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テレポーター  作者: SoLa
第4章 スペードからの挑戦状編〈中〉
154/432

第12話 グランダール52 ⑤




 T・メイカー 様


 七属性の守護者杯運営委員会です。

 アギルメスタ杯、本戦における試合形式と組み合わせについてご説明させて頂きます。


 アギルメスタ01 本戦

          第一試合 レッドグループ (10:00~)

          第二試合 ブルーグループ (18:00~)

          ※第二試合の開始時刻につきましては、

           決戦フィールドの修繕具合により遅れる場合がございます。

       02 本戦           (10:00~)

       03 スペシャルマッチ     (10:00~)


 本戦に勝ち上がった8名を4名ずつに分け、それぞれレッド・ブルーグループとします。各4名のグループ内で争って頂き、各グループから勝ち残れるのは2名です。最後まで立っていた者が決勝進出、決勝に進む者を除き、最後まで脱落しなかった者が3,4位決定戦進出とします。

 組み合わせにつきましては、本日Dグループ予選後に行われましたレクリエーションにて決定しております。ご理解ください。

 以下が組み合わせとなります。


【第一試合レッドグループ】

 アリサ・フェミルナー

 T・メイカー

 龍

 マリーゴールド・ジーザ・ガルガンテッラ


【第二試合ブルーグループ】

 藤宮誠

 浅草唯

 天道まりか

 メイ・ドゥース=キー


 本大会において発生した事故について、当委員会は一切の責任を負いません。

 怪我(程度は問わない)・死亡事故についても同様とします。大会会場には、高レベルの治癒術師も多数ご用意してはありますが、全ての事故に対処できるものではございません。


 遺書等が必要な場合は、大会参加前にご用意頂きますようお願い申し上げます。


 T・メイカー 様 のご健闘をお祈り申し上げます。







「ガルガンテッラが出てくる?」


 大会見学に行っていた美月とルーナの報告に、師匠が眉を吊り上げた。多分、俺も同じような表情をしているだろう。

 無理難題を突き付けられ、神経が極限まで摩耗している状態で聞きたい情報ではなかった。


 滴る汗を手で拭い、訓練場の床に座り込む。みんなは立っているが勘弁してもらおう。正直、もう足腰がきつい。


「ガルガンテッラと言えば、あのガルガンテッラでございますよね?」


 半信半疑な様子でシスター・マリアが首を傾げた。その気持ちははよく分かる。冗談にしてはまったく面白くない。


 ガルガンテッラ。

 魔法に属性を付与させた『七人の守護者』のうちの1人だ。今大会の名前にもなっているアギルメスタと同格の魔法使いということか。


「歴史上の偉人の末裔か。なんでまた急に表舞台に出てこようと思ったのかね」


 よりにもよって俺がたまたま出場するハメになったこの大会に。どうせなら自分の先祖の名前が使われている大会に出とけよ。ガルガンテッラ杯とかもあるんだろう? それとも『七属性の守護者』たちはみんな親戚か何かだったのか?

 シスター・マリアから手渡されたタオルを受け取りながら、そんなことを考える。

 美月からジト目で睨まれた。


「……何?」


「ガルガンテッラが出てくるの、聖夜君のせいだからね」


「はぁ?」


 俺のせい?

 意味が分からん。


 視線をルーナへと向ける。

 ……思わず視線を逸らしたくなるほどの不機嫌オーラを放っていた。


「せーやが、あのおんなをたすけたせい」


「助けた? そんな人助け、魔法世界(こっち)に来てからした覚えはないが」


 いや、そういえば龍とかいうイカれた青年をイカれたナニカから助けたことはあったな。ただ、ルーナが「あのおんな」と言ったことから、龍のことではないだろう。

 龍と言えば、あいつもアギルメスタ杯には参加すると言っていた。結果はどうだったのだろう。さっき『七属性の守護者杯委員会』から届いたメッセージはななめ読みしただけで、本戦に出場する選手のチェックはまだできていない。


 クリアカードを取り出し、メッセージを呼び出してスクロールさせる。

 お目当ての部分はすぐに見つかっ――、


「おいおいおい!! 龍もガルガンテッラとやらも俺と同じグループかよ!?」


 何かの嫌がらせか!?

 美月やルーナ、それに師匠やシスター・マリアまでも「龍?」と怪訝そうな表情をしているが、それどころの騒ぎではない。

 何だこの悪意に満ち溢れた組み合わせは!!

 もうちょっとマシな人材をもうひとつのグループから――、


「天道!?」


 マシな人材を探そうとブルーグループへと目をやって、見たくはない名前を見つけてしまった。


「天道まりか、ってあの天道まりか!? なんであいつまでこの大会出てんの!?」


「あ、聖夜君、天道さんのこと知ってるんだ」


 美月が目を丸くして問うてくる。


「知ってるも何も……、って。美月こそ知ってたのか? 天道まりかを」


「いちおうね。大会でも応援してね、って言われてるし」


「応援? どうやったらあいつとそんな仲良くなれんだよ……」


 ……。

 あぁ、そうか。こいつ、自分が『黄金色の旋律』だってバラさなかったな。バレたらえらいことになるんじゃあ……。


「こっちのことはどうでもいいよ。聖夜君こそ、天道さんのこと何で知ってるの?」


「そいつの姉が『黄金色の旋律(ウチ)』にいるからだよ」


「え?」


 名前は天道まりも。

 文化祭でごちゃごちゃしている時に、薄情にも幼いルーナを単独で日本へと送り出してきた張本人だ。……そのおかげで色々と助かったのも事実だけど。


「今更な質問なんだけどさ。『黄金色の旋律』ってここにいる人たちの他にあと何人いるの?」


 本当に今更だな。

 美月からの質問に脱力してしまう。


「ここにいる、って言ってもシスター・マリアは違うぞ? それと今言った天道の姉・まりもも除くと、あと2人だ」


「それじゃあお師匠サマと聖夜君、ルーナ、まりもさん、あと2人で……、6人しかいない組織なの? それでよくもまぁあんなに騒がれるほどの実績を積み上げたね」


「ほとんどは師匠が積み上げたものだよ」


 最近になってグループで動くケースが出てきただけで、もともと自分の好き勝手にやっていた師匠は、魔法世界でそれなりの評価を受けていた。なぜ「それなり」という表現になるかというと、あまりに自分勝手すぎるせいで人助けをした分だけ被害者も続出していたからだ。よくもまぁプラスマイナスでマイナスに傾いていないな、と思う。


「『黄金色の旋律』として動いたケースなんて数少ない。一番大きかったのは……、あぁー、去年不法入国したやつだな」


 嫌なことを思い出してしまった。自分で記憶の引き出しを開けてしまったとはいえ、すごくげんなりとしてしまう。


「……そこでせーやがたすけたのが、あのおんな」


「だから何の話だよ。あの時はよく分からん組織のアジトを殲滅しておしまいの任務だっただろ?」


 その後で『トランプ』のスペードと一戦交えることになったのは苦い思い出だ。それで派手にやらかし過ぎたせいで『黄金色の旋律』の知名度が更に上がったのは間違いない。もちろん悪い意味で、だ。おかげで師匠の“旋律(メロディア)”のように俺にも“白影(ホワイトアウト)”とかいう変な異名がつけられて散々だった。


 そういえば、その変な異名をわざわざ命名して下さったのが件のスペード様だったな。あいつがアギルメスタ杯のスペシャルマッチで出てきてくれるなら、俺は師匠の反対を押し切ってでも本気で殴りに行っていただろう。公式の場で罪無くあいつを殴れるなんて素晴らしいイベントだ。なんで出てくるのが他の団員なんだよ。


「ほんとにおぼえてない?」


 ルーナが首を傾げながら聞いてくる。


「スペードとたたかってるときに、たすけたおんなのこと」


「スペードと戦ってる時に?」


 助けた、ってのは任務の最中じゃないのか。


 ……。

 ん?

 待て。確かに、いたような。


「ああ!!」


 思い出した。

 同い年くらいの学生だ。

 おそらくは魔法世界にあるただ1つの学び舎、王立エルトクリア魔法学習院の学生だろう。そこの指定制服を見たことはないが、魔法世界内で制服を着ていたのだから間違いない。


 そうか。

 あいつ、歴史上の偉人の末裔だったのか。良かったな、スペード。お前の流れ弾(拳)が当たらなくて。怪我でも負わせてたら物理的に首でも飛んでたんじゃないのか?


「そういえばいたなー、そんな奴」


 思わず感慨深いものを感じてしまう。あの時助けた女の子か。こんなところでも人って繋がるんだな。


「……なんでそんな優しい目をしてるの」


 美月がうんざりしたような表情で聞いてくる。失礼な奴だ。


「懐かしいな、って思っただけだよ。それにしても、よくもまぁ学生の身であの大会に出ようと思ったよなー。俺が言うのもなんだけどさ」


 俺の場合は『魔法使いの証(ライセンス)』を持っているわけで。ちょっと例外として考えていたんだが、向こうは女の子だ。


「学習院は中退したって話を聞いたけど?」


「中退?」


 やめちゃったのか。何かあったのか? アギルメスタ杯の本戦出場を決めたくらいだから、魔法のレベルに問題は無いはずだが。


「あのおんなのことは、すこししらべた。たしかに、あのおんなはがっこうをやめてる。それもきょねん。じきてきにいえば、せーやとあって、すぐあとのこと」


 俺と会ったすぐ後?

 いったい何があったのだろうか。俺は関係していないはずだが。


 そんなことを考えていたら、ルーナから思いっきり睨まれた。

 なぜだ。


「そういえば、貴方いきなり求婚されていたものね。その子に」


 どうやら師匠もその子のことを思い出したらしい。

 ……ん?


「球根?」


 チューリップとかが咲くあの?


「意味の無いボケとかいらないからね。死にたくないなら」


 ……口に出してボケなくて良かった。

 それにしても求婚、求婚ねぇ……。


「わすれたの?」


 ルーナが不機嫌そうなオーラを纏ったまま首を傾げてくる。


「……うーんと」


 ちょっと思い出してみよう。

 師匠に指示された組織を壊滅させ、建物ごとめちゃくちゃにした後のことだ。

 騒ぎを聞きつけようやく登場したスペード率いる魔法聖騎士団(ジャッジメント)に見つかり、俺たちは慌てて逃げ出したのだ(師匠だけは通常運転だった気がするが)。それでそのまま追撃されて迎撃するよう指示された俺がスペードと遣り合って……。







『せーや!!』


 いつものルーナからは想像できないほどの鋭い声が、俺の耳へと届く。見れば、路地裏から1人の少女が姿を現したところだった。

 って、そこは!?


『おいあんた!! 逃げろ!!』


 叫びながらも地面を蹴る。声を掛けたところで間に合わないことは分かっていた。現に、声を掛けられた少女は驚いたように目を丸くしてこちらを見ているだけだ。

 俺の身体が濃密な魔力を感じ取る。

 間違いなく『トランプ』とかいう組織の馬鹿げた魔法使いのものだ。こっちを視認してないくせにやたらと魔法の精度が良い。探知を使っているなら第三者の介入に気付くはずなのに、勘なのか!?


『くそっ!!』


 もう一度。

 せっかく回避したはずの、あの男の魔法範囲へと突っ込む。


『バカ聖夜!! 何を――っ』


 ルーナを抱え、先行していた師匠の叱責が飛んでくるが無視。


『ああああああああああああ!!』


『きゃああああああああああ!?』


 突然の事態に硬直する少女を抱きかかえ、“神の書き換え作業術(リライト)”を発現した。


 直後。

 少女を抱きかかえた俺の遥か真下が爆発した。


『あっぶねぇ!!』


 星々が輝く夜空へと投げ出された俺の身体は、重力に従い落下をし始める。

 師匠の真横へ跳ぶつもりだったのに、どうやら焦って座標を指定し間違えたらしい。まだまだ制御が甘い。


『えっ!? えっ!? えっ!?』


『舌、噛むなよ。あと目を瞑ってろ』


 混乱する少女にそれだけ告げる。

 夜に歩いていたら突然爆発に巻き込まれそうになり、自分を助けたのが白いローブに白い仮面の怪しい魔法使いだったとしたら、そりゃあ混乱するだろう。下手に色々喋るよりも端的にしてほしいことだけを伝えたほうが正解だ。

 無詠唱で身体強化魔法を発現し、爆発地点から離れた建物の屋上へ着地する。いくつかの建物を経由してから、先行していた師匠のもとへと追いついた。


『……貴方』


『……分かってます。すみません』


 咄嗟だったとはいえ、師匠に禁止されていた無系統を使ってしまった。この子にバレてなけりゃいいが。


『あ、あ、あ、あの……っ』


 抱えられた少女が口をぱくぱくとさせる。

 月明かりだけなのでよく見えないが、それでも十分に可愛いと言える女の子だった。薄紫色の髪は一族遺伝だろうか。そうだとするなら、髪の色素にまで影響を与えるこの子の潜在能力は相当なものだろう。俺も人のことは言えないけど。


『今ので少し距離が空いたはずよ。その子、早く捨てなさい』


 捨てるって。

 もう少し言い方ってやつがあるだろう。


 路地裏の入り組んだ道をいくつか曲がり、足を止める。そこで抱えていた少女を降ろした。


『え、えっと、貴方は、それに、今、何が、そ、それから、あの人って“旋律(メロディア)”……?』


 目をぐるぐると回す少女を見るのも面白いが、こちらには時間がない。


『巻き込んですまなかった。怪我は無いな? さっさと家に帰れ』


 こんな夜更けに女の子が1人でうろつくもんじゃない。制服を着ているし、学生だろう。こんな時間にこんな所で何をしているのか、って話だ。おかげで必要のない死線をひとつ潜り抜けてしまった。

 ……八つ当たりなのは分かってるけどさ。


『わ、私は別に……。それより、貴方は何? お、お名前を……』


『名乗るほどのモンじゃねーよ』


 というか名乗れない。


『ほら、さっさと行くわよ』


 後ろから師匠が急かしてくる。口には出さないものの、ルーナも不機嫌そうだ。


『それじゃあな』


『待って!! 私も連れてって!!』


『はぁ?』


 踵を返そうとしたところで、そんなことを言われた。

 なんだこいつ家出娘か?


『立派な制服来てるってことはどこかの学生だろ? そこへ帰れ』


 よく考えたら魔法世界にある学校はただ1つ。王立エルトクリア学習院のみだ。そしてそこは全寮制。門限はどうした。


『あ、貴方は私を助けてくれた!! 嬉しかった!! だから私も!!』


 意味が分からん。  


『寝言は寮に帰ってから寝て言えよ』


『す、好きになっちゃったの!! お願い!!』


 はぁ……。


『わ、私と結婚してください!!』


 おい。

 ガバァッと効果音が付きそうな勢いで頭を下げられても困る。


 こんなことで本当に好きになれるようならちょろすぎるわ。ようやく分かった。どうやらこいつも師匠狙いの刺客らしい。頬を染めて目も潤ませるとかなかなか演技力はあるが、残念ながらその急展開過ぎる脚本は減点だ。


『行くわよー』


 白けた調子で師匠が言う。


『了解です』


『待ってお願い!!』


 ローブを掴もうとした少女の手を払いのけ、跳躍する。ルーナを抱えた師匠もすぐについてきた。


『お願い!! 待って!! 学生なんてすぐにやめるから!! 待って!! 私の――――、







「……王子様、か」


 大量の角砂糖でも口に放り込んだかのような気分だ。


「王子様、ね」


 美月が白けた目で俺の言葉をオウム返しする。

 その言葉に心当たりがあるということは、俺と同じレッドグループに入っているガルガンテッラは本当にあの時の少女だということだ。


 あれ、演技じゃなかったのかよ。

 そっちの方が驚きだ。


「……あのときのちょろこがせーやをねらってる」


 ちょろ子って。

 ちょろい女の子だからちょろ子か。


 酷い評価だ。第一印象でルーナはあいつのことが嫌いになったらしい。


「へぇ。あの子、ガルガンテッラの血筋だったのね。金の卵じゃない。おまけに中退してるって? つまり今フリーってことよね」


「師匠、何か変なこと考えてません?」


 人の悪い笑みを浮かべている師匠へ、やんわりと聞いてみる。


「丁度良いわ、聖夜。貴方、本戦でその子をメロメロにさせて『黄金色の旋律(こっち)』に引き込みなさい。もちろん、貴方の命令には忠実に従う駒として調教するのよ? 舌を出して尻尾を振るような。素質としては十分に有望だわ」


「本当に最低だなあんたは!?」


 人間のクズだよ!! 真顔で言ってるせいで冗談に聞こえないよ!!


「だめ」


「そうだよ!! そんなの絶対駄目だよ!!」


 ルーナと美月が猛烈な勢いで反対してくる。そうだそうだ、もっと言ってやれ。


「貴方たちに反対する権利なんてあるはずないでしょ? 決定権は私にあるのよ」


「調教するのが俺なら決定権も俺だよ!!」


 なに「当たり前でしょ」みたいな顔で言ってんだよふざけんな。


「もちろん、どういう風に調教するかは貴方に任せるわよ。結構可愛かったわよね、あの子。愛玩奴隷とか作っちゃう?」


「作っちゃわねーよ!!」


 軽く「いっとく?」的なノリで言ってんじゃねー!!

 かなりアレな会話になってしまったせいで、美月とルーナからの視線が痛い。おまけにシスター・マリアはニコニコしているだけだし余計に怖い。


「あの子、言ってたわよね。『学生なんてすぐにやめるから』って」


 ……言ってたね。

 ほんとにそのせいでやめたの?

 俺のせいなの?

 嘘だよね?


「貴方は既にあの子の人生を変えてしまったのよ」


 おもっ!!

 重すぎる。重すぎるぞ。……重すぎるよ。


「仕方ないわねぇ」


 師匠がやれやれと首を振る。ドタマかち割ってやろうか。


「じゃあこうしましょう。貴方がこの大会で『属性共調』を披露できれば、この決定権は貴方にあげる」


「は?」


 この大会で……?

 この大会でっ!?


「あと本戦2試合しかないんですけど!?」


「あら、グループ戦は勝つ気満々なのね? 良い心がけだわ」


「そういう問題じゃないでしょう!!」


 まだまだそれを発現している自分が想像すらできない段階だ。できるわけがない。


「まさかできない、とか言わないわよね? もともとそのための特訓だものね?」


 できねーよ!!

 とは言えなかった。

 師匠の顔が笑ってない……。


「貴方、ゴール手前で無様に足踏みしてるんだもの。せっかくだし、美月とルーナもちょっと見てくれる? 聖夜、さっきのやつもう一度」


「なに? さっきのやつって」


「なにしたの」


 美月とルーナが興味津々で聞いてくる。

 ……正直、無様に足踏みとか言われたやつをもう一度やりたくはない。


「……笑うなよ」


 それだけ念押ししてから立ち上がる。手にしていたタオルをシスター・マリアへと預け、魔力を集中させる。

 そして。


「ほらよ……」


 両手に身体強化魔法の発現。

 但し。


 右手には火を。

 左手には風を。


「えっ」


 美月が目を丸くする。ルーナに至っては絶句していた。


「えっと。習得できたの? 『属性共調』」


「できてねーよ」


 むすっとした調子になってしまったのはご愛嬌だ。


「な、なんで? 聖夜君、そこまでできてなんでできないの?」


「俺が聞きてーよ……」


 そんな不思議そうに尋ねてこないで。


「あと一歩なのは間違いないのでございますが……。異なる属性を同時発現という最大のハードルは既に越えているわけでございますし」


 シスター・マリアが頬に手をあてながらそんなことを言う。ただ、その最大のハードル云々には異議ありだ。


「最大のハードルってのは全身強化魔法の同時発現でしょう? 異なる属性の同時発現なんてのは他の魔法使いでも見たことありますよ。異なる属性球撃ち出すやつ」


 予選で見たベルリアンの二丁拳銃もそれだ。


「勘違いしてるわよ、貴方」


 俺の言葉に、師匠が反論する。


「魔法球なんてものは、追尾性能でも付加させていない限り、撃ち出したらそれで制御は終わりなの。それは同時発現とは言わないわ」


 ……言われてみればその通りか。


 両手に発現された火と風を見る。最初はやたらと苦戦したものの、一度コツを掴んでしまえばここまでなら余裕だ。多分、ここから脚などに発現箇所をスライドさせたりもできるだろう。だが、『属性共調』はできる気がしない。

 なぜだ。


「まぁ、貴方があの子を愛玩奴隷にしたいっていうならそのままでも……」


「その話題はもう無しで!!」


 面倒くさいことこの上ない。

 第一、あのちょろ子(ルーナ命名)も一体どこで俺のことを気に入ったというんだ。確かに窮地から救ったのは間違いないが、こちらはローブに仮面と完全装備で分かっているのは声くらいだったはず……、なの……、……に?


 ちょっと待て。


 去年、不法入国した時のことだ。

 その時の俺の服装。白のローブに今回の大会でも使用しているマスクをつけていた。そのはずだ。


 じゃあ、なんでそのちょろ子は、その時の男が俺だと分かったんだ? 確かに白のローブに白の仮面で一緒だったとしても、それだけで断言できるか? そもそも俺の姿はBグループ予選開始直前まで誰も見たことがなかったわけで。

 どこで俺を特定した?

 なんでこの大会に俺が出るって分かったんだ?


 ……。

 あれ?


 俺は背筋にうすら寒いものを感じた。

次回更新予定日は、1月31日(土)です。

いい加減、このぎりぎりペースをなんとかしたいです。

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