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テレポーター  作者: SoLa
第4章 スペードからの挑戦状編〈下〉
172/432

第6話 アギルメスタ02 ①

今回は、2話同時更新をしています。




 午前8時になりました。

 ニュースをお伝えします。

 本日で『七属性の守護者杯』アギルメスタ杯の本戦も2日目、残すところあと2日となりました。

 予選を勝ち上がった8名の選手の中、見事本戦2日目へと進んだのは4名。『黄金色の旋律』所属のT・メイカー選手、『闇属性の始祖ガルガンテッラ様の末裔』マリーゴールド・ジーザ・ガルガンテッラ様、『王立エルトクリア魔法学習院の院生』天道まりか選手、そして『無所属』のメイ・ドゥース=キー選手。

 それぞれアギルメスタ杯の名に恥じぬ魔法使いの集結となりましたが、残念ながら天道選手は療養のため棄権する、と王立エルトクリア魔法学習院より通達があり、本日10時より開始予定だった3,4位決定戦は、ガルガンテッラ様の不戦勝となりました。

 よって、今アギルメスタ杯の3位がガルガンテッラ様、4位が天道選手に決定しております。

 本戦2日目の決勝戦は、予定通り午後6時より執り行われるとのことです。

 現場にリポーターが入っております。

 シャルルさん。


 はい、シャルルです!!

 現場の模様をお伝えしてきた私ですが!!

 それも残すところ後2日となりました!!

 しかし!! 会場のボルテージは日に日に高まっていると言っていいでしょう!!

 総勢400名によって争われた予選!! そして本戦へと駒を進めた8名の選手!! 誰が勝ってもおかしくはない!! そんな白熱した試合を繰り広げてくれた選手たち!!

 本日!!

 ついに!!

 アギルメスタ杯の頂点が決まります!!

 世界最強と称されるリナリー・エヴァンス率いる『黄金色の旋律』!! リナリー・エヴァンス以外、その他一切の素性が不明とされてきたメンバーの1人!! T・メイカー選手か!?

 それとも!!

 予選ではマリーゴールド・ジーザ・ガルガンテッラ様を!! 本戦では天道選手や藤宮選手といった強豪を抑え!! これまでその存在すら知られてこなかったという『無所属』!! メイ・ドゥース=キー選手か!?

 勝つのは果たしてどちらになるのか!?

 専門家の間では『9割の確率でT・メイカー選手が勝つ』と予想されており!! 『残り1割が埋まらないのはメイ・ドゥース=キー選手に隠し玉がある可能性を考慮した』とのことで!! 会場でもT・メイカー選手の圧倒的人気具合が窺えております!!

 3,4位決定戦が中止となったという情報は昨日のうちから出ていたにも拘わらず!!

 先ほど午前8時を回ったところではございますが!! 既にエルトクリア大闘技場の6割弱は埋まっており!! いかにこの決勝戦に注目が集まっているかがお分かり頂けるかと思います!!

 本戦第一試合は午後6時から!! 午後6時からです!!


 現場のシャルルさん、ありがとうございました。

 本日お出かけの方々、今現在も交通網は大変な混雑となっております。お時間に余裕を持っておでかけください。また、諸外国へお出かけの方々、空港では臨時便の発着により通常とは異なるダイヤでの運航となっておりますのでご注意ください。

 それでは、次のニュースです。







 今日は朝から雪だった。

 本降りではないものの、昨日から振り続けているせいで5cm程度は積もっている。それを小窓から確認した俺は、ため息と共に視線を外した。


 ここは、教会裏にあるシスター・マリアの住居。1LDKの小ぢんまりとした木造の家だった。決勝戦に向けて最後の特訓かと思っていたのだが、予想に反して師匠からは待機命令が下ってしまった。特訓をしないのなら訓練場に居る必要はないということで、この場所に移動となったわけだ。


「それにしても……」


 取り残された家を見渡しながら、もう一度ため息を吐く。

 ようやく地下から上がって来れたのはいいが、外出は禁止。魔法世界を自由に見て回ることができない。師匠や美月、マリーゴールド、そしてシスター・マリアはホテル・エルトクリアに向かっているので、ここにいるのは俺とルーナの2人だけだ。

 小さな木造りの丸テーブル、その対面に座るルーナを見る。


「きんちょう、してるの?」 


「ん? いんや、大丈夫」


 どうやらそわそわとしている俺を見て心配してくれたらしい。でも残念ながら俺が落ち着かない原因は別にある。最後になるであろう地獄の特訓に向けて覚悟を決めていたにも拘わらず、特訓は中止となり挙句の待機命令のせいで手持ち無沙汰になってしまっているせいだ。

 もう一度、純白の世界に変わりつつある外の景色へと目を向ける。


「……今日の決勝は寒くなりそうだ」







 魔法世界エルトクリアにお住いのみなさん、こんにちは!!

 DJのマークです。いかがお過ごしかな?

 時刻は午前8時半を回ったところ。

 今日は朝から雪が降ってて寒いねー。今日は1日中雪で、場所によっては結構吹雪くみたいだから注意してね。防寒対策はしっかりしておくこと。間違っても「そのうち夏になるだろ」とか調子乗ってTシャツ1枚で出歩くんじゃないぞ!!


 さーて、みなさん!!

 話は変わりますよ。ついに来ました来ましたよ、アギルメスタ杯決勝戦!!

 3,4位決定戦は残念ながら中止に。天道選手かな~りやられちゃってたからしょうがないよね。まだ学生なんだし将来あるんだから無理しないのは良い事だ。各々思うところはあるだろうけど、俺は学習院の決定は間違っていなかったと思うね。

 うん。


 それじゃあ話を戻そうかね、アギルメスタ杯決勝戦!!

 まずはアギルメスタ杯の流れについて軽くおさらいしておこうかな。在住の方はご存じだとは思うけど、観光で訪れてくれている人たちも聞いているだろうからね。 


 この魔法世界では、1ヶ月に一度、大規模な魔法大会が行われているんだよね。そしてその大会には『七属性の守護者』の名前が割り振られ、大会ごとによって種目の性質が変わるんだ。


 今回の大会はアギルメスタ杯。

 アギルメスタ様と言えば、問答無用、攻撃特化の『火』!!

 そう!! ここで求められるのは力のみ!!

 細かい戦略やら小細工やらは一切不要のガチンコ対決だー!!


 と、いうわけで。予選は予想通り倒した者勝ちの総勢400名を4グループに分けたサドンデス。2日目も同じく8名を2グループに分けたサドンデス。『力が全て』と豪語したアギルメスタ様に恥じぬ見事な試合形式だったね。

 3,4位決定戦に勝ち上がったのは、マリーゴールド・ジーザ・ガルガンテッラ様と天道まりか選手。けれども先ほどもお伝えした通り、天道選手の棄権でこちらはマリーゴールド様の不戦勝。

 そして決勝に勝ち上がったのは、T・メイカー選手とメイ・ドゥース=キー選手。決勝は本日の午後6時から開始予定ってわけだ。


 どちらが勝つかで賭けも大盛り上がりみたいだね~。今のところはT・メイカー選手が優勢のようだけど、果たしてどうなることやら。メイ・ドゥース=キー選手がどれだけ余力を残しているかが勝敗の鍵を握っていそうだよ。


 場所はもちろんエルトクリア大闘技場!!

 生憎とチケットは完売!!

 つーか試合開始午後6時からなのにもうみんな入場してんのかよ!!

 気が早すぎだろ!!

 俺もそろそろ出るけどさぁ!!


 今日は残念ながら取材席での応援。

 ゲストとして呼ぶなら今日呼んでくれよカルティさ~ん。


 とにかく。

 本戦チケットを勝ち取った幸運なるみなさん。大闘技場でお会いしましょう!!


 今日の決勝戦でアギルメスタ杯の頂点が決まる!!

 そして明日はその頂点に立った選手と『トランプ』によるスペシャルマッチ!!

 盛り上がらないはずがないアギルメスタ杯のクライマックス!!


 見逃すんじゃないぞ!!

 以上、DJマークがお送りしましたー!!







 雪は一向に降りやむ気配が無い。

 小窓から覗く情景は、白一色に変わりつつあった。人通りも多くない。この街にはギルドの本部があり、その建物は教会の近くにある。もう少し人通りがあってもいいと思うのだが。

 生憎の天気のせいなのか、それとも今日がアギルメスタ杯決勝戦だからなのか。計りかねるところだ。


 シスター・マリアの住居にいるのは、もう俺1人だ。ルーナも、先ほど帰ってきた師匠とシスター・マリアに連れられてエルトクリア大闘技場に向かってしまった。

 時計は間もなく12時を知らせる。秒針の刻む音が耳障りに感じてしまうほどに、ここは静まり返っていた。昨日、美月の借りているスイートルームから見下ろした決戦フィールドが脳裏に浮かぶ。

 数えきれないほどの群集。

 圧倒的な熱。


「……はぁー」


 わざと大きくため息を吐く。その音すらも、余すところなく鼓膜を刺激する。

 静かすぎるこの時間が、なぜか少し気味悪く感じた。







 純白の景色へと変わりつつある魔法世界。

 まるで生活音の無いその場所に、1つの影。

 死臭のする口から白い息を吐いて。

 血のような赤い瞳を周囲に巡らせて。


 ナニカは徘徊する。







 魔法伝導体、MCマジック・コンダクター

 魔法使いが魔法を発現する上で、補助道具として使われるそれ。


 本来、MCの動力源には魔法石が使われている。

 魔法石に人工の魔法回路を繋ぎ、そこへ術者が魔力を通すと、魔法石はその魔力の流れを整える役割を果たしてくれるようになる。術者は、一度魔力を魔法石へ経由させ、均一の流れとなった魔力を再び身体へと戻し、魔法へと発現させる。


 これが、MCを使用して魔法を発現するプロセス。


 魔法石とは、それ自体が微弱な魔力を放出する石のことを指す。

 もとはただの石ころだが、魔力濃度の高い所にある石は、長い間その魔力に侵されることで自らも魔力を放出するように変質する。もちろん一番採取量が多いのは魔法世界で、各国の供給源となっている。


 しかし、今の俺が使用しているMCの素材はまったく別のそれだ。


 魔法世界にある危険区域ガルダー。

 そのもっとも危険とされる区域で自生しているという妖精樹(ようせいじゅ)

 その樹は光合成のように自ら魔力を生み出す樹であり、闇夜にはそれはもう綺麗に輝くらしい。


 そしてその種と根、幹を使用して作られたのが、この『虹色の唄』だ。


 木造りの丸テーブルに置いていたそれを掴む。

 同時に、さわさわと耳に届く、雑音(ノイズ)

 昨日のアギルメスタ杯本戦第一試合、アリサ・フェミルナーとの最後の一騎打ちで消えたはずの雑音(ノイズ)は、残念なことにいつの間にやら復活していた。


「……これ、集中力途切れるんだよなぁ」


 手にした『虹色の唄』を軽く振りながら呟く。

 予選の時はまだ音量が小さかったから良かったが、本戦の時は結構しんどかった。今まで散々使ってきた“不可視の弾丸インビジブル・バレット”なら平気だろうが、アリサ・フェミルナーとの最後の一騎打ちで使用した“不可視の弾圧(クラック・ダウン)”は並々ならぬ制御力が要求される。桁違いの魔力を一気に生成して圧縮しなければいけないのだから当然だ。それを、この耳障りな雑音(ノイズ)の中でこなせと言われると厳しいかもしれない。


「……どうしたもんかね」


 俺の膨大な魔力をストレスなく解放できるのは、妖精樹を素材としたこの『虹色の唄』だけだ。しかし、『虹の唄』を使用している間はこの雑音(ノイズ)が鳴り響く。これでは集中できずに膨大な魔力を込めても暴走してしまう可能性がある。ならば『虹色の唄』を使うのをやめればいいか、と言われるとそういうわけでもない。

 市販されているMCだと、俺の魔力容量と発現量が許容範囲を大幅に超えてしまうため、満足に解放することができない。師匠から魔改造と称された他の“不可視の弾丸インビジブル・バレット”シリーズの使用すら難しいだろう。

 本末転倒だ。


「悩んでもどうせ使うのは『虹色の唄(こいつ)』だ。それでも……」


 手にした『虹色の唄』を見つめながら、呟く。


「どうしたもんかね……」


 触れている間ずっと鳴り響く雑音(ノイズ)は、何かを訴えかけているかのようだった。







 魔法世界エルトクリア。

 王城を頂点とした貴族街の連なる白い山。

 そして、その麓から広がる国民の住宅街。

 その住宅街のことを総称して、魔法世界では『箱舟(ノア)』と呼ぶ。

 箱舟に対して敢えて『ノア』と名付けたのは、初代国王のガーナ・エルトクリアが、「どれだけの天災や人災が襲って来ようとも、我らは民を1人として見捨てたりはしない」と宣言したことに由来されるとしているが、実際の真意は不明である。

 そのノアの警備隊長を任されているギリー・ウォーレンは、もう何本目になるか分からない煙草を吸殻入れに押し付けながら、モニターに向かう部下へと声を掛けた。


「見つからんか」


「はい」


 部下の即答に、ギリーはため息と一緒に煙を吐き出した。


「市街地に張り巡らせている監視網にまったく引っかからない以上、もはや逃げ場としてはガルダー、廃墟街、貴族街、王城くらいしか……」


 市街地全域とはいえ、当然ながら死角はある。しかし、その死角に長い間ずっと留まり続けていることも不可能だ。それが影も形も捉えられないとなると、そう考えるのも致し方が無いと言える。


「王城や貴族街は冗談としましても、廃墟街やガルダーに逃げ込まれた可能性は高いと考えます。ガルダーはともかく、廃墟街まで部隊を派遣致しますか?」


「ふむ……」


 ギリーは顎を撫でながら思案する。

 そして。


「そうするか。3人1組で行こう。それを5組。すぐに編成しろ」


「了解致しました」







 午後3時になった。

 雪の降る量は増え続けており、もはや隣に立つ建物すら見えにくいほどだった。積雪の量も着実に増え続けている。そういえば、先ほど4人組の魔法使いのグループがギルドへと歩いていくのを見かけたのだが、なんと積もった雪の上を器用に歩いていた。魔力を足の裏に通して水の上を歩く『水面歩法(すいめんほほう)』と同じ原理なのだろう。


 エルトクリア大闘技場の決戦フィールドは、果たして除雪されているのだろうか。是非ともされていて欲しい。余計な手間をかけさせないで欲しいものだ。







「そろそろ、いく」


 午後4時半を過ぎたところで、ルーナが立ち上がった。

 ここはエルトクリア大闘技場の19階。スイートルームしか用意されていない階層にある一室『19-H』。カガミ・ハナ名義で貸し出されていた部屋だ。もっとも、今ここにその名義人はいない。ここにいるのは、リナリー、シスター・マリア、そしてルーナの3人だけだ。このスイートルーム専属のお手伝いであるアル・ミレージュも外へ追い出されていた。


「そうね。よろしく」


 隣で立ち上がったルーナに視線をくれることもなく、リナリーは気怠そうな口調で答える。ルーナは綺麗に整った眉を少しだけ動かした。


「わたしは、はんたい」


「何を言っているのか皆目見当がつかない。もっとも、ついたところで何が変わるわけでもない。なぜなら、私は貴方に意見を求めていないから」


 言うだけ無駄、と。

 リナリーは冷めた口調でその話題を断ち切る。

 ルーナは小さくため息を吐くと、それ以上は何も言わずにスイートルームから出ていった。その両腕にイリオモテヤマネコのぬいぐるみを抱きしめて。


「……リナリー。いったい何をやらかすおつもりでございますか」


「教えない。悪いけど、この後ルーナの引率を頼むわね」


「それは……、もちろんお受けいたしますが」


 歯切れの悪い回答だったが、リナリーはそれで十分だった。熱狂的な歓声が不規則にあがる観客席を見下ろしながら、リナリーはその口元を僅かに歪める。


「さて。魔法世界に来てからの集大成ね、聖夜」







 ゆっくりと椅子から立ち上がる。

 小窓の外へと向けていた視線を前に戻した。

 白いローブを羽織り、フードを深く被る。

 腕に『虹色の唄』を装着し、白い仮面へと手を伸ばした。


 それとほぼ同時に。

 クリアカードから着信音。


 相手の名は、ルーナ・ヘルメル。

 通話の操作と同時にルーナのホログラムが浮かび上がる。


『せーや、ついた』


「了解」







 ――――アギルメスタ杯決勝戦まで、後1時間。

次回の更新予定日は、5月29日(金)です。

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