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テレポーター  作者: SoLa
第6章 純白の円卓と痛みの塔編
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【B-1】 自業自得

 今回は3話同時公開しています。

 妬む前に振り返れ。

 悔やむべき結末を引き起こしたきっかけなど。

 自らの足跡に腐るほど転がっている。







 数々の輝かしい功績を打ち出す人間や、組織、国。しかしその内側では、表には絶対出せないような後ろ暗い事に手を染めている、なんていう事は往々にして良くある事だ。周囲から頭1つ抜き出た成果を挙げるには、周囲の者では絶対に考え得ない発想や手段を用いた上で、事柄を成さねばならない。


 例えば日本。


 青藍、赤紅、黄黄と海外からも手放しで称賛を受ける程の魔法使い育成学園。基礎的な魔法理論から、日本独自の魔法文化まで。余す事無く在学生に叩き込むこの3校は、優秀な魔法使いの輩出機関だ。

 しかし、それはあくまでも表の部分。日本の持つ暗い奥底の実態までを把握している人間は、世界でもほんの一握りに過ぎない。


 例えば『痛みの塔(ペイン)』。


 表向きには『魔法開発特別実験塔』と命名されるこの塔は、その実態を知る者からはこう呼ばれている。中で行われている事は、それほど難しい言葉を並び立てるものではない。

 人体実験。

 読んで字の如く、人の体を材料に行われる実験だ。目を抉り、腹を切り分け、脳みそを掻き出す。薬を投与し、電波を流し、機材と接続する。脳波を検証し、人為的に掻き乱し、新たな波長を確立する。

 魔法開発。

 一言で言っても、この塔で行われている実験の目標は様々だ。魔法使いとしての適性を持たぬ一般人に魔力を詰めたら、魔法使いが出来上がるのか。魔法が音を基に構成される奇跡ならば、聴力を物理的に奪った後の魔法使いはどのような結果をもたらすのか。

 他にも――――。


 非属性無系統魔法とは、人為的に作り出せるものなのか。

 とか。







「何時まで寝ている? 起きたまえ」


「がっ」


 頬に鈍い痛みを覚えて、一獲千金(イッカクセンキン)はゆっくりと瞼を開いた。

 薄暗い部屋だった。千金の両手足を拘束するのは無機質な鎖。重い身体でゆっくりと寝返りを打とうとしたところで、腹に蹴りが突き刺さった。


「ぐはっ」


「あまり反抗的な態度は取るんじゃない。こちらとて、モルモットに手を掛けさせられるのは本意ではないのだ」


「げほっごほっ、く、くくくっ。国に餌付けされた豚が何を偉そうに――じぶっ」


 千金の身体が、横薙ぎに倒れる。ぎゃりぎゃりと音を立てながら主に引き摺られる鎖に眉をしかめながら、蹴り飛ばした張本人である白衣の男はため息を吐いた。


「口には気を付けろ」


 倒れたまま、起き上がろうとしない千金に対して吐き捨てるように言う。


「実験の内容を変更しても構わないんだぞ」


「くははっ、そりゃ無理だろ」


 口から垂れる血を手で拭いながら、千金は笑う。


「お前ら豚どもが必死こいて開発している『能力の貼り付け』は失敗続きって聞いてるぜぇ。俺が持つ無系統は完璧に上書きされてんだ。根本的に差異があるんだよ。『見本』である俺をてめぇの一存で壊せるとは、到底思えねーなぁ」


 図星を突かれたからか。

 白衣の男は顔を真っ赤にして、再度千金を蹴り飛ばした。


「『絶縁体』。お前の今付けられている拘束具は、この国最新鋭の魔法使い捕縛装置だ。今のお前など、赤子の首を捻るように殺せるんだ。それを忘れるなよ」


 その捨て台詞のような発言が、千金をより愉しませる結果となっている事に、血が昇った男は気付けない。


「赤子、ねぇ」


 ゆるりと上半身を起こしながら、千金は嗤う。


「国からすりゃ、お前もそんな感じで見られてんのか?」


 ぶちっと、男の中で何かが弾けた。


「貴様ァァァァ!!」


「ばーか」


「うおっ!?」


 不用意に近付いた。それが、白衣の男にとっての最悪の選択。

 千金は両手で跳ねる様に自身の身体を浮かせ、両足で絡み付くように白衣の男の首を捉える。突如絡み付いてきた千金を、武術の心得など無い白衣の男は黙って受け入れる他はない。そのまま前方へと体重を掛けられ、白衣の男は転倒した。


「立場、逆転かぁ?」


「ぐっ!? 貴様っ!! ぐあっ!!」


 首を絞める足の力が強まり、白衣の男は呻く様に叫んだ。


「このまま首、圧し折られたくなかったら、この絶縁体(オモチャ)の鍵持ってきな」


「な、何だとっ、ぐくっ!?」


「お前の首なんざ、簡単に折り曲げられるんだぞコラ。何なら、お前も実験動物みたいにドタマかち割るか?」


「ひっ!? き、貴様……」


「三度目はねぇ。鍵、持って来い」


「うっ!? ……く、し、しかし……。ここでお前を解放したら――」


「俺の命が危ない、かぁ? くだらねぇ……、よく考えろよ」


 心底くだらなそうに、千金は言う。


「お前、今の状況分かってんのか? お前の命は、俺が握ってる。俺の機嫌を損ねるって事は、死ぬって事だ。分かるか?」


 より良く理解させるよう、千金の足の力が強まっていく。


「ぐ……が……」


「鍵渡して逃亡に一縷の望みを賭けるのと、それともここで死ぬの。どっちがいい」


「がっ……あ……あ」


 苦しそうに地面をタップする白衣の男に気付いた千金が、少しだけ足の力を緩める。


「んで? どっちにするよ」


「がはっ!! はぁっはぁっ!!」


「早く答えねぇと無回答って事で絞め殺すがオーケーだな?」


「わ、分かった! 鍵を開ける!! 離してくれ!!」


「馬鹿かお前。鍵開けるまで離すわけねぇだろ、死にてぇのか」


「牢の外にあるんだよ! この体勢じゃ届かないんだ! お前の鍵ぶら下げたまま、同じ部屋の中に入るわけないだろ!?」


 ふむ、と千金は考える。

 男の言い分は間違ってはいない。


「そーかぁ、じゃあとっとと持って来い」


 そう言って、足の戒めを解いた。


「はぁっはぁっ、クソ。ふざけた真似しやがって!」


「おいおいおい。無駄話を許可した覚えは無いぞ。とっとと鍵持って来い」


「持って来いぃ? 馬鹿言ってんじゃねぇよクズが!!」


 解放された男が、再度千金の顔面を蹴り飛ばす。縛られた『絶縁体』によって豪快に床を転がる事は無かったが、千金の身体が多少浮くくらいの威力はあった。


「ぐ……くはは」


 血の塊を吐き出しながら、千金は笑う。


「不愉快な野郎だ。てめぇを逃がすわけないだろう」


「まあ、そう来るとは思ってたぜ」


「ふん、負け犬のセリフにしか聞こえないな。お前は、別の人間に運ばせるとしよう」


 白衣の男が踵を返す。


「おぉい、おいおい。ちょっと待てよ」


 しかし、それを千金は許さない。


「何だね、いい加減にしてくれないか――なっ!?」


 千金が指先でぶらぶらさせているモノ。白衣の男は真っ先に白衣のポケットを漁るが、お目当ての物は見付からない。青ざめた顔で、千金を睨み付けた。


「……返したまえ」


「大切なモンはちゃあんと仕舞っとかねぇと痛い目みるぜぇ」


 どんな部屋に用いられるのか見当も付かぬ鍵を掌で弄びながら、千金は言う。


「返せ!!」


「なら、こっちも鍵だ」


「なにっ!?」


 白衣の男の表情が固まる。


「この『絶縁体(オモチャ)』を開けろ。そうしたら特別に返してやるよ」


「ふざけ――」


「この鍵、紛失したらどんな罰が待ってんだぁ?」


 その質問に、白衣の男の口角が不自然に痙攣した。


「俺のを開けたら返してやる。それとも、報告しに行くか? 不用意にモルモットに近付いたら噛みつかれましたってな! ははははっ!!」


「き、貴様」


「それじゃあ、俺から強引に奪ってみるか? 赤子を捻るようなモンなんだろ? えぇおい?」


「っ」


「開けろ。それ以外に、お前に方法はねぇよ」


 白衣の男は、無言でズボンのポケットから鍵を取り出した。


「おぉい、ソッチに本物かよ。なら漁るのは白衣じゃなくてソッチにすべきだったか。“賭博者(ギャンブラー)”の名が泣くぜー」


「鍵を寄越せ」


「くはは、こっちのセリフだボケ。お前が先に渡すんだよ」


「お前が渡したら、こちらも渡す。約束しよう」


「ははははははっ!!」


 白衣の男のセリフに、千金は腹を抱えて笑う。


「さっきのご自分の行動を考えに入れての発言かそりゃ? ばーか、てめぇの約束なんざ信じられるか」


「……」


「安心しろ、俺は(、、)約束を破らない(、、、、、、、)


「……」


「早くしろ。何ならこの鍵、目の前で飲み込んでやろうか」


 白衣の男はしばらく思案していたが、観念したのか持っていた鍵を千金の方へと放り投げた。


「ははっ。賢明な判断だなぁ」


 与えられた鍵を、自らの身体を縛る『絶縁体』に差し込みながら千金が笑う。白衣の男は露骨に顔をしかめた。


「こっちも渡したんだ。早くその鍵を返してくれ」


「あぁあぁ、分かりましたよっと」


 千金がおざなりに鍵を放り投げる。しかし、コントロールを誤ったのか鍵は白衣の男の手には届かず、足元へ滑るように転がってきた。


「クソ、ノーコンが。これから俺はどうしたら――」




「2、か。お前、運がいいなぁ」




「え」


 その言葉の真意を理解する前に、理解するための器官は機能を停止した。

 頭上から想像を絶する威力で拳が振り下ろされ、白衣の男は顔面から床へと叩きつけられる。当然、魔力などで身体を守っていたわけでは無い。グチャッという湿り気のある音と共に、白衣の男の頭は原型を失う。脳漿が飛び散り、辺り一帯を汚した。鮮血が勢いよく噴射し、千金の身体をどろどろにする。


 しかし、千金は対して気分を害する事無く口角を歪めた。


「約束は破ってねぇぜ。俺は最初に言った。お前の命は、俺の気分次第だってなぁ」


 ゆっくりと白衣の男の頭部から自らの拳を抜き取り、千金は鉄格子の外へ出た。手を払い、付着した白衣の男の(、、、、、)中身(、、)を振るい落とす。


「さぁて、あとはどうやってこのクソみてぇな塔から抜け出すかだな」


 ここは20階にある『被験体保管室』。

 普通ならば地下に設置するであろう非常識な空間。しかし、この塔に限って言えばそんな常識は必要ない。魔法を使っても、壁や扉に亀裂すら入れられないのだ。なぜなら、この塔は魔法使い対策が万全に整えられているのだから。青藍魔法学園のように対魔法回路が張り巡らされているわけでは無い。ここのセキュリティは、その更に上をいく。


 この塔全ての素材には、『絶縁体』が用いられている。そう、魔法での破壊は見込めないと言われている最新鋭の素材だ。

 だからこそ、牢は出入り口から遠ければ遠い方がいい。わざわざ20階という位置に保管室を設置してあるのは、そういった意図によるものだ。脱走するには、律儀に階段を使って下りていく必要がある。そして、階段は一直線に1階まで伸びているわけでは無い。各階バラバラの位置に配置されており、階によってはフロアを右から左へ横切らねばならない。


 エレベーターは使えない。暗証番号、指紋認証、網膜認証に魔力認証。全てをクリア出来なければ、エレベーターは動かない。先日の一件で、千金はそのセキュリティから除外されてしまっている。


「まぁ、ボチボチ降りていく事にするかぁ。出会った奴は、順番にぶち殺していけばいいだけだしなぁ」


 千金は嗤う。

 人を殺す事に躊躇いを覚えぬ者は、背後に転がる死体には目もくれず進みだす。


 一獲千金。

 非属性無系統“賭博(ギャンブル)”魔法保持者。


 黒髪の少年は、手を血で汚しながら階下を目指す。

 次回の更新予定日は、2月26日(金)です。

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