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テレポーター  作者: SoLa
第5章 生徒会選挙編
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第7話 タダ




 固まった身体を解しながらベッドから起き上がる。朝日の差し込むカーテンを開きつつ、伸びを1つ。肺に溜まった空気をゆっくりと吐き出していく。


《おはよー、マスター》


「おはよう」


 机の上に置かれているウリウムへそう返した。


 会長選挙前日。

 結局、副会長の対抗馬は出現していない。大多数の学園生が予想していた通り、信任投票で決まるパターンになるであろう。兄にして現会長である『御堂縁』というプレッシャーで不安定になっていた副会長も落ち着いたようだし、これ以上の波乱は起こらないと見ていい。


「面倒くさいのは準備くらいだな」


 手早く身支度を整えながら、そうぼやいた。

 なにせ、生徒会役員の人数が少ない。選挙の日は午後の授業が丸々潰れる。全校生徒が体育館に集まって会長選挙を見守ることになるのだが、その準備をするのは生徒会だ。パイプ椅子はいくつ並べるのか。ここは普通の学園と違い、絶対数の少ない魔法使いの卵のみが通う学園なので、多少人数は少ないだろうが……。


「あいつらが入ってくれたら楽なんだろうけど、まあ無理だよな」


 会長からの勧誘を笑顔で拒絶していた舞のことを思い出す。可憐も似たような態度だった。やはり、家と生徒会の両立は難しいということだろう。『やるからには全力で』が舞のスタンスだし、中途半端に手はつけたくないということだ。咲夜のみそわそわと視線を彷徨わせるだけだったが。


《マスター、そろそろ時間じゃない?》


「ん、そうだな」


 時計を見れば、ウリウムの言う通り良い時間だった。普段の登校には早すぎる時間だが、今日は朝のホームルームの前に、生徒会の集まりがある。そろそろ出ないと間に合わないだろう。


「お前との会話方法についても考えなくちゃなぁ」


 1人の時はいいんだが、周囲に人がいると独り言を呟き続ける変人にしか見えないのだ。


《なんで? あたしはこのままでも気にしないけど》


「そりゃそうだろうね!!」


 そんなやり取りをしつつ、俺は自室を後にした。







「やあ、おはよう」


 生徒会館の立派な正面玄関には、会長が立っていた。爽やかな笑みを浮かべながらこちらに手を振ってくる。


「おはようございます。中に入らないんですか?」


「澄んだ空気を吸っておきたくてね」


 山の中に建てられたお屋敷だし、そりゃあ空気もうまいだろうさ。

 会長は青空へと視線を向けた。つられて俺も空を見る。本日も快晴だ。

 そのまま会長をスルーして生徒会館に入るのもどうかと思い、並んで深呼吸をしてみる。


「わざわざ生徒会館で集まらなくても、出張所でよかったんじゃないですか?」


 新館にある生徒会出張所は、手狭であるが今の生徒会役員の人数ならなんとかなる。移動時間も全然違うし、効率が良いと思う。


「うん、そうだね。場所を会館に指定しているのは、俺の我が儘みたいなものかな」


 会長は俺を見ずに言った。


「我が儘、ですか」


「良い運動にもなっただろう?」


「もはや筋トレの領域ですけどね」


「ははは、違いない」


 会長は朗らかに笑う。


「まあ、俺が生徒会長在任中の、最後の我が儘とでも思ってくれればいいよ」


 そんなことを言い出したので、思わず会長の横顔を凝視してしまう。間違ったことは言っていない。順当にいけば、明日の会長選挙で目の前にいる会長はその籍から退くことになるのだ。 


「新会長の下、みんなで決めるといいさ。効率を重視するのなら、生徒会館はお役御免になるかもしれないけどね」


 少しだけ寂しそうな声色だった。確かに、会長が言っていることは正しい。現状、生徒会館という集会場所へ向かうために山登りをしているようなものだ。出張所を集会場所に指定するのなら、格段に作業効率は上がるだろう。生徒会館にあって出張所にないものと言えば、広さと倉庫、そして給仕室くらいだ。

 それでも自然にこの生徒会館が集会場所になっていたのは、会長に何かしらの思うところがあったからだろう。


 そこまで考えを巡らせて、思う。

 そうか。

 ここにいる会長は、もう会長じゃなくなるんだよな。


 不思議な気分だった。

 あの不敵な笑みを浮かべ、好き勝手に動き回り、副会長や片桐から手痛いつっこみをもらい、蔵屋敷先輩から辛辣な駄目出しを受けていたこの男は。




 会長じゃなくなるのか。




「おそらく、紫が会長になるだろう」


 俺の心情を知ってか知らずか、会長はそう口にする。


「出来た妹だと思うよ。身内びいきと言われるかもしれないけどね。それでも、俺には過ぎた妹だ。俺はあいつのことを誇りに思っている」


 普段の会長らしからぬ発言だった。


「ただ、たまーに空回りをすることがあるんだ。昨日みたいにね」


「あー」


 反応に困る。あの副会長は中々に……、うん、表現しにくいな。表情には出さないが、内心で苦笑いしてしまった。


「フォローしてやってくれないか」


 いつの間にか、会長の目は俺に向いている。

 まあ、フォローくらいならするさ。同じ生徒会の仲間だし、何より俺は副会長に救われている。この程度で恩返しができるとは思わないが、それでも力にはなってやりたい。


「もちろん。片桐や花宮にも、そう伝えておきますよ」


 俺よりも付き合いの長いあの2人に任せてしまうと、俺の出番は無くなるかもしれないが。


「いや、これは君に頼んでいるんだよ。中条君」


「は?」


 まさかこの展開で否定されると思っていなかったので、思わず聞き返してしまう。

 会長と視線が合う。いつもの人を食うかのような笑みではない。その表情は、真剣そのものだった。


 しばらく無言の時間が流れる。最初に視線を外したのは、珍しく会長の方だった。


「ふむ。中条君、今日の夜、時間取れるかな」


「夜ですか。構いませんが」


 放課後は会長選挙に向けた舞台準備がある。だからこそ、夜ということだ。疲れてはいるだろうが予定はない。それに、目の前の男が、この場ではなく改めて場を設けようと言うのだ。色々と込み入った話もしたいということだろう。


「ん、結構。待ち合わせの場所や時間については、決まり次第連絡を入れるよ」


「了解です」


 寮棟に門限がある以上、おそらく俺か会長の部屋になる。込み入った話の内容によっては、寮棟にある談話スペースじゃできないからな。


「ん、結構」


 会長はもう一度そう言って、胸元から覗く金のチェーンを指で弾いた。







 昼休み。

 どうしても話しておきたいことがある、と言う舞に従い昼食を共にすることにした。メンバーは俺と舞の他に、可憐、咲夜、美月、そしてエマがいる。舞としては咲夜までで打ち止めにしたかったようだが、エマが頑として譲らず、ストッパーの役割として美月までついてくる運びとなった。


 副会長や片桐たちに断りを入れた上で、出張所を使わせてもらう。最近、ここを私用で使うことが多くなった。生徒会特権様様である。


「で、話ってのはなんだ」


 それぞれが席に着き、各々が昼飯に手を付け始めたところでそう切り出す。


「文化祭で白岡の双子が貴方を訪ねてきたの憶えてるわよね」


「白岡……? あぁ、あったなそんなことも」


 将人渾身のクラス企画『星の隠れ家』なるふざけた名前のメイド喫茶で会った『五光』の一角、そのご令嬢だ。舞や可憐の前で魔法使いの引き抜き工作を堂々とする輩でもある。それもひどく昔の事のように感じられるのだが……。

 信じられるか? まだ1ヶ月経ってないんだぜ。


「そいつらがどうかしたのか」


 確か、あの時は横やりが入ったせいで俺は途中で抜けたんだったな。あしらうのは同格の令嬢、ということで舞と可憐に任せたはずだ。


「貴方が抜けた後、白岡から預かった物があるのよ。ここには持ってきてないけどね」


「ふーん?」


 話の行く末がまったく想像できないので、ひとまず頷く。

 話題に出した物を持ってきてないとはこれいかに。

 忘れたのか。


 舞は、表面上は素知らぬ顔をしている美月とエマを一睨みした後、あからさまなため息を吐いた。


「まあ、この2人がリナリーの『黄金色の旋律』に属しているなら聞いててもいいか」


 そう口にすることで自らを納得させたらしい。舞の視線が再び俺へと戻る。


「白岡は……、聖夜、貴方を有用な駒として捉えているわ」


「いくら日本を代表する名家とはいえ、聖夜様を駒扱いするとはしょせんは愚物ね。聖夜様の存在を有用と評するのは間違っていないけど」


「エマ、お前は黙れ」


 エマが口を尖らせた。舞が咳払いする。


「そんなわけで、貴方とパイプを繋いでおきたいらしいの。さっき言った預かった物っていうのが、その置き土産。借りものだけどね」


 なるほど。ここへ持ってこれないような物を置き土産としたわけか。しかも、土産と言いながらも譲渡できないような物を。


「で?」


 苦々しい顔をしている舞へ先を促す。


「預かったのは、アギルメスタの聖杯よ」


 菓子パンを頬張っていた美月が盛大にぶちまけた。


「えほっ!? けほっ、えほっ!! ぐっ!? ぎ、ぎがんにっ!?」


「あぁ、もう本当に美月は手間がかかるんだから」


 つっこみどころ満載の台詞を吐きながらエマが美月の介抱をしている。まあ、美月の反応が普通だよな。エマは自らも聖杯と契約を交わしているからこそ、契約詠唱が使えるわけだし。可憐と咲夜にリアクションが無いのは、当然のようにその内容を知っているからだ。


「……なるほど」


 こちらの反応を窺っている舞へ、ひとまずそれだけ返しながら考える。

 向こうは俺が呪文詠唱できないことを知っている。それを踏まえて提示してきた条件なのだろう。もっとも、聖杯だけを渡されても困る。


「えっと、聖夜。余計なお世話かもしれないけど、火の巻物(スクロール)なら、うちに結構あるわよ」


「そうなのか?」


「う、うん」


 舞が躊躇いがちに頷く。


 魔法を発現するための詠唱は、2種類ある。

 現代式呪文詠唱と、古代式契約詠唱だ。

 なぜ、契約詠唱が古代と称されるのかというと、現代式呪文詠唱に比べて敷居が高いことに他ならない。


 契約詠唱を身につけるためには、まず専用の魔法具と契約する必要がある。

 それが、舞が口にした『聖杯』であり『巻物』だ。


 聖杯は、基本五大属性である『火』『水』『雷』『土』『風』と、特殊二大属性『光』『闇』の計7種類が存在している。まずはこの聖杯と契約しなければ、契約詠唱でその属性を扱うことはできない。言わば契約詠唱の入り口だ。但し、聖杯と契約したからと言ってすぐに契約詠唱が使えるわけではない。聖杯と契約した上で、今度は巻物と契約する必要がある。


 巻物は、対象となる魔法それぞれに存在している。対象となる魔法とは、『魔法球』が使いたければその巻物と、『障壁魔法』が使いたければその巻物と、『回復魔法』が使いたければその巻物と契約する必要があるという意味だ。当然、各属性ごとに異なる巻物が存在しており、更に『魔法球』1つとっても『弾丸』『砲弾』『追尾性能付加』『貫通性能付加』というように様々な種類が存在する。つまり、巻物の数は数えるのも馬鹿らしくなるほどの量となる。


 各属性、各対象魔法に応じてバラバラに用意されている魔法具全てを集めるのはほぼ不可能である。なぜなら、それぞれの絶対数が少ないために希少価値が高いからだ。魔法世界ではオークションがあり、そこで出回ることもあるそうだが、『魔法球』ひとつに日本円にして数十万の値が付くこともある。『魔法球』でそれだ。『天蓋(てんがい)魔法』や各属性の聖杯にいくらの値が付くかは考えたくもない。魔法使いとして戦力になる程度の魔法を集めるだけでも至難の業だろう。


 そんな希少価値が高い聖杯を、白岡は貸し出すと言う。

 そしてこちらの反応を窺っている舞は、巻物を用意できると言う。


「ふむ」


 白岡が提示しているのはアギルメスタの聖杯。アギルメスタは火を司る。舞がこう言うからには、火属性の巻物はそれなりに揃っているのだろう。


「聖夜様」


 そこまで考えを巡らせていたところで、隣に座るエマから呼ばれた。


「お言葉ですが」


「いや、いい」


 そこから先をエマが口にする前に制止する。沈黙している俺がおかしな結論を出す前に止めようとしてくれたのだろうが、正直に言って不要だ。


「まあ、どちらにせよ結論は出てるんだ。お断りで。白岡にはそう伝えておいてくれ」


「えっ!?」


 驚愕の声を発したのは可憐と咲夜、そして美月だ。エマは「当然」といった表情で頷き、舞は眉を吊り上げるだけだった。


「し、失礼ですが中条さん。中条さんは呪文詠唱ができませんよね。契約詠唱を習得すれば、魔法使いとしての戦略の幅が広がると思うのですが……」


「だろうな。それは間違いない」


 可憐からの言葉を肯定する。その反応が余計に疑問を生んだらしい。


「じゃあどうして? タダより高いものは無いよ」


「まあ、美月の言う通りだな」


 タダより高いものは無い。

 文脈的に本人は使い方を間違えていそうだが。


「美月、無知は恥と知りなさい。聖夜様のどれ」


「禁止ワードだ、エマ。お前、もう帰っていいぞ」


「こほん。説明しましょう」


 エマが慌てて改める。わざとらしい咳払い付きだ。


「契約詠唱に必要な聖杯は、非常に高額なものです。各属性によって値段に若干のばらつきはありますが、オークションに出ればどれも軽く億を超えるものばかりです」


「お、おく?」


 美月がさも初めて聞いた単語であるかのような発音で復唱する。


「巻物にしてもそうです。基本魔法球で数十万、強化された弾丸や砲弾などは数百万での取引ですし、RankAに位置する全身強化魔法や天蓋魔法は数千万はするでしょうね」


 一般庶民の価値観しか有していない美月には難しい相場だったのか、目を白黒させていた。


「コレクションとしての価値もありますから、保存状態によっても値段は変わります。ゼロが1つか2つくらい増えるかもしれません」


「えっと、ゼロが1つ増えるということは……」


「美月、悪いことは言わないから数えるのはやめとけ」


 発狂するぞ。

 舞や可憐、咲夜はお嬢様なので、こちらの衝撃にピンと来ていないようだが。


「とにかく。そうした高価な魔法具が揃えられているということは、非常に魅力的に見えるでしょう。ですが、それは危険です。罠です。シラオカと言いましたかその愚物は。まさか聖夜様にそのような悪辣な罠を仕掛けてこようとは。かくなる上は」


「かくなる上もなにもないからお前は本当にその辺で黙れ」


 物騒なことを言い出す前に止める。純粋無垢な咲夜にあんな内容を聞かせられるか。


「契約詠唱には、大きな欠点があるんだ。ああ、いや。対象となる魔法具を集めるのが大変、って言うのとは別にだぞ」


 口を尖らせるエマに変わって俺が話すことにした。


「契約した魔法具、つまりは聖杯や巻物だな。こいつらを壊されると、契約が破棄される」


「え、そうなの?」


「そうだ」


 驚く美月に頷く。


「『魔法球』の巻物が破壊されたら魔法球は打てなくなる。『障壁』の巻物が破壊されたら、障壁は張れなくなる。そんな感じだな。んで、もっともやばいのが『聖杯』を破壊されたパターン」


 言わずとも分かったのだろう。可憐が苦々しい表情をし、咲夜は顔を真っ青にした。


「も、もしかして……、壊された聖杯の属性魔法、全部使えなくなっちゃうんですか?」


 震える声で疑問を提示してきた咲夜に頷く。


「つまり、白岡は……」


「パイプなんてとんでもない。俺に首輪を付けたかったんだろうな」


 可憐が答えを言う前に、俺がそう口にした。可憐らしからぬ、歯ぎしりの音が彼女の口元から漏れる。


「ゆ、許せません……」


「別にいいんじゃないか。強制してきたわけでもないし。舞も気付いてたんだろ?」


 可憐と咲夜が信じられないといった表情で舞に視線を向ける。舞は鼻を鳴らした。


「もちろん。貴方が向こうの申し出を受けるって言うようだったら、説明はしようと思ってたけどね」


「な、なぜです!? 白岡が中条さんを手中に収めてしまうということなのですよ!?」


「そんなことさせないに決まってんでしょ。聖夜が受けるって言うようだったら、説明した上で白岡に喧嘩吹っかけて聖杯を奪い取るつもりだったの。幸い、聖杯は既に手中にあるし」


「なるほど。花園家のご令嬢様、私はあなたの事を誤解しておりました。今後ともよろしくお願い致します。白岡との全面戦争の折には、ぜひ私もその末席に加えて頂きたく」


「え? あ、あぁ、うん。分かった」


 深々と一礼するエマを見て若干引きながら舞が頷く。


「いや、全面戦争とか勘弁してくれ」


 日本五大名家『五光』同士の衝突とか日本が揺らぐわ。


「けど、正直意外ね。貴方は契約詠唱を欲しがると思ってたのに。まったく躊躇ってないみたい」


《だってあたしがいるもんね~。もうマスターにはあたしがいるんだもんね~? んふふ〜。あ、た、し、が!》


 言葉通り意外そうな表情でそう言う舞に張り合うようにして、俺のMCが俺にしか聞こえない猫なで声で口を挟む。とりあえず無視だ。ただ、悔しいことに正解ではある。

 ウリウムが詠唱して高レベルの魔法を発現してくれるのなら、俺はしなくていい。そういうことだ。詠唱に憧れのようなものがあるのは事実だけど。


「まあ、物事の分別というか優先順位というか、そこらへんは弁えているつもりだ」


 それだけ答えておく。ウリウムのことをどこまで話していいのかが分からない。


「ふーん」


 舞がじっと見つめてくる。


「なんだ?」


「変わった? 貴方」


 そんなことを言われた。師匠にも言われたな。だからこそ、余計に気になる。


「そんなに変わって見えるか?」


「うーん」


 額に小じわを寄せながら舞は唸る。


「なんというか……、芯が入ったような感じがするわ」


「そうか」


 魔法世界であれだけの濃い経験を積めば、多少は変わるかもしれないな。なにせ、最後には死にかけたくらいだし。







 ここから先は余談となる。


 昼飯も食べ終わり、そろそろ昼休みが終わろうかというところ。舞や可憐、咲夜が出張所から出たことを確認し、後片付けをしているエマへ質問してみた。


「そうそう、聞こうと思ってたんだ。エマ、お前が契約した魔法具はどうなっているんだ?」


「実家にありますが」


 実家というと、魔法世界のガルガンテッラ家か。

 リスクとしてはどう見るべきだろうか。さっきの話でも出ていたように、魔法具が破壊されてしまえばエマは契約詠唱が使えなくなる。


「家の者たちは、今更勘当した私がどうこうしようと不干渉を貫くかと。ただ……」


 俺の不安を見透かしたのか、エマはそう言った。

 しかし、続けて。


「王子様が不安に感じるのであれば……、壊滅させて略奪致しますか」


「すんなよそんなことお前の実家だろ!!」


 淡々とそんなことを言うお前にびっくりだよ!!







 放課後。

 今回は生徒会館ではなく、体育館に直接集合となった。

 集合と言っても、ここにいるのは俺と会長の2人だけだ。


「違う違う、中条君。そっちじゃないよ。こっちこっち」


「あー、すみません」


 図面を片手に指示を出してくれる会長に謝罪し、置いたパイプ椅子を持ち直す。


「そうそう、そこそこ。それじゃあさっきと同じように横へ並べていってくれたまえ」


「うっす」


 会長は会長で指示を出しながらも手近な椅子を次々に並べていっている。

 くそ。負けられるか。


 機械的に椅子を並べて。


 並べて。

 並べて。

 並べて。


 駄目出しをされて並べ替えて。


 並べて。

 並べて。

 並べて。


 駄目出しをした会長が間違えていて再び並べ替えて。


 並べて。

 並べて。

 並べて。


「そういえば、君と2人だけで仕事をするのは初めてだったね」


「そういえば、そうでしたね」


 そんなやりとりをしつつも、並べて。


 並べて。

 並べて。

 並べて……。

 な、並べて……。


「お疲れ様」


 ようやく全てのパイプ椅子が所定の位置についたところで、会長からコーラの缶を手渡された。


「どうも」


 手から伝わるひんやりした感触が心地いい。肌寒い季節になってきたとはいえ、身体を動かせばやっぱり暑くなる。


「はっはっはっ、やっぱり2人だけだと重労働だったねぇ」


 身近にあったパイプ椅子に腰かけながら会長が笑った。2つ分の席を空けて俺も座る。


「そうですね」


 生徒会の女性陣は、教員たちと当日の打ち合わせをしている。先にそちらを手伝おうか、と言ってくれたが、会長が爽やかな笑顔でお断りしていた。非常に紳士である。まあ、思っていた数よりも全然少なかったしな。


「あれー!! もう終わってるー!?」


 しばらく会長と2人で休憩していると、姦しい声と共に女性陣が戻ってきた。副会長を先頭にして体育館へと入ってくる。


「中条君。夜の件だけど」


 俺ではなく、女性陣に目を向けながら会長は言う。


「20時に魔法実習ドームで。普通に寮棟の正面玄関から出て構わないよ。ちゃんと外出許可はとってある。それから……」


 缶の残りを一気に呷ってから一言。


「魔法服、ちゃんと着てきてね」

 次回の更新予定日は、11月6日(金)です。


※美月のセリフ、『タダより高いものはない』は、本当に美月が間違えて使っています。『目論む』を『モロクム』って言っちゃうような子ですよ。素で間違えているに決まってるじゃないですか(断言)!!


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