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テレポーター  作者: SoLa
第4章 スペードからの挑戦状編〈下〉
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第0話 闇に、2人。




「目ぇ覚めたか?」


「……ここは」


「医務室だよ。医務室」


 ぼやけた視界を漂わせていたアリサ・フェミルナーは、自らに声をかけてきた男性へと視線を向けた。その男性はアリサの隣のベッドに腰かけていた。ブラインド代わりのカーテンを開けて、アリサが寝ているベッドの方を覗き込んでいる。


「……ヘンタイ」


「おいおい、とんだご挨拶だな。大人しく襲われるようなタマじゃねーだろ?」


「まぁね。……はぁー、負けちゃったのか」


 大きなため息と共に、アリサは言った。


「華を持たせてやった奴が何言ってんだ。試合映像見たぜ。なんなんだよありゃ。若い芽を育てる老婆心ってやつか?」


「別に……、まあ、そうとも言えるかもしれないわね」


「なんだそりゃ」


 訳が分からないとばかりに龍は肩を竦める。


「『断罪者(エクスキューショナー)』から『黄金色の旋律』を始末しろって命令が来てるのかと思ってたんだが」


「そんな命令なんて受けてないわよ。さわらぬ神に祟りなし、ってね。現状、脅威ではあるものの敵対はしていないわけだし。魔法世界に来ていたのもたまたまだったしね。T・メイカーが出場しているのを知って、それを報告したらこんな形になっただけよ。実力を確かめて来いと言われただけ」


 アリサは天井を見つめたままそう答えた。


「たまたまねぇ……」


 そう呟きつつも、龍はそれ以上の言及はしなかった。


「さて、……と」


 代わりに、自らが使っていたベッドから立ち上がる。


「もう行くの?」


「あぁ。負けちまったし、もうここに用は無いからな」


「試合、見ていかないの? ブルーグループの試合、もう少しでしょう?」


「俺の目的はメイカーだけだった。大会に興味はねーよ」


 腕をさすりながら龍は苦笑いを浮かべた。


「まさかメイカーじゃなく、そいつに心酔しているお嬢ちゃんに負けるとは思わなかったが」


「……アナタ、本気出してなかったじゃない」


 ジト目を向けながらそう言うアリサに、龍は一瞬だけ目を丸くする。


「何の話だ? 俺はいつでも真面目で本気だぜ」


「アナタ、実力を隠すのが下手よね。結構浮き沈みしていた自覚はある? T・メイカーの不可思議な技を正面からまともに喰らってもピンピンしてたし」


「実力の浮き沈みって話なら、お前にも言えるんじゃないのか?」


「……そう。アナタがそのつもりなら別に良いわ」


「なんか嫌な感じだけど、まぁいいか」


 龍は薄ら笑いを引っ込めた。


「じゃあな、フェミルナー」


「ええ。また会えるといいわね」


「いやぁ、それはちょっと勘弁かなぁ」


「それどういう意味よ!?」


 ただの別れの挨拶として使った言葉を拒絶され、アリサが憤慨する。


「次にあんたと会ったとき、同じように接してくれる自信が無いからさ」


「……どういう意味よ、それ」


 その問いに、龍は答えなかった。







 扉を開けて医務室を出る。

 関係者以外の出入りが禁止されているエリアとはいえ、不自然に静まり返った廊下。なぜか落とされている照明。

 そして。


「なんでお前がここにいる」


 龍は、アリサの時とは比べものにならないほど冷淡な声色で、そう問いかけた。

 対して。


「あはは。なんでって、貴方を迎えに来てあげたに決まってるじゃなーいっ。無様にヤられちゃった、あ・な・た、をっ」


「……ボスからRankAまでの魔法で、って制限受けてなけりゃ殺せたよ」


「言い訳? みっともないオトコ。あはははは」


 闇から聞こえてくるその声は、不自然なほど楽しそうに答える。


「……誤情報しか流さなかった奴がよく言ってくれるもんだ」


 龍は吐き捨てるようにしてそう言った。


「誤情報?」


「大会本戦の試合形式、中条(なかじょう)聖夜(せいや)の実力、その他もろもろだ」


「だって前回はトーナメント形式だったんでしょ?」


「おい。なんだその適当な理由は。つまりなんだ。お前は根拠も無く適当に言っただけなのか」


「あのガキはあの時より力を付けてたよねぇ。ちょっとビックリしちゃった」


「……お前の情報との誤差はちょっとどころの騒ぎじゃなかったんだが」


 悪びれもせずに話す闇に、龍はため息を吐いた。


「まぁ、いいや。中条聖夜の実力のほどは知れた。帰るぞ」


「えぇー。その扉の向こうに“雷帝”ちゃんがいるんでしょ? ちょっとおハナシしていきたいなぁ」


「馬鹿言え。お前が乱入してお話だけで済むはずねーだろうが」


 龍の言葉に、闇の中で光る2つの瞳が細められる。


「なに? 私じゃ“雷帝”に勝てないって言いたいわけ?」


「そうじゃねーよ。進んでアメリカを敵に回そうとするなって言ってんの。つーか、お前、どうやってここへ来た? 関係者以外立ち入り禁止なんだぞ」


「私が『属性同調』使えるの、貴方知ってたよね」


「……ここへ潜り込む程度でRankSの魔法使ったのかよ」


「まあ、使ったとは言ってないけどねー」


「……どっちなんだよ」


 龍が呻いた。気を取り直すようにして咳払いをする。


「ともかく、帰るぞ」


「貴方、私に命令できる立場なわけ?」


「できねーよ。俺とお前の地位は同格だからな。だから、お前が馬鹿やらかしてボスに睨まれても、俺はお前を助けてやれねーからな」


 闇が舌打ちした。


「おら、さっさと退散だ退散。なんか冷え込んできたしよ」


「外、雪降ってるからね。明日まで降り続けるらしいわよ」


「マジで!? 午後から冬で雪って天気予報がバグってたわけじゃねーのかよ!? ……こりゃあ囮役の不良品も災難だな」


「もう自我なんて残ってないんだから関係無くない?」


「気持ちの問題なんだよ、気持ちの。あくまで俺の偽善だがね」


 龍と闇に紛れた女が立ち去った直後、その廊下は再び明かりを取り戻した。

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