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テレポーター  作者: SoLa
第5章 生徒会選挙編
203/432

第17話 白

 あけましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いします。


 今回は2話同時更新ですので、ご注意を。




 静まり返っていた。


 目の前にそびえ立つ生徒会館には誰もいない。

 現生徒会役員の面々は、新顔も交えて打ち上げ兼歓迎会を楽しんでいる頃だろう。当然、元生徒会長である縁も誘われていたが、「少しだけ遅れる」とだけ告げてここに足を運んだのだ。


 生徒会館は、夕陽を一身に浴びて燃えるような紅色に染まっていた。


 息を吸って。

 吐いて。


 終わったか、と。

 縁は思う。

 たった1日で、縁の立場は随分と変わった。


 縁はもう“青藍の1番手(ファースト)”ではない。

 学園最強の座は、もう手元にない。


 縁はもう生徒会会長ではない。

 学園に対して行使できる様々な権利は、もう手元にない。


 そして。

 あの人との繋がりも――――。


「ここにいましたのね」


 後ろから聞こえてきた声を、縁は意図的に無視した。


 ゆっくりと近付いてくる気配。

 やがて、その気配が隣に並ぶ。


 見慣れた木刀を腰に下げたまま。

 鈴音もまた縁と同じように生徒会館を見上げた。


「終わったね」


「終わりましたわね」


 お互い、生徒会館を見つめながらそう呟く。

 そして、沈黙。


 どこかで。

 カラスが鳴く声が聞こえた。

 どこかで。

 木々が葉を擦らせる音が聞こえた。


「縁」


「なんだい」


 呼んでおきながら、鈴音は何も口にしない。

 縁は急かさなかった。


 少しだけ。

 間を置いて。


「どうでしたか」


「なにが」


「生徒会が、ですわ」


 縁は答えなかった。


「この質問は、以前もしたことがあったと思いますけれど……」


 鈴音は、そう口にしながら視線を縁へと向ける。


「……貴方は今、胸を張ってあの方にお会いできますか?」


 ようやく。

 縁の視線が生徒会館から外れて、隣に立つ鈴音へと向く。


「胸を張って、あの方の後を継ぎ、この学園を導いていると報告できますか?」


 その言葉に。

 縁は。


「うん、報告できるよ」


 目を細めて。


「俺は……、俺のやれるだけのことをやった自負がある」


 どこか寂しそうな声色で。


「本当に……、この学園は最高だ」


 そう言った。







『俺は今、「ユグドラシル」と敵対関係にあります』


 開口一番。

 聖夜の発した言葉はそれだった。


『まあ、鏡花水月を匿ってるんだからそういうことになるだろうね』


 縁はそう言って頷く。

 だからこそ、縁は聖夜に対して「紫を頼む」と言ったのだ。敵対関係になければ、こんなことを聖夜に頼んだりはしない。


『それを前提に質問します』


『ん』


 嘘偽りなく答える、と言ったのは縁自身だ。

 正直なところ、話したくないことは山ほどある。


 そもそも(、、、、)

 そんな簡単に(、、、、、、)口にできる(、、、、、)過去ならば(、、、、、)縁は(、、)大和と(、、、)仲違いする(、、、、、)こともなかった(、、、、、、、)


 過去の自分に唾でも吐き捨てたい気持ちになりつつも、目の前にいる勝者が何を聞いてくるのかを戦々恐々として待つ。


(まさかエンブレムを賭けた試合よりも、こっちの方が緊張するとはね)


 縁は自分の心理状態を客観的に見て、思わず自嘲的な笑みを浮かべてしまった。


『会長』


 そんな縁を余所に、聖夜は口にする。




『俺と貴方は今、敵対関係にありますか』




『……は?』


 なんだその質問は、と縁は思った。


 彼にしては珍しく、相手の真意を測りかねて本気で呆気にとられてしまっていた。

 そんなもの、これまでの会話の流れから考えれば一目瞭然であるはずだ。意味を成さない質問。まったくもって意味不明である。


『……「ユグドラシル構成員でなければ分からない類の質問」じゃなかったのかい?』


『そうですよ? 先ほどの話が全部嘘で今も本当は構成員だとするならば、答えは決まってますからね』


 ふふん、と鼻でも鳴らしそうな態度で聖夜は言う。

 馬鹿なのかこいつは、と縁は本気で思った。せっかく与えてやった機会をここまで完璧に無駄にされると、馬鹿な質問をされた方が助かる立場の縁だって多少はイラついてくる。どう返答してやろうかと思ったところで、対面している聖夜の顔を見て、縁はふと思い至った。


 わざとか(、、、、)、と。


 見れば、相対する聖夜に警戒心は無い。自らが「これまでの話が嘘なら敵のはずだ」と言っておきながら、縁が敵対行動を取るとは微塵も考えていない様子だった。

 それが意味することは、ただ1つ。




 無理に聞き出す(、、、、、、、)つもりは(、、、、)ありません(、、、、、)

 話したくなったら(、、、、、、、、)話してくださいね(、、、、、、、、)




 そういうことだ。


 縁は思考が真っ白になる感覚を味わった。

 自分は何を言えばいいのか。

 目の前の後輩に、何と声をかければいいのか。

 いつも自分がどんな表情をして後輩と接していたのかも分からなくなった。


 聖夜は待っている。

 こんなもの、本来ならば一笑に付して即答できる内容。

 不自然なほど間が空いているにも拘らず、聖夜は待っている。


 何ら(、、)警戒心を(、、、、)抱くことなく(、、、、、、)聖夜は(、、、)待っている(、、、、、)


 ようやく。

 縁の思考回路が再起動を果たす。


 なぜ、聖夜がそんな行動を取ってきたのかは分からない。

 試合が始まるまでは――――。


 いや。

 試合が始まってからだって、聖夜は縁から何を聞き出すかを必死に考えていたはずなのだ。


 それが、ここまで来てこの質問である。

 聖夜の心変わりした理由については気になるところであったが、今の縁にそれを質問する権利があるはずもない。


 縁は今まで通りに笑みを浮かべた。


『「敵の敵が味方とは限らないよ」なんて、格好つけた台詞を求めているわけじゃないんだろうし……。嘘偽りなく答えるとも約束したしねぇ。ここは正直に行こうか』


 それでも今回は。


 今まで通りに(、、、、、、)見えるように(、、、、、、)精一杯の虚勢を張って(、、、、、、、、、、)


『「ユグドラシル」という一点に限って言えば、君たちと敵対する意思は無いかな』







 紅色から藍色へ。

 艶やかなグラデーションを魅せる空の下、縁と鈴音は「もはや山道」と称しても過言ではない階段を下っていく。


「成長したよ、彼は」


 何の脈略も無く、縁はそう呟いた。鈴音が端正な眉を吊り上げる。


「彼、というと中条聖夜のことですか」


「うん。そう」


 陽が落ちて薄暗くなったこの場所では、隣に立つ男の表情を窺い知ることができない。「いきなり何を言い出したんだこいつ」という感情を隠そうともせず、鈴音はジト目で縁を睨みつける。


「それはそれは……。私が帰った後、余程有意義な時間を過ごされたようですわね」


「うん。そうだね」


 皮肉に対して嬉しそうに首肯されてしまった鈴音は目を丸くした。


「これから奴らがどう出てくるかは分からないけれど……。彼とは今後も良い付き合いをしていきたいものだ」


「……本当にどうしたんですの、貴方」


 暗に「頭でも打ったのか」と問いかける。


「別に? ただ、彼は信頼できる戦力だと言っているだけだけど」


 縁はこんな調子である。


「計画を練り直す必要がありそうだ。うぅん……、そういえば、2年生の修学旅行先ってもう確定したんだっけ? 自分から働きかけておいてアレだけど、正直行って欲しくないなぁ。せめて中条君だけでも……」


「ちょ、ちょっとお待ちなさいな、縁!!」


 勝手に話を進める縁に、鈴音は堪らず待ったを掛ける。


「貴方がなぜそこまで心変わりをされたかは知りませんが、正気ですの? 彼を(、、)私たちの(、、、、)戦いに(、、、)巻き込むと(、、、、、)?」


何を今更(、、、、)彼だって(、、、、)とっくに当事者だよ(、、、、、、、、、)


 月光の下で、縁は微笑む。


「端的に言おうか」


 微笑みながら、言う。


「中条君より先に、俺が蟒蛇雀と対峙できればこちらの勝ち」


 笑みに影を宿しながら、言う。


「中条君が、天地神明より先に蟒蛇雀と対峙してしまえばこちらの負けだ」


 縁の断言に、鈴音は思わず息を呑んだ。

 そんな鈴音をしり目に、縁は夜空を見上げながら自嘲気味に笑う。


「リナリー・エヴァンスの奴め。素性が割れておきながらも、敢えて中条君をこの学園に戻したのは……、俺への罪滅ぼしのつもりなのかな?」

 第5章 生徒会選挙編・完


 自己満足風味のあとがき的な何かは近いうちに活動報告で行います。

 次章は2月頃から公開を開始する予定です。

 詳しい日程が決まりましたら、活動報告にてお伝えします。

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