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テレポーター  作者: SoLa
第1章 中条聖夜の帰国編
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第17話 日常へ

「というわけでして、属性変化による強弱は、必ずしも結果に直結するとは言い難いわけです。ですが、『魔法使いの鉄則』の1つに『魔法使いたるもの、相手の弱点属性をつけ』という格言があるように」


 頬杖を付きながら、教師の言葉を右から左に聞き流す。この程度の知識なら、師匠に拾われた初日に叩き込まれた。そう、初日に。病み上がりだったにも関わらずだ。「数日は安静にしておきなさい」とかいいつつ、枕元で呪詛のように魔法使いについて講義しまくってたからな。


 今から思えば、それは1日でも早く魔力の扱い方を覚えさせて、俺の調子を安定させる為だったんだろうけど。……あれ。でも、それなら『魔法使いの鉄則』なんて心得的なものじゃなくて、魔力の循環方法とか発散方法とかだけでも良かったんじゃ……。


 ……。

 やめるか、考えるの。思い出は、美化できるのならそれに越したことは無いな、うん。


 ……それにしても。


 ちらりと横に視線を動かす。俺の視線に気付いて、隣に座る可憐が慌てて目を逸らした。


「……はぁ」


 今日は何故かやたらと視線が合う日だ。という表現は回りくどいか。なぜかは知らないが、今日は可憐が俺を意識しているような気がする。今も、こちらが視線を外すなりまたちらちらとこちらを窺って来る始末。


 ……何かしたかなぁ?

 そう考えつつ前に視線を向ける。


 ちょうど詠唱理論の講師が、最前列の席にて堂々といびきをかく将人の頭を、教科書で叩いているところだった。







「聖夜、お昼行くわよ」


「おう」


 何ともむず痒い視線を受けながら午前の部が終了し、昼休み。例によって、真っ先に舞が俺の元へと寄ってくる。


「聖夜ぁ、って、そっか」


 後ろから将人の声も掛かるが、こちらが何かを言う前に向こうが勝手に納得したようだ。……何をどう理解されたのかは恐ろしくて聞けなかった俺だが、とりあえず手で謝っておいた。


「可憐も行くでしょ?」


「はい、ご一緒させて頂きます」


 かたりと音を立てながら、可憐が立ち上がる。……少し前までは考えられなかった光景だな。舞が自分から進んで可憐を誘う。たった数日しか見ていなかったのにも関わらず、その光景はばりばりに違和感を纏っていた。


 仲が良いのは良いことなんだけどさ。


 しかし、その違和感はやはり学園内共通のものだったようだ。教室を出る時も、廊下を歩く時も、とにかくもの凄い注目を浴びた。当の本人たちは我関せずといった風情で、堂々と世間話しているのだから凄い。


「あ、お姉さま! 中条せんぱい! 花園せんぱい!」


 可憐と咲夜がいつも合流場所として決めている下駄箱付近に差し掛かったところで、正面から元気な声が聞こえる。下駄箱に寄りかかり、片足をぷらぷらさせていた咲夜は、俺たち3人が視界に入るなり真っ先に駆け寄ってきた。


「よう」


「こんにちは、咲夜ちゃん」


「お待たせ、咲夜」


「こんにちは、よろしくお願いしますっ」


 三者三様の返事をして、学食へ。

 周りから向けられる視線の温度が、1ランク上がった気がした。綺麗どころが3人歩いているんだから当たり前か。


 早速女の子トークを始める3人の背中を眺めながら、少し遅れて歩く。


 というか、俺気まずいだけだろう。舞も舞だ。もう他に昼食食べる友達見つけたなら、俺を呼ばなくてもいいだろう。俺が女の子トークについていけるようになったら、それはただの変態だ。


 俺に向けられる視線のみがますます冷たくなっていくのを感じながら、ひっそりとため息を吐いた。

 ……そのうち、闇討ちとかされるんじゃないだろうか。







「あら、咲夜。今日は多いのね?」


「えへへ。3,4時間目の授業が魔法実習だったので、お腹空いちゃいました」


 恥ずかしそうに頬を染めながら、可憐の問いに咲夜がそう答える。多い? きつねうどんにちょこっとトッピング増やしただけなのに?


「どうかされましたか? 中条せんぱい」


「え? いや、別に」


 こちらの視線が気になったのか、ちゅるちゅると麺を啜る作業を止めて、咲夜が小首を傾げてくる。


「……聖夜、真昼間から犯罪行為に走ることだけは止めて頂戴ね」


「その発言には異議を唱えるぞ」


 後、そんな憐れんだ目で見てくるんじゃない。

 俺の切実な抗議は、舞の「はいはい」というおざなりな返事で脆くも崩れ去った。


「んんー。それにしても、良い運動したわ。やっぱり気に食わない奴はぶっ飛ばすのが一番ね」


「……お前にお嬢様っぽい発言を求めるのはもう諦めたからさ。せめてもう少し穏便な言い回しに変えない?」


 戦闘狂か、お前は。


「凄いです。敵の魔法使いさんを、お姉さまたち3人だけで倒しちゃうなんて」


「……お行儀が悪いですよ、咲夜」


「あ、すみません」


 何か羨ましそうな視線で舞を見つめる咲夜を、可憐が諌める。自分が箸の先っぽを咥えながら話していたのに気付き、咲夜は慌てて箸を置いた。


「ふふん。まあ、あの程度なら余裕だったわね」


 咲夜の羨望を受けて、舞が胸を張る。


「自慢すんな」


 俺はうんざりする様な声色で、舞を小突いた。


「痛っ、何よ」


「口外はするんじゃないぞ。あの一件は、この学園では無かったことになってるんだから」


「分かってるわよ、そのくらい」


 舞は鼻を鳴らしながらそう答える。そういうところはしっかりしてるから平気か。それにこいつ、他に友達居ないからな。うっかり口を滑らせるってことも無いだろう。


 ……そういう納得の仕方は失礼だよな。


「……ん? どうかしたか?」


 思考を切り替え、ふと意識をテーブルへと向けて見れば。いつの間にか会話は止まっており、3人は無言で俺の様子を窺っているようだった。


「え!? いや、別に何にも」


 舞が誤魔化すように口を開く。しかし、うまく話題を見つけられなかったのかそれ以上は話さなかった。可憐は無言で目を逸らすだけ。


 そして。


「あ、あのっ。えーっと。あー。うー」


 咲夜がはっとして何かを喋ろうと口を開く。が、結局それは人の言葉としては成立せず、徐々に下がっていくボリュームと共に消えて失せた。


 ち、沈黙が痛い。

 ……それに、やっぱり何か皆の様子が変だ。


 結局。

 二言三言話しては沈黙が生まれ、誰かが取り繕うように話題を運び、二言三言話してはまたもや沈黙が生まれるという、学食で初めて顔を合わせたメンバーの空気並みに気まずさが漂う昼食会は、とある教師の声掛けによって終わりを迎えた。


「あ、いたいた。中条君」


「……はい?」


 その掛け声に振り返ってみる。そこに立っていたのは。


「白石先生?」


 我らが担任。THE・ぽわぽわの白石はるか先生だった。


「中条君。今日の放課後、少し時間取れないですか?」


「はぁ……」


「じゃあ、放課後は魔法実験室に来て下さい。忘れちゃダメですよー?」


 年上とは思えぬ可愛い釘刺しをしてから、可憐・舞・咲夜の方へも軽く会釈をして、白石先生は自身の食器を下げに回収場へと歩いて行った。


「……まさか、貴方」


「なんだ?」


 舞が、驚いたような顔で、ぽつりと呟く。


「まさかって、何がまさかなんだ?」


「……別に、何でもないわよ」


 そう言うなり、舞は自身のトレーを持って立ち上がった。


「可憐、咲夜ちゃん。ちょっと時間取れるかしら」


「ええ、構いませんよ」


「え? わ、分かりました」


 舞の問いかけに、可憐と咲夜も応じて立ち上がる。


「何だよ、もう行くのか? だったら俺も」


「貴方はまだここにいなさい」


「は?」


「失礼致しますね」


「中条せんぱい、また」


 呆気に取られる俺に可憐と咲夜は頭を下げ、既に背を向けて歩き出している舞の後ろへとついて行く。


「……ここにいろって言われてもな」


 俺も既に食べ終わってるんだけど。……どうすればいいわけ?







 終業のチャイムが鳴り響く。同時に各々の席ががたがたと不規則な音を立て始める。


「ふぁ……」


 欠伸を噛み殺しながら、隣に視線を向ける。バッという音が聞こえそうな程の速度で、可憐が顔を逸らした。


 ……何だかなぁ。

 今日は一日中視線を感じる日だった。

 睨まれてるわけでも、その逆色目を使われているわけでも勿論無い。敢えて言うなら、此方の様子を窺うと言うか、タイミングを見計らっているというか、そんな感じの視線だ。


 そのせいで無駄に神経を擦り減らし、いつもよりも余計に疲れた気がした。


「可憐」


「は、はい。何でしょう?」


 ……なぜ声掛けただけでどもる。


「今日はこの後どうすんだ?」


「え? えーと」


 視線が泳いでいる。が、うろうろしていた焦点が、俺の直ぐ後ろの辺りでピタリと止まった。そちらに振り返る前に、そこから声が聞こえる。


「可憐は、今日私と一緒に帰るわ」


 そこには既に帰宅の準備を整え、鞄を片手に立つ舞の姿があった。


「そうか」


「何? 貴方、可憐に用事でもあった?」


「いや? つーか、お前も昼休みに聞いてたろ? 俺は呼び出し受けてるんだよ」


「……そうね」


 俺の発言に、舞の目が僅かに細められる。


「どうした?」


「べっつに~? 行きましょう、可憐」


「はい。それでは、中条さん。また明日」


「あ、ああ」


 俺の問いを払うようにそう答え、舞は踵を返した。ぺこりと頭を下げて帰りの挨拶を済ませた可憐が、それに続く。その何とも表現しがたい微妙な態度に首を傾げながら、2人が教室から出ていく後姿を見送った。







「……失礼しました」


 そう言って魔法実験室の引き戸を閉める。

 何のことは無い。白石先生からの呼び出し内容は、ずばりお説教だった。


 この間の仮病を使った欠席に加え、昨日の寝坊名目の遅刻。それに関するお話。仮病を使って休んだ日のことだが、俺のことを心配してくれた白石先生は、どうやら昼休みの時間を使って一度俺の部屋を訪れていたらしい。誘拐グループのアジトを聞き出す為に、尋問をしていた時間だ。当然、俺は部屋にはいない。


 白石先生曰く、俺の部屋に無断で入り込むようなことはせず(教師陣は、寮監から各生徒のスペアキーを借り受けることが可能)、ドア越しにノックと声掛けをしていただけとのことだったので、やろうと思えば高熱でそれどころじゃありませんでしたと嘘をつくことも出来たがしなかった。本気で心配してきそうだったからだ。


 嘘を吐いておいた方が楽だったのは間違いないが、教師としての職務を全うする為という理由ではなく、白石はるか一個人としてここまで真摯(しんし)に接してこられては、こちらもおざなりな対応はできなかった。


 この人の天職が教師で間違いなかったということを、俺はこの日無駄に確信した。

 昨日の寝坊による遅刻含め、ある程度予想は付いていたのだろうが、俺の口から「すみません、サボりました」という言葉を聞いた瞬間、白石先生は一瞬悲しそうな顔をした後、直ぐにその理由について質問してきた。


 どうやら、俺が転校早々いじめにあっているのではないかと疑ったらしい。だが、残念ながらそんな事実は一切ない。完全に俺の意思による、外的要因は一切ない純度100%のサボりですと告げたら、教科書を丸めて叩かれた。……全然痛くない。


 それからは、ひたすらにお説教。


 ……とは言ったものの、白石先生はサボること、遅刻することがどれだけ悪い事かを力説するというよりも、「そんなことしたら、中条君絶対に後悔することになるよ」という内容で、お叱りというよりもアドバイスや、お願いに近い話し方だった。


「遅刻なんかして、途中から教室に入るの恥ずかしいでしょう?」


「……はい」


「そんなつまらないことで怒られてたら、学園つまらなくなっちゃいますよ?」


「……はい」


「中条君は転入して、まだ日が浅いんだから。今がお友達を作る一番大切な時なんですよ?」


「……そうですね」


 終始、こんな感じ。完全なるワンサイドゲーム。クラスメイトの前の教卓でぐちぐち説教されて廊下に立たされた時より、余程心が持って行かれた。


 すみません、もうしません。ごめんなさい。


「……反則だ」


 差し込む夕日に目を細めながら、そう呟いた。

 くそう。これじゃ本当にもう遅刻も欠席もできそうにない。まさかこの年で『ゆびきり』までさせられるとは。それも素でやっているのだから凄い。


 白石女史、恐るべし。


 ……次、遅刻なり欠席なりしたなら、あの人泣くかもな。そんなことを考えていると、ポケットの中で振動。震源であるスマホを取り出し、開く。


『19時に、教会にて』


 本文は、それだけ。用件のみ伝えられた、簡潔すぎる文面だった。


「何を考えているんだ? 舞のやつは」


 また教会か。教会を使い勝手のいい談話室と勘違いしてるんじゃないのか。


 ため息を吐きながら、携帯電話をしまう。わざわざ人気の無い時間を選んでまで、教会を指定してくるくらいだ。それなりに機密性は高い用件なんだろう。前回呼び出された時は、誘拐グループ殲滅に同行させろという無茶なお願いだったが……。


「今回は、いったい何を言われることやら」


 間違いなく、軽い冗談で済ませられる話ではない。まだ指定された時間まで3時間以上あるにも関わらず、既に重くなりつつある足を引き摺りながら、俺は再度ため息を吐いた。







 現在時刻、18時56分。

 俺は教会の扉の前で一度立ち止まり、ゆっくり空を見上げた。


 星が綺麗な夜空だった。もっとも、それを綺麗だなんて口にできるほど、今の俺に精神的余裕があるわけでも無いが。


「まあ、面倒臭いことは早めに終わらすに限るな」


 そう無理矢理ポジティブな意見を捻りだし、扉に手を掛けた。

 特有の重苦しい音を響かせながら、扉を押し込む。ひんやりとした空気が、中から抜け出してきた。構わず足を中へと踏み入れる。


「あら、今日は時間通り。感心ね」


 呼び出した張本人である舞は既に到着していて。その両サイドには、可憐と咲夜の姿もあった。

 ……おいおい、今度は咲夜もかよ。


 後ろ手に教会の扉を閉めながら、改めて3人と向き直る。そこで、ふと気付いた。


「先に1つ聞いていいか?」


「あら、何かしら?」


 舞が先を促してくる。お言葉に甘えて、心の底から湧き上がる疑問を口にした。


「何で、お前ら3人とも魔法服を着てるんだ?」


 そう。3人が着ているのは、制服でも私服でも無く、魔法服。腕には起動はしていないのだろうが、MCまで装着されている。


 ……起動してないだろうな?


「ふっ。愚問ね」


 舞が、真っ赤な髪を掻き揚げながらそう告げる。俺はうんざりしてため息を吐いた。


「……舞、悪い事は言わないからやめておけ。いくら相手が悪人でも、既に収容されている誘拐犯に追い打ちを掛けるような真似、許されるはずがないだろう?」


「んなことするかっ!!」


 良い切り返しだ。


「んじゃ、何なんだ? 俺は信者じゃないけどさ。仮にも神の御前でそんな戦闘服を着込んでいていいのかよ」


「魔法服は、私たち魔法使いにとっての正装ですから。失礼には当たりませんよ。挙式等に参列する際にも、着ていかれる方がいらっしゃるくらいです」


 可憐がしずしずとそう答える。


「……そんな正式な場でも、MCは装着してるのか?」


 ……。

 俺の問いに、3人共さっと目を逸らした。


「目、逸らしてんじゃねーよ!!」


「ほら、あれよ。ボディーガードとかは年中つけてるじゃない?」


「そのボディーガードは俺だったんだろうが」


「ちっ」


「舌打ちを止めろ!!」


 俺と舞の言い争いに、いい加減埒が明かないとでも思ったのか、これまで黙っていた咲夜が一歩踏み出した。


「あ、あの。中条せんぱいをお呼びさせて頂いたのは、その……。お話があるからでして」


「だろうな」


 そうでなければ、この時間にこの場所には呼び出されまい。


「で? 用件を聞こうか。まさか、ここで俺を殺す気じゃないだろう?」


「場合によるわね」


「バッドエンドありなの!?」


 ここに来てまさかの死亡フラグが顔を覗かせた。


「聖夜」


「ん?」


 舞の声色が変わる。同時に、3人を纏う空気も一変した気がした。頷くことで、先を促す。


「貴方、これからどうするの?」


 見当違いの問いかけに、一瞬思考が停止する。


「これから、貴方はどうするの?」


 舞が、もう一度問いかけてきた。


「どうするって……。誘拐犯グループの件は、魔法警察と師匠に任せたんだから、もう俺の出る幕は無いぞ」


「違うわよ」


 俺の答えに被せるかのように、舞は否定してこう言った。


「護衛任務を終えた貴方は、これからどうするの?」


 その言葉を聞いて、分かった。

 今日の可憐の視線。舞の不審な言動。そして、舞・可憐・咲夜の結託。その意味が。


「はぁー」


 思わずため息が漏れ出る。今度はどんな無茶振りが来るのかと肝を冷やしていたが、どうやら杞憂だったようだ。


「はっ。ははは」


 不安が拭えるのと同時に、笑いが込み上げてきた。3人の不安そうな視線が、突如笑い出したことにより怪訝なものへと変わりつつあったが、それすら気にならない。

 じゃあ、魔法服を着ている意味というのは……。


「はははははっ」


「な、何が可笑しいのよ!!」


 舞が顔を真っ赤にして叫ぶ。


「いや、別に。何を先走ってんのかなぁと思ってさ」


「え?」


 俺の言葉に、可憐が首を傾げる。俺は頬を掻きながら言った。


「師匠からしばらく休暇貰ってるんだ。だから、そんなに身構えなくても平気。もうしばらくは、俺もこの学園の生徒だよ」


 久しぶりに舞に会えたし、せっかく可憐と咲夜とも友達になれたしな、と付け加える。


 ……。

 一瞬の静寂。その後、3人は三者三様の態度を示した。


 舞は「なら最初っからそう言っときなさいよ!!」と怒り。

 可憐は「これからもよろしくお願いしますね」と頭を下げ。

 咲夜は「やったー!!」と手を上げてはしゃいで。


 どれだけの時間を自由にして良いのかは分からないけれど。

 それでも、学園に残ることを決めて良かったと思う。

 自分がこうして必要とされていることが嬉しかった。


 わざわざ魔法服まで着て待ち構えて。

 力づくでも止めてみせる、と。

 言外にそう言ってくれたことが、この上なく嬉しかった。


 恥ずかしさを誤魔化すように、軽く咳払いをする。

 3人の視線がこちらに注目した。


 別に何か言おうと思ってした訳では無かったので、うまく口が開かない。「ありがとう」とか「これからもよろしくな」とか。

 そんな簡単な一言ですら、今は気恥ずかしくて言えなかった。


 辺りが暗くて良かったと、心の底から思う。

 今の表情は、あまり見られたくなかった。

第1章 中条聖夜の帰国編・完

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