴方も認識を改めるべき」


「その発言の根拠は何だ」


「中条聖夜は、アギルメスタ杯で優勝している」


 その淡々とした答えに、禊は舌打ちする。


「ウィリアム・スペードは手を抜いていただろう」


「本来なら、彼にはそもそも出場権が無い」


 美雪の言う通りだった。

 中条聖夜がT・メイカーに扮して出場したアギルメスタ杯は、魔法世界エルトクリアにおける最高戦力『トランプ』は出場できないという暗黙の了解があった。にも拘わらず、ウィリアム・スペードはメイ・ドゥース=キーと名乗り強引に出場したのだ。


「それに」


 普段はほとんど言葉を発しない美雪は続ける。


「彼は、公式の場でアメリカ合衆国の魔法戦闘部隊『断罪者(エクスキューショナー)』を撃破している。それも一兵士ではない。隊長格を」


「あはは、あれには思わず笑っちゃったよねー。だって相手はかの“雷帝”さんだよ?」


「確かにアリサ・フェミルナーも全力では無かったように思う。だけど、あれだけの面子が揃った大会で、決勝に残れるだけの実力がある。それだけでも十分なはず」


 口を挟んできた紗雪を手で押しのけながら、美雪はそう締めくくった。

 禊は返答しない。しかめっ面をして腕を組む。


「……興味深い魔法使いではあります」


 沈黙を破ったのは禊ではなく奏だった。


「ただ、貴方たちのその評価には、この国がどういう国なのかという項目が抜けています。この国の魔法使いの評価基準は、何か1つが突出していれば良いというものではありません。全ての項目が基準値を上回っている必要があるのです。その点、中条聖夜は呪文詠唱ができない。これは致命的かと」


 冷静なその指摘に、禊が頷く。


「天蓋魔法が使えないようじゃ、戦力としてカウントするのは難しいな。近接戦のみで評価を得たいなら、せめて『属性共調』か『属性同調』くらいは欲しい」


「どちらも天蓋魔法を遥かに上回るRankSの魔法ではないですか!!」


 憤慨したのは可憐だ。


「て、天蓋魔法と同難度として評価されているのは、ぜ、全身強化魔法です。中条せんぱいは、それを無詠唱で発現できるのです。それをもう少し考慮しても……」


「先ほどの話を聞いていなかったのか、姫百合の妹。何かが突出していたところで、どこかに欠陥がある魔法使いはこの国では評価されないんだよ」


 鬱陶しいという感情を隠そうともせずに禊は言う。


「建前を大切にする家系は大変ですこと」


 舞はとびきりの皮肉を込めてそう吐き捨てた。


「そろそろ時間ですね」


 タイミングを見計らってか、腕時計に視線を向けながら優樹菜が言う。舞、可憐、禊、そして優樹菜が同時に立ち上がった。







 権議会に割り当てられている部屋に向かう道中、4人に会話は無い。


 普段の花園と姫百合の距離感が異常というべきで、そもそも同じ『五光』とはいえ仲はあまり良くない。いや、はっきり悪いと言っても差し支えない。青藍という同じ場所を領分にしているという理由だけで、花園と姫百合の仲が良くなるわけではない。それは、連名で黄黄を領分にしている岩舟と二階堂の確執からも証明されていた。現状、花園と姫百合の仲が良いのはお互い現当主の人柄によるものが大きいというだけだ。


 最初に到着したからという理由だけで、禊が部屋の前で待機していた協議員に声を掛ける。一礼の後、協議員がカードを機械に通して、エラー音が鳴った。協議員が首を傾げながらもう一度カードを通す。しかし、結果は一緒だった。


「読み取り不良か?」


「申し訳ありません。そのようです。直ぐに代わりを手配致します」


 禊の言葉に頷いた協議員が、スーツの胸ポケットに仕舞われていた無線機へ応援を要請している。協議員は恐縮しているようだが、責めるようなことでもない。

 応援の協議員はすぐに来た。事情を聞きながらカードを取り出し、機械へ通す。


 しかし。


「カード側の故障ではないようだな」


 再度鳴ったエラー音を聞いた禊はそう呟いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 集められる情報だけで聖夜のヤバさって十分分かると思うけどw 情報収集能力が足りないのか、頭が足りないのか。
[一言] 相変わらず、岩舟の次期当主は偉そうで嫌いだな。 そこまで言うのなら、自分は最低でも天蓋魔法が使えて属性同調か属性共調が使えて、マリーゴールド・ジーザ・ガルガンテッラより強いんだろうな。 そ…
[一言] 毎度この回を読んで思うことは、岩舟の坊ちゃんもRankSの魔法を発現できるんでしょうねってね。
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