表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テレポーター  作者: SoLa
第4章 スペードからの挑戦状編〈下〉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

169/434

第4話 アギルメスタ01 ⑪




 まりかですら目を剥くほどの膨大なる魔力で発現されたそれは、決戦フィールド全域をカバーできるほどの炎の剣を生み出していた。

 見渡す限り、剣、剣、剣。

 その全てが攻撃特化と称される火属性によって形作られている。


「こいつぁ……」


 唯と対峙していたメイの周囲も例外ではない。唯の『群青雷花(ぐんじょうライカ)』を自らが纏う魔力のみで退けたメイが、この大会初めて警戒した様子を見せた。

 唯もメイへと向けていた切っ先を周囲に揺らす。


 直後。

 決戦フィールド全域に展開されたそれらが、不規則な回転を施されながら縦横無尽に駆け巡り、蹂躙を始めた。







「おいおい、マジか。めちゃくちゃじゃねーか」


 眼下に広がる光景を見て、思わずそう口にする。

 決戦フィールドでは、天道まりかの天蓋魔法に藤宮誠の広範囲魔法も加わって地獄絵図のような有様になっていた。

 天道まりかの天蓋魔法は、藤宮誠本人や藤宮の魔法を迎撃するという目的で運用されている分、まだいい。問題なのは藤宮誠の広範囲魔法。あれは狙いなんて定めていない。完全なる無差別攻撃。そのせいで決戦フィールドがどんどんカチ割れ、隆起していく。


 ……あの中で退場にならずに凌げてるってのは凄いな。

 天道まりかは、自分でも手数で勝負できる魔法を発現しているのだからいい方だ。

 浅草唯は、浅草の奥義を惜しげもなく連用することで何とかってところか。片桐(かたぎり)沙耶(さや)に使われたことがあるから分かる。『結結陽炎(ユイムスビカゲロウ)』に『大地(ダイチ)』、それに『風車(カザグルマ)』。繋ぎ繋ぎで際どいところをうまく掻い潜っている。あれは一手しくじるとそのまま詰みそうな流れだから安心して見ていられない。

 そして。


「……メイ・ドゥース=キーってのは何者だ。あれで『無所属』? 野良魔法使いだって?」


 襲いくる無差別の凶刃を必要最低限の動きのみで回避し、回避できないものは拳で打ち落とし、足で蹴り砕いている。身体強化魔法は発現しているようだが、逆に言うとそれだけ。しかも、その身体強化魔法には属性すら付与されていない。つまり、藤宮誠の攻撃特化の火属性を無属性の身体強化魔法だけで退けているということになる。

 それだけ、藤宮誠とメイ・ドゥース=キーの発現濃度と発現量に差があるということ。

 面倒くさい奴らばかり残ったグループだとは思っていたが、まさか一番厄介なのはあの謎の黒仮面なのか?

 というか。


「……このアホみたいなバトル繰り広げてる奴らの勝者と俺が戦うのかよ。冗談だろ」


 夢なら覚めて欲しい。


「言っとくけど、聖夜君も十分レッドグループでアホみたいなバトルを繰り広げてたからね」


「え?」


「……何でもなーい。天道さん大丈夫かなぁ。さっきの、結構深く刺さったように見えたんだけど……」


 隣に座る美月は拗ねたように口を尖らせて、視線を決戦フィールドへと戻した。







「ふっ!!」


 もう何十本目になるかも分からない炎の剣を打ち落としたメイが、視線を藤宮へと向ける。


「こりゃあ想像以上だ。これで従者のレベルだって? それじゃあ主はどんな化け物だよ。日本って魔法使いレベルがこんなにインフレ起こしてんのか。そんな感じにゃ見えなかったんだけどなぁ」


 地面スレスレを這うようにして迫ってきた炎の剣を、そのまま踏み潰す。ちょうどそのタイミングで、メイの視線を感じたのか藤宮と目が合った。ボロボロとなった笠の下で、藤宮の表情が不敵に歪む。


「……はぁん? ようやくやる気(、、、、、、、)になったってか(、、、、、、、)?」


 メイが横から迫る2つの凶刃を片手で払い、足先で地面を小突いて慣らす。

 藤宮は、飛来する自らの凶刃を素手で掴み取った。しかし、藤宮が迎撃のためにその掴んだ刃を向けたのは別の人物。

 攻撃特化の火とその火すらも呑み込まんとする天が衝突し、派手な衝撃波をまき散らす。


「余所見をするなよ」


 凶刃は、天属性の全身強化魔法が纏われた手のひらで。

 軋む音を響かせながら、至近距離でまりかが凄んだ。


「お前の相手は、このボクだ」


「やれやれ……、天道家現当主にそこまで目をかけて頂けるのは光栄でござるが」


 空いた藤宮の左手が、新たなる炎の剣を掴む。躊躇いなく振り上げる。


「守られる立場であるおぬしが、こうも容易く敵の前に立っていいでござるか――、む」


「『烈波水衝(レッパスイショウ)』!!」


 振り上げたそれは、飛来した水の衝撃波によって吹き飛ばされた。

 火は、水に弱い。

 その不意を突かれた藤宮の胸元に、まりかの左手が添えられる。


「――浅草、唯っ」


 視線がまりかから唯へと移った、刹那の間だった。


「『天罰(テンバツ)』」


 ドンッ、と。

 聞く者の腹に響くような轟音が鳴る。

 藤宮とまりかの立つ場所を中心として、決戦フィールドに蜘蛛の巣のような亀裂が走る。


 まりかの手のひらから藤宮の体内へと放たれた魔力が、爆発したことによる衝撃。

 本戦第一試合でT・メイカーが乱用した“不可視の弾丸インビジブル・バレット”と似て非なる技法。まりかが今放った一撃は、隠密性など求めていない。これは正規のプロセスを辿って発現される、れっきとした魔法。


 それ故に。

 その衝撃には、全属性の頂点に立つとされる天属性が付与されている。


 ゼロ距離で喰らった以上、回避は不可。

 衝撃を和らげることすら、困難。


「ぐ、……ぷっ……」


 閉じられた藤宮の口から、どろりとした液体が噴き出す。伸ばされた左手に赤い飛沫が降りかかるが、まりかは気にしなかった。荒れ狂うようにして展開されていた『業火剣乱(ごうかけんらん)』が霧散する。同時に、まりかは天蓋魔法から吐き出させていた弾幕を止めた。

 まりかの右手と拮抗していた藤宮の炎の剣から力が抜ける。同時に藤宮の身体がぐらついた。

 ゆっくりと膝をつこうとして。


 瞬く、小さな小さな光の華。


「まりか様っ!!!!」


 唯の絶叫が響き渡った時には、もう遅い。

 藤宮の右手に握られていた炎の剣が、一瞬で3回の刺突をこなした。


 右肩。

 左脇腹。

 右太腿。


 まりかの纏う『(テン)羽衣(ハゴロモ)』、それも3段階目が解放されているそれが貫かれることなど、普通に考えればあり得ないことだった。しかし、攻撃したのは攻撃特化の火。それも一点集中での。

 藤宮の握る凶刃、その切っ先が不可侵だったはずの領域に侵入した。


「がっ!?」


 痛い、と。

 情報が脳に伝達された頃には全てが終わっている。

 じゅわっ、という肉が焼ける音すらも遅れて届く。

 それほどまでに、今の藤宮の『電光刹華(でんこうせつか)』の速度は洗練されていた。


 しかし。

 膝から崩れ落ちる藤宮の表情は苦々しいそれ。

 藤宮の狙いは、まりかの心臓。狙って放たれたはずの3回の刺突。それが全てバラバラの位置で外れたのは、まりかの異常なまでの反応速度と回避行動が為せた業か。それとも、内側より人体を破壊された藤宮の照準ミスか。


 ただ。

 藤宮が対象を仕留め損なったことは、この上ない失敗だったと言わざるを得ない。


「んっ……んああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!! 『天拳(テンケン)』ッ!!!!」


 絶叫。

 直後に、瞬く間に収束される魔力の塊。

 先ほど藤宮に致命傷を与えた『天罰(テンバツ)』を纏ったまりかの拳。

 横殴りに藤宮の肩を打ったそれは、対象を目にも止まらぬスピードで吹き飛ばす。


「が、あ……っ、うぐっ、あああああああ!?」


 吹き飛ばした側であるまりかが、自らの身体を押し抱くようにして蹲った。遅れて噴き出す鮮血。決戦フィールドに薄く積もる雪へと、鮮やかな斑点を描いていく。


「まりか様っ!!」


 そのすぐ傍に着地した唯が、顔を青ざめさせながら叫ぶ。

 そして。


「すぐに止血をっ!! 動かな――」


「んー、なんつーかさぁ」


 2人のすぐ傍に立つ、黒仮面の魔法使い。


「いったい何してるわけお前ら。大会の戦い方じゃねーよな。お前らがやってんの殺し合いじゃねーか」


「――、っ、メイ・ドゥース=キー!?」


 油断をしていたわけではない。それでも、完全に自分の警戒をすり抜けて距離を詰めてきたメイに、唯が硬直する。対して、まりかの取った行動は迅速だった。血で濡れた右手を即座にメイへと向ける。しかし、その手から天属性の魔法球が放たれた頃には、既に見当違いの方向へと向いていた。


「そういうのは求めてないんだよなぁ」


 一蹴りで自分への脅威を払ったメイが勝手に続ける。


「観客が求めてんのは、血沸き肉躍るような魔法戦闘。けど、あくまで求めてんのは見世物としてのそれだ」


 唯の咆哮と共に振るわれる一太刀を、人差し指と親指で器用に受け止めたメイが、仮面越しから不快感剥き出しの視線で2人を睨む。


「何が言いたいか分かるか?」


 膝蹴りで唯を。

 肘打ちでまりかを。


 それぞれを一瞬で吹き飛ばしたメイが言う。


「ふっかぁーい事情があんなら他所(よそ)でやってくれや。お前らはこの大会に必要ねぇ駒だ」


 天空で待機していた天蓋魔法5枚が、音を立てて砕け散った。メイが直接破壊したわけではない。まりかが天蓋魔法を維持できなくなったのだ。


『き、決まったー!? ここへ来てまさかのメイ選手が2人を一蹴したかー!?』


『いや!? まだだ!!』


 マリオの叫びにカルティが反応する。その声を聞きながら、メイはカルティにそう言わせた元凶へと視線を向けていた。

 着古した剣道着を血だらけにしながらも立ち上がった藤宮が、地面に落ちていた自らの剣を拾い上げる。


 そして、跳躍。

 しかし対象はメイではない。

 地に伏し、痛みに呻くまりか。


 その身体から、今までの威圧感などは欠片も感じ取ることはできない。『(テン)羽衣(ハゴロモ)』もとうに霧散してしまっている。

 藤宮が拾い上げた剣の刀身はほとんどが砕け散り、残っていない。それでも、柄から生える僅かな刀身さえあれば、藤宮にとってみれば十分過ぎるほどの武器だった。


 主を仇なす敵を討つなら、今しかない。

 その一心で。


 隙だらけの唯でも。

 現状もっとも脅威となるメイでもなく。


 まりかを狙い、瞬く間にその距離を詰める。

 その剣を振り上げて。


「だ・か・ら・よぉ」


 その声が耳に届いた時には、既にメイの手が藤宮の頭を笠ごと握りしめ、その顔を地面へと叩き付けていた。


「があっ!?」


「お呼びじゃねーんだよお前らはっ!! 因縁だか遺恨だか知らねーが他所でやれ!!」


 衝撃で地面が砕ける。口から、鼻から、切れた頬から、血が噴き出す。

 メイが握りしめていた笠から手を離した。


 ゆっくりと身体を起こしたところで。

 その視界を、もはや原型を留めていない笠が覆い尽くした。


「お前、まだっ!?」


 メイが後退し、視界を確保しようとしたその行動は間に合わない。その身体を、目くらましに使った笠ごと下から斜め一直線に藤宮の剣が斬り捨てる。

 しかし。


「っ、この手ごたえはっ」


「今のは良い動きだったぜ。動きだけな」


 砕け散った刀身により、圧倒的に短くなったリーチ。それでも、藤宮はその差を埋めるように的確な動作で以てメイを襲った。

 しかし。


「ただ、その程度の攻撃じゃあ俺に傷なんて付けられねーなぁ」


 斬れたのはメイの纏ったローブのみ。その皮膚には傷ひとつ付いていない。


「んじゃ、歯を喰いしばれよ」


 メイの拳が握りしめられる。


 そこを。

 横っ飛びの唯の膝蹴りが妨害した。


「ぐおっ!? てめぇっ!?」


 藤宮に意識を割いていたせいで、完全に警戒を怠っていたメイ。唯と一緒に一瞬で藤宮の視界から姿を消し、地面を削りながら体勢を整えて叫ぶ。


「何の真似だてめぇ!!」


「あの男はまりか様の獲物だ!! 邪魔はさせないっ!!」


「さっきは俺にかかずらってらんねーとか言ってたくせにいい度胸だ!! かかってこい!!」







「立ちなよ」


 凍てついた声が、膝立ちの藤宮の耳へと届く。メイとの戦闘を再開させた唯を追っていた目が、声の主へと向く。


 そこには。

 両肩、左脇腹、そして右の脚を血で染めるまりか。


「よく説得できたでござるな」


「なにが?」


「おぬしの従者でござるよ」


 ゆっくりと立ち上がりながら、藤宮は言う。


「先ほどからおぬしを守ろう守ろうと、不出来ながら必死だったでござろう」


 その挑発に、まりかが僅かに眉を動かした。


「ボクがキミを遠慮なく叩き潰せるよう配慮してくれた、ってだけさ」


「まあ、そっちの方が良いでござるな。拙者にとっても」


「あ?」


 まりかから発せられる重圧など素知らぬ顔。長髪を垂れ流した藤宮は血で濡れる口元を拭いながら。


「足手まといの従者ほど、見るに堪えぬものは無いでござるからな」


 言い終えた時にはもう。

 まりかの右手のひらが、藤宮の顔に添えられていた。


「お前如きがっ」


 咆哮と共に。


「唯を馬鹿にするなァァァァ!!!!」


 藤宮の身体は再び数百m先へと吹き飛ばされる。


 吹き飛ばす側と、吹き飛ばされる側。

 お互いの身体には、既に無属性の身体強化魔法が発現されていた。

 RankBに位置する高度な魔法でありながら、この程度の魔法ならば瞬きと同じ要領で発現できる。


 七つある大会でもっとも危険度が高いと称される、アギルメスタ杯。

 その本戦。

 そこに集う者たちは、皆このような怪物ばかり。







 身体を仰け反らせることで唯の切っ先を躱したメイが、痛烈な蹴りを放つ。それを左腕で受け止めた唯だが、勢いに負けて吹き飛ばされた。


「つーかよ」


 追撃はせず、地面を削って勢いを殺す唯へと構えを取る。


「お前ら何なんだ? 日本のイザイザ(、、、、)をここへ持ち込んで何がしたい」


「……イザイザ? 我々とてこの大会を蔑ろにしようとしているわけではありません」


「結果的にしてんだろーが」


 メイの言葉に唯が詰まる。


「エルトクリア魔法学習院からの特例での参加っつーから、どんな未来ある若者かと思ってワクワクしてたんだが、とんだ期待外れだ」


 メイは言う。


「どれだけ魔法技量が卓越していようが、まったくそそられねぇ。遊んでやるつもりだったがその気も失せた」


 まるで。


「さっさと潰すことにするわ。もともとケンカしたかったのはT・メイカーだけだしな」


 その気になればいとも簡単に勝利できる、とでも言わんばかりの口ぶりで。

 唯の、髪で隠れていない方の目が鋭く細められる。それでも、得物を握るその手は細かく震えていた。それを見たメイが小さなため息を吐く。


「……なるほど。実力を見極められる程度の技量もあるわけだ」


「何のお話でしょう」


「お前はもう気付いてるってことだ。俺とお前じゃ(、、、、、、)勝負にすらならない(、、、、、、、、、)ってことがな(、、、、、、)


 唯の端正な顔が歪んだ。メイはもう一度、今度は大きくため息を吐いた。


「何でだ? 俺はお前を潰すって言ってんだぜ。情け容赦なく。なのに何でお前さんは意固地になって俺の前に立ちはだかる? 実力差が見極められないわけでもねーのに。そんなあの2人に殺し合いをさせてーのか?」


「貴方には、何も説明をする気はありません」


 唯は、必要以上に柄を握る手に力を込めて言う。


「あの戦いに加われるだけの技量が、私には無い。だから、私はここで貴方を止めるのです」


「へぇ……?」


 メイの声に、嘲りの色が混じった。


「俺なら、お前程度の技量でも止められると?」


「勝てるとは思っていません」


 唯は悔しそうな表情すら見せずに断言する。


「ですが、僅かな時間を稼ぐことならできます。1分でも、1秒であっても。それがまりか様のためになるというのなら、十分にこの身を捧ぐだけの理由になります」


「なるほど」


 メイは腕を組みながら端的にそう答えた。その声に、嘲りの色は無い。


「いいね。そういうの。そういうのは嫌いじゃない」


 メイは言う。


「だったらなおさら、手を抜くってのは失礼だよな」







 吹き飛ばされた藤宮は、側壁へと激突する前に、空中で身体を捻ることで強引に体勢を整えた。少しずつ積雪量を増していく地面を削りながら着地する。

 勢いを殺し切る前に追撃が来た。


「せやぁっ!!」


 まりかの鉄拳をほとんど残っていない刀身で受け流す。


「っ、これはっ」


 まりかの眉が吊り上がる。

 そう。

 身体強化魔法によって威力が底上げされたまりかの攻撃を、刀身のほとんどが砕け散った後の、亀裂も入り耐久性など無いに等しいそれで受け流す。

 つまり。


『「物質強化魔法」だね。「身体強化魔法」が自らの身体に纏うことで身体能力を上げる魔法であるのに対して、「物質強化魔法」とは対象となる物質に纏わせることで硬度を底上げする魔法だ』


 カルティの解説に、マークが感嘆のため息と共に両手を挙げる仕草をした。


『光属性と闇属性を連用する戦闘スタイルといい、この「物質強化魔法」といい、藤宮選手の魔力コントロールは繊細だな。無駄な流れが一切ない』


『光と闇の組み合わせに関して言えば、もう達人の域だよね。特殊二大属性の両方を発現できる魔法使いを探すだけでも大変なのに、更にその中からあの運用方法が実現可能な腕前の魔法使いっていうのは、果たして世界で何人いるのやら……』


 まりかと藤宮の近接戦闘。

 鈍い音が断続的に響き渡る。


 何撃目になるか分からないまりかの拳が握りしめられたところで。

 和太鼓を打ち鳴らしたかのような、凄まじい音が鳴り響いた。


 その音は、まりかが発したものでも、藤宮が発したものでもなかった。


 手は緩めない。

 足も止めない。


 相手を攻める動きはそのままに、まりかと藤宮、両者の視線が一瞬だけその音源へと向けられる。

 そこには。




 愛刀を地面へと転がし、膝をつく浅草唯。




「ゆ、い――――」


 一瞬の硬直。

 それが決定的な隙となった。


 藤宮誠は、それを見逃さない。

 空いた左手が鞘を掴む。

 まりかの視線が、唯から藤宮へと戻る。


「『電光刹華(でんこうせつか)』」


 小さな光が瞬いた。


 その光景をまりかの双眸が捉え、情報として脳裏に送り込んだ時にはもう。

 限界を超えた速度で放たれた鞘の先端が。


 もともとあったまりかの右肩の傷へと抉り込んでいた。

次回の更新予定日は、5月15日(金)です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ